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貧乏貴族ノードの冒険譚  作者: 黒川彰一(zip少輔)
第一章 貧乏貴族ノード
4/63

4 討伐任務

小説書くのは難しいな……。

 冒険者に登録してからというもの、ノードは毎日、冒険者ギルドで依頼を受けた。

 相も変わらず冒険者とは思えない内容の仕事だったが、毎日やれば多少の金にはなった。

 食費に使えば直ぐに消えてなくなる程度だが、それでも自分の食費が浮けばその分弟妹達がより多く食べられるのだ。

 といっても人数が多いため、焼け石に水程度のことであったが。


 一週間も経たない内に、ノードは階位昇格ランクアップを果たした。これで、晴れて第一位階 石板級冒険者プレートだ。

 ようやく冒険者としての開始位置(スタート地点)に着いただけなのだが、首から下げた木片が、きちんとした石の板──石製のギルドカードへと変化しただけでも、自分が成長したという実感が湧いてきた。

 石板級冒険者プレートの名前の通り、石で出来た板だが、木片のギルドカード擬きとは違って魔術的な加工もされているらしい。


 この石板級プレート以降は、階位昇格ランクアップを果たしても、ギルドカードの素材こそ変われど、基本的なデザインや機能は変わることはない。

 石板級冒険者プレートと言えども、立派な冒険者として扱われるということだ。

 石板級冒険者プレートは低階位(ランク)の冒険者ではあるが、討伐任務といった冒険者らしい依頼も受注が可能だ。

 当然それらの討伐対象である魔物は、依頼主が自分で戦うにはリスクがある。そう判断した相手であり、討伐依頼には怪我や死亡のリスクは付きまとう。


 ノードは先程受け取った石板素材プレートのギルドカードの、ヒヤリとした冷たい感触を感じて改めて気を引き締めた。


§


 数日でノードがすっかり慣れた冒険者ギルドの日常の一つに、朝の仕事の争奪戦がある。

 高い報酬が提示された依頼や希少な道具アイテムが報酬として貰える依頼、あるいは心踊る煽り文句が書かれた依頼。

 依頼掲示板クエストボードに貼られた依頼書は多種多様だが、それらには当然、報酬や条件も含めた割の良さ──つまり旨い不味いの差が存在している。

 割が良いと感じる依頼は皆が受けたがり、そうでない依頼は皆が避ける。まあ、例外として特定の仕事──割は良くないものばかり──を受注する『変人』も居たりするのだが、それら特異な冒険者を除けば、大抵は少しでも良い仕事を請けようとするものだから、依頼は自然と取り合いになる。

 冒険者は基本、力が全てであるからその依頼の取り合いは凄絶なものと化す。


 古人曰く、冒険者は一つの依頼で三つの強敵と戦うという。

 即ち──

 一、朝に依頼を取り合う冒険者。

 二、依頼先で戦う魔物たち。

 三、報酬を使い込もうとする己の欲。

 殆どの典型的な冒険者は三番目の敵に勝てないようである。


 閑話休題。


 昨日までは、ノードは自由掲示板フリーボードの依頼しか受けられなかったため、それ(・・)を眺めているだけだった。しかし今日からは違う。

 第一位階 石板級冒険者プレートといえども、その受けられる依頼の旨い不味いは確実に存在している。

 次の階位ランクを目指すにあたり、出来るだけ旨味のある依頼で稼いで装備を整えることが出来れば、より効率よく金を稼ぐことが出来る。

 当然それはノードにとっても望むところであるので、果たして彼は猛獣犇めく朝の戦場へとその身を投じることとなった。


§


 押し合い圧し合い奪い合い、やっとのことで依頼書をもぎ取ったノードの手には一通の依頼書があった。

 それは、『迷宮ダンジョンの魔物退治』であった。


 世界には、迷宮ダンジョンと呼ばれる場所が存在しており、その内部には多くの魔物が生息している。

 

 ただしこの魔物たちは通常と異なる性質を持っていることが知られている。


 どういうことかと言えば、通常の魔物は生命を喪った場合、その遺骸をその場に遺す。腐ったり、スライムなどが食べない限りはそのまま死んだ場所に残ることになる。

 しかし迷宮ダンジョンでは別のことが起きる。

 即ち、迷宮ダンジョン内部では、魔物がその生命を喪えば、たちまちその遺骸は迷宮ダンジョンへと吸収されるように消えてなくなり、その場には『魔石』と呼ばれる魔力の結晶が遺されるのだ。


