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貧乏貴族ノードの冒険譚  作者: 黒川彰一(zip少輔)
第二章 見習い竜騎士ノード
35/63

11 技能習得

わーお

20,000pt達成だけじゃなく

日刊一位と週間一位同時達成してるやん……凄い(他人事)


なら今なら言えますね。


これはもう、フロックでも何でもない! 二冠達成~!!!!


サニブすこ


あ、今回の投稿内容には、暴力描写あるので念のため注意です。


 ノードは勢い良く飛び出した。

 飛躍するが如く一挙に間合いを詰め、斬撃。

 相対する敵は、それを一歩後退して間合いを広げ、回避。

 逆袈裟に斬り上げるよう、振り上げた翆玉鋼ジェドライトの剣は、その刃に抵抗を感じさせること無く宙を空振った。

 だが、それはフェイント。本命は敢えての盾による殴撃バッシュだ。

 ノードの盾による殴撃は、退がったことで重心をずらした敵の胴部に向かって放たれる。それも敵の盾に防がれた。


「ッ!」


 だが、盾のぶつかり合う衝撃は、ノードの巧みな操作によって最大限威力を発揮、相手の盾を上方にかち上げる。

 護り(ガード)が空いた。

 ノードは初撃の剣──対敵あいての盾側に流れていた。

 囮の攻撃のため、振ったその斬撃には体重が乗っていなかった。故に地を踏みしめて身体の筋肉を使い、内側に逆戻しするような動きで再び翆玉の刃が対敵に襲い掛かる。

 その斬撃は、吸い込まれるように対敵の身体に引き寄せられ、


「──!?」


 トン、とノードの身体に軽い衝撃。

 ぐらり、と視線が動く。体勢が崩れた。剣筋はぶれ、再び宙を空振り。今度は囮ではないため、ノードに隙ができる。

 何が起きたのか、ノードはすぐに理解する。

 対敵が後方に跳びがてら、ノードの脚を蹴るように押した。

 反動で対敵は後退、剣の間合いから退避したのだ。

 

 同時に、その力で跳躍した対敵が、着地後反動を着けて反撃。

 ノードは慌てて盾を構える。

 対敵の剣は盾の表面に触れ──滑った。

 直線的な移動から、曲線的な移動へと変化した凶刃が、盾の外周を越え、ノードの身体に迫る。

 

──ガギッ!!


 急所を狙ったそれは、間一髪のところでノードによって防がれた。


──ギリギリギリギリ

 

 剣の根元でなんとか受け止めたそれは、すぐに鍔競り合いへと変化。刃金同士が擦れあう激しい音を立てる。

 押し切られないよう、ノードも剛力をもって対抗するも、対敵の凄まじい膂力で押し切られそうになる。

 敵の刃がノードの身体にジリジリと近付く。


(──ッ不味い!?)


