閑話 フェリス邸の男爵さま
リハビリがてら書いた話です。
あまり出来が良くないですが、よかったらどうぞ。
その日、ニュートは暇そうにフェリス邸の中をうろついていた。
いつもであれば、自分の親であるノードとともに行動するのだが、今日はニュートを連れていくことが出来ないということで、家の中に置き去りにされていた。
そういう日は、決まって妹のアイリスがニュートを構うのだが、生憎とそのアイリスも今日は家にいなかった。
「きゅう……」
「あー、ニュートか。ごめんな、このあと騎士団に出かけるんだ」
ノードの兄であるアルビレオに構ってくれと甘えてみるが、頭を一つ撫でられただけで終わる。
「きゅう……」
「おや、ニュートさん。申し訳ありませんがこれからお仕事なのですよ」
ノードが慕っている執事のアレクに甘えてみるが、やはりこちらも申し訳なさそうにされるだけで、構ってはもらえない。
「きゅう……」
「あら、ニュート。今日は一人なのね……ごめんなさい、このあと用事があるの」
フェリス邸で一番偉いノードの母親に甘えてみるが、やはり同じ対応だった。
「あー、ごめんな」「ごめんなさいニュート」「ごめんねーこれからおべんきょうなの」「あうー」「だうー」「こらニュート、ちょっかいかけたらダメだよ」
おかしい。
いつもならじぶんをこれでもかとかまってくれるはずなのに。どういうわけかみんなかまってくれない。
そういうわけで、ニュートは若干不機嫌になりつつ、フェリス邸の中を手持ち無沙汰にうろついていた。
「へっへっへ、いい気味じゃないか」
「きゅっ!?」
そんなニュートに、意地悪く笑いかけるものがいた。
だれだ!?
はじめて見かけた存在に、ニュートは驚き、警戒する。
「おれのことを知らないとは……まったく、最近の若い奴ときたら教育っていうものがなっちゃいねえ。ノードの奴もいったい何を教えてるのやら」
「きゅ! きゅ!」
しつけくらいきっちりしやがれ。
そう悪し様に自分の親を罵る存在に、ニュートは抗議するべく鳴き声を上げた。
ノードのことをわるくいうとゆるさないぞ! と。
「ほう、まだおチビのくせして一丁前におれさまに逆らおうっていうのかい。俺が誰だか分かって言ってるんだろうな」
「きゅ……きゅう?」
「はあ、全く……。いいか、俺さまの名前はバロン。この辺り一帯を治めている。バロンってのが示す通り、男爵の称号でよばれてるもんだ。男爵ってのは……あー、まだお前にはわからないか」
「きゅ! きゅ!」
なんだかよくわからないが、それでも相手が自分のことを馬鹿にしたということだけは、ニュートにも理解が出来た。
抗議の意味を込めて、もう一度鳴き声を上げる。威嚇のため、首を高くあげて翼を広げた。
「ふん、なんだお前やろうってのか。まあ、こっちとしても望むところだ。一度新顔にきっちり序列ってのを教え込まないとな!」
「きゅ!?」
そういって、バロンは一気にニュートとの距離を詰める。
予備動作の無い、一瞬の踏み込み。
ゼロから百へと一挙に加速するその業は、熟練の戦士でも成しえない天才のそれ。
その速さはまるで閃光のようで。一瞬にしてニュートは自身がバロンの必殺の間合いに収められたことに気が付いた。
まずい!?
そう思って咄嗟に羽ばたき、上空に逃れようとしたが、到底間に合うものではなかった。
「逃がすか!」
バロンが飛び掛かり、ニュートを組み伏せる。
首元を抑えられ、翼を自由に動かせないようにされた。
「きゅ! きゅ!」
もがきながら、離せと鳴き声をあげるも、バロンの猛追は止まない。
「ほう、まだ抵抗しようってのか。根性あるぜ、お前。いいだろう。徹底的にやってやろうじゃないか」
「きゅ!?」
そういって、バロンは高速の打撃を繰り出し始める。
「オラオラオラァ!」
目にも止まらぬ連撃だった。
達人もかくやというほどの超高速の打撃が、残像を引いてニュートに襲い掛かる。
その打撃を、完全に抑え込まれているニュートは躱すことも、防ぐことも敵わない。
「きゅー!? きゅー!?」
いたい、いたいよ、やめて!
