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貧乏貴族ノードの冒険譚  作者: 黒川彰一(zip少輔)
第二章 見習い竜騎士ノード
32/63

8 終わらない夏(上)

金曜日なので社畜で頑張るアニネキたち、そして学生さんたちのために二回目の更新!!(通常営業)

ただ、そろそろ一回になりそう。




 翌日、泊めて貰ったオブリエールの屋敷を朝早くに出立したノードは、ニュートと共に森へとやって来た。

 アルバ村の北東に位置するこの森は、王国北の大山脈の東端の麓から広がっていて、森の中には薬草やら茸やらが豊富に生えている。

 森はとても広く、奥に進めば進むほど木々は生い茂り、森は深くなっていく。

 アルバの住民たちは、この森を活用して暮らしている。

 木々を伐採して燃料にするのは勿論、薬草や食料などを採取し、近隣の都市に向けて伐採した木材を輸出したりしていた。

 この森はアルバ領の管理地であり、そこから得られる富は、オブリエール家の財産となっている。


 その森を、ノードは歩いていた。

 馬車はアルバ村で世話をして貰い、ノードは徒歩で森の奥へと進んでいく。

 森に一番詳しい狩人を、案内に付けてくれるというので、ノードは道中その三十半ばと見える狩人に、話を聞いていた。


「この森でよく見る獲物や魔物について教えてくれるか」

「へい、勿論でさ。といっても大したもんじゃありやせんが。ゴブリンに大蝙蝠ジャイアントバット槍鹿ディアランサ、たまに森林狼フォレストウルフが住み着いたりしやすが、最近は見かけません」


 狩人の口から説明された魔物は、いずれも低級冒険者でも狩れる弱い魔物ばかりだった。


「一度殺人蜜蜂(キラービー)が森の中に巣を作って大騒ぎになりましたが、そのときも旦那みたいな冒険者の方がいらっしゃいました」


 口振りから察するに、この狩人はノードがヨハンの弟──つまり貴族だとは知らないらしい。ただの依頼にやって来た冒険者として認識しているようだ。尤もそれは間違いではなく、ノードも変に畏まられるよりはずっと楽だったので、敢えて訂正しようとはしなかった。


「森は奥深くまで続いていると聞くが、そこでもか?」

「いえ、あっしらは奥深く潜ったりはしないので……途中まででさ。ただ、奥の魔物は浅いところには滅多に出てきやせん。」


 薬草熊がたまに外側まで来ますがね、と狩人の男が付け加える。

薬草熊は、強さは水晶級クリスタルの魔物であったが、温厚な気質を示すために人間を襲わない。ただ、薬草を好んで食べるのと、薬効が詰まった背中の緑の毛が魔法薬の原料になるため、その採取の依頼が出ることがある。