 このままでは押し負ける、そう考えたノードは敢えて剣に込めた力を抜いた。

 ふっ、と突如力の均衡が消え、そしてノード側に一気に押し切られる。と、同時に半身に身を躱す。

 鍔迫り合いから脱出した勢いを使い、そのまま敵の顔面に頭突き。

 しかしその攻撃が相手のぶつかる前に。


「──ぐあっ!?」


 脇腹に強い衝撃。

 ノードの口から苦悶の声と息が漏れる。

 体勢が崩れ、ノードは地に倒れる。


「──くっ!?」


 転倒した瞬間、そのままノードは身体を横に回転させる。

 直後、ノードの首が一瞬前まで存在していた空間を、装甲のついた軍靴が通過、地を踏みつける。

 追撃は終わらない。

 転がるノードを串刺しにせんと、刺突。

 ノードはそれをみて、慌てて両腕の力で地面から飛び起きる。

 日を反射して煌めく剣身の尖端が、ノードの皮膚を掠め切り裂く。

 起き上がり、ようやく体勢を整え直したノードの頬から血が一滴流れる。

 敵は起き上がったノードに対して、蹴撃。再び体勢を崩させようとする。

 ノードが盾でそれを防ぐと、頬から流れた血が衝突の衝撃で宙に舞った。

 対敵が蹴り脚を戻す前に、盾を引いた。すると、敵の体勢がガクッと崩れる。

 その隙を逃さず、ノードは距離を詰める。

 斬撃、殴打。踏みつけ、頭突き。

 形勢が逆転し、ノードの猛攻が始まった。

 そして──

 対敵の首元にノードの剣が迫る。急所への一撃、対敵は体勢バランスを崩していて防ぐことは能わない。

 何とか対敵が剣を戻そうとするが、間に合わず、ノードの剣は果たして、


「──そこまでッ!」


──ピタッ、と対敵の首元で止まった。


 スッ、と対敵の首元から剣を引いたノードは、そのまま剣を下ろし、構えを解く。


「ふむ…………一本あり、だな」

「あ、ありがとうございます」


 声の主は、今まで戦っていた対敵あいて──ノードの教官だった。

息も絶え絶えに肩で呼吸する勝者ノードに対して、敗者である教官は、息一つ切らしていない。

 また、格好もノードが泥まみれで、血も流しているのに対し、教官は身綺麗なままだ。


 勝者と敗者。それがそのまま逆転したような両者の様相は、敗者である教官が、手加減しながら戦っていた証左であった。

 しかし、


「手加減していたとはいえ、俺から一本取れるようになったか……」


 現役の竜騎士である教官から、手加減をしていたことを考慮にいれても、一本を取れたのは大いなる成果であった。

 何せ、ノードは長期休暇前には、何とか規定の時間内逃げ回り引き分けに持ち込む、ということしか出来なかったのだ。

 反撃をしても有効打になったことは一度もなく、今回の乱取りで初めて一本を取ることができた。


「長期休暇でサボってた訳じゃないのは、休暇明けの腕試し(テスト)で分かっていたが……中々やるようになったな」

「はい、ありがとうございます!」

「ふむ……」


 長期休暇(夏休み)が終わり、ノードは鉄竜騎士団へと復帰し、再び訓練の日々を送っていた。

 その訓練の厳しさは、休暇前と変わらないどころか、さらに厳しさを増しており、ノードは必死でその訓練についていった。

 初日の訓練終了後に、痛む身体を引きずったノードに対して、先輩の青年騎士がその“厳しさ“の理由を教えてくれた。


 何でもノードが長期休暇で休んでいた間に行われた大規模演習で、自分の“実家“が所属する東方騎士団の部隊が情けない体たらくを晒していたのだそうだ。演習終了後、実家に里帰りした教官は、家を継いでいた兄から兵の教練を頼まれ、時間の許す限り実家の兵隊を徹底的にしごいていたのだという。

 そしてその際、余りに情けない姿を晒した実家の兵隊、そして東方騎士団の体たらくを見て、自分が今教えている教え子(ノード)はこうならないよう、徹底的に鍛え上げなければならない、と決意を新たにしたのだとか。

 強くなれるのであればノードに文句はないものの、これに関しては、巻き添えを食らったと言ってもいいところだった。


 そして、その訓練再開から、現在で丁度一月が経っていた。


「よし、これならば良かろう、ノード」

「はい、何でしょうか、教官」

「これより貴様の訓練をもう一段階進めることにした」

「ありがとうございます!」

「そこでだ……」

「はい!」


 そこで一度教官は言葉を止め、そして一拍置いてから再び口を開いた。


「貴様、何か身に付けたい技能はあるか?」



§


「技能……ですか。それは、どのような」

「現在、貴様は竜騎士を目指して訓練を受けているが、一般の平騎士などと違い竜騎士に求められる能力は多い」


 その言葉を受け、ノードは以前座学で学んだ知識──空を飛ぶ竜騎士には、多様な任務が課せられるということ──を思い出し、頷いた。


「だが、今貴様がやっているのは、戦闘──つまり騎士として最低限の技術の訓練に過ぎない。平騎士ならばともかく、竜騎士の任務には耐えられん」


 竜騎士の任務には、特殊な技能が必要だ。そう教官は続ける。


「貴様の戦闘技術は、ある程度の成長を見せた。ゆえにその特殊技能を習得する訓練課程へと進む」


 騎士団は騎士を中心とした軍事組織であるが、騎士以外にも色んな兵科を抱えている。

 例えば偵察兵、回復兵、弓兵、魔導兵、工兵他にも色々な技能を持った兵が存在し、彼らが騎士を中心とした戦闘部隊を支えているのである。

 そして騎士団では、指揮官は主に騎士が務める。その様々な部隊の指揮官もまた騎士であり、彼らには指揮官として部隊に指示を出すための十分な知識・技能が求められる。そのため戦闘力しか持たない騎士を“平騎士“、専門的な技能を持つ騎士を“上級騎士“と呼ぶ。

