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貧乏貴族ノードの冒険譚  作者: 黒川彰一(zip少輔)
第二章 見習い竜騎士ノード

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3 休日の過ごし方

ポイントが大部高まってきました。これも読者の皆様のお陰です。


 鉄竜騎士団は、騎士団を精鋭のみで構成している。

 しかし、いくら鋭い切れ味を見せる名剣だからといって、手入れを怠れば錆び付き、刃零れ、やがて蓄積した鋼の疲労に耐えきれず折れてしまうだろう。

 鋼で出来た剣や鎧といった武具でさえそうなのだから、況してや生身の人間など言わずもがな、である。


 体調の管理として、必ず週に一度は休暇を取ることが、鉄竜騎士団の騎士団員には命ぜられていた。

 それは、早く一人前の竜騎士足れと、教官である鉄竜騎士団の騎士から教育を受けているノードとて同様である。

 訓練の都合上、教官と休みが被っていた方が何かと都合がよくなるため、ノードは教官に合わせて、休みを取ることが多い。

 教官は週の真ん中に休むというのでノードもそれに合わせて休むようにしていた。


「休日には何か予定があるのか?」


 場所はハミル王国の王都。北東に位置する鉄竜騎士団の駐屯地の中に建てられた兵舎で、一人の鉄竜騎士団員がノードに話し掛けた。

 二十代中盤くらいだろうか、ノードを除けば鉄竜騎士団の中では若い部類に入るその竜騎士は、世間話のつもりでノードに休日の予定を聞いた。

 特に意味はない。強いて言えばその竜騎士は、自分の倍近くを生きている鉄竜騎士団の古参竜騎士──指導教官のキツイ扱きにも耐えて、逃げ出さずに鍛練に励んでいるノードのことが気に入っていたからだろう。

