暑い、夏の日常
日がゆっくりと、ゆっくりと沈み、青空が徐々に橙の黄昏から濃い藍色に変わる。藍色が深く、深く広がって、辺りは暗闇に包まれる。
〝今日が終わる〟その感覚を、僕はまだ覚えてる。
「暑いね〜〜〜〜〜!!」
「夏だからね」
まだしつこい程に、蝉の声が聴こえる。
空は橙。
青でもなく藍でもない、この色の時間帯を特別に感じる。
田舎の無人駅、辺りに誰もいないことを良いことに、腹の底から叫んだのに対し、ぐったりした怜は氷のようにピシャリと季節を指摘する。
それを見て、春はベンチに体を預け、暑さを耐えた。
「クールだねぇ、怜ちゃんは。さすが冬の一族……」
「あー……もう。二人でいるときは家の話するのやめよって言ってるのに……」
「あは、ごめんごめん。でもさ、ほら」
ぺらっと、鞄から出したのは 進路希望書。
にこにこ笑顔の春を見て、怜は深く、深く溜息をついた。
「春は?なんて書くの?」
「決まっってんじゃんっっ!!!」
春が立つ、風が吹く、肩の長さの茶髪が揺れる
色素の薄い、茶色の瞳が、より一層きらめく。
日がゆっくりと落ちて、橙と藍が混ざり合う。
「怜と同じ、私も檸檬になる」
そう言って笑う春に、怜は呆れながらも笑顔を見せた。
人は眠らないーー。いや、眠る必要がなくなった。
あの夜から。あの夜の日、誰もが「おやすみ」とは言ったものの、眠れない夜を過ごした。ベッドに入って、羊を数えても眠くならない。いつか眠くなるだろうと、ブルーライトを浴び続けても眠くならない。「特技は〜、どこでも眠れます!」なんて言ってたアイドルも眠れなかった。
あの夜の日、〝睡眠〟と引き換えになったように、大抵の人は少しの魔力を手に入れた。そのことに気付いた人は、いなかった……いや、厨二病患者は、気付いたのかもしれないけど。
次の日の夜も、その次の日の夜も、眠れなかった。「俺、今日徹夜でさ〜」なんてマウントとられても、全員眠ってないのである。逆に、「え、お前もなの?」ってなるだけである。少しずつ、世間も気付いた。ニュースに取り上げられ、街角インタビューが行われ、〝人が眠っていない事実〟に気付き始めた。宇宙人の仕業だとか、人間がついに進化しただとか、各メディアが騒いだ。
しかし、〝慣れ〟とは恐ろしいもので、騒いでいたのも一瞬。すぐに眠らないことは〝日常生活〟に変わり、人は眠らなくなった。
大抵の人が、少しの魔力に気付くのは、〝慣れ〟からほんの少し後のことだった。
「ねえ!このあとどうする?」
くるっと振り返ると昼学のブレザーのスカートがふわっと浮かぶ。
「私は家に帰って着替えてくるよ。春は……制服また持ち歩いてるの?」
「えへへ、だってこのセーラー可愛くない?笑」
「もう3年なのに、ずっと制服好きだね。さすがマニア。」
「今を楽しまないとね!じゃあ先に行くから教室でね!」
「「 じゃあ、 またね ! 」」
眠らない世界、それが日常になってから中高生に、『昼学校』『夜学校』が課されることとなった。
『昼学校』それは従来通りの基礎知識。国語、数学、、以前からある大人たちも通ってきた学校だ。
『夜学校』これはいわゆる魔法学校だ。政府は魔力を調整するため、夜学を義務教育と課した。