 鉄竜騎士団はその性質上、兵が殆どいない。竜騎士が殆どであり、竜舎で飛竜の餌を用意したり掃除をしたりする飼育兵と回復兵がいるだけである。

 他の技能兵はいない。

 飼育兵と回復兵も駐屯地にいて、戦地にはまず付いてこない。


 理由は単純で、飛竜という機動力に追随できないからだ。

 竜騎士の最大の利点は、その強大な戦闘力を、空を飛ぶことで高速で移動させられることだ。

 だが、その補助のために兵を一緒に動かせば、精々馬車程度の速度に合わせて移動することになる。それは不合理な運用だった。

 その問題を解決するために、竜騎士は上級騎士としての技能を持つものが大半だった。兵を連れられないなら、自分たちでやるのである。

 そして、教官の言葉は、その上級騎士としての技能を学べ、ということだった。


「……といった技能が候補になるが、何を選ぶ?」

「そうですね、それならば私は……」


 教官は、説明の後に幾つかの技能を候補として挙げる。

 それを聞いてノードは、その中から自分の望む技能を選んだ。


「偵察兵としての技能を、習得したいと考えます」

「ほう、偵察兵か。悪くない選択だ」


 偵察兵スカウト──斥候レンジャーの技能を身に付けた兵で構成される兵科であり、同時に騎士団にとって最も重要な兵科でもある。

 騎士団は強力な戦闘能力を保持しているが、当然だがその戦力は敵と戦わなければ発揮されない。

 そもそも会敵しなければ、ただ糧秣を消費し続けるだけに終わってしまうのだ。

 また、戦というものは、戦いが始まる前には既に勝敗が決していると言われる程に、事前の備えが重要である。

 訓練や装備を整えることは勿論、敵陣の情報を掴み、相手よりも多くの数を揃えて、さらに自軍に有利な展開が可能な場所で戦いを挑む。

 それを怠った側が戦で負けたという事例を、ノードは座学で嫌というほど学ばされていた。


「そういえば貴様は冒険者だったな」

「はい、教官。その経験からも、敵の痕跡を辿ることが重要であると学びました」


 そう、そしてノードは冒険者としての経験から、事前に情報を集めるということの大切さを身に染みて理解している。

 ノードは自分でも、無茶な冒険の数々をしてきたという自覚がある。

 森、山岳、海、雪山、他にも色々な場所で多様な魔物と戦闘を繰り広げて来た。その魔物との死闘を無事に生き残り、今も五体満足でいられているのは、自分が情報を重視しており、あらかじめ情報収集を怠らなかったからだとノードは認識していた。


 そして直近の経験──アルバの森で、将軍蜘蛛の奇襲を受けたという苦い思い出──が、ノードにその選択肢(偵察能力)を選ばせた。

 もしあのとき、偶然木の枝が折れる音を聞けなければ、ノードは敵の奇襲を避けられただろうか? 否、幸運に助けられたに過ぎない。

 ノードは幸運も実力のうちだと思っているが、同時にそれに頼りきる愚かさも知っている。

 仮にノードが、もっと本格的な情報収集能力──それこそ本職の斥候レンジャーほどの技術──を持ちあわせていれば、僅かな痕跡からでも、森にいる騎士蜘蛛が二体おり、片方の大きさがまるで違うことを察知出来た筈であった。

 それ故に、ノードは偵察兵スカウトとしての技能を望むのだ。

 

「良いだろう。これからの訓練は通常のものに比べ、更に厳しくなると思え! だからといって泣き言は許さん! いいな?」

「はい、望むところです!!!」


 ノードは大きな声で、返答する。

 はじめは大型魔物モンスターの咆哮のような、教官の怒声にビビり、萎縮していたものだったが、これまでの経験がノードを大きく成長させていた。

 教官はその返事を聞き、にやりと狂暴に表情を歪め、早速ノードに訓練をつけるのだった。


§


 訓練終了後、ノードは夕刻の街並みを、いつもとは違う道程ルートを辿っていた。

 何時もならば、飛竜の研究所に寄る以外は道草を喰わずにフェリス家に直帰するのだが、ノードには今日ばかりは別の用事があったのだ。

 その用事とは、新しく製作を依頼した鎧の受け取りであった。


 ノードには無駄遣いをする習慣が全く無く、買い物とは、消耗品の補充と武具の新調を意味していた。

 ノードに限らず、王都に生まれた男は一度は騎士に憧れるものである。ましてやノードは武家の子弟。子供の時分には、父親や長兄の姿を見て、いずれは己もそうなるぞ、と思ったものである。