 話しているうちに、森の入り口からかなり進んだところまでやって来た。


「あのぅ……旦那、ここら辺までで……」

「ああ、ありがとう。参考になったよ」


 入り口に比べて、森の密度が濃くなっている。

 木々は太く、並ぶ間隔が狭い。上を見れば、木々の梢の間から差し込む日の光も少なくなり、森の中は鬱蒼と生い茂る暗い雰囲気に変化していた。

 明るい雰囲気があった入り口辺りは、人の手によって管理されていたが、ここからはあまり人の手が入っていないらしい。

 騎士蜘蛛ナイトスパイダーが出る森の中には入りたくないだろうな、ノードはそう思い、入り口から半日ほど歩いたそこで狩人と別れた。

 彼はそのまま入り口の方へと引き返していく。


「ここからは気を引き締めていくぞ」

「きゅ!」


 ノードの言葉に、傍らを歩いてた森と同じ色の鱗を持つニュートは軽く鳴き声を上げた。


§


 アルバの森は、奥に進むほど道が悪くなっていった。

 道なき道を歩くノードは、森の状況を観察しながら器用に歩いていく。

 蔓のぶら下がった枝、苔むす岩に倒木に生えた茸など。

 段々と人の気配を感じない原生林の様相を見せる。


「ギャウ!!」


 時折、魔物とも遭遇し始める。

 狩人から聞いていた低脅威の魔物で、ノードとニュートの敵では無かったが。

 今も遭遇した魔物と戦い、最後の一体をニュートが倒したところだ。


「よし、良くやった」

「きゅう~」


 危うげなく、魔物を仕留めたニュートを褒めると、ニュートが嬉しそうに声を上げる。

 ノードはその魔物たちを解体し、可食部位を集めると、夕飯にすることにした。

 オブリエール家で聞いた情報──玉石級冒険者ストーンが目撃したという騎士蜘蛛ナイトスパイダーの痕跡の地点までは、森の入り口からかなりの距離があった。

 直線に歩いても、丸一日はかかるだろう。 

 早朝に出立したノードたちは、その気になれば今日中にそこまで到達できるが、そうなると直に夜になってしまう。


 昼行性の魔物ならばともかく、騎士蜘蛛ナイトスパイダーは夜でも活動が出来る魔物だ。

 一日歩いたその体で、そのまま夜間戦闘を試みるのは得策では無かった。


「よし、ここを野営キャンプ地とする」


 野営に適した場所を見繕い、ノードが宣言する。

 それでニュートも、ノードが今日は移動をしないと分かったのだろう。宙を飛ぶのをやめ、ドサッと地面に降り立った。

 ノードは暗くなるまでに、周辺から枝や枯れ木などを薪として集め、石を組んで竈を作り、夜間その光が目立たないよう隠蔽した。

 魔物は火を恐れない。

 一部警戒して近付こうとしない種類もいるが、好戦的な魔物に関しては、むしろ明かりに引かれて来てしまう。

 それゆえ、野営地を選ぶ際の注意点として、光が漏れにくいような場所を選ぶ必要があった。他にも様々な注意点があり、それを知らず野営してしまい魔物の襲撃を受ける、という失敗談は新人冒険者には尽きない。

 流石に水晶級冒険者クリスタルになっているノードはそんなことは百も承知であり、選んだ場所はそれらの点を完全に解決クリアしていた。


 パチパチ、と薪の弾ける音が微かに響く。

 焚き火はコの字型に組まれた竈の中でチロチロと赤い炎を上らせ、その上に置かれた野外炊具の底を炙っている。

 竈の前には枝を加工した串が突き立てられており、それらには肉や茸が串刺しになっている。

 焚き火の熱で加熱され、肉の表面からは脂が滲みだし、そして沸騰する。

 香ばしい匂いが立ち上り、鼻腔を刺激する。


「きゅぅぅ……」


 地に蹲るように伏せたニュートが、焼き串をじっと見ている。

 目の前にあるご馳走から漂う匂いに我慢出来ないのか、口からは涎をたらして、腹の虫のような声を漏らしていた。

 ニュートには既に魔物の生肉を食べさせていた筈だが、美味そうなものを見ると腹が減るらしい。

 食べ盛りの飛竜の子供は、先程食べた生肉とは別の味がするだろうノードの晩飯である串焼きにご執心であった。

 長期休暇(夏休み)をニュートの訓練でずっと共に過ごしていたノードは心得たもので、自分の食べる分とは別にニュートのおやつの分の串焼きも用意している。


「よし、焼けたな」

「!」


 ノードが火の通り具合を見切り、串焼きが焼け上がったとみて、地面から引き抜く。

 うちの一本を、ニュートに与える。

 ニュートは「待ってました!」とばかりに尾をピンと立てると、前肢で器用に串の根本を掴み、はぐはぐと焼けた肉を食べる。

 ノードも己の分にかぶり付き頬張ると、串焼きの肉からはじゅわりと肉汁が溢れ出て、口腔を満たす。下味に擦りこんだ塩気がよく利いていて、美味い。森の中で見つけた食用茸もかなりイケる。

