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貧乏貴族ノードの冒険譚  作者: 黒川彰一(zip少輔)
第二章 見習い竜騎士ノード
28/63

4 長期休暇(上)

ブクマもポイントも増えてるやったー!


取り敢えず1000pt目指して頑張るぞい!


「は? 休暇……ですか」

「うむ……」


 その話は、夏に入る直前になってからノードは聞かされた。

 ノードが鉄竜騎士団に入って約半年が経とうとする頃である。

 見習い竜騎士としても慣れ、メキメキと上達を見せるノードに対して、教官が「そろそろ次の課程に入っても良い頃だな」と告げた翌日のことである。

 兵舎の中、木製の執務机に座った教官は、その机の前で屹立するノードに向かって話始めた。


「実は大規模な合同演習の話が持ち上がっていてな……」

「合同演習、ですか」


 担当教官の話によると、まだ計画の段階だが、東方騎士団、ハミル王国騎士団、鉄竜騎士団の三騎士団による合同での大規模演習の話が持ち上がっているらしい。

 地方騎士団は、各地方に領地をもつ貴族達が、その地方の大貴族を中心として結成する騎士団である。

 兵力は各貴族たちによって供出されるが、ハミル王国騎士団などに比べると騎士よりも平民兵の割合の方が高い。

 これは、よほどの大領主でもなければ、大量の陪臣騎士を雇い入れることなど出来ず、代わりに領地から賦役として兵役を課す形で、兵力を提供するからである。

 当然、戦闘の本職プロである騎士に比べれば、簡易的な訓練が施されただけの平民兵などは戦闘力の面で大きく劣る。

 では各地方騎士団の役割とは何か。それは他国に侵攻された場合に中央に配置されているハミル王国騎士団が到着するまでの時間稼ぎとしての役割だ。


 他にも平時には地方の街道警備や、魔物退治なども各地方騎士団の仕事であったが、兵力を動かせばそれだけ行軍費がかかるし、戦闘になれば当然被害が出る。

 その被害は平民兵などが主だが、彼らは兵役を終えれば領地では農民などの働き手に戻るのだ。

 万が一、兵役にとられた若者や壮年の男手が喪われれば、村や町、ひいてはそこを治める領主にとって痛手となる。

 それゆえ、重要な街道の警備以外には地方騎士団は動員に及び腰であり、魔物や山賊の被害が出ても専ら冒険者を雇って問題解決をはかる、というのがハミル王国の平時の風景である。


 だが当然、そうなると騎士団は実戦経験を積まずに過ごすことになり、只でさえ弱い地方騎士団は更に低い練度となる。

 いざ他国に攻められたとき、鎧袖一触で打ち破られてしまっては、地方騎士団に時間稼ぎをさせるという防衛戦略が機能しなくなる。守る者がいなくなった戦地の行く末は語るまでもない。

 その為、ハミル王国では地方騎士団の練度向上と、中央の騎士団との連携訓練を毎年やっているのだが、今回の演習は例年と比べて大規模な物にするという。


 演習には入念な打ち合わせが必要だし、準備にも時間がかかる。その上、今回の演習は移動も含めれば長期にわたるらしい。

 ノードが所属する鉄竜騎士団も、その演習には当然参加する。

 鉄竜騎士団の構成兵科である竜騎士は、飛竜に跨がり大空を翔けることができるのだ。

 偵察、増援、敵地強襲。

 なんでもござれの万能兵科であり、数が少なくとも強力な戦力となるので、侵攻を受けた場合は必ず第一陣の増援として送られる兵力でもあった。


 なので例年の演習でも、毎年鉄竜騎士団は参加することが決定していた。

 問題は、


「お前はまだ飛竜に乗れまい」


 そう、竜騎士でありながら、まだ『見習い』の称号が取れないノードの扱いだった。

 正規の竜騎士に比べて技量が劣るとはいえ、それでも半年に及ぶ厳しい訓練により、ノードの実力はかなりの成長を見せていた。さらに言えば、そのような未熟な兵や騎士を鍛えるのが演習の目的なので、その点を踏まえればノードはむしろ積極的に参加するべきであった。

