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貧乏貴族ノードの冒険譚  作者: 黒川彰一(zip少輔)
第二章 見習い竜騎士ノード

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32 決断

文字数(空白・改行含む):3951字

文字数(空白・改行含まない):3778字


いつから更新は昨日だけだと錯覚していた? 取り合えず二日目更新。詫び石替わりと思いねえ。

JCにアイちゃんも参戦したからね、仕方ないね。三冠馬三頭の決戦とか、歴史に残りますよこれは……!

「さあ、早く乗って!」

「馬車の数には限りがある、女子供が優先だぞ!」

「男衆は歩け、いいな!」

「持ち込むのは手に持てる最低限の荷物までだ。家財道具は置いていけ!」


 ヨハンによる宣言――避難指示に従えば、来年の税が無しになる――は、草原に火を放ったかのように、一瞬で村内に広がった。

 先ほどまでとはまた違った熱気が村人に宿り、我先にと避難用に村の中心に用意させた馬車へと群がる。

 ここでもまた、荷物を持ち込ませろ、いや駄目だ、という押し問答が発生しかけたが、その問題もすぐに解決した。


「避難を誘導する者の指示に従わなかった場合、妨害したものとみなしてその者に税の免除は行わない。さらに賦役を課すものとする」


 領主として、正式な命令である。そう言葉をヨハンが発した途端、これまた内容が火急に村内に広がり、村人たちは指示に従い始めるようになった。

 典型的な飴と鞭だが、それがこの上なく有効に働いた結果である。

 村を訪れていた行商人などは、荷物を買い取り、謝礼を支払うことで、快く彼らの馬車を提供してくれた。

 避難は、先程までとは打って変わり、順調に進んでいた。


 しかし、


「何、伝令用の馬が一頭潰れただと」

「はい、騒動に驚いたらしく、興奮状態になってそのまま馬小屋の壁に……」


 足を折ってしまいました。そう馬屋番の男は悲しそうにヨハンに告げた。

 馬は繊細な生き物だ。真夜中に人間たちが騒ぎ立てたことで、不安になって暴れだしたのだろう。


「惜しいが、起きてしまったことは仕方がない。他の馬に影響は」

「少し怪我をした馬がいましたが、足は無事でしたので問題ありません。馬車にも、伝令にも使えるでしょう」

「そうか……不幸中の幸いだな。しかし、そうなると手紙が一通無駄になったか」


 村の避難の指揮を執りつつ、ヨハンはそう独り言ちた。伝令の馬が足りなくなったことで、どこに手紙を送り、どこに手紙を送らないのか、その優先順位を改めて考え直す。ゆっくり考えている時間はない。


「仕方ない、オーヴァンの村に送る手紙は、徒歩で……」


 そう指示を出しかけたときのことだった。


「きゅい! きゅいきゅい!」

 突然、村の中に異質な鳴き声が響いた。


「うわ! 何だありゃ!」

「モンスターか!?」


 その鳴き声に釣られて村人たちが見上げると、そこには見慣れない魔物の姿があった。ニュートだ。


「ありゃ飛竜の子供だぞ!」「やって来るのは蜘蛛だけじゃ無かったのか!?」「落ち着け、みんなあれは敵じゃない」「ブルルルッ」「どう、どう! 落ち着け! 落ち着け」


 上空から翼をはためかせ、ヨハンの元へと降り立つニュート。

 いまだ幼竜といえど、すでに成人男性ほどはある大きな体躯に、飛竜特有の滑らかな鱗を生え揃えたその姿は、せいぜいが鹿や猪、ゴブリンなどに出会う程度の経験しかしていない村人たちにとって十二分に恐怖の対象だった。

 俄かに騒ぎ出す村人たち。そのざわめきと不安が伝播し、さらに飛竜の匂いを感じ取ったことで、馬車に繋がれた馬たちも興奮しだす。


「あ、こら出ちゃダメだって!」

「ニュート、もどってきて」

「エミリア、カティア! 二人とも、早く馬車に乗って!」


 なんとか村人たちを宥め必死で騒ぎを収めていると、今度は屋敷の方から幼い子供の声が聞こえてくる。


 ヨハンが振り返ると、そこには寝間着のままの走ってくる二人の義妹たちの姿があった。遅れて、後ろから他の姉妹、そして妻のカティアがやってくる。


「済みません、義兄さん……ちょっと目を離した隙に、この子たちったら」

「いや、私の方こそ手伝えずにすまない。それで、避難の準備は出来たか」

「はい、あとは馬車に乗り込むだけです」


 離れちゃダメって言ったでしょ、と言いながら、次女である義妹のフランカが、エミリアとカティアの手を離さないようにしっかりと握る。


「「だってニュートが」」


 どうやら下の義妹たちはニュートを追いかけてやってきたらしい。

 そして、当のニュートはというと。


「きゅい! きゅいきゅい!」

 鳴き声を上げながら、首を上下に振って何かをアピールしている。しかし、それが何を意味するのか、ヨハンには分からなかった。


「一体どうしたというのだ」

「……分かったわ!」


 ヨハンが困惑していると、またしてもその疑問を解決したのは、義妹のエミリアだった。


「どういうことだい」

「ニュートはその手紙が欲しいのよ!」

「手紙……? なるほど、そういうことか!」


 エミリアの指摘を受け、ヨハンはようやく目の前の飛竜の子供の意図を理解した。

 首を上下に振っていたのは、手元にある手紙を、自分に寄こせという合図だったのだ。


 たとえ子供だとしても、飛竜が飛翔する速度は馬を全力で駆けさせるよりもずっと早い。ニュートに手紙を託すことで、思ったよりも早く援軍が来てくれるかも知れなかった。


(だがそうなると……)