 そんなノードにとって、武器や鎧といったものは憧れの品であり、騎士になる夢を一度は諦めたものの、冒険者になってその憧れの品(鎧や剣)を作るときには、何だかんだ楽しんでいた。

 そして本日はピカピカの新調した鎧を受けとるのである。

 将軍蜘蛛の素材をふんだんに使用した鎧は、どのような仕上がりとなっているか、ノードはそれを想像するだけで楽しかった。

 暮れなずむ街並みを馬車に乗って移動するノードの心は、いつになく弾んでいた。

 思わず鼻唄すら歌ってしまいそうな心地のノードの視界に、不意にその光景は飛び込んできた。


 ノードは手綱を操り、馬車を急停車させる。


──ブルルルルッ!!


 馬車馬がいななき、制動ブレーキがかかり急減速した馬車が停車。停車後、二度三度と足を石畳の上で鳴らす馬を横目に馬車を降りる。

 その際、ニュートが「どうかしたのか」と顔を上げたが、仕草で荷台の中にいるように待機させた。


「あん?」


 そこには、何人かの男がたむろをしていた。

 馬車が隣で停車したことに気が付き、ノードへと振り返る。

 男たちは皆、冒険者のような格好をしていた。革製や金属製の鎧に身を包み、腰には武器をぶら下げている。

 そして、その男たちは、誰かを取り囲むようにしていた。


「そこで何をしている」

「あ? 手前には関係無ぇだろうがよ!? さっさと何処かに行きやがれ!!」

「そうはいかんな」

「んだとお、ゴラァ!?」


 怪我しないうちに帰りやがれ、そう恫喝してくる破落戸ごろつきに対して、ノードはけんもほろろに断る。

 すると、破落戸の一人がノードへと歩み寄り、至近距離で睨み付ける。所謂、睨み付ける(メンチを切る)というやつだ。


「おい」

「お、何だ? ビビったか?」


 明らかに暴力に馴れた様子の男たちであるが、それはノードもまた同様だ。

 至近距離でノードの顔を覗き込むようにして顔を近付ける破落戸の一人に、ノードは声をかけた。


「息が臭いぞ、顔をどけろ」

「って……手前ッ!!?」


 ノードの言葉を聞いた次の瞬間、熱せられた薬缶やかんのように怒りに沸騰し、顔が赤く染まった破落戸が腰の物に手を伸ばす。

 それに対してノードは、


「ぐっ……はっ……!?」

「全く、どうしてこうなるやら」


 破落戸が剣に手を届かせる前に、膝蹴りで破落戸の腹部を打ち抜いた。

 革製の鎧(レザーアーマー)の上からでありながら、水月を的確に捉えたその膝蹴りは、一撃で破落戸を昏倒させる。

 破落戸は「手……前ぇ……」と掠れるような声を唾液と共に口から漏らし、白目を剥く。

 ぐらり、くの字に身体を曲げた破落戸が姿勢を崩し、そして地に倒れ伏す。

 どさり、とした音を聞いた仲間たち──残りの破落戸たちは、それを見て一斉に怒声をあげる。


「やりやがったな!」

「やっちまえ!!」

「ぶっ殺せ!」

「糞がっ!」


 汚い罵りを口々に叫びながら、破落戸たちが武器を抜いてノードに襲いかかる。

 七、八人はいるその殺意をもった武装した破落戸たちを前に、ノードは何の危機感も感じ無かった。


(……遅い)


