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貧乏貴族ノードの冒険譚  作者: 黒川彰一(zip少輔)
第一章 貧乏貴族ノード
9/63

9 採取最終日

遠征ラスト


 ボロボロになって帰還したジニアス一行の姿に、他の冒険者は驚いたようだった。

 彼らは次々にどうしたのかと口を揃えて心配し、そしてゴブリンの群れに出会したことを告げると、一度気の抜けた顔になり、そしてどの程度の規模だったかを告げると再び驚いた表情を見せた。


 森を後にする前、あの場にあったゴブリンの死体を数えてみると、なんと40強のゴブリンの死体があった。

 ジニアスたちの話では、広場の前にも森の中でも何度かゴブリンと戦ったそうだ。倒しても次々と現れるゴブリンに、逃走を試みたが、追い付かれ、覚悟を決めて戦うために連携の取りやすいあの場所で戦っていたのだという。


 証言では50余りのゴブリンと戦っていたことになり、そのゴブリンとの死闘を切り抜けたジニアスたちは、その武勇伝を他の冒険者や錬金術ギルドの人たちに褒めそやされ、面映ゆそうにしていた。ノードも助けに向かったことや、その戦闘技術などを称賛された。


 ノードがまたしても、釣ってきた魚を加えた食事は、一段と豪華なものに仕上がった。

 ジニアスたちが、感謝の気持ちということで、手持ちの食糧を大盤振る舞いしてくれたのだ。

 とはいえ、傷を負い血を流した彼らにこそ食事は必要であり(魔法では傷は塞がっても体力は回復しない)、ノードもまた何時もより多く釣った魚を提供した結果、豪勢な食事(保存食が主)となった。

 嬉しいのは、ジニアス一行のシノが料理の腕が立つことだった。故郷では実家が宿屋をやっているというシノは、その生い立ちから身に付けた料理の腕を、限られた環境で存分に発揮してくれた。


 そしてその料理に舌鼓を打っていると、別の冒険者たちも混ざり、そのまま宴会の様相を呈していた。


 ジニアスは既に本日何度目かの自分たちの武勇伝を高らかに唄い上げていたが、それを聞いていた冒険者の一人がこう言い出した。


「そんなにゴブリンがいたなら、多分塒もそこそこな規模だろ。金銀財宝は無理でも、なんか溜め込んでるんじゃないのか?」


 その言葉を聞き、ジニアスたちは焚き火で朱色に照らされた顔を見合わせた。

 命からがら逃げ出して来たことで、そのことに思い当たらなかったのだ。


 その後、パーティーのリーダーであるジニアスから誘いを受けた。「明日、最終日にゴブリンの巣を探索に行かないか」と、

 その言葉を受け、ノードは悩んだ。


 今日はゴブリンの集団との戦闘の影響もあり、薬草の採取量は少なかった。これ迄の六割ほどである。今日までにそこそこ集めているとは言え、果たして明日もまた別のことに時間を使ってよいのだろうか、と。

 ゴブリンとの死闘では、ノードもかなりの戦果を上げたが、討伐依頼ならいざ知らず薬草の採取依頼では何体倒そうとも金にはならない。

 ゴブリンたちは巣穴に財宝を溜め込む性質があると聞くが、所詮はゴブリンなので大した物は無いかもしれない。しかし、もし金銭でもあった場合、どうするか。

 結局、ノードは迷いに迷った挙げ句、やはり冒険することを選んだ。誘惑に負けたのだ。

 同行する旨をジニアスに伝えると、ジニアス以外の皆も喜んでくれた。どうやら危機ピンチに駆けつけたお陰か、大分好感度が上がっているらしい。


 ジニアスは、翌日、太陽が昇ってからすぐに探索を始める提案をしてきた。ノードとしても、もし空振りに終わっても余った時間で採取出来るならそれに越したことはない。

 ノードが明日に備えて、横になると、直ぐに眠気が襲ってきた。ノードは深い眠りについた……。


§


 翌日、ノードは目が醒め直ぐに支度を済ませた。ジニアスたちも直ぐに支度を済ませ、一行は再び死闘を繰り広げた山の中へと歩を進めた。


 ゴブリンたちの死体は、一日が経ち、早くも異臭が立ち込めていた。森の中にも、ジニアスたちが逃げながら戦い、屠ったゴブリンの死体があった。

 ジニアスたちがゴブリンに襲われた辺りは、薬草もかなり繁茂していた。ノードにはそれらが落ちている銅貨にしか見えず、何度か探索を抜けて薬草採取に戻りたい気持ちが湧いてきたが、それを何とか押さえ付けた。


