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貧乏貴族ノードの冒険譚  作者: 黒川彰一(zip少輔)
第二章 見習い竜騎士ノード
49/63

25 撤退

毎日更新だと文字が少な目になる。今回は2200字。§一つ分としては、平均的か多いくらいな量。


(この情報を、早く兄上に伝えないと……)


 ノードは入手した情報を、なんとしてもアルバ村領主であるヨハンへと報せる必要があると思った。

 騎士蜘蛛自体が、旺盛な食欲を持ち人里に被害をもたらす可能性が高い危険な魔物である。それが村の近くにある森の中に大量繁殖して巨大な巣を作り上げ、そして飛竜以上に脅威だと思わしき存在が魔物の群れを纏め上げている──第一級の緊急事態だった。

 一刻も早く住人の避難を開始し、同時冒険者ギルド──いや、王国騎士団の出動すらも要請する必要がある。

 しかし、それを為すためには、まず地域一帯の責任者である領主が事態を認識しなければならない。


──伝説の魔物が復活して、あなたの村の直ぐ近くにまで迫っています。

 もしこんなことを一介の冒険者に警告されても、領主は決してその言葉を信用しないだろう。黒鉄級冒険者アイアン白銀級冒険者シルバー、あるいはそれ以上に高名な冒険者たちであればまだ話も変わってくるだろうが、生憎とノードはただの水晶級冒険者クリスタルだ。ただの中堅冒険者の言うことを、鵜呑みにしてくれる貴族など世には存在していない。

 だが幸いにも、ノードは領主であるヨハンの実弟であったし、そして見習いとはいえ竜騎士であった。そのノードが誠心誠意説得すれば、兄のヨハンは必ず警告に耳を傾けてくれるだろう。


 もしそうでなければ──


 ──ノードの脳裏に、眼前で蠢く凶悪な魔物の群れが、アルバ村を襲う光景が過った。

 秋の収穫を祝い、来年に向けて豊穣を祈願する村の人々。精霊祭を見に来た近隣の村や街の住民に、旅人に商人たち。精霊祭は佳境を迎え、皆が司祭の唱える祝福の言葉に耳を傾けているその最中、突如訪れる破壊音。

 ざわつく群衆。事態を把握しようとする主催者たち。そしてそこに家屋を薙ぎ倒しながら蜘蛛たちの軍勢が殺到する。

 無機質な蜘蛛の複眼は、事態が飲み込めずポカンとした表情を浮かべる人々を捉え──絶叫と殺戮の宴が始まる。


 魔物の侵攻は、アルバ村だけに留まらない。村を破壊しつくし、住人を餌とした後、さらに近くの村や街に襲い掛かる。

 事態を把握した冒険者ギルドや騎士団が、ようやく討伐に乗り出すも、並みの冒険者や騎士では、あの巨蜘蛛──女帝蜘蛛アラクネの前では蟷螂の斧に過ぎない。

 何度も犠牲者を出し、その末に白銀級シルバー以上の実力を持つ高位冒険者か、あるいは王都近辺のハミル王国騎士団によって、ようやく討伐される。

 それまでに、眼前の魔物たちがどれくらいの被害をもたらすのか、想像も付かない。


 だがその悲劇は、ノードの手によって防ぐことができるのだ。

 偶然ではあったが、森の異変に気が付いて事態を把握することができた。あとはこの情報を届けさえすれば──


 そのとき、風が止んだ。

 崖の向こう、北方山脈より吹く強い風が、ピタリ、と止んだのだ。

 ノードは崖から覗かせていた顔を引っ込めて、撤退する用意を開始しようとしていたところだった。

 あとは来た道を引き返し、夜の森を再び月明かりを頼りにして走り続ける。ただそれだけ。それだけであったはずなのだが。


「!?」


 ノードの首筋に、ピリピリとした感覚が走った。

 危険が迫ったことを、思考より早く身体が察知した証だった。

 伏せた状態から、ノードは反射的に起き上がった。身体を捻るようにして、後方へと振り返る。


(何か来る! クソッ、風上にいて気付かなかった)


 獲物に対して、常に風下に立つというのは冒険者時代から染み付いたノードの癖のようなものだった。匂いで気取られないようにする、冒険者として基本的な行動であり、現に今もノードたちの存在は、女帝蜘蛛アラクネたちには知られていない筈だった。

 だが一方で、自分よりも風下から近付く存在には気が付くのが遅れてしまうという欠点もあった。匂いや音が、風に掻き消されてしまうからだ。

 風が止んだ瞬間に、初めて耳に届いた木々の枝をへし折る音──微かではあったが、それはノードたちの元へ何かが接近してきている証拠だった。

 果たして、ノードが振り返ると同時に、それは現れた。

 二対八本の肢に、全身に生え揃う黒い体毛、十二を数える赤い複眼──将軍蜘蛛だった。


 幸運は二つあった。風が止み、ギリギリではあったが、その存在に気が付けたということが一つ。

 もう一つは、事前に身体に施していた匂い消しにより、その将軍蜘蛛が風下にいたにも関わらず、ノードたちの存在に気が付いてはいなかったということだ。


 故に、ノードたちが潜む崖へと跳躍してきたその将軍蜘蛛は、十二の複眼で捉えた影が、人間と飛竜の子供であると認識する前に──振り向き様に弾かれるように抜き放たれた、ノードの居合い切りによって両断されることとなった。


(……くっ!?)


──不幸だったのは、その将軍蜘蛛が女帝に捧げるための食糧を抱えていたことだろうか。

 その結果、蜘蛛自体と糸で捕獲されたその獲物までが合わさった質量をノードは押し留めることが出来なかった。

 絶命したことで制動を失った蜘蛛の身体は、慣性の法則そのままに、捕らえた獲物とともに崖下へと転落する。

 蜘蛛の遺骸はがらがらと音を立てながら崖を転げ落ち、地面へと叩きつけられた。

 ぐちゃり、と水気のある音がノードの耳にも届いた。


 はっ、とノードは思わず後ろを振り返った。

 そこには無音があった。

 先ほどまで蠢いていた蜘蛛の軍勢も、巨大な蜘蛛の女帝も、その全てが動きを止めていた。そして──


 何百もの赤い瞳が、闖入者であるノードの姿をじっ、と見つめていた。

 

というわけで本日分。

朝に1500文字まで書いて、仮眠してたらもう日が落ちていた。どぼじで!?

本当はもう1§書いて5000くらいにする筈だったんだけど……まあ、ええやろ! 1話を二回に分けて更新してるだけである。へーきへーき。


引き続き告知です。

貧乏貴族ノードの冒険譚1巻が、2月15日(土)発売です。詳細は活動報告をご覧ください。

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― 新着の感想 ―
[一言] 妄想してないで早く帰りなよって思ってたら 案の定(´・ω・`)
[一言] 蜘蛛畜生&読者&作者「アラクネに勝てるわけないだろ!」 ノード「馬鹿野郎お前俺は勝つぞお前!!(天下無双)」
[一言] やばたにえん
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