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貧乏貴族ノードの冒険譚  作者: 黒川彰一(zip少輔)
第二章 見習い竜騎士ノード

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33/63

9 終わらない夏(中)

うごご……日刊一位とは、すごい(他人事)

何とか皆の休日のために書き上げたぞよ

夕方の更新は未定。とりあえずワシは寝る(AM4:30)


「クソッ!」


 戦闘が終結しかけ、気が僅かに弛んだ一瞬のことであった。

 後方から飛来する勢いで襲撃してきた騎士蜘蛛ナイトスパイダーの跳躍からの一撃は、不意討ち(バックアタック)となってノードに襲いかかった。

 完全に警戒を解いていなかったことが幸いし、僅かに聞こえた枝が折れる音によって異変に気が付き、反射的に飛び退くことが出来た。

 ノードが横っ飛びに飛び退いた次の瞬間には、ノードが元いた場所を騎士蜘蛛の巨体が高速で通過した。 


「きゅぅー?」

「ああ、大丈夫だ。助かった」


 ノードは己のことを心配するように鳴くニュートに声を掛ける。

 間一髪回避に成功したノードの身体に、怪我はない。

 少しでも動くのが遅れていたら、交差するように薙いだ騎士蜘蛛の前肢に捕獲されていたに違いないが、その死神の鎌は足先を僅かに掠めるだけにとどまっていた。


「……よし、動けるな」


 緊急回避後、転がるようにして受け身を取り、地に倒れ込む衝撃を緩和した。その転がる勢いで素早く立ち上がったノードは、再び戦闘時の物に意識を切り替え終える。

 奇襲に失敗した騎士蜘蛛を視界に補足し、視線で牽制。

 その間に掠めた足先に体重をかけて、戦闘に支障が無いことを確認した。


 戦闘が可能だと判断したノードは、油断なく武器を構えながら、闖入者であるもう一体の騎士蜘蛛を観察する。

 大きいな。新手の騎士蜘蛛を見たノードは、そう感じた。

 同種(仲間)を傷つけられ怒っているのか、前肢を持ち上げるようにして威嚇している騎士蜘蛛は、先に戦い瀕死に追い込んだ騎士蜘蛛と比べても、明らかに大きかった。


(一、二、三……何ッ!?)


 騎士蜘蛛の眼。

 何時でも動けるような重心を保ちながら、盾と剣を構えたノードは、対敵する騎士蜘蛛の眼の数を数えた。

 騎士蜘蛛は、成長すると共に顔にある単眼の数が増えるという性質があった。

 産まれたときには二つしか開いていないというそれは、先程の騎士蜘蛛であれば、八つある。

 だがノードが手早く数えた眼の個数は、十二にのぼった。念のために再度確認するも、変わらず。


「……っち! “最大個体“か」


 当然だが、魔物は生きている以上成長する。

 ノードの近くを飛ぶ深緑の鱗を持つニュートが、卵から孵ったばかりのときと比べて大きく逞しくなったように、魔物にも子供の時があり、やがて成長して大人になる。

 そして大人になった後も、長く生き経験を積めば、若い個体とは段違いの力を持つようになるのだ。ノードがかつて戦った敵で言えば、鎧狼アーマーウルフのような個体がそれにあたる。