 その青年竜騎士だけでなく、根性があり、飛竜の巣に若輩ながら潜り込む勇気を見せたノードのことを、それなりに評価している騎士団員は多い。

 正式任官出来れば、自分の後輩として面倒をみるに吝かではないと思って貰えるほどには、ノードは思いのほか、鉄竜騎士団に受け入れられていた。


 そしてその、当のノードは話しかけてきた先輩の青年竜騎士の問いに対して、元気良く答えた。


「はい、冒険者として依頼クエストを受けてきます」

「………ん?」


 聞き間違えか? 青年竜騎士はもう一度聞き直す。

 しかし、やはり返ってくるのは同じ答えであった。


「いやいやいや、休みの日に働いてどうするんだよ。そりゃあ俺だって鍛練は続けるけど、休むときには休まねぇと」


 青年竜騎士は、顔の前で手のひらを左右にふって、ノードの行動に指摘ツッコミを入れる。

 その言には、ノードも理解がいく。確かに、毎日身体に溜まる疲労は、定期的に休まないと蓄積する一方だ。

 怪我をしても回復魔法で治りはするが、魔法とて万能ではない。体力は回復しないのだ。

 今は平時だが、一度戦火が王国を覆えば竜騎士は過酷な任務に臨むことになる。

 そのとき、都合良く回復魔法の治療を受けられるとは限らないし、何よりもいざという時に身体の調子が整っていない等という失態は許されない。

 何時如何なる時も、最大限のパフォーマンスを発揮出来るように、自分で身体の調子を整えるということも、ノードには求められているのだ。


「いや、それは分かってはいるんですが」

「だったら尚更キチンと休まねえと」


 だが、ノードにも事情というものはある。

 未だにフェリス家の借金は残り続けているし、借金返済だけでなくとも、家族のためにももっと稼ぎたい。

 ノードはその一心で、この一年以上を不撓不屈の精神で乗り越えてきた。

 それこそほぼ毎日、何かしらの依頼を請け続ける生活をしていたのだ。

 だがそれがいけなかったのかもしれない。


「なんかもう性分になっちゃって、働いてないと落ち着かないんですよ」

「…………」


 若くして仕事中毒ワーカーホリックになってしまった後輩に、何と声を掛けたらよいか分からず、青年竜騎士は無言のまま兵舎に立ち尽くした。


§


 休みの日、竜騎士の訓練から解放されたノードがするのは、やはり金策である。

 しかし、残念ながら特殊技能を持ち合わせていないノードに出来るのは、自分の身体を資本に金を稼ぐことだけである。

 もし魔法が使えたり、錬金術で魔法薬ポーションを作れたりしたら、もっと金策の幅が広がるのだが。

 ノードはそう考えるものの、無理だろうなとその考えを否定する。

 魔法と呼ばれる技術は、学ぼうとするならば王国の魔術学院に入学するか、魔術師に直接弟子入りするしかない。

 その両方に必要なものは、高い魔法の適性であり、それは幼少期には技能としてはっきりと発現する。

 ノードが剣をもてば、どのように振るえばよいか、重心はどうか、刃筋を立てて切るにはどうするかなどを、長年の培った経験から理解出来るように。

 『魔力』というものに生まれてから自然に親しんできた彼ら魔法使いの卵たちは、誰に習うでも無く魔法的な現象を行使できるのだ。

 それが魔法適性であり、才能を示すことが魔道を学ぶ条件だった。ノードは幼少からそんな体験をしたことは無いので、魔法の適性は無いのだろう。


 だが、例え才能が無かったとしても、魔法を使えないわけではない。赤子が地を這いながら、やがて成長して二本の足で地に立てるように、魔道の知識は学ぶことは出来るのだ。

 魔力の扱いに長けてなくとも、長い時間をかければ魔法が使えるということは、良く知られていた。

 才能の違いというのは残酷故に、強力な魔法──例えば視界一杯を焼き尽くす【獄炎】や相手を極寒の冷気で凍てつかせる【氷棺葬送】などの大呪文──を使えるとは限らない。

 だが、最低でも小さな火を起こしたりすることは出来るし、大抵の人は努力次第で初級の魔法を覚えることが可能だということを、ノードは知っていた。

 問題は、そんな凡人に魔法を手取り足取り教えてくれる物好きはいないということだ。それでも無理に学びたければ、謝礼金──それも目玉の飛び出る額を払う必要がある。


 魔法で儲けようとしても、そのためにはやはり先立つものが要る。

 世の中とは無情なものだ。ノードはそう考えながら冒険者ギルドの扉を潜った。


§


 冒険者ギルドの建物は、何時もと変わらない。

 ガヤガヤと活気のある喧騒は絶えず、市中の競り市もかくやというようなやり取りを帳場カウンターで繰り広げる。

 竜騎士の集まる鉄竜騎士団の駐屯地も喧騒が絶えることは無いが、それとは趣が違うな、とノードは感じていた。

 鉄竜騎士団は、飛竜がいたり訓練をしたりと騒音もあるが、それは必要な音である。だから、点呼の際などはシン、と静まることもある。いわば制御された喧騒なのだろう。


 翻って、冒険者ギルドのそれは狂乱カオスの一言に尽きる。

 押し合い圧し合いせめぎ合い、ぶつかり蹴飛ばし吹き飛ばす。

 抜く(・・)ことこそ無いが、あちこちで殴り合いが発生。

 ギルドの職員も止めることはせず、『外でやれ!』と叫ぶ始末。


 その騒ぎに巻き込まれないように、ノードは上手く人混みをすり抜けて、依頼を選定した。

 ノードは騎士団の休暇(それも一日)を利用して依頼を請けるようにしていたため、長期の依頼は勿論、遠方に出向く類いの依頼を請けることが出来なかった。

 なので王都近郊か、もしくは城門内が依頼場所となる依頼クエストばかりを、最近のノードは請けていた。


 水晶級冒険者クリスタルからは、冒険者としての一定の信頼があるために請けられる依頼の幅が拡がる。

 そのため、意外と王都内での依頼というのは結構ある。

 最近ノードがやったその手の依頼でいうなら、ギルドから出ていた『下水道の害獣討伐の引率求む!』や商業ギルドからの依頼である『荷物搬入に人手が足りない!』などだ。

 荷物運びの依頼を水晶級冒険者クリスタルに出すのか? とノードは疑問を抱きつつその場所へ向かったが、高価な品物を扱う場合、窃盗ちょろまかしされないようにある程度信頼のある冒険者に依頼を出すのは普通らしい。

「冒険者なら体力もあるしね」依頼主である商家の男の言う通り、ノードは大量の荷物をあっという間に運びきってしまった。

 なるほど、確かにこうして仕事を素早く済ませられるなら、一日分の依頼料を払ってもむしろ得かもしれない。成長した冒険者には労働者としての需要があるのだと、ノードはそのとき知った。

