27 殿軍
教えてくれ、プロット……俺は第二部完結まであと何話投稿すればいいんだ……!
プロット「4~5話くらいちゃう?」
作者「その4~5話くらい前にもそう思ってたんだよなあ」
というわけで最新話です。テンポ重視のせいもあるけど、毎日更新すると文字が短くなる。
(なんて破壊力だ……これが魔導具の力か)
ノードが咄嗟に抜き放った、炎の魔剣の威力は、実に凄まじいものだった。
詠唱の言葉を念じた瞬間に、魔石で出来た赤い刃に火が灯ったかと思うと、それは一気に拡大。ノードの胴体ほどもある巨大な火球と化した。
この魔導具をくれた製作者──エリシオから教わっていた通りに狙いを定めると、その火球は矢のように射出され、蜘蛛の先頭へと過たず直撃した。
着弾の瞬間に、火球は轟音とともに大きな火柱を上げ、直撃を受けた蜘蛛だけでなく、その周囲をも炎に巻き込んだ。
炎が消え去ると、そこには消し炭になった蜘蛛の死体が残された。
(これが中級魔術というのだから、魔術師ってのは恐ろしいものだ。冒険者たちの間で、魔術師が引っ張りだこなのも無理はないな)
冒険者時代、ノードは魔術師と依頼を共にした経験がなかった。冒険者になる魔術師の絶対数が少ない、というのもそこには関係していたが、それよりも、魔術師としての技能を持つ新人は有力な冒険者の徒党が囲い込んでしまう、というのが大きかった。
その理由を、今まさに思い知った。
ノードがエリシオから譲り受けたこの炎の魔剣には、【火球】の力が籠められている。その【火球】という魔術は、中級程度の難易度の魔術であり、一般的な実力を持つ魔術師ならば、誰でも扱えるのだという。
つまり、魔術師というのは、まともに成長さえすれば、現在のノードの実力である赤銅級冒険者程度には、確実に到達できると保証されているようなものなのだ。より高位の魔術を操ることが出来るようになれば、何をかいわんや。
何にせよ、その強力な魔術の力が、限定的ではあるが今まさにノードの手中に納められていた。
上手くいけば、この蜘蛛の軍勢を全て撃退出来るのではないか。火球の威力を目の当たりにしたノードは、思わずそんな感想すら頭に浮かぶ。
(っと……そういえば、回数制限付きだったな)
しかし、そこまで都合の良い話が残されている筈もなかった。
ノードの手に持つ炎の魔剣──その赤い水晶のような刃に、亀裂が走る。そして、パキンっと音を立てて破裂するように、先端から三分の一ほどが砕け散った。
『それは試作品ですから、何回かしか使えないと思います』
キラキラと舞い散り、氷のように溶けて消えていく破片を見ながら、ノードは製作者の言葉を思い出していた。
先程よりも目に見えて短くなった魔剣の長さからして、おそらくあと一、二回。それが残された【火球】の回数だった。
「いざ、というときの切り札だからな。そう何枚も切り札が切れる訳もないか」
敵の数は多い。使いどころを見極めながら使っていく必要がある。
「シャアアアアッ!!」
「っと、そう慌てるなよ」
飛び掛かってきた騎士蜘蛛を、今度は魔剣ではなく、愛用の翆玉鋼の剣で叩き切る。
機先を制することで、ニュートへの追跡を辞めさせることには成功したが、それは再び全ての蜘蛛の狙いが、ノードへと集中するということだ。
(ニュートが村に辿り着いて、そこから住人が避難を開始する……時間はいくらあっても足りないな)
ニュートの飛ぶ早さであれば、真夜中のうちに村までたどり着ける筈だった。
だが、秋が深まった今時分は、朝方になっても暗いままだ。
朝早くから活動する農民が多いアルバ村といえど、それでも薄暗闇の中に始まる避難では、大分手間取ることは予想された。
(全く……長い夜になりそうだ)
ノードは掌に握った剣の柄を、再びグッと握りしめた。
§
アルバの森が、風にざわめいていた。
森に生える木々は、冬に向けて若干寂しくなり始めたその枝葉を左右にゆらゆらと揺らしている。
その森の上空には真円を描く月が浮かんでいて、北方山脈の頂上よりも遥かに高い場所から、青白い光を地上に降り注いでいた。
そしてその月光の下を、高速で移動する影があった。
影の正体はニュートだった。
森の上空を、風を切るようにして、大きな翼をはためかせて飛んでいる。
緑の鱗を月の光に反射させて、ニュートは出来るだけ早く空を翔けた。
目的は言うまでもなく、アルバ村であった。
主人──親でもあるノードの命を受けて、預けられた手紙を届ける使命が、ニュートには存在している。
本当ならば、ニュートはノードと離れたくは無かった。
あの大量の毛むくじゃらの不気味な奴らのもとに、大切なニュートの家族を置いてきぼりになどしたくはない。
しかし、ニュートは同時に、自分があのまま残っていても、大した役には立てないだろうと理解していた。
夏──今の自分よりも一回り小さかった頃とはいえ、ニュートはあの毛むくじゃらの魔物に完敗してしまっていた。
今ならば、あの毛むくじゃらにも負けない自信はある。そしてニュートは己だけでなく、その親であるノードもまた、より強くなっていることを知っていた。だから、今ならばノードがあの魔物に苦戦するとは思わなかった。だが──
あの群れの中には、それよりも強い個体がいたことを、ニュートは鋭敏に察知していた。
──あの強い奴を相手にしながら、ノードは群れを相手に出来るのだろうか。
ニュートは来た方角を不安そうに見つめた。そして、今からでも引き返そうかと考える。
ぶんぶん、とニュートは頭を振ってそうしたい気持ちを振り払う。
今の自分には、ノードから与えられた使命があるのだ。
戻るのは、それからだ。
ニュートは再び翼を強く羽ばたかせた。
翼膜に捕らえられた風が下方へと叩きつけられて、地上の木々を一層強く揺さぶった。
そんなことを気にも留めず、ニュートはひたすらに先を急いだ。
今はただ、あのノードに似た臭いがする人間の元へと急ぐだけだった。
本日は2月15日(土)です!
もちろん、決まってますよね……そう、バレンタインデーにチョコを貰えなかった野郎共が怨嗟の声をあげる日です。
あと、我が拙作『貧乏貴族ノードの冒険譚1』の発売日です!
やったー! 詳細は活動報告をご覧下さい!
売れるのかな……(´・ω・)フアン