 その成長を遂げた魔物の力は、一般的な同個体の魔物とは一線を画したものとなり、別種の魔物として扱われる。

 最大まで成長したことから、“最大個体“という分類がなされるその魔物たちは、大抵の場合畏敬を込めて別の名前が付けられていた。

 騎士蜘蛛の最大個体の名前は何だったか。ノードは記憶を探り、そして直ぐに思い出して、その名前を呟いた。


将軍蜘蛛ジェネラル……!」


 激闘の予感が、木々の梢のざわめきとなって、森の中に広がっていった。


§


 ガンッ!! とした音が森の中に響き渡り、ノードの腕に強い衝撃が伝わる。

 将軍蜘蛛の前肢による初撃の振り下ろしは、ノードの盾によって防がれた。

 しかし、将軍蜘蛛の攻撃はそれで終わりではない。

 今度は逆側の前肢がノードの頭部を狙い、振るわれる。

 ノードはそれを受け止めるのではなく一歩分後ろに後退、回避。黒々とした、細かい体毛が生えた肢が目の前を通過し、槍の穂先のように硬く尖った肢の先が地面に突き刺さる。

 将軍蜘蛛の触角が蠢く。蜘蛛の糸だ。

 攻撃の予備動作を察知したノードは、今度はステップを踏むよう軽く跳躍ジャンプ。元の居場所に吹き付けられた白い蜘蛛の糸を回避した。


「──ギッ!」


 将軍蜘蛛が声を上げた。跳躍した瞬間、あわせて振るったノードの剣が、将軍蜘蛛の肢の表皮を切り裂いたからだ。

 浅いか、ノードはそう考え、今度は前進。

 将軍蜘蛛の体側へと移動していたノードは、強く地面を踏み込むことで、再び将軍蜘蛛の間合いに入る。

 将軍蜘蛛の身体を支える八本の肢の間をすり抜けて、胴部に肉薄。

 が、ノードの意図を察知した将軍蜘蛛が跳躍し、ノードの振るった剣は再び体表を傷付けるだけに終わる。

 飛び退きざまに、将軍蜘蛛がノードへ向け放った蜘蛛の糸をノードが再び回避すると、両者の間には距離が生まれた。


 じり、と互いに隙を伺うように見つめ合う両者。一瞬、奇妙な静寂が森を支配する。

 その静寂は、すぐに破られた。


 将軍蜘蛛の身体が沈んだ。

 引き絞られた大弓がたわむように八本の脚が関節から曲がり、直後膨張。触毛が生えた体表の下に潜む強靭な蟲の筋肉がその中に秘めた力を解放し、将軍蜘蛛の巨体を一気に加速させる。

 攻城弓バリスタのように放たれた将軍蜘蛛は、ノードとの間にあった間合いを、一瞬にしてゼロにする。

 超高速の巨大質量の衝突は、暴虐的な破壊力を産み出す。

 並の冒険者ならば一撃にて戦闘不能と化すであろうその突進を、果たしてノードは防いで見せた。


──ドゴォッ!!!!


 盾との衝突で生まれたその音は、到底生物由来の音響ではなく、大規模な土木工事などで聞くことができる破壊音それだ。

 爆発音にも似た音を生み出した、将軍蜘蛛の突撃を防いだノードは、衝突の衝撃を受け流したものの、大きく後ろに身体が流れ、宙を泳ぐ。

 何とか片足だけは地に付いているものの、盾を構えた腕は後方にあり、無防備な身体を将軍蜘蛛に晒してしまっている。

 しかし、将軍蜘蛛がその隙だらけのノードを攻撃することは無かった。

 将軍蜘蛛も、衝突の衝撃で動きが止まっていた。

 ノードが盾で破壊力(運動エネルギー)を全て受け流したことで、将軍蜘蛛もまた、ノードの前で一瞬だけ動くことが出来なくなっていたのだ。


 再び両者が地を踏み込み、身体を加速させるまでの一瞬。

 ノードにはやけにその時間がゆっくりと流れているように感じられた。

 衝突の衝撃で、ノードの盾の一部が欠けてしまった。見れば受け止めた将軍蜘蛛の前肢の先端部分、槍の穂先の如く硬化した蟲甲部分にも罅がはいり、砕けた破片が宙を舞っている。