「……っ! 止まって」

 ジニアスたちと森を探索していると、突然パーティーの一人であるアルミナが小声でパーティーにそう呼び掛けた。

 アルミナは故郷で猟師の娘として産まれ、斥候レンジャーの技能をもつ弓手だ。昨日の戦闘では矢が尽きあとはゴブリンたちと短剣で死闘を繰り広げていた。障害物の多い森の中では、弓矢は不利なので今は肩にかけている。


 そのアルミナが、足音を殺し慎重に移動をする。森の中だというのに全く音の立てない移動に、ノードは本職の斥候レンジャーに比べれば、自分の付け焼き刃な森の歩き方などまだまだだと思い知った。


 アルミナは、暫くすると戻ってきた。

 それによると、ゴブリンの塒らしき場所を見つけたらしい。 


 アルミナの指示に従い、慎重に移動した先。そこからは、確かにゴブリンの姿が見えた。

 どうやら見張りのようだ。姿は一体分しか見えない。


 ノードとジニアスたちは小声でゴブリンに気付かれないように会話をした。

「まだ生き残りがいるかもしれないが、行くか?」

 ノードがジニアスに問い掛けると、彼は首肯した。そしてアルミナへと、見張りのゴブリンを狙撃するよう指示を出した。


 アルミナはノードたちから数歩離れると、矢をつがえて弓を静かに構え、弦を引き絞った。アルミナが狙いをゴブリンへと絞り、精神を統一すると、弦から手を離した。

 限界まで張りつめた弓から、矢が凄まじい勢いで放たれ、射出音が周囲に小さく響く。

 しかしそれは早朝の鳥の囀りや木々の葉の擦れる音に掻き消され、パーティーの仲間以外にその音を聞いた者はいなかった。


 矢は吸い込まれるように見張りのゴブリンの頭部に突き刺さり、彼は自分になにが起きたか分からないまま絶命した。


 ノードたちは慎重にゴブリンの塒へと近付いた。

 見張りは一体だけだったようで、増援はない。


 塒は洞窟で、奥へと続いており、入り口からは中の様子は分からなかった。


 ノードたちは一言も喋らず、視線で意思を交わした。

──行こう。


 彼らは手に、昨晩用意した松明に火をつけ、ゴブリンの洞窟へと足を踏み入れた。


§


 洞窟の中は暗く、そして深かった。

 外よりも見通しの悪い洞窟で、ノードたちは慎重に探索を進めた。特にジニアスたちは、昨日包囲されて追い詰められたときの恐怖が真新しいようで、挟み撃ちは御免だとばかりに後方にも執拗に警戒をしていた。


 洞窟は入り組んでおり、狭い通路が続いた。ゴブリンが掘り拡げたのか、時折広い空間に出ることが度々あった。

 そこでは何体かと出会したが、数は少なく、時間をかけずに直ぐに制圧できた。


 広い空間──部屋の中は、ゴブリンの居住スペースらしき場所だったり、食糧が溜め込まれていたりと、様々な用途に使われていた。しかしそれらの原始的なモノは、価値があるものではなく、あったのは銅貨が数枚見つかっただけだった。

 これは空振りに終わるかもしれないと、洞窟に侵入する前には確かに存在していたノードの期待心は、すっかり萎んでしまっていた。

 

 ──と、ゴブリンの死体があるだけの部屋を抜け、次の通路に差し掛かったとき、先頭を歩いていたアルミナが、またしてもパーティーに待機指示を出した。


 その意味は直ぐに分かった。通路の奥からはゴブリンたちの声が聞こえたからだ。

 どうやらそれなりの数がいるらしい。


 ノードたちは小声で作戦を決めた後、通路の奥へと進んだ。


 通路の奥は、一際大きな空間となっていた。

 