 これ迄は、出来るだけ稼ぎの良い採取や討伐の依頼を多く請けていたが、冒険者の本質とは“何でも屋“だ。

 たまに『黄金蜂蜜を使った焼き菓子クッキーが食べたい』のような奇妙な依頼が出ていることが多いが、これも金銭で労働力という費用コストを購う一種の手段なのだ。

 ノードはそのことに全く不満を抱くことはなかった。

 内容が何であれ、重要なのは金が稼げることだったからだ。


 冒険者ギルドでは毎日沢山の依頼が追加されていくが、仕事の条件を絞ってしまえば。“依頼が無い“という事態もあり得る。

 そんな時は、素直に諦めて自由掲示板フリーボードの依頼や玉石級冒険者ストーン以下の依頼を請けるようにしているのだが、どうやら本日は運があったようだ。


 ノードは水晶級冒険者クリスタル向けの、目当ての依頼書を手に取ると、帳場カウンターへと歩いていった。


§


 依頼を達成し、フェリス家邸宅に帰宅したばかりのノードの元に、飛び込んでくる影が一つ。


「うおっと、危ないな」

「くるぅ、きゅう~♪」


 影の正体は、緑の鱗を持つ飛竜の子ども、ニュートだ。

 ニュートを連れ立って歩くわけにもいかないので、ノードは休日に小銭稼ぎをする際は、この幼竜をフェリス家に預けたまま出掛けるようにしていた。


「ちょっと、ニュート、どこ行くの……ってお帰りなさい」

「ただいま」

「きゅる~」


 胸元に飛び込んできたニュートを追いかけるようにして、一人の少女がフェリス家の玄関広間(ホール)に飛び出してきた。

 幼竜がノードの胸の中で、抱き抱えられるようにしているのを見て、ノードに声をかけてきた。


「面倒見ててくれたのか、ありがとうアイリス」

「かまわないわ。ニュートとは友だちだもの。ね、ニュート?」

「きゅい!」


 ノードと同じく、親から受け継いだ金色の髪を伸ばした可愛らしい少女は、ノードの妹であるアイリスだ。

 生まれてから歳を六つ数えるその妹は、何故か深緑の鱗をもつ幼竜にご執心で、フェリス家の面々の中では最もニュートに構っていた。

 ニュート、という名前も彼女が名付けたものであり、積極的に触れあっているためか、ニュートとはかなり仲が良い。

 名前に関しては、ノードが

ニュート(いもり)だって?」と聞くと

竜人ドラゴニュートのニュートよ! お兄ちゃんのバカ!」

 と機嫌を大いに損なってしまい、その後彼女の機嫌をとるのに苦労した。

 母のマリアいわく、竜人ドラゴニュートのお伽噺を聞かせて以来、その話を気に入り何度も話をせがんでいたところに、ノードが飛竜の雛を連れてきた形になったらしい。


 その話は有名なのでノードも知っていた。

 滅亡の危機に瀕したある王国が、一人の戦士によって助けられる。その正体は王国の姫に恋をした竜が化けた姿だった。

 という内容だ。最後は色々あってハッピーエンドで結ばれる話だった筈だが、自分とニュートをお伽噺に当てはめているのだろうか。

 

「アイリス、ニュートは……」

「お帰りなさいませ、ノード様」

「ただいま、アレク」

「お食事の用意が出来ておりますのでお早めに」

「わかった着替えたら直ぐ行くよ」

「ニュート! 一緒に行きましょ!」

「きゅぅ?」


 ノードがアイリスに話しかけようとしたとき、執事服を着た家令のアレクがノードたちに声を掛けた。

 それを受けてアイリスが両手を広げるようにしてニュートを迎え入れようとするが、ニュートは伸ばした首をノードとアイリスを交互に見比べるように何度も動かす。

 どうやら胸元でノードに抱きつくようにした幼竜は、ノードとアイリスどちらを優先したものかと逡巡しているらしい。

 大好きな(ノード)か、大好きな友だち(アイリス)か、甲乙付けがたいのか決めかねるニュートに対して、ノードは首を少し動かして合図を出した。


 するとニュートは承知したとばかりに「きゅ~!」と一度甲高く鳴いてから、ノードの胸元から飛び立った。

 アイリスとニュートは歩調をあわせるようにして、同じ速度で連れ添うように食堂へと移動していった。


 ノードはその様子を見て「やれやれ」と一言呟くと、着替えるために自室へと向かった。


本日中にもう一話更新します(予定)

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