12 魔術師
これを投稿した時点でブクマ11,300超え
ポイント30,000超え……
ふぁっ、うーん!? バタリ…
読みにくいという指摘があったので、文の纏まり毎に改行して間を分けてみたけど……うーん、難しいアルな。
「あ、あの、ありがとうございました……!」
腰に下げた翆玉鋼の剣を抜くことすらなく、破落戸の集団を制圧したノードの背中に声が掛かる。
その声の主は、破落戸どもに囲まれていた人物だった。
感謝の言葉を受け、ノードはその人物に向き直ると、その人物に語りかける。
「大丈夫だったか?」
「は、はい。助かりました……」
その人物は、夕闇に溶け込むような色の黒い外套を身に付けていた。
背は低く、外套の帽子を目深に被ったその人物の顔は隠れている。
外套の姿形は、ゆったりとした作りで、ぱっと見では、男か女か分かりにくい。
「あ……! し、失礼しました!」
自分が帽子を被っていたことを思い出したのだろう、その人物は帽子を下ろして顔を露にする。
バサリ、とした衣擦れの音を立て外套の布地の下から現れた容貌は、若い。中性的な顔付きで、やや伸びた髪をしているその人物は、ノードよりも年下に見えた。それこそ妹のリリアと同じくらいではないか、とノードは容貌と声の高さから判断した。
「私は、エリ、エリシオと申します。助けていただき大変感謝致します」
エリシオ、そう名乗った中性的な容貌を持つ人物は、ほっとした表情を浮かべながら、ノードに感謝の言葉を述べた。
身体の線の細さから見ても、エリシオが荒事に慣れているとは到底思えない。破落戸に囲まれてさぞ心細かっただろう、とノードはエリシオの気持ちを慮った。
「ああ、さっき聞こえたかも知れないが、私は騎士団の者だ。安心してくれ」
「は、はい……」
「じきに巡回の騎士がやって来るだろうから、引き渡しはその時にするとして、何があったんだ?」
「実は……」
夕闇に呑まれかけた王都の街並みからは、人気が消えている。
とはいえ、近隣住民が居ないわけではない。直ぐに乱闘の音を通報された騎士がやってくるに違いなかった。
その間に、落ち着かせるという意味も込めて、ノードはエリシオに話を聞いた。
「お店から帰るのが遅くなってしまい、そのときにこの人達に絡まれてしまって……周囲に人影がいなくて、あっという間に囲まれてしまいました」
外套の袖口から覗く、細い手首をぎゅっと握り締め、そう話すエリシオの声は震えている。
外套が微かに揺れているところからして、今更ながら恐怖が湧いてきたのだろう。夕闇に紛れて分かりにくいが、心なしか顔色も悪いように見えた。
ノードはエリシオが落ち着くまでしばし待ち、そして再び質問を開始する。
「物取りかね?」
「いえ……私は魔術学院に所属しているのですが、その、色々とありまして……学院の関係者でもないと知らないようなことを口にしていました」
「ふん……誰かに雇われたか」
ちらり、とノードは石畳の上に転がる破落戸たちを見る。魔術学院の関係者と関わりがある人間には、到底思えない。
心当たりは? ノードが視線をエリシオに戻してそう尋ねると、エリシオは視線を横に向け、何やら言いづらそうにしていたが、やがて答えた。
「学院で様々な嫌がらせ、妨害をしてくる方がいまして、その方ではないかと……」
「なるほど」
苛め、というやつか。
何処にでも下らない奴がいるものだと、ノードはエリシオの外套──魔術師が身に纏うそれを見てそう感想を抱いた。
「少し痛めつければ、直ぐに歌うだろうが……」
「いえ、無駄でしょう」
暗に、拷問をして依頼主の情報を吐かせようか、と提案するノードの言葉に、エリシオが首を振って否定する。
何でも、その下らない奴らは、警戒心が強いらしく、直接この破落戸たちと関わった者から証拠は出ないだろうとのこと。
「そうか……なら、こいつらを縛るとするか」
「あ、それなら、少し待ってください」
ならば、この場で出来ることはもう何もないだろう。
そう考えて、ノードは気絶して地面に横たわる破落戸どもを、逃げられないように捕縛することにした。
馬車の中に積んでいた筈だ、とノードが冒険にも使用する頑丈な縄を取りに行こうとすると、それをエリシオが呼び止める。
「どうした?」
「私が創れます……これで良し」
「……驚いたな」
口にするや否や、エリシオは、何やら目を閉じてぶつぶつと呟き始める。
呪文だ。
エリシオがその呪文の詠唱を終えると、エリシオの手から青白い光──魔力の発動光が仄かに周囲を照らし、そして直後にその現象は起きた。
地面、王都の石畳が隆起し、そしてそこから現れた土が形を変える。それは細くなり、さらに変化して……
エリシオの手の上で、チャラリと金属特有の音をたてる鎖となった。