 初撃、一番近くに居た男の上段からの振り下ろしを、スッと横に避けて拳で殴る。的確に顎の先端を捉え、男は気絶。まず一人。

 次いで近くにいた男の顔面を、身体を回転させるようにして繰り出した拳の側面で殴打。ぐちゃ、っとした感触が籠手越しに伝わる。


「野郎ッ!!」


 腰だめに剣を構え、ノードに突き刺さんとした男が雄叫びを上げて突進。ノードはその剣の側面にそっ、と手を当てる。すると剣がノードからそれるように軌道をずらした。

「え?」男は間抜けな声を上げながら、急に体勢を崩し、そしてその隙だらけな男の足を払い、転倒させる。

 同時に剣の側面に添えた手を使って、その男の腕を掴み、放り投げる。


「「ぐあぁっ!?」」


 二人巻き込まれ、転倒した。

 近くにいた他の破落戸たちは、そのノードの動きを見て、立て続け様に仲間が倒されたことで、一瞬驚きで動きが止まった。

 ノードは下から軽く手を振り上げ、近くにいた破落戸の顔を叩いた。


「がっ……くべぇ!?」


 手の甲側で、五指を開いた状態で行ったその攻撃は、破落戸の顔面に当たり、そして運悪く指が目に入った。

 目潰しになったその攻撃で思わず顔を手で抑えたその破落戸は、次にノードにそのまま髪を掴まれ、そして強かに顔面に膝蹴りを喰らう。


「ひっ、お、お前俺た…ぢ、ぃぎぇ!?」


 顔面が潰れ、歯と血液、そして唾液が混ざった液体が口から零れ、ノードの膝にぬらりとした糸を引いた。

 ぶん、とその破落戸の掴んだ頭をノードが放り投げると、その破落戸は地面に転がった。

 残り二人。

 完全に腰が引けた残りの破落戸たちは、内一人が何事かを言いかけた。が、既に踏み込み、掌底を打ち上げるように突き出したノードの攻撃がその破落戸の顎を捉えた。ゴッ!! という下顎と上顎とが衝突した音が、掌の内から伝わった。

 その破落戸は身体が浮き上がり、そして一瞬の後に地面に落下。だが気絶したその破落戸は、受け身すら取れずどしゃりと倒れた。


「あー……その、何だって?」


 先程投げ飛ばした男に巻き込まれ、転倒した破落戸二人が起き上がろうとしていたので、片方の水月を踏み抜き、もう片方を胸元を掴んで顔面を殴りつける。ゴッ、と後頭部と地面とがぶつかった音がした。

 両方気絶し、残り一人。 

 運が良いのか、悪いのか。最後に残ったその破落戸は、周囲に死屍累々と転がる仲間の姿を混乱した様子で振り見る。


「ひ、お、お前何なんだよ!? 俺たちはマルチノ組だぞ!? 冒険者風情が俺たちに……!?」

「あー……まあ、それも間違ってはいないんだが……」


 あっという間に、仲間の破落戸どもをしたノードの問いかけに、破落戸の生き残りは精一杯の威勢を張る。

 破落戸が口にした名前は、おそらく王都の貧民街スラムに根を張る悪漢の集団(マフィア)の名前だろう。王都ほどに規模が大きくなった都市にもなれば、光と闇があるように、負の側面も大きくなる。

 王都を警羅する巡回騎士にも限りがあるので、その人的資源リソースは貴族街や大通りなどの一等地から優先して割り当てられ、どうしても貧民が集まる場所には数が少なくなる。

 となれば悪さを企む奴らも増えることになり、その破落戸たちは集団を成してしまう。

 ノードが打ちのめした破落戸は、その手合いらしかった。


 そしてどうやら破落戸どもは、ノードのことをただの冒険者だと思ったらしい。

 たしかに、現在のノードは補修した鱗鎧スケイルアーマーを身に着けている。将軍蜘蛛との戦いで損傷したそれは、訓練再開までの日取りが短かったこともあり、突貫工事で補修して貰い、今日まで使用していた。

 以前と違い、ニュートが成長して帽子フードの中に隠せなくなってからは、外套ローブも着けていない。

 つまり、鱗鎧だけを着用したその格好は、冒険者の装いであり(実際にそうだが)、破落戸たちはノードが鉄竜騎士団に属した騎士であるとは露ほどにも思っていなかったのである。


 群れの力とは恐ろしいもので、目の前の破落戸たちのような冒険者崩れ(チンビラ)でも、集まればそれなりの脅威にはなる。

 玉石級冒険者ストーン水晶級冒険者クリスタルの冒険者が一人の時に襲いかかれば、痛い目を見させることは可能である。

 故に、その破落戸は生き残る手段として“集団の名前で恫喝“という方法を選択したのだろうが、相手が悪かった。


「残念だが俺は、こんな外見ナリだが、一応騎士でね」

「へ?」


 冒険者と思っていたら、騎士だった。

 そんなことを告げられ、最後の破落戸の一人は、間抜けな声を上げ、そして、


 ゴッ!!


 振りかぶったノードの拳を顔面に受け、気絶した。

前書きでも書きましたが、皆様のお陰で20,000ptだけじゃく、日刊と週間を同時達成出来ました。

ありがとう! そして、ありがとう!


思わず書き貯めた筈の話を投稿してしまった……

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