 そう為されない理由は一つだった。


 担当教官はノードの傍らへと視線を向けた。

 それに釣られるようにしてノードもそちらを向く。

 そこには床に座り込んだ深緑の鱗を持つ飛竜の子どもの姿があった。


「きゅ?」


 地面に蹲るように座り込み、前肢を頭の置き場にするように丸まっていた飛竜の子どもは、二人の視線に気が付いて、何事かと首を持ち上げた。

 その子ども、ニュートは更なる成長を見せていた。

 身体は一回り大きくなり、体長も尻尾を含めればノードの背丈を越えた。脚までの長さであれば、首を伸ばしてもノードの腹位までしかないが、半年ほど前には卵──ノードの頭部位の大きさしかなかったことを考えると、脅威的な成長率だ。

 だが、それでもニュートが子どもであることには変わらない。

 いくら大きくなったとはいえ、人を乗せることが出来る体長サイズまではまだ遠い。

 竜騎士が竜騎士足る理由は、飛竜を駆って自在に大空を飛び回れることにある。

 ノードの躾も理解して、床に座って待機できるようになるという精神面での成長を見せてはいたが、その背中はノードが跨がるには細く、そして羽ばたく力も人を持ち上げることは難しかった。


 ノードが正規の竜騎士として活動するのには、まだまだ時間がかかりそうだった。


「成る程、了解しました。それでどれくらいの期間でしょうか」

「まだ未定だが、俺も参加することになっていてな……いっそのこと、長期に休ませてはどうかという意見が出てる」


 そこで教官は、一度言葉を切って机の上で手を組み、それから言葉を繋いだ。


「二ヶ月だ」

「二ヶ月!」


 予想よりも長い期間にノードは驚いた。

 それほどまでに大規模な訓練なのだろうか。

 鸚鵡返しに言葉を発したノードに対して、教官が話を続ける。


「俺の実家は東にあってな……まあ、その関係で帰りが遅くなるんだわ」


 夏季休暇だと思っておけ、そう教官は続けた。

 その言葉を聞きながら、ノードは早速どう過ごすか算段を立て始めた。



§


 その後、事前の連絡通りに大規模な訓練が鉄竜騎士団の面々に通達された。そして同時にノードには長期の休暇を与える旨が告げられた。

 教官からは、「休み明けに腕が落ちていたら只では済まさん」と釘を刺され、先輩の青年竜騎士には、「長期休暇やったじゃねーか。どう過ごすんだ?」という問いをかけられた。以前のように「依頼を受ける」と答えると再び呆れられた。

 そしてそれからの日々も恙無くおわり、ノードは無事に長期休暇(夏休み)に入ったのである。


 ノードは長期休暇の過ごし方を、先輩の青年竜騎士に告げたように冒険者としての活動に使うことにしていた。


 初日から、ノードは冒険者ギルドで討伐依頼を受けた。

 水晶級冒険者クリスタルの依頼で、殺人蜜蜂キラービーが繁殖してしまった森から、巣を退治してくれという依頼だった。

 半年振りの本格的な討伐依頼であるため、ノードは念を入れて殺人蜜蜂キラービーに関しての情報を集めた。猛毒をもつ魔物であるらしいので、治療薬をしっかりと購入し対策を講じて依頼に臨んだのである。


 結果は、楽勝であった。

 討伐対象は森の中を縄張りにした人の頭部ほどの大きさがある蜂の魔物である。羽音を鳴らして次々と襲いかかってくる殺人蜜蜂キラービーは、その赤と黄色の毒々しい甲殻の尾の先端から突き出た黒い刺のような毒針を、ノードへ突き刺さんとしてくる。