「錬金術の応用です」
少しだけ自慢気な表情を浮かべたエリシオは、破落戸どもを縛り上げるのに充分な長さのそれをノードに手渡した。
鎖を受け取りながら、ノードは目の当たりにした魔法の効果に感心しつつ、エリシオにこう告げた。
「いや、石畳壊しちゃ不味いだろ」
公共物破損だぞ、と続けたノードの視線の先には、地面が隆起して石畳が割れ散らばる光景が広がっていた。
§
「どうしましょう!?」と慌てるエリシオに、ノードはその魔法で修復出来ないかを聞いた。
その言葉を聞いて、エリシオは何とか落ち着き、石畳を錬金術の応用だという魔法で修復した。
あっという間にひび割れた石畳が復元し、元のように戻った。
その後すぐに、住民からの通報を受けて巡回騎士が二人一組で駆けつけて来たので、実に危ないところであった。
巡回騎士の面々は、鎖で縛り上げられ、地面に座らされた気絶した破落戸たちと、見るからに冒険者の格好をしたノードと魔術師の格好をしたエリシオの姿を見て、ノードたちに剣呑な様子で近寄ってきた。
この展開を予想していたノードは、身分証を見せ、自分が見習い騎士であることを告げる。
胸元から取り出した、鉄竜騎士団の所属を示す認識票を見た巡回騎士は、「て、鉄竜騎士団……!」と驚きながら、ノードに対する警戒心を半ばほど解いた。
ノードは騎士称号を賜った正規の竜騎士ではなかったが、その身分は、正式に鉄竜騎士団に所属している。故にこの場合は、見習いではあっても騎士と名乗れなくは無かった。(尤も、これはノードのように軍学校を経ずに騎士団に属するのが、通常ならば有り得ないがための例外的な話であったが)
鉄竜騎士団の認識票を見た巡回騎士たちは、所作などからもノードが騎士であることを把握したが、しかしそれでもノードの騎士らしくない姿に疑問を持ったのか「その格好は?」と聞いてくる。
それに対してノードは、
「丁度今から鎧を受け取りに行くところでね。これは以前のものだ」
と答えた。
ノードは今から新しい鎧を受け取りに行くので、嘘は言っていない。
その言葉を聞いて、巡回騎士たちは、ノードが正規の鎧を修理にでも出していたのだろう、と自分たちの鎧と比べても騎士らしくない鱗鎧を着たノードの事情を勝手に推測してくれて、今度こそ納得してくれた。
「こちらの方は?」
ノードがフェリス家の紋章が刻まれた剣の柄も見せたため、巡回騎士のノードたちへの扱いが、不審な人物に対するものから貴族に対するものへと変化する。
石畳を壊してしまったことで、疚しいところがありビクビクしているエリシオに代わってノードが答えた。
「彼の名前はエリシオ。魔術学院の魔術──師だ、そうだ」
「なるほど、ではコイツらは?」
魔術師と魔導師など、魔法使いと呼ばれる魔道に携わる者たちには、異なる呼び名が存在する。それはいわば称号であり、彼等の呼び名を知らずとはいえ間違えるのは大変に失礼なことであった。
魔導師が他者を導く師匠のような存在──ノードで言えば教官──であり、魔術師はその弟子である。
総て引っくるめて魔法使いと呼ぶのだが、これは騎士に「前衛戦闘職」と言うようなもので、あくまでも総称であって、個人の立場を示すのに適切な呼び方では無かった。
なのでノードは、エリシオの方をちらり、と見ながら魔術、と言いかけて様子を伺い、そして問題が無いようなので訂正せずにそのまま告げた。
エリシオは見た目はノードよりも下に見えるが、天才というのはどこにでもいるものだ。かつて迷宮を復活させた王国の魔導師などは、十代前半に導師の称号を得たという。
「……さあな、破落戸だろう。エリシオを取り囲んでいたので、偶々通り掛かった私が助けた。剣を抜いたんでね、少しばかり痛め付けておいたが……」
「そうでしたか、ご協力感謝いたします」
当たり前だが、町や村の中で得物──武器を抜くことはまず無い。況してや国王のおわす王都で必要もなく刃をみせるなど、重罪である。
どうやら悪漢の集団であるようだ、と破落戸の一人が漏らした「マルチノ組」という名前も添えて伝えておく。
「最近、貧民街で騒いでる奴等ですよ。街中まで出てくるなんて……」
巡回騎士の表情は、面頬に隠れて窺えないが、声は苦虫を噛み潰したようなそれであった。
滅多に街中で騒動を起こさないため放置されていたらしいが、この破落戸どもがノードと乱闘したせいで、近々、マルチノ組は掃除されることになるかもしれない。
「この季節は日が落ちるのが早いですから、お気をつけください」
巡回騎士たちはノードとエリシオにそう告げると、鎖で縛られた破落戸たちを手荒に屯所まで連行していった。
恐らく手酷い取り調べを受けるだろうが、ノードは一切同情しなかった。
「それで、どうするね」
「どうするとは?」