そう悲鳴を上げても、バロンは容赦することはなかった。
ボカスカと殴り続け、そしてニュートが痛みと屈辱で涙に濡れたところで、ようやく攻撃が止まる。
「よし、このくらいでいいだろう。いいか、ええと……お前なんていうんだ」
「きゅう」
「ほう、ニュートっていうのか。いい名前だな。それでニュート、お前が俺さまの子分になって従うっていうのであれば、これ以上は殴らないでやる」
「きゅ!?」
「なあに、心配することはない。ノードだって俺さまの子分なんだ。いや、それだけじゃねえ。フェリス邸のみんなも俺の子分だ。まあ、おっかさんのマリアにだけはちょっと頭が上がらないが……ゴホン、それはおいておいて、さあどうする?」
「きゅ!?」
さあどうする。と問いかけてはいたが、それは脅迫に他ならなかった。同時に天高く振り上げられた拳が、拒否すればどうなるかを明白に語っていた。
ニュートは先ほどの痛みを思い出し、致し方なく子分になることに同意した。
「よし、いいだろう。これからは俺さまの子分だ。これからは俺のいうことをよーく聞くんだぞ」
「きゅう……」
納得いかない。そう思いつつ、また殴られるといやなので、ニュートは力なく鳴き声を上げた。そしてそのとき。
「ただいまー」
「!」
フェリス邸の玄関の扉が音を立てて開いた。そして、同時に聞きなれたその声が耳に届く。
「あ、こら!」
バロンが止める暇もなく、ニュートは一目散に逃げだした。
向かう先は勿論玄関である。バロンも慌てて追いかけてくるが、先程と違い、一手先に逃げたニュートの方が速い。一度空を飛んでしまえば、如何にバロンの神速といえど追いつけるものではなかった。
「おや、ノードさま。アイリスさまとご一緒でしたか」
「ああ、帰るときに会ってね」
「おやつ買ってもらった!」
「それはよろしゅうございましたね、お嬢様。」
「きゅーーー!?」
助けて―!?
悲鳴を上げながら、ニュートが玄関についたばかりのノードの胸元へと飛び込む。
「ぜえ……ぜえ……な、なんて速いやつだ。この俺が追い付けないとは」
見れば、後ろから追ってきたバロンも玄関へとたどり着いていた。だが、既にニュートはノードの胸元へと避難済みである。
「きゅ! きゅ!」
「ただいまーニュート!」
「なんだ、どうしたんだ?」
「お腹が空いたんでしょうか……」
助けて! あいつが、あいつがいじめてくる!
そう言って助けを求めるニュートだったが、それに対してノードたちは……。
「お、バロン来てたのか。なんだお前バロンに遊んでもらってたのか」
「きゅ!?」
「おや、バロンではないですか、あとでご飯を差し上げましょう。これからもニュートの相手をしてやってください」
「きゅ!?」
それは、裏切りであった。
ニュートは驚き、絶望して、そして悲しく鳴いた。
「あ、さてはバロン。あなたニュートをいじめてたのね……ダメよ、仲良くしなくちゃ……」
唯一真実に気が付き、バロンを糾弾してくれたのはノードの妹であるアイリスだけだった。このとき、ニュートは一生アイリスについていこうと思った。
そして……。
「そりゃあないですぜ。お嬢様。おれさまはただ序列ってのを教え込んでただけでさあ」
バロンはというと、心外だとばかりにニャアと一声鳴き声を上げるのだった。
活動報告にも書いてますが、ノード2巻が発売されます。
前半部分の改稿めっちゃ頑張って6万字~くらい書き直しました。是非とも読んでみてください。
3部は今執筆してますが、年内に更新できるか怪しいので取り合えずこちらを投稿です。
みなさんよいお年を。