 一本目の串をペロリと平らげたところで炊具の様子を見る。

 取っ手を掴んで蓋を開けると、もあっと湯気が上った。蓋の裏についた露が炊具の中に滝のように流れ落ちる。

 炊具の中では、出汁スープが煮えていた。

 具合を確かめるために、一度火から炊具を下ろして、木を削って作った匙で掬って食べる。

 具からは味がよく染みだしていて、美味い。

 肉や茸、野草が入ったそれは、串焼きとはまた違った味わいをノードの舌にもたらした。


 ふと、視線を感じた。

 器用に串に刺さった肉を食べ終えたニュートは、今度はその鍋を見つめている。

 どうやらこれも食べたいらしい。

 ノードは「仕方ないな」と呟いて、木を削って作っておいた碗によそってやった。

 自分の食器として作った筈のそれは、餌皿に姿を変えた。出汁スープを注いでやったそれをニュートの前に差し出すと、ニュートは美味そうにそのスープを舌で掬いはじめた。

 ノードも自分の分を冷めないうちに、食す。


 しばらく、夕餉のときは続く。

 火の灯りが隠蔽されるような作りになっている野営地からは、焚き火の煙がゆっくりと立ち上る。それは木々の間から覗く満天の星空へ向かい、そして夏の夜風に紛れて消えた。



§


「……あれか」


 野営地で一晩を明かした後、払暁にはノードは動き出した。

 森の中はまだ薄暗いが、移動し始めるには十分だった。

 昨日の残りを簡単な朝食とし、野営具を素早く片付ける。竈の石を崩して、火が完全に消えたことを確認したら出立だ。


 そして歩くこと数時間、だんだん日が高くなり、森の中も徐に照らされ始める。

 そんな頃、朝の光を浴びる森の中にノードはそれを見つけた。


 朝露で濡れた大きな蜘蛛の巣である。

 木々の間に衣幕カーテンのように張られたその白い網には、何か大きなぐるぐると巻かれた物体が貼り付いている。

 蜘蛛の糸で絡め取られて中身が見えなくなっているが、恐らく哀れな獲物だろう。

 騎士蜘蛛ナイトスパイダーは捕獲した獲物を、保存食として保管する習性がある。それに違いなかった。


 騎士蜘蛛ナイトスパイダーは大型の魔物で、直接獲物を襲い、吐き出した糸でぐるぐると巻いて捕らえる。保存された獲物は生き餌として新鮮なまま保管され、騎士蜘蛛ナイトスパイダーの保存食となる。

 保存食は家と呼ばれる住居となる巣とは別の、保管庫と呼ばれる蜘蛛の巣に貼り付けられる。

 “騎士ナイト蜘蛛スパイダーというのは、獲物を直ぐに殺さず捕獲する性質が捕虜をとる騎士のように見えたことから付けられたというのが、名前の由来の一つであった。

 

 その保管庫があったということは、蜘蛛の()が近いということだ。

 騎士蜘蛛ナイトスパイダーの活動範囲は家を中心としている。近くにいる可能性が高かった。


 ノードは何時でも戦闘に入れるよう意識を切り替えた。

 ニュートもそれが分かってか、真剣な顔付き──狩人のものに変わる。

 一人と一匹は、慎重に森の奥へと進んだ。



 足音を殺したノードは、慎重に森の中をさらに奥へと進んだ。

 騎士蜘蛛ナイトスパイダーは騎士という名前こそ付いているが、正体は森の中を縄張りとする狩人であり、殺し屋だ。

 僅かな痕跡から獲物を見つけ出し、襲う。

 蜘蛛は獣のように耳を持たないが、全身に生えた体毛が空気の震えを感知し、音で居場所を把握してくる。

 そのため羽ばたく音から探知されるのをさけるため、ニュートも飛ぶのをやめて、四肢でそろりそろりと地を歩いている。


(……見つけた)


 探索をしてしばらく、ノードは予め調べておいた騎士蜘蛛ナイトスパイダーが好む立地などから、巣のありそうな場所を探していった。

 保管庫の近くで待ち伏せする手段もあったが、それだといつ来るか分からなかったため、自分の方から探すことにしたのだ。


 そこは別の保管庫がある場所だったらしく、張り巡らした蜘蛛の巣に、獲物を貼り付けているところだった。

 遠目からでも分かる太い胴から八本の脚を生やして、巨体を支えている。

 口元の触角を蠢かし、白い糸を口から吐き出した。

 獲物に吹き付けたそれは、前側の二本の肢で器用にこねくり回されている。

 騎士蜘蛛ナイトスパイダーは獲物の保管作業に集中しており、ノードたちには気が付いていない。

 

 傍らのニュートに視線をやると、緑の鱗に覆われた頭をコクりと頷かせる。ノードの意図を読み取ったようだ。



§


 騎士蜘蛛ナイトスパイダーが、全身に生える体毛から空気の震えを察知した。振動の方へ眼を向ける。

 黒々としたその八つの単眼は、森の中に飛ぶ緑色の存在を捉えた。

 それは、鳥のような形をしていたが、騎士蜘蛛ナイトスパイダーが今までに遭遇したことがない獲物だった。

──捕らえよう

 騎士蜘蛛ナイトスパイダーはそう考え、その緑の魔物を捕獲しようとする。

 しかし、


「ギャウ!」

「!」


 捕獲しようと振り上げた前肢の攻撃は、空振りに終わる。

 空中を飛ぶ緑の魔物はするりとすり抜けるように、羽を羽ばたかせ、回避した。

 決して緩慢な動きではなく、素早く振り上げたそれを容易くよけた緑の魔物の動きに、手強さを感じた騎士蜘蛛ナイトスパイダーは、保管作業は放置して全力で戦うことに決めた。