 次第に大きくなるゴブリンたちの声は、洞窟の壁に反響していた。

 その音に紛れる様にして、アルミナの先制の射撃が始まった。

 部屋の中にいたゴブリンたちは、突如同胞の頭部に生えた矢を、ポカンと見つめた後、それが敵の襲撃だと気が付いたらしい。

 慌てて入り口に視線をやるが、その時には既に突入は始まっていた。


 矢が刺さる前に、弾けるように室内に飛び込んだノードとジニアスが、その剣で、ゴブリンたちを切り裂き、絶命させる。

 さらにシノも後ろに続き、手に構えた投擲用のナイフを投げる。ゴブリンに突き刺さり、痛みに悲鳴を上げたそのゴブリンは、直後にジニアスに止めを刺された。

 遅れて突入したゲイゴスは、両手で持った槍を突き、ゴブリンを串刺しにする。洞窟内では取り回しが良くないが、この開けた空間では十分に振り回すことが出来た。


 リセスはゴブリンの攻撃で傷ついた味方がいれば治癒の魔法をかけてもらう手筈だったが、その必要は無さそうだった。


 部屋の中には、十数体のゴブリンがいたが、彼らは奇襲に対応出来ず大きく数を減らし、そしてそのまま形勢を建て直すことなく殺られていった。


 後には死体が残るばかりである。


「これで終わりかー?」

 シノが軽い調子でそう言った。

「……みたいね」「ですね」

 アルミナとリセスも、後方の来た道から来る敵に警戒していたが、増援の気配は無いようだ。

「通路は見当たらんな」槍を身体に立て掛けるように構えたゲイゴスは、室内を見渡すも他の道への通路がないことに言及した。どうやらここが最後の部屋らしい。


「じゃあ、家捜しするか」

 ジニアスのその声で部屋の中の探索が始まった。

 見張りに二人──立候補したゲイゴスとアルミナが入り口を見張り、それ以外の面子で部屋の中を探し回る。


 最後の部屋──大広間はこれ迄の部屋と比べても広く、物も一杯あったため、探索には時間がかかった。


「なんだこりゃ」

 シノが何に使うか判らないガラクタを弄びながら声を漏らす。

 今のところ、やはり金目の物は見当たらなかった。


「おっ!」

 と、その時ジニアスが嬉しそうな声を上げた。

 何だ? と思ってノードもそちらを見てみるとジニアスは一つの箱を取り出した。


 何やら古びた箱だが、ゴブリンの手製というわけでは無いようだった。恐らく人間を襲撃した時に持ち帰った物だろう。

 木製の箱に、意匠が施されており、鍵穴が着いている。

 

 ジニアスが揺すると、ジャラジャラと音が鳴った。


「なんだ金か!?」

 期待した声でシノが問いかける。

「かもな……よっ、と」


 小さな子供ほどの大きさの箱だ。

 ジニアスは箱に側にあったゴブリンの剣を差し込み、無理やり抉じ開けた。残念ながらこの場には、ノードを含めて鍵明けの技能を持つ仲間が居ないため、妥当な行動だった。


「うおっ!」

 果たして、抉じ開けた箱の中身はシノの言葉通りだった。

 どうやらこれはゴブリンたちの宝箱だったようで、中には色んな物が入っていた。


 キラキラ光るカンラン石や黒曜石など、あまり価値のないものもあったが、中にはそれなりの枚数の貨幣が溜め込まれていた。

「うーん……ほとんど銅貨だな……」

 ジャラジャラと、ジニアスが中身を漁っている。

 他の仲間も気になるようで集まってきている。アルミナは持ち場から離れて覗きに来ているほどで、ゲイゴスは彼女の分までしっかりと見張りの役割を果たしていた。


 最終的に、宝箱の中身を数えた結果、大量の銅貨と、嬉しいことに数枚の銀貨が入手出来た。

 他には残念ながら目ぼしいものは無かったため、その貨幣が今回の冒険の報酬だった。


 ゴブリンの洞窟を後にした頃には、日はすっかり昇りきっていた。

 明朝には錬金術ギルドの馬車に乗って、王都へと帰還の旅路に就くことになる。

 その後ノードは、日がくれる前までジニアスたちと薬草を集め、この依頼最後の薬草採取の仕事を終えた。


 その後は夜、昨日に続いての宴会となった。

 皆が戦果について期待していたが、結局大したものは無かったと話したため、彼らは「まあ、ゴブリンじゃあな~」と詰まらなそうにため息を吐いた。


 ちなみに、銀貨も含めたゴブリンの洞窟の宝は、結局ノードとジニアスの仲間を合計した六人で割ってしまえば、丁度丸一日薬草を集めて回った場合と同じぐらいの金額に落ち着いた。

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