+02 報告書No.01
定時連絡。
本日、ターゲットに接触。
プラン通りに同行して調査を実行する算段がついた。
初見では、ごく普通の日本人警官で、特異な感触は無し。
レポートとの差異は、現在のところ認められないが、より詳細に確認していく予定。
明日より本格的な調査を行う為に、装備の再チェックを行う。
:送信
==========
任意に確保したホテルの一室に戻り、マーク・ジョンソン(偽名)は、上司へのメールを送信してから、天井を見上げて今日の事を思い出していた。
一見して、ターゲットは普通の警官だった。
確かに、件数は多いのだろうが、本人を見た感触は、これだけの人員と手間をかけて調べる対象とは思えなかった。
この日本だけでも、自分以外に24名の局員が手配されているが、ジョンソン以外は全員がダミーだ。
少なくも上司からは、その様に聞いている。
「もしかすると、俺がダミーか?」
局内では、成功確率を上げる為に、局員すら騙す事が少なくない。
自分がダミーだと判ると、自然に手を抜き、それが相手にバレるからだ。
それに、結果的にダミーであってバレていなくとも、手を抜くと人事評価に繋がるし、もし勘違いで本命だった時には、国家レベルの危機になる場合もある。
ジョンソンは疑惑を捨てて、再びノートパソコンの画面に視線を戻すと、局から渡された資料に何度目かの目を通した。
「ダミーであれ、本命であれ、全力で任務を遂行するだけだ。」
報告書によると、ターゲットの業績は、異様な程の行方不明者発見能力による。
普段は通らない道や、巡回経路から著しく外れた場所に、急に出向いては、行方不明者を発見するケースが多い。
まるでターゲット自身が、行方不明者をそこに置き去りにして、後から迎えに行った様な見つけ方だ。
しかし、発見された行方不明者の全てが、それを否定している。
何より一番の問題は、この付近で起きている、例の件の殆んどに彼が関わっていると言う事実だ。
地球規模で見ても、関与の割合が、彼だけが異常に高過ぎる。
つまりは、彼の秘密が解れば、逆に例の件の原因が掴め、ゲストに恩を売って国益に繋がるわけだ。
もっとも、ゲストに『恩』と言う認識が通じるかどうかは、未だに不明らしいが。
俺自身がダミーならば、この情報も偽データなのだろうから、ターゲットから聞き取りしたり、行動観察によって真偽が判断出来るだろう。
この様な情報の精査も、能力評価に関わる。
瞼が重い。
時差の関係か、何だか眠くなったが、珈琲でも飲んで生活サイクル調整をしておくか?
いや、この地区の地域情報を検索して、仕事に備えておくべきだろう。
ついでに、軽く運動して目を覚まさせる施設も探しておこうか?
ボーリング場やサウナなどは無いだろうか?
ジョンソンは、パソコンで地名を入力した検索をかけた。
日本は、ネットワークによる情報の提供量が少ない。
本国の様に、偽データも混在しているより良いのか、悪いのかは判断が難しい。
日本のナビゲーションサービス会社は、なかなか優秀らしいので、インターネットとナビゲーションアプリの併用が良いと、現地駐在員からは聞いていた。
「ボーリング施設は、スポーツセンターと併設とか言っていたな?本国では、ボーリング場だけの単独施設が主流だが、土地が狭いせいか?」
警察署に近いホテルを選んだ為に、近所にろくな施設が無いのを、彼は今更ながら後悔する。
タクシーを使うのも、どうかと思われる状況だ。
レンタカーを借りておくと言う事も考えたが、警察車輌に同乗する上に、日本の左側通行の運転訓練を怠っていた。事故など起こしては任務に差し障る。
ナビゲーションアプリで周囲を見れば、飲食店も少なく、ホテルのレストランが無ければ、なかり困る事になっただろう。
それさえも、営業時間が限定されてはいるが。
選択肢は限られている。
ジョンソンは、小銭入れを手にして、ホテルラウンジへ自動販売機の缶珈琲を買いに、部屋を出た。