 騎士蜘蛛ナイトスパイダーが、跳躍する。

 多脚から生み出された跳躍力は、騎士蜘蛛ナイトスパイダーの巨体を静止状態から一気に加速させ、高速の弾丸と化させた。


「ぎゃう!?」


 その攻撃は予想以上の速度だったのか、間一髪で回避した緑の魔物が悲鳴のような鳴き声を上げる。


 騎士蜘蛛ナイトスパイダーの攻撃は終わらない。

 肢を振り上げ、避けられれば他の肢で加速、距離を詰める。口から糸を吐きつけ、前肢で薙ぎ、突進して体当たり。飛び掛かり、噛み付き、様々な攻撃を繰り出す。

 慌てて避ける緑の魔物は、少しずつ少しずつ追い詰められ、そして騎士蜘蛛ナイトスパイダーの思い通りの場所に移動した。

 魔物の後ろには張り巡らされた蜘蛛の巣があった。

 次の攻撃で、避けても巣に引っ掛かるよう追い込んだ。


 これで終わりだ。

 そう考えた騎士蜘蛛ナイトスパイダーは、口から蜘蛛の糸を吐き出そうとして、


 横合いから突如訪れた痛みと強い衝撃を感じて、吹き飛んだ。


§


 ニュートを陽動として隙を伺っていたノードは、絶好の機会タイミングで横合いから殴り付けた。

 ニュートが蜘蛛の巣の前に追い詰められ、騎士蜘蛛ナイトスパイダーが勝利を確信したであろう瞬間、全力の一撃を叩き込んだ。


 翆玉鋼ジェドライトの剣は騎士蜘蛛ナイトスパイダーの身体に大きく食い込み、抉り穿った。

 同時に盾で殴り付け、剣を抜く。

 騎士蜘蛛ナイトスパイダーの巨体が横に吹き飛び、剣が抜ける。

 動物の赤い血液とは違う、青色の体液が剣からは滴っていた。


「きゅい! きゅい!」

「ニュート、いい動きだったぞ」


 すんでのところで助けられたニュートが鳴き声を上げる。

 追い詰められてはいたが、ニュートは陽動として役割を果たしていた。

 動きから、かなり全力で騎士蜘蛛ナイトスパイダーが戦っているのは分かった。残念ながら回避で一杯で、反撃に転じるのは難しそうだったが、成長すればそれも叶うだろう。ニュートが水晶級クリスタルの大型の魔物相手でも十分にやれるのが分かったのは収穫だった。


「さて……」

「ギ……ギギッ……」


 先程のノードによる横合いからの奇襲は、強い手応えがあった。

 騎士蜘蛛ナイトスパイダーは、吹き飛んだ先で、何とか立ち上がろうと肢で体重を支えようとして、失敗した。

 口からは蜘蛛の糸だろうか、ぶくぶくと蟹が泡を吹くように白い何かを吹き出していた。

 騎士蜘蛛ナイトスパイダーは、致命の一撃(クリティカル)を受け、一気にその生命力を減らしていた。


(あとはトドめだけだな)


 騎士蜘蛛ナイトスパイダーの命は、直ぐに尽きようとしていた。放っておいても死ぬだろうが、無駄に苦しめる趣味はノードに無かった。


 そしてノードが蜘蛛の血を剣から振り払い、トドめに近づこうとしたところで、


「っ!」

「キシャアアアア!!」


 バキバキ、と枝を折る音を立てて、後方から飛来した騎士蜘蛛ナイトスパイダーの一撃を横に飛び退き、躱した。


(ッ別の個体(二体目)だと!?)


 闘いは、まだ続く。

終わらない夏(エンドレス8)

読者は永遠に八話だけを読み続けた。

何度も何度も更新ボタンを押し……そして三回目の更新がないことに絶望して、ただブクマとポイント評価を押した……そんな話でしたね(違う)


夏といえば! キャンプ! バーベキュー!

そんな話でした。なにげに茸の採取知識が増えてます


上手く戦闘シーンが書けてない気がするけど……まあええやろ!


明日も更新できるよう、これから執筆……何故俺はニートなのに残業みたいなことをやっているのか(哲学)

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