 問題は、何処への手紙をニュートに託すかだった。ニュートは無事にノードの意図通り、ヨハンの元へと手紙を届けることが出来た。

 しかし、ヨハンが出す手紙の中には、ニュートが行ったことが

無い町や村への手紙もある。飛竜を操る騎手がいるのであればともかく、飛竜単体では、飛竜自身が行った事がない場所へ手紙を届けるのは無理に違いなかった。


 だから、選択肢は実質的に二つに絞られた。


 一つは、近隣の町へと届ける手紙を託すこと。アルバ村から最も近い町には、冒険者ギルドが存在している。そこに急報を届けることが出来れば、手紙に記された内容に従い、依頼を受理、冒険者を派遣してくれる流れになる。


 もう一つの選択肢は、直接、王都へと届ける手紙を託すことだ。こちらは距離がかなり開く。だが、事態を王都の人間が把握すれば、直ちに領主であるヨハンの要請に従い、騎士団を派遣してくれるだろう。


(どちらだ……どちらが正しい選択だ)


 あまりにも悩ましい選択だった。二つの選択肢には、それぞれ“不安な点”があり、そして託すべき“理由”が存在している。


 一つ目の選択肢にある不安点は、ニュートが近隣の町に行けるのか、という点だ。ヨハンが覚えている限り、ノードはニュートを連れて町にある冒険者ギルドを訪れていたので、ニュートが町のある場所を訪れているのは間違いない。

 だが、ヨハンはノードと違い竜騎士としての訓練を受けていない。ニュートに対し、どの拠点に届けるのか、という正確な指示が出せない問題があった。手紙を託しても、その手紙を別の場所に運んでしまう可能性があった。

 託すべき理由は、冒険者ギルドへの手配が早ければ早いほど、被害は抑えられるからだ。この近辺に存在する魔物と戦える戦力は、各村の領主とその支配下の兵たちを除けば、間違いなく冒険者たちだ。魔物との戦いの経験が豊富で、水晶級や銅級であれば、騎士蜘蛛たちとも問題なく戦える。

 それだけではない。冒険者ギルドがある町に報せることが出来れば、さらにそこから近隣の村や町、他の冒険者ギルド、そして『東方騎士団』へと早馬を飛ばして貰うことができる。

 ノードの手紙に書かれていることが真実であれば、蜘蛛の群れは神話時代の魔物――女王蜘蛛アラクネによって率いられている。俄かには信じがたい話ではあるが、事実であれば、その脅威は並みの冒険者では時間稼ぎにしかならない。一刻も早く、銀級以上の高ランク冒険者か、騎士団クラスの戦力の出動が望まれる。たとえ一分一秒でも、早く報せることが出来れば、それだけ希望の光が近づくのだ。ニュートに手紙を託すことで得られるかもしれない最大のメリットは、間違いなくここだ。


 二つ目の選択肢――王都へと手紙を届けさせることの不安点は、距離が遠すぎるということだ。飛竜を全速で駆けさせれば、王都から国境沿いまで一日で辿り着く――そう喧伝されるほどに、たしかに飛竜の移動速度は速い。しかし、未だ幼いはずのニュートに、成体である竜騎士団の飛竜と同じ速度が出せるのか。これもまた、飛竜という存在に詳しく知る立場にないヨハンには判断が付かなかった。もし何日もかかるようであれば、それは既存の手段――早馬でこと足りるのだ。

 そして、王都に向かわせる“理由”だが、これは一つ目の選択肢と真逆、つまり王都であれば、確実にたどり付ける可能性が高いからだ。

 ノードから聞いた話を思い出す限り、ニュートは王都、そして竜騎士団の拠点にいた時間が非常に長い。生まれてからの殆どをそこで過ごしたと考えられる。飼い犬が自然と飼い主の家に帰ってくるように、ニュートの持つ“帰巣本能”というべきものは、王都のどこか――フェリス家の邸宅か、鉄竜騎士団、そのどちらか――になるに違いなかった。

 二つの選択肢を冷静に比べた場合、得られる利益はむしろ近隣の町へと向かわせた方が大きかった。手紙が届かない可能性も、それほど問題にはならない。そもそも伝令を飛ばすとき、重要性の高い場所には何通も同じ手紙を書くからだ。乏しい時間の中でも、ヨハンは最も重要性が高いと判断した近隣の町に向けての手紙は、三通用意しており既に二通を伝令に託して送り出していた。あくまで、残る一通をどうするかという話なのだ。リスクは少ない。

 

 だがそれでも、ヨハンの判断の天秤は、王都に向けた手紙を託す方へ次第に傾きつつあった。その理由は、


(そもそもの話、東方騎士団は今動けるのだろうか……)


 騎士団不在の可能性――その一点に尽きた。

本当はもう少し書いて5000字強で投稿するつもりだったが、いい感じに文末締めちゃったので投稿。

だらだらと説明の部分でした。


前話後書きでも宣伝しましたが、コミックアース・スターにて拙作、貧乏貴族ノードの冒険譚の漫画版が連載されております。是非とも興味のある方はご覧ください。活動報告の方にリンク張ってます。


明日更新するかは不明。書きあがっても、来週末に回す可能性あり。

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― 新着の感想 ―
[一言] ノードは何日戦えるのだろうか? 今後が楽しみです、更新感謝
[一言] 早くしないと蜘蛛相手にヒャッハーしてるノードの活動限界が…… 待てよ、釣り道具で蜘蛛を相手にすればチート能力でなんとかなるんじゃ?
[一言] >三冠馬三頭の決戦とか、歴史に残りますよこれは……! ディープ系かキンカメ系か、はたまたクリスエス系か きれいに分かれている所がロマンを感じさせますね。 まあ、もれなくサンデー入りな訳で…
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