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貧乏貴族ノードの冒険譚  作者: 黒川彰一(zip少輔)
第二章 見習い竜騎士ノード
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エピローグ

文字数(空白・改行含む):4345字

文字数(空白・改行含まない):4019字

ようやく2部完結です。


えー、更新自体は2019年11月で止まってたんですが、その後内容変更、加筆して差し替えしておりますので、暫くぶりに見るなあという方は35~くらいから初見の可能性ございますので、そちらの方ご確認ください。

 暗闇の中を、ノードは歩いていた。


 どこに向かっているのかは、ノードには分からなかったが、それでも歩みを止めることはなかった。


 自分が何をしているのだろうか、何か忘れている気がする。

 そんな感覚がぼんやりと頭に浮かんではいたが、それが一体何なのかは、分からなかった。


 何もない真っ暗闇だった。

 しかし、不思議とそこに恐怖は感じなかった。

 ただ、その奥へと向かっていくのだと、自然と分かり、ノードは歩みを続けた。


 どれほど長い間歩いたのだろうか、何もない暗闇の道を進むと、大きな川が流れる場所へとたどり着いた。


 ノードは、なぜかその向こう側に行く必要があるのだと分かった。

 理由などない、ただ、ここに来たものは川の向こうへと進むべきなのだと、ただ思った。


 周囲を見渡すが、船のようなものは何もなかった。

 しかたない、ノードはため息を一つ吐くと、ざぶざぶと川の中へと歩みを進めることにした。


 川の水は、心地よい冷たさだった。

 足首がひんやりとして、全身の疲れが癒されるような心地がした。


 もっと浸かれば気持ちいいのではないかと考え、ノードが足を進めようとすると、ふと、後ろが気になった。


 振り返ると、そこには漆黒の闇だけが広がっていた。

 来た道は闇に呑まれ、消えているようにも見えた。


 なぜだろう。なにか忘れ物をしたような気がする。

 しかし、それが何かは思い出せない。


 大したことではないに違いない。

 そう考えてノードはいま一歩足を進める。

 少しずつ、少しずつ深くなっていく川に浸かるたび、ノードは嫌なことから解放されるような心地がした。


 そして膝元まで浸かったところで、再び後ろが気になって振り返った。

 一瞬、漆黒の闇以外に、紅い何かが見えた気がした。

 しかし、驚いて目をこすると、その何かは消え失せ、また漆黒の闇だけが広がっていた。


 何なのだろうか。

 ノードの胸に、心残りのような何かが感じられた。

 そう、誰かに会わなければならない気がする。


 だが、それが誰なのか、ノードに思い出せなかった。


 ノードはしばらく佇んでいたが、再び川の中へと進もうとする。

 しかし、


「――戻ってきて」 


 はっ、と誰かに呼ばれた気がして、後ろを振り向いた。

 誰だ。誰なんだ。

 しかし、振り返ってもそこには誰の姿もない。


 ただ漆黒の闇が広がるだけだった。


 ノードは必死にさっきの声を思い出そうとする。

 なつかしい、それでいて安心できる声だった気がする。

 しかし、その声の持ち主が誰なのか、ノードには分からなかった。


 しばらくたつと、先程の声は空耳だったのではないか、という気持ちが湧いてきた。

 そうだ、そうに違いない。

 頭の中で声がささやく。


 今は、先に進まないと。


 ノードは三度、川の中を進む。少しずつ深くなっていく川の中に浸かると、もはや何もかもがどうでもよい気持ちになる。

 そして胸元まで浸かり、首元まで浸かって……そして、


 気になって、もう一度だけ、と振り返ってみると、漆黒の闇が、目の前にあった。

 川岸が消え、そして闇だけが目前に広がっている。

 驚いて、向こう岸へと向かおうと再び振り向くと、やはりそちらにも闇が広がっていた。


 何だ。何が起きているんだ。

 ノードの周囲には、恐ろしい闇だけが広がっていた。

 そして、ふと気が付いた。


 胸元まで浸かっていた川の水、それがどんどんと黒く染まっていく。

 やがて透明だった川の水はどす黒い漆黒の闇へと変化して、そしてだんだんとノードの身体を蝕んでいった。

 闇はどんどん勢いを増し、だんだんと首から上までも吞まれていく。

 何なんだこれは。

 ノードは叫び声をあげようとするものの、それすら叶わない。

 闇は首を吞み込み、おとがいを押さえつけ、そして口元までせりあがっていた。

 呼吸すら満足にいかず、指一本動かせず、思わずノードは天を仰ぎ見た。


(……?)