 その破片の向こう側に、ノードは将軍蜘蛛の円らな黒い眼を見た。

 蟲特有の、感情を感じさせない闇のような真っ黒い眼の表面に、自分の姿が写っているのを、ノードは見た。


 たたらを踏むようにしていたノードの身体が、再び地面へと舞い戻る。大地の感触が足裏に戻り、そして踏み込む。将軍蜘蛛も再度身体を沈める。

 緩慢になっていた時間の感覚が元に戻り、近接距離クロスレンジで相対していたノードと将軍蜘蛛は、三度目の激突を果たした。



§


「──うおおおぉぉぉぉッ!!!!」


 ノードの口から雄叫びが放たれる。

 至近距離で激突したノードと将軍蜘蛛との戦闘は、更なる熱狂の様相を呈していた。

 将軍蜘蛛が前肢で薙ぎ、ノードが盾で防ぐ。

 将軍蜘蛛が噛み付こうとし、ノードがそうはさせじと翆玉の刃を振るう。


 防ぎ、回避し、守り、攻める。斬り付け、流し、転がり、跳び退く。


 将軍蜘蛛の猛攻を、盾の防御術で受け止め、攻撃をいなし、隙を作っては手傷を負わせていく。

 ノードも無傷とはいかず、将軍蜘蛛の攻撃を少なからず受けて手傷を負い消耗していたが、それ以上に将軍蜘蛛へと損耗ダメージを与えている。

 ノードの鱗鎧スケイルアーマーの表面の鱗は砕け、剥がれ、将軍蜘蛛の爪によって抉られ、出血もしている。

 将軍蜘蛛も、全身に切り傷を負い蟲甲は凹み、罅が入り触毛を青い血で濡らしている。


 もう何合打ち合ったか分からない。それほどに続けられた戦闘は、両者の間に均衡状態を作り上げ、激突し、アルバの森の奥深くに戦闘の爪痕を刻みつけている。

 そしてその闘いの天秤は、次第にノードの側へと傾きつつあった。


 斬ッ!!


 将軍蜘蛛の黒い眼、その一つが翆玉鋼ジェドライトの剣によって切り裂かれた。

 将軍蜘蛛が悲痛な声を上げ、痛みに思わず怯んだ。

 その隙を見逃すノードではない。

 ここが正念場とばかりに、疲労感が漂う全身に喝を入れて、さらに攻撃の速度を上げる。


 斬り付け、殴打し、切断し、砕く。


 剣と盾を巧みに操ったノードの猛攻が、将軍蜘蛛の戦闘力を奪っていく。

 将軍蜘蛛の前肢は半ばから断たれ、十二あった眼は三つが潰され、口元の触角は折れた。身体からは出血が止まらず、胴体から流れる青い体液が、体毛を濡らして滴り、森の中に点々と染みを作った。