 低級冒険者のもつ鎧であれば、容易く貫通するであろうその攻撃は、果たして鎧に阻まれる以前に、ノードへ近づくことすら出来なかった。

 飛来する殺人蜜蜂キラービーはノードの剣の間合いに入った瞬間、閃光のように振るわれたノードの剣によって切り裂かれる。

 甲虫に分類される殺人蜜蜂キラービーの甲殻は堅固だと聞いていたが、ノードの剣はいとも容易く切り裂いた。

 翠の閃光が煌めく度に殺人蜜蜂キラービーは数を減らし、ノードの歩いた後には虫の死骸が転がった。

 巣を見つけたノードは、親衛隊と呼ばれる一際巨大な殺人蜜蜂キラービーと女王蜂とも戦い、やはりこれらを鎧袖一触に蹴散らした。

 蜜蜂の羽根や、巣から採取した黄金蜂蜜ゴールドハニーと蜜蝋が副産物として手に入った。羽根は矢羽として、黄金蜂蜜ゴールドハニーは嗜好品として高い需要がある。


 帰還後、ギルドで素材の売却金と報酬を受け取り、ノードは家に帰った。

 依頼のために往復で都合四日かかったが、戦闘はものの数時間で終わったために、殆どが移動時間であった。

 一部を売却せずに持ち帰った、黄金蜂蜜ゴールドハニーを手土産にノードが帰宅すると、扉を開ける前から中から鳴き声が聞こえた。

 ニュートだろう、そう予想しながら扉を開けたノードの胸元に、強い衝撃が襲う。


「きゃぅぅう!? きゃぅぅう!?」


 その正体は、過たず狙いを射ていた。ニュートである。

 しかし、ノードにも唯一予想外のことがあった。

 それはニュートの様子だ。

 まるでパニックでも起こしたかのように、ノードの胸元に力強くグリグリと身体を擦り寄せてくる。しかしその表情は不安に染まっており、甘えるという感じではない。


 ノードはニュートを追っ掛けてきた妹のアイリスに事情を聞いてみた。

 ニュートの背中、深緑の色をした鱗を優しい手つきで撫でながらアイリスは語った。

 彼女曰く、ノードが出掛けたのが原因だという。

 ノードが冒険に出掛けてからのことだ。

 初日は問題なかったが、二日目には家中をノードを求めて探し回り、三日目には不安そうに鳴き声を上げ、そして四日目の今日はご飯も食べなかった。アイリスが構っている間は多少ましになったが、それでも不安そうにしており、そして先程、急に鳴き声を上げて玄関の方に飛び立ったかと思えば、その直後にノードが帰ってきた。ということらしかった。


「お兄ちゃんが居なくて寂しかったのよね」


 そうアイリスが話を締めた頃には、ニュートも大分落ち着きを取り戻していたが、ノードが引き離そうとしてもニュートはそれを嫌がった。

 仕方がないので、ノードはお土産の黄金蜂蜜ゴールドハニーを詰めた瓶をアイリスに預けたあと、四肢でしかと胴にしがみついたニュートを抱えながら、自室へと向かった。


 その日の晩、ノードは、ニュートとアイリスと合わせて、二人と一匹でベッドに入り眠ることになった。

 翌朝、再び悪夢に魘されて目が覚めたノードの上には、一匹と一人が乗っかっていた。


§


「あっはっは、そりゃ災難だったねぇ」

「先生、笑いごとじゃないですよ……」


 翌日、ノードは王都の研究施設にいた。

 ニュートの観察日記を記した日報を提出するとともに、先日の出来事──ニュートが数日ノードと離れただけでパニックになった事件──について相談に訪れたのだ。


 煉瓦造りの建物の中、大量の資料が並ぶ棚に囲まれた部屋の中でノードはある人と会話をしていた。

 その人物は、白衣を着ていた。金髪の柔和な印象を与える男性で、金色の豊かな髪を中央で左右に分けている。顔には近視なのだろう、銀縁の眼鏡を掛けている。

 年の頃は三十くらいだろうか。日に焼けていない学者然とした風貌は、知性を感じさせる印象を与えていたが、この手の人種と付き合いが乏しいノードには年齢が上手く掴めなかった。