 そして、不思議なものを見た。


 空には太陽があった。

 黒く輝く太陽。その下を、何かが飛んでいる。

 あれは何だろうか。

 ノードはだんだんと己を飲み込む闇すらも忘れ、それが何が見極めようと目を細める。

 何か、とても懐かしい気がする。


 ぐるぐると、自身の頭上を円を描くように飛ぶそのシルエットを、ノードは飽きるほど見ていた気がするのだ。


 そう、あれは、たしか。


「ニュート……」


 口元を闇が覆い、発することが出来ないはずのその言葉は、やけにはっきりと耳に届いた。


 すると同時、その影は声に反応するようにこちらへと飛んできて、それに向かってノードが手を伸ばすと、身体を纏う闇はするりと解けた。

 やがて影が近づき、そして周囲が段々と明るくなり、

 そして。


§


 最初に感じたのは、眩しさだった。

 瞼越しにでも感じる光に、細めながら薄っすらと目を開けると、天井の木目が視界に入った。

 

 その模様に若干の既視感を感じつつ、ぐるぐると視線を上下左右にさまよわせる。

 少しずつ、意識が覚醒していき、身体の中心から末端へと意識が行き渡っていく。


(ここは……そうだ、オブリエール家の客間か)


 左右を見渡せば、たしかにここ数日滞在していたオブリエール家の邸宅、その一室の内装が目に入ってきた。


 そうだ……俺はたしか兄上に呼ばれて、アルバ領を訪れ、そして、


「蜘蛛ッ……っ痛ぅ……!」


 電流が走ったかのようにこれまでに起きたことが一気に思い起こされ、思わず叫び声をあげそうになる。

 同時に、反射的に飛び起きて戦闘に備えようとしたノードだったが、その瞬間に全身を激しい痛みが襲った。


「――……ッ!」


 苦悶の声を漏らしながら、ノードの身体がふたたび柔らかなベッドへと沈み込む。

 ぼふり、と枕が音を立て、室内の空気がかき回される。

 身体に走った痛みが治まるのを待ちながら、ノードは改めて状況を整理しようと試みる。

 

(ここは……やはりオブリエール家の客間だ。それは間違いない)


 内装だけではない、良く見るとノードが持ち込んでいた私物もある。おそらく、貸し出された客間にそのまま寝かされているのだろう。

 しかし、そうなるとすると。


「蜘蛛はどうなったんだ?」


 小さくつぶやいた疑問が、室内に静かに響く。

 たしか、俺は元帥蜘蛛たちと戦い、そして倒して……倒して……


 ダメだ、思い出せない。記憶が一切ない。

 ノードは一旦、そこで記憶の捜索を中断し、周囲の様子を探ることにした。身体はまだ痛むため、じっと寝たまま意識を周囲へと配る。

 すると、ノードの耳に届いたのは、窓の外から聞こえるある音だった。

(これは……大工仕事の音か?)


 トンテンカン、とリズムよく木材を叩く音が、耳元に微かに届いた。さらに、ワイワイと人々の喧騒もわずかにではあるが聞こえる。

 大工仕事、ということは周囲は安全ということだろうか。いや、ひょっとしたら籠城のために作業しているのかもしれないが、取り合えず戦闘の気配はなさそうだった。


「ん?」


 他に何かないか、と思ったノードだったが、もっと奇妙な音が聞こえることに気が付いた。

 ひゅるる~、ひゅるる~と何やら気の抜ける音だ。


 どこかで聞いた。というか結構聞き慣れている音のような気がした。

 しかも、この音の発生源はどうやら近いようにも感じられる。具体的には直ぐ傍で鳴ってる気がする。


 ノードはそこで、はじめて自身の身体にやけに重さを感じることに気が付いた。

 痛みで気が付かなかったが、あきらかに重さを感じる。具体的には腹部に何かが乗っている感覚がある。


 ノードは体に痛みが走らないよう、のっそりと慎重に上体を起こすと、視線を自身が先ほどまで眠っていた寝台へと落とした。


「………………」


 こんもりと、ノードの腹部には不釣り合いな膨らみがあった。

 無言のまま、ノードは視線を横にずらす。

 するとその先、先程寝たままでは気が付かなった寝台の死角には、良く見慣れた深緑色の鱗に覆われたナニかがあった。


 ノードはため息を一つ吐くと、勢いよく自身の身体を覆うベッドシーツを引きはがす。


 するとどうだろうか。ベッドシーツの中からは、不敬にも自分の主の腹を枕にして熟睡する、すっかりこの一年で大きくなった幼竜の姿があった。


 何度しつけても、この飛竜の子どもは一向にノードの身体を枕とするのを辞めようとしない。叱りつけても、何度も懲りずにノードのベッドへと潜りこもうとするクセがあった。


(最近はしなくなったと思ったら……)