「……また襲われるとは限らないだろうが、近くまで送っていこうかという話だ」
「いえ、そんな! 悪いですよ!」
反射的に、ぶんぶんと両手をふりながら、遠慮するエリシオだったが、すぐにノードのいう通りだと気が向いたのか、その手の動きは緩慢になる。
「遠慮するな。何だったら近くの大通りまででもいい」
「あ……そうですね、では申し訳ありませんが、大通りまでよろしくお願いします」
エリシオを近くの大通りまで“護衛”することになったノードは、「少しそこで待て」とエリシオを馬車の側で待たせると、御者台に登る。そしてそこから荷台にいるニュートに「静かにしてろよ?」と小声で指示を出すと、ニュートは黙ってノードに頷いた。
ノードは御者台側に取り付けた幕衣の紐をほどいて幕衣を下ろす。ニュートが大きくなり、そのうち荷台にいても見つかりかねないので、前側に増設したものだった。
幕衣が夕闇の中で揺れる。これで御者台からも荷台の中は見えない。
「よし、いいぞ」
「はい、ありがとうございます……っしょ」
差し伸べられたノードの手を取って、エリシオが掛け声と共に御者台に登る。ノードはその細い手をしっかりと掴むと、エリシオの体を片手で引き上げてやった。
「じゃ、いくぞ」
ノードはそう端的に告げると、大通りに向けて馬車を走らせた。
§
破落戸どもに囲まれたエリシオを助けたために少し時間を食ったが、何度も礼を告げるエリシオを大通りで下ろしたあと、ノードは馬車の先を再び武具店へと向けた。
道中腹が減ったのか、「ぎゅるる」という腹の音だか文句だか分からない音が馬車の荷台から聞こえたが、ノードは「もうちょっとだからそこで辛抱してろ」と無慈悲に告げた。
そして、武具店で馬車を停めて降りると、もう日が城壁の向こうに完全に落ちて、辺りには帳が降りている。
「スマン、遅くなった」
「おいおい、もうすぐ火を落とすところだぞ。どこで道草食ってた」
「ちょっと人助けをな」
「それなら、早く俺に晩飯を食わせてくれると助かるんだがな」
店の入り口からではなく、裏手の工房側から顔を出したノードに、店主の親父が「道草じゃなくてよ」と皮肉気に告げる。
遅れたのはノードであるので、素直に再び謝罪した。
「まあいい……約束通り出来てるぞ」
「ほう、これが……」
そういって店主が指で示した先には、壮麗な鎧があった。
その鎧は、蜘蛛の甲殻や蜘蛛の鞣し革など、将軍蜘蛛の素材から造られていた。
だが、高度な技術を用いて加工されたそれは、蜘蛛の生物的な雰囲気を何処かに感じさせつつも、まるで金属製の全身鎧のような質感を与えている。
「これが、新しい俺の鎧か……」
「ああ、蜘蛛の素材は面白くてな、特殊な方法で磨いていくと、甲殻は金属のように硬くなり、触毛だらけの皮膚は強靭で滑らかになる」
「将軍蜘蛛は流石に初めてだったがな」店主の親父の説明を聞きながら、ノードはその鎧に思わず見入った。
室内の灯りに照らされ、鈍く光るその鎧は、まるで一流の騎士が身に付けている全身装甲鎧にも似た姿だった。
ノードはもっと冒険者然としたものを想像していたが、予想に反した形に驚き、そしてその騎士然とした造形に秘かに興奮した。
「お前さん、騎士になったっていうからな。サービスで姿形を似せておいたぜ」
ニヤリ、と笑う店主の親父に対して、ノードは感謝の念しかなかった。
「ありがとう、大事に使わせてもらうよ」
「おう、簡単に壊すんじゃねえぞ」
その後、鎧の各所の詳しい説明を受け、将軍蜘蛛の鎧を受領したノードは夜の武具店を後にした。
武具店から帰ってきたノードがいつになく機嫌が良さそうなのを馬車の荷台で目撃したニュートは、自分も嬉しくなって、「きゅう♪」と短く鳴いた。
完全に辺りが暗くなってから意気揚々と帰宅したノードとニュートは、妹のアイリスの「おっそーい!」という言葉に出迎えられるのだが、それはもう少しあとの話だった。
九月に入って、やっぱり働かずにサボってたら、書きにくいことありゃしない。やっぱり毎日書かないと腕はおちるのだな。(死刑宣告)
というわけで皆さんの応援をいただき、前書きに書いたような状況です。しゅごい。
ここで出てきた装備のモデルはあれね。ネル○キュラ。作者本当にあれが好きでした。武○雷じゃゃん!(漢字こうだっけ) とね。
流石にデザイン的には違う設定ですが、新鎧でノードの姿も騎士っぽい感じに。騎士っぽいって何だよ(哲学)
作者妄想好きなのに、細かいのは苦手だからね。
ハミル王国の騎士鎧(自弁)をどんなのにするか決めてないわ。
トル○キアなのか、ホワイ○ランの衛兵なのか、あるいは史実のプレートアーマーっぽいのか……
わからん!?
誤字脱字を修正してくれている方、矛盾をしてきしてくれている方、助かります。