 その人物こそが、ノードが幼竜の観察日記を報告していた飛竜研究者である。

 王国の飛竜研究者として、鉄竜騎士団と協力して飼育の研究をしている彼──ノードは名前を聞かされていたが、専ら「先生」と呼んでいた。


「先生、どうにかなりませんか」

「どうにもならないねぇ……」


 どうにか、とはニュートのことである。

 昨夜一晩くっついて寝たことで、今日はいつも通りの振る舞いに戻ったニュートだったが、心なしかノードの居場所を気にしているようにノードは感じていた。


「しかし、依頼で遠出する度にこれじゃあ困りますよ」


 ノードが心配しているのは、昨日の出来事である。

 たった四日会わなかった程度で、ここまで取り乱すとは、ノードは予想もしていなかったのである。

 特に最近はノードだけでなく、妹のアイリスにもよく懐いていたから、何の心配もないとノードは考えていたのだ。それが丸っきり外れたのである。


「仕方ないんじゃないの、まだ小さいんだし?」

「いや、そりゃそうですが……」


 確かに、ニュートは成長を遂げた。

 身体は大きくなったし、躾も順調で、ノードのいうことを聞くようになり始めていた。アイリスとも仲が良く、休日にノードが半日ほど家を空けていても、何の問題も無かった。

 それゆえにノードは冒険者として活動を期間限定的ながら再開させたのだが、これではおちおち遠くに行くことすら出来ない。


「身体は大きくなったとは言えど、その飛竜はまだ生まれてから半年ちょっとしか経ってないんだ。人を背に乗せられるようになるまで二年はかかる。そう考えると、その飛竜()はまだまだ赤子みたいなものだよ」

「……成る程」


 確かに、仮に背に乗せられるようになる年齢が十八だとすると、現在のニュートはまだ四つか五つである。

 人間であれば、現在六つのアイリスよりもまだ幼い、ということだ。

 ノードは更に年下の弟妹たちを想像して、親離れが出来てなくても仕方ないか、と考えた。


「それに一年、あと半年も経てば、その飛竜は身体が大きくなって家の中では飼えなくなるよ。そしたら自然と親離れ出来るようになるさ」

「しかし……」


 確かに、あと半年すれば、さらにニュートの身体は大きくなるだろう。仮に今の倍だとすれば、胴部だけでノードと同じくらいに大きくなる計算だ。尻尾や翼などの大きさも計算すると、フェリス家の邸宅はそのときのニュートには手狭だろう。

 となれば当然、ニュートは住む場所を変えなければならなくなる。その場合、新たな家は鉄竜騎士団の竜舎だ。

「仲間の飛竜に囲まれたら寂しさも薄れるだろうさ」とは先生の言葉だ。

 しかし、とノードは話を続ける。


「それは半年も後でしょう? 私は今困ってるんですよ。まさか冒険に連れて行くわけにもいかないし」

「連れて行けばいいじゃないか」

「え?」

「一体何が問題なんだい」

「…………餌とか?」

「君が狩った獲物を与えればいいじゃないか」


 呆れたような視線をノードに向けて、先生は言った。

 一方ノードは困惑気味である。


「うん、そうだな。我ながら良いアイデアだ。たしか飛竜は子供に狩りを教えるというし……ノード君、やりたまえ!」


 そうこうしている間に、ノードを見えない存在のように扱い、先生は自分一人で勝手に話を進めていく。

 ノードが口を挟む暇もなく、ニュートを冒険に連れていけという結論が導き出された。

 先生は「ちょっと待ってなさい」と運動不足の学者らしからぬフットワークで部屋を飛び出したかと思うと、小一時間もしないうちに戻ってきた。その手には一枚の書類があり、そこには「幼竜を連れて狩りに出掛けその様子を報告すること」といった内容が書かれていた。

 書類には、先生の物と判る押印がされており……つまりそれは正式な命令であった。

というわけで長期休暇(夏休み)編だ!

現実にはそろそろ夏終わるけども。

でもギリギリ8月だからセーフ!

8月中には長期休暇の話は終わらせる(予定)


ちなみに作者は永遠に夏休みです。ヤバい。

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