 ノードはスッと、飛竜が咆哮する前兆のように大きく息を吸い込み――思い直して、再び柔らかな寝台へと身を預けることにした。


 吸い込んだ息を大きく吐き出すと、ノードは無言のまま腹部に乗っかるニュートの頭を優しく撫でた。

 つやつやとした緑色の鱗が、手のひらにつるりとした感触を返してくる。

 すやすやと、ハナ提灯を膨らましながら幸せな顔で眠りこけるニュートを見ながら、ノードは自身がこうしてベッドで眠っていた理由を何となく察した。


「どうやら、お前に助けられたみたいだな」


 一体何があったのか、その細かい流れはよく分からない。だがおそらくこの推測に間違いないだろう。

 絶体絶命の危機に陥っていたノードと、アルバ村を、どうやってかこの飛竜の雛は救って見せたのだ。


 取り合えず、起きたら誰かに話を聞いてみよう。

 おそらくノードが驚くような、この飛竜の活躍が聞けるはずだ。

 安否確認も必要だ。ノードは話を聞けそうな人間の名前を、候補として指折り数えていく。

 するとどうだろうか。腹を枕にしていたニュートが、ごそりと首をもたげた。

 ハナ提灯がぱちんと弾け、半開きにした、緑鱗の下にあるニュートの寝ぼけまなこが、ぼんやりとノードの顔を捉える。


「お、起きたのか寝坊すけ」


 ノードがそう声を掛けると、深緑色の鱗を持つ飛竜の子どもは嬉しそうな表情を一瞬浮かべ、そしてみるみる内に半開きだった目を全開にし、そして、


「キューーーーーッ!!」


 大きく口を開いたかと思うと、驚きと、喜びがない交ぜになった大きな鳴き声を上げた。

 その鳴き声は屋敷中に響き渡り、ついでどたどたと廊下を走る足音が、ノードの耳にまで届いた。

 窓から射し込む陽光が、深緑の鱗に反射して鮮やかに煌めいていた。

くぅー、疲れました。これで2部完結です。

まあ、一部完結が8月ですから、半年ですね……え、一年半だって?

やだなあ、そんな馬鹿なことが……ほんまやんけ! 2019年の11月にはほぼ書き終えておきながら、そこから一年半かけて完結させるダメ作者がいるらしい。

本当にごめんなさい。いろいろあったんですよ。いろいろ(大体作者が無能)


まあ、とはいえ。いろいろあったんですが、その間にも読者の皆様から暖かいご声援と、はよ書けやという催促を、ネット上、リアル両方で言われ続けた結果、なんとか2部完結にこぎつけることが出来ました。

本当に応援ありがとうございます。


そして、一応ですが3部も予定していますので、引き続き応援の程続けていただけますと、まことに幸いです。

なんか最後駆け足で書いてしまったので、なんかアレ? 変じゃね?っていう部分あるかと思いますが、ある程度はご容赦いただいたうえで、いやいや看過できねーよって感じな部分は感想欄、活動報告等にご報告いただけると幸いです。(ぶっちゃけ作者も色々忘れつつ書いてるので、マジであると思います。)


また、活動報告等でもちょくちょく書かせていただいているのですが、拙作貧乏貴族ノードの冒険譚のコミカライズが始まっており、また先日有難いことにそのコミック第1巻が発売中であります。

よろしければ、コミックアース・スターのページで連載分をご覧になれますし、そして応援していただける方は、ぜひお手に取ってくださると幸いです。

詳細は活動報告の方にもございます。

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― 新着の感想 ―
2024年ももうすぐ終わってしまいますね まだかなぁ? 更新お待ちしてます
[一言] 3部は?
[一言] 久しぶりに読み返しに来ました! 初めてこの作品に会ったのが中学生で、もうすっかり大学生になりました!  今でも第3部楽しみに待ってます!
感想一覧
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