 そして……


「──ハアァッ!!!」


 裂帛の気合いと共に放たれた全力の一撃が、将軍蜘蛛の頭部に翆玉の刃を深く突き立て、そして両断した。


「ギ……キッ……グ……」


──ドシャアッ


 致命の一撃を受けて頭部を破壊された将軍蜘蛛は、暫く痙攣と共に断末魔の鳴き声を上げ、そして音を立てて地に倒れ伏した。


「…………はあっ、……………はあっ、」

「きゅうう~!?」


 息も絶え絶え、といった有り様のノードが荒く呼吸をしている。ボロボロになった鎧の下で、大きく肺腑が膨らみ酸素を取り入れようとしている。

 万が一(三体目)の奇襲に備え、残心を残して周囲の様子を伺っていたノードだったが、その危険が無いと確信すると、思わず地面に崩れ落ちる。

 翆玉鋼の剣を杖がわりにして、何とか身体を支えたが、脚に力が入らない。

 その様子をみて、激しい戦闘に手出しが出きず、退避して戦闘の行く末を見守っていたニュートが慌てて飛んできた。


 ニュートはノードの傍に降り立ち心配そうに近寄ってから、苦しそうなノードの頬をペロリと舐めた。


「…………ふふっ、ははっ!」


 まだ荒い呼吸をしていたノードは、頬をくすぐる舌の感覚に、思わず笑い声を上げる。

 ノードの口元に笑みが浮かんだことで、ニュートも少し安心したのか、心配そうにしていた表情を緩める。

 その後、何度か深呼吸をして息を整えたノードは、ドサリと尻を下ろし、苔の生えた地面に座り込んだ。


 まだ肩で息をしているノードだったが、肺が求めるだけの空気を吸い込んだお陰か、幾分身体が楽になっていた。

 立ち上がるにはまだ少しの休息が必要だろうが、座って休んでいれば、体力は次第に回復する。


 ちょこん、と傍に侍るニュートの頭を撫でながら、ノードは先ほどまで繰り広げていた死闘を振り返った。


 体長サイズだけでも、最初に遭遇した騎士蜘蛛ナイトスパイダーの倍近くになろうかという大きさだった。

 戦闘力は言うに及ばない。

 ノードは自分の盾を持った手を見つめた。

 ノードは全身に傷を負っていたが、それは何れも軽傷だった。鱗鎧スケイルアーマーの損傷こそ大きかったが、鎧の役目は負傷ダメージを代わりに受けることである。それは仕方がない。

 一方で、身体に負った怪我はというと、切り傷や打撲などの軽い怪我が殆どで、一ヶ所だけ将軍蜘蛛の前肢の直撃クリティカルにより鎧の鱗甲が砕け、その下の肉を抉った箇所があった。

 しかしそれも含め、怪我は全て活動には支障がないものであり、体力は著しく消耗していたが、後遺症などの心配は無い。

 完勝といって良い結果だった。


 ノードはその手のひらを、グッと強く握り締めた。


──強くなっている。


 ノードは己の成長を実感していた。

 半年ほど前、水晶級冒険者クリスタルへ昇格して飛竜の巣に潜入した頃の自分に、先ほどのような戦闘が出来ただろうか。

 否、自問には直ぐに結論が出る。

 将軍蜘蛛との戦闘では、危うい場面が幾つもあった。

 例えば最初の奇襲を避けられただろうか、或いは突撃の受け流しは? その後の激しい戦闘の攻防は生き残れるか。何れも否である。

 鉄竜騎士団での鍛練の日々は、ノードの実力を急成長させていた。

 力や体力といった基礎体力は勿論、剣術や盾の防御術には磨きが掛かり、実戦形式の乱取りによって、戦闘の勘だけでなく直感も鍛えられている。

 闘争ということに於いて他の追随を許さない、精鋭たる竜騎士である教官から施された訓練の成果は、ノードの五体に深く刻み込まれていた。


 将軍蜘蛛ジェネラルスパイダーは、水晶級の魔物である騎士蜘蛛ナイトスパイダーの最大個体だ。その強さは騎士蜘蛛と隔絶し赤銅級冒険者ブロンズ以上の冒険者でなければ、討伐は難しい。

 さらにノードが戦った将軍蜘蛛は、眼が十二個あった。

 将軍蜘蛛は眼が十個・・以上ある騎士蜘蛛のことを指す。

 つまり先ほど戦っていた将軍蜘蛛は、最大個体の中でも更に強い個体だったということであり、それに打ち勝つことが出来たノードの実力は、赤銅級冒険者の中でも上位のものに迫っているということの証明だった。


 ノードは体力がある程度回復したと判断すると、立ち上がり、大蜘蛛の躯の元へと歩く。

 魔物の素材は、倒してから早いうちに回収しなければ、傷んでしまう。特に騎士蜘蛛の方は、絶命してから時間が経ちはじめている筈だった。


(……やれやれ、持って帰るのが大変だぞ、これは)


 望外の戦果に喜びつつ、二頭分の素材をどうやって持ち帰るか頭を悩ませながら、ノードは喜び勇んで貴重な魔物の素材回収を始めた。


 アルバの森は激しい戦闘の爪痕を残しながらも、再び森の静寂を取り戻していた。

戦闘回ですね。うーん大変だった。

上手くかけてたらいいんですが。


ノードくんもパワーアップしてますよ。もの凄く。

ドラゴンブートキャンプの受講生ですからね、そりゃそうよ。

大丈夫! 回復魔法完備の素晴らしい訓練環境ですよ! 痛くなければ覚えませぬが基本理念ですけどね。

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