表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
貧乏貴族ノードの冒険譚  作者: 黒川彰一(zip少輔)
第二章 見習い竜騎士ノード
25/63

1 見習い竜騎士ノードの日常(上)

5000字弱になったので投稿。

やっぱりキリの良い数字の方が、文字計算しやすいきがする。


 朝早く、太陽が王都の街並みを朝焼けに照らしだす頃にはノードは目覚める。

 そして朝食を生活の拠点であるフェリス家で取れば、その後は登団である。


 ノードは、朝の陽の光に照らされた石畳の道を歩く。

 装いは冒険者のときと同じである。鱗鎧スケイルアーマーを身に付け、腰には翆玉鋼ジェドライトの剣を差し、そして唯一の違いとして、以前使用していた外套ローブに代わり、灰色の外套ローブを纏っていた。


 この外套ローブは鉄竜騎士団から支給されたものであり、鉄竜騎士団の団員が使用する外套ローブと同じ素材である