33 不運
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文字数(空白・改行含まない):2314字
ちょい少な目。まあ本来なら前回の後にくっつける部分なので残当。
ハミル王国には、七つの騎士団が存在している。
東西南北に配置された、各々の方位を冠する四つの騎士団に、王国が誇る最大戦力であるハミル王国騎士団、王家を守護する近衛騎士団、そして、十年ほど前に起きた戦争で、赫々たる武勲を上げた王国最強の――鉄竜騎士団である。
その一角、王国の東部地域の守護を担当する東方騎士団は、その十年ほど前の戦争にて、かねてからの仇敵――王国東部にて国境を接していたレムリア王国――との決戦に勝利して以降、終わりのない凋落をたどっていた。
その理由は単純明快で、戦争勝利以降、東方騎士団の出番が無くなってしまったのである。
戦争以前、ハミル王国とレムリア王国は、ほぼ互角の国力を有していた。そのため、小競り合いの結果による多少の増減はありつつも、両国は天然の要害である東方山脈を境に国境線を有していた。
しかし、前回の戦争ですべてが変化した。
当時創設間もなかった鉄竜騎士団の活躍もあり、ハミル王国はレムリア王を含む、数多の重臣たちを打ち取ることに成功――大勝利をおさめた。さらに、ハミル王国が手厳しい追撃を続けたことで、レムリア軍は敗走に次ぐ敗走を重ねる。結局、レムリア王国はその国土の半分近くを失い、最終的に現在のハミル王国最東部、シエナ地方を流れる大河――シエナ河の東側に籠り、ようやくハミル王国との戦争を終えた。
戦争後、王国の領土は大いに拡大し、功績を上げた若手貴族たちを中心に、東部地域を根とする新たな領主貴族たちが誕生したのだが――結果から言えば、これが東方騎士団の練度低下へと繋がっていったのである。
戦争以前、東方騎士団は主に東方山脈の周囲に領地を持つ貴族たちで構成されていた。東方山脈には良質な鉱石を産出する鉱山が多数あり、これを巡ってレムリア王国と紛争になることが多く、戦争結果が自分たちの領地経営に大きく影響を与えるとあって、当時の東方騎士団に参加していた貴族たちの戦意は、非常に高かった。
ところが戦争終結後、東方地域への領土が大幅に拡大したことを受け、東方山脈周辺の貴族たちにとっては敵国から受ける脅威が減少――という域を通り越し、皆無になってしまった。
また、山脈より西部に領地を持つ貴族が、遥か東方へと移動した国境付近の守護を担う東方騎士団にいるのは非効率ではないか。それより未だ脅威の残る西方のロワール王国に備え、ハミル王国騎士団に編入するべきである――そんな言説が西方貴族および王都の貴族に膾炙した。その考えは当時の王国上層部も同じであり、新しく得た地域の統治が落ち着き次第、順次東方騎士団の再編を行うことが決定された。
そして幸か不幸か、敗戦で深い傷跡を残したレムリア王国には残された国土の守備が精いっぱいであり、ハミル王国から領土を取り戻そうという余力は無かった。そのため、ハミル王国側が予期していた失地奪還を企図しての戦争は起きず、新東方地域はその後、現在に至るまで安寧の時を過ごしていたのである。
東方騎士団も当然、当初の予定通り再編成された。戦争が起きなかったことで、新たに領土を得た貴族たちは安心して領地経営に励むことが出来たからだ。新興領主たちは領民たちの人心を得るべく経営に励み、やがて統治が安定した領地からは、東方騎士団を構成する兵士たちが供出された。
そして、実戦経験を全く持たない騎士団が出来上がったのである。
新東方地域に領土を得た貴族の多くは、戦争で功績を上げた若手貴族たちが中心だった。彼らの多くは騎士団に参加し、個人としての武勇で手柄を挙げた者が多かった。いわゆる“平騎士”と呼ばれる者たちで、兵を率いても数人程度であり、小隊程度の指揮経験しか無かった。大規模な部隊を率いた経験を持つものは、稀だったのである。
それ故、領地から兵士を集めて部隊として運用する必要のある、領主貴族に求められる“部隊指揮官”としての経験は持っていなかった。
それ故に、新しく編成された騎士団は、実戦経験豊富な東方山脈近くに領地を持つ旧東方地域の領主貴族たちが再編成で引き抜かれた後、はっきり言えば烏合の衆となっていたのである。
そしてその問題点は、幸か不幸か、レムリア王国が戦争を起こす余力を持たなかったために顕在化せず――その後一度も戦争も無かったために、東方騎士団が集団としての戦いの経験を積むことは、一切なかった。
§
(何とか練度を取り戻すべく、演習に次ぐ演習を行っているらしいが……)
その演習もまた、懸念の一つだった。
アルバ領は旧東方地域と呼ばれる地域に属されるが、位置の問題で再編成後も東方騎士団の管轄に入っている。そのため、ヨハンは東方騎士団の拠点を正確に把握していた。
アルバ村から一番近い東方騎士団の拠点は、バラム砦。東方山脈の東側にある城砦で、アルバ村から見れば南東の方角に位置していた。
(直接向かえば、早馬でも一日近くはかかる距離だ)
しかし、それだけの時間を掛けて報せが行っても、騎士団が演習に出払っていた場合、呼び戻すまでにさらなる時間がかかる。しかも、その騎士団の練度がどれくらいなのか、自身もまた実戦経験が浅いヨハンには分からなかった。
(もし東方騎士団への救援要請が空振りに終われば、残る頼みの綱は王都だけだ。)
アルバ村から王都までの距離は、バラム砦までよりずっと遠い。だが、もしニュートが早馬より移動することができれば、かかる日数はぐんと短縮される。
(たとえ、まだ大人の飛竜ほどは飛べないとしても……!)
ヨハンはじっとニュートの瞳を見つめながら、手紙をその首元に括り付けた。
「お前に……すべてを任せたぞ!」
アルバ領の命運の一端が、緑の鱗を持つ飛竜の子供に託されていた。
三日連続の更新でした。ちょっと文字が少ないのは許してね。
一応この三日で1万2千文字なので、平均4千文字。
昨日に引き続いて、説明会でした。多分次から状況が動く…(筈)
それはそれとして、引き続き宣伝ですが、コミックアース・スターにて拙作、貧乏貴族ノードの大冒険のコミカライズが連載中です。ぜひまだの方もご覧ください。詳細は活動報告の コミカライズ! に書いてあります。
あと、この話、大分二部の最初の描写と矛盾が発生してそうなんですが、あまり気にしないでください。多分直します。




