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貧乏貴族ノードの冒険譚  作者: 黒川彰一(zip少輔)
第一章 貧乏貴族ノード
6/63

6 お買い物

基本的に、2000字以上を目安に書いてます。

話の区切り次第では長くなることもあり、長さが安定しませんが、ご容赦下さい。

 鎧を使った迷宮ダンジョンでの荒稼ぎを終えたノードは、拾い集めた魔石を迷宮ダンジョン入り口側に併設された買い取り所で売り払った。

 その金額はここ二週間での自己最高記録の売却額となり、ノードの懐はいつも以上に暖かくなった。


 そしてノードは冒険者ギルドへ依頼の達成を手早く報告し終えた後、別の建物へと移動していた。

 目当ての場所は冒険者ギルドのある通りから、王都の石畳の敷かれた道を暫く歩いた場所にあった。


 その建物は、剣と盾の紋章が象られた看板を判りやすい場所に掲げていた。鍛冶ギルドの紋章を掲げたその店の扉を開けば、店内には、机や椅子はなく、代わりに店内の空間には所狭しと武具が展示されていた。


 店内に設置された分厚い木のカウンターの奥には、店の主である黒々とした髭を生やした、筋骨隆々の男が鎮座していた。


「ヘイ、いらっしゃい! 用件は?」


 威勢の良い接客の声を受けて、ノードは自分の買いたいものを告げる。


「鎧が一式必要だ。後剣も研いでほしい」

「鎧……?」


 じろじろ、と店主が観察するようにノードを見る。

 討伐で使用していた鎧は、一度自宅に帰り脱いできたので、今のノードは綿のパンツに胴衣としてチュニック、そしてその上から革のベストを着ていた。腰に差した剣と革のベスト以外は、町人の普段着そのまんまだ。


「お前さん、冒険者か。階級ランクは?」

石板級冒険者プレートになって二週間だ」


 ふむ、と店主は鼻を鳴らした後、続けて予算を尋ねた。

 それに答えてノードが予算を伝えると、店主の男は僅かに思案した後、「そこで待ってろ」とぶっきらぼうに告げて店の奥へと引っ込んでいった。

 

 少しして後、店主が店の奥から戻ってきた。

 

 ガチャガチャと音を立てながら、店主が店の中にある人形マネキンに鎧を着せていく。

 みるみる内に、木製の人形マネキンは戦士の装いになった。


「ハードレザーの鎧だ。革製だが、硬化材で固めてあるから其なりの防御性能はある。当然、金属製の刃物だと切り裂かれる危険はあるが……」 

 と、そこで店主は鎧の説明を中断し、ノードに視線を戻した。

「お前さん騎士見習いか何かだろう。鎖帷子チェーンメイルかなんか持ってないのか?」


 何でわかった。とはノードも聞かなかった。幼少から剣を扱っていたノードの重心や歩き方、体捌きなどから判断したのだと分かったからだ。鍛冶屋は中年より少し年をとった外見をしており、当然多くの客を見てきているだろう。

 特にここ王都では、武具店を営んでいれば冒険者以上に兵や騎士をみる機会も多かった筈だ。そんな彼からすれば、店に入ってきた時点で、自分の戦闘スタイルは見抜けただろう、そうノードは考えた。だが、流石にその店主といえども、ノードの実家の懐具合は見抜けないらしい。

 フェリス家に金が無くてノードが軍学校への入学を諦めた手合いであり、家にある鎖帷子は、父と兄が使っていて余りがない、ということを、初対面で見抜かれたら流石に怖い。

 まあ、フェリス家が大家族であると知っていれば推測くらいは出来たかも知れなかったが、ノードは自分を知らないだろう武具店へとやって来たのだ。何せ、何だかんだいって貴族の一員が態々冒険者になるというのは、存在しないわけではないが珍しいことだ。そしてその場合も、武家に産まれたのなら、軍学校くらいは出すのが普通である。

 武家に産まれてそういった教育を受けられないのは、庶子くらいだ。そしてフェリス家では本妻の子も愛人の子も分け隔てなく家族として扱われている(嫡子であるアルビレオが跡取りとして揺るぎないことも多分に関係はしているだろう)が、ノードは本妻との間に産まれた子供だった。


 そんな事情を一々説明する義理もないので、ただ単に持っていないことを伝えると、店主は鎧について解説を始めた。


「この革の鎧は、胸に板を仕込めるように作ってある。木の板を仕込めば多少は刃が通りにくくなるって寸法だ。でだ、鎖帷子チェーンメイルは高いから手が届かないにしても、防御は高いことに越したことはない。特に頭と胴はな。」


 店主がコンコンと手の甲で叩く胸部には、確かに木の板が収納出来る空間があった。だが、木の板は動きやすさ優先してか、大して厚くなく、果たして硬革を切り裂く相手の攻撃を受け止めてくれるかは不安が残る。


 店主は話を続ける。

「といっても所詮は木だ。厚くし過ぎれば動きづらいし、打撃系の衝撃を受けると割れる。一応革に挟むように作ってるから割れた木片が身体に刺さることは無いがな。しかし、木の代わりに鉄板を入れれば防御力は大分マシになる。鉄は重いが曲がる分衝撃にも強いし、何より刃は通さねえ」

 問題は……と店主は金を意味するゼスチャーをしてみせた。


「幾らだ」

 聞くと、そこそこする。やはり鉄は高い。

 ノードは無意識に腰の剣を擦りながら考えた。

 この剣もそろそろ自分の手入れだけではなく、本格的に磨ぎに出すべきだ。

 ノードの持つ剣は名剣程の切れ味はないが、無銘にしては頑丈で、造りも良いため大事に使っていた。玉石級冒険者ストーンに昇格しても使えそうなこの剣は、中々の掘り出し物であり買い換えると同価格帯の物を求めればかなりの出費になる。

 故に、二週間酷使した以上そろそろ本格的に鍛冶屋に磨ぎに出すべきであった。

 ノードが磨ぎにかかる料金を聞いてみると、合計で予算──貯蓄はほぼ吹き飛ぶこととなる。


 しかし、


「わかった。それで頼む」


 ノードは時間を掛けるでもなく、迷わず決断した。


 冒険者にとって一番重要視するべきは、生存である。

 故に、手持ちの金で命を救われる可能性があるなら、必ずその選択肢を選ぶべきだと考えたのだ。


「よし、取引成立だな!」


 代金を支払うと、店主は上機嫌でそう言った。


「ああ、そうだ。革鎧だから、鎧の調整は時間はかからないが、剣の方は数日かかるぞ。鎧は剣と同じ日に引き渡すか? それとも、ここで装備していくかい?」


「ふむ……」


 どちらにするか……。

 少し悩んだが、装備していくことに決めた。

 現状剣は一本しかないが、家に帰れば練習用の木剣くらいならある。敵は倒せなくても、身体に馴染ませる訓練くらいは出来るだろう。



ノードは硬革の鎧を装備した!

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