 魔石とは魔力が結晶化した物質で、迷宮ダンジョン外でも産出されることがあるが、それは極めて稀であり、一体何故迷宮(ダンジョン)内ではこのような不可思議な現象が起きるのか、永らく謎とされてきた。


 しかし暫く前に、王国魔導院の研究によりこの謎が解明された。

 王国魔導院曰く──迷宮ダンジョンとは魔物の“影“を産み出す一種の魔術である。“魔力溜まり“と呼ばれる魔力が自然と濃くなる特殊な場所に、迷宮ダンジョンが作られることで、魔石を核に魔物の“影“を産み出されるようになる。


 魔物の“影“は元となる魔物の『写し(コピー)』であるため、強さが一定となる。個体差が生じる『外』の魔物に比べて、迷宮ダンジョン内部の魔物の強さが同じな理由もこの仮説により証明できたらしい。(この話は、長兄のアルビレオから教わった)

 迷宮ダンジョンはイルヴァ大陸の各地で発見されており、その奥深くには多大な財宝が眠っていることが知られている。

 どうにも、この迷宮ダンジョンというのは、古代の魔法使い達が作り上げた宝物庫であり、そして魔物はその防衛機構なのではないか、というのがその学説だそうだ。


 そして、これが重要なのだが、その王国魔導院の研究者たちはその魔物──ひいてはその核となる魔石──を産み出すという特徴に目をつけた。

 元々、迷宮ダンジョンから多く産出される魔石には多くの使い道がある。例えばフェリス家にもある魔石の燭灯ランプなんかがそうだ。魔石の魔力を使用して光る燭灯ランプは、油や蝋燭を使用するものと比べて、煙や臭いもなく、また火事の危険も無いので大変に便利だった。

 他にも火を使わない竈や食べ物を冷やして腐りにくくする箱など、様々な魔石を用いて動く魔道具が世の中には存在している。

 それら魔道具は、その利便性から重宝され、裕福な貴族家や大商人の邸宅には必ずといって良いほどあった。(とても残念なことにノードの家には魔石の燭灯ランプが一基あるだけだった)


 しかしその魔石は、迷宮ダンジョンの奥深く、財宝を守る迷宮のボスを倒すと産出されなくなる。

 これにより、王国の保有する迷宮ダンジョンは攻略される度にその数を次々に減らし、国内での魔石の産出も落ち込みを見せていたのだが、王国の魔導院はこの迷宮ダンジョンを復活させることを目論み、そしてそれに成功した。


 そのため、王国には魔導院が復活させた、いわば人工の迷宮が幾つもあった。そこからは魔石が再び産出されるようになり、魔石という有用な資源が安定的に供給できるようになった──のだが。


 残念ながら、魔導院の魔導師たちは魔物と一緒にしか迷宮ダンジョンを復活させることしかできなかった。

 今も魔導院で迷宮ダンジョンの研究は続けているそうだが、未だに迷宮ダンジョンの再起動を行うことしかできず、迷宮ダンジョン内部の“設定“を弄くることに成功したとは、未だに聞かなかった。


 つまるところ、ノードが受注した迷宮ダンジョンの討伐任務とは、その人工の迷宮ダンジョンで魔物を倒し、魔石を回収してくるという鉱夫のような仕事なのだった。


§


「討伐……ですか……」


 迷宮ダンジョン討伐の依頼を受けに帳場カウンターに行くと、冒険者ギルドの職員に心配された。


 無理もない。


 現時点でのノードの見た目は綿のパンツにチュニック、その上に革のベストを着ているだけである。

 防具と言い張るには余りにも心許ない。というか完全に只の外出着である。

 ノードの冒険者らしい装備と言えば、腰に差した一振りの剣くらいなものであった。


「せめて装備を……そのもうちょっと」


──採取や雑用で金をためてちょっとはマトモな装備を整えろ。

 婉曲な表現で、そうアドバイスしてくる冒険者ギルドの職員に対して。


「大丈夫だ。問題ない」


 ノードは自信ありげに頷きながら答えた。


 ノードの自信には裏付けがあった。

 そもそも所詮は第一位階冒険者に発注される程度の難易度の迷宮ダンジョンである。敵の強さは大したものではない。

 しかし、その大したことのない魔物であっても、数が多くなれば脅威となる。

 一体、また一体と戦う内に疲労は蓄積し、集中は途切れる。

 その隙に、致命の一撃を喰らってしまい、そのまま死ぬ。

 それが、迷宮で一番死ぬ流れなのである。


 特に新人冒険者の内は戦闘の経験も少なく、事態への対応力も低い。更に装備も整っていないので、敵が弱くとも危険なのだ。


 では何故ノードはこの討伐依頼を受けたのか。それもまた、単純な理由だった。


§

 

 短剣を手に持ち、刺し殺さんと襲いかかる緑色の小人の魔物──ゴブリンを、ノードは手に持った剣で斬り払った。

「ギャッ」と甲高い悲鳴をあげ、ゴブリンの死体は分解されるように迷宮ダンジョンへと消えて無くなった。

 その様子を見届けることなく、ノードは返す刀で剣を振り上げる。すると上方から襲撃してきた大きな蝙蝠の魔物──ジャイアントバットを両断した。

 その死体も消えてなくなり、地面には二つの魔石が転がっていた。

 ノードは既に数十体の魔物を倒していた。

 腰に結わえた魔石を入れる袋に魔石を回収しようと試みたその時、戦闘に疲れ集中力の落ちたノードの死角から一体の影が襲いかかった。


「ギギィッ!!」


 その正体はさっき斬り捨てたゴブリンとは違う個体だった。急襲してきたゴブリンは、その凶刃をノードに突き立てんと歓声をあげる。


 しかし、不意討ち(バックアタック)を受けたノードは至って冷静だった。

 奇襲に気が付いたノードは咄嗟に反撃を試みるでもなく、自分の急所──首などだけを守り、そして


 ガキッ


「ギッ!?」

 

 果たして、ゴブリンの手にもつ短剣──ボロボロで錆や刃こぼれが酷い──は、ノードが着込む鎧に阻まれた。


 ノードは、短剣を受け止めた衝撃をものともせず、大きな隙を見せたゴブリンを剣で斬り裂いた。


 今度こそ、周囲に敵影がいないことを確認したノードは、ゴブリンの魔石を回収する。


 ノードの自信、それは今彼が身に付けている装備だった。

 一枚の鋼鉄の板に守られた胴部。

 関節の動きを阻害せず、それでいて、刃物から体を守る鎖を編み込んだ全身を覆う鎧。


 石板級冒険者プレートに依頼される程度の討伐依頼は、確かに生身では危険が付きまとうが、確りとした防具で身を包めば、大した脅威ではない。


 先ほど奇襲を受けたノードのように、装甲に任せて敵の攻撃を受け止め、一方的に攻撃をすることが可能なのである。


 とはいえ、皮革を加工した部分鎧を用意するのが精一杯の、並みの石板級冒険者プレートにはそんな戦法を採ることは叶わない。何年依頼を受け続けても、胴の部分すらも用意出来ないだろう。全身を包む鎧はとかく高いのである。


§


 鎧の効果もあり、ノードの初討伐は大成功に終わった。

 やはり敵の攻撃で被害を受けないというのは大きい。


 一日で稼いだ魔石は袋がはち切れんばかりであり、迷宮ダンジョン横の買い取り所ではそれなりの金額になった。

 この鎧戦法は中々に強力ではあるが、実は期間限定でしか行えない。

 というのも、この鎧はノードの手持ちの鎧ではなく、フェリス騎士爵家の鎧であり、更に言えばフェリス家次期当主のアルビレオが使用しているものだった。


 彼は現在休暇中であり、その間に、鎧のレンタル費用を兄へと支払う契約で、ノードは鎧を借り受けているのだった。

 レンタル費用は中々高く、さらに報酬から自分の食費を差し引くと利益は少ししか手元に残らないがこれは仕方がない。

 鎧は使えば磨耗するものだし、もし破損すれば修理費は高くつく。

 むしろ、そのリスクを犯してまで鎧を貸してくれたのは、冒険者になった弟への、兄の温情だろう。

 もっとも、軍学校出身のアルビレオには、迷宮ダンジョンの浅い階層の魔物程度で鎧が破損することなどあり得ないと分かっていた。


 何故ならそもそもこの戦法をノードに教えたのはアルビレオであり、その知識の源流は軍学校で騎士見習いたちが小遣いを稼ぐ方法まんまなのだから……。もっとも、彼は鎧が損傷するわけがないという部分だけはノードに黙っていたが。



貧乏家庭の人間は皆強か

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[一言] 先の事は分からないほうが良いかなぁ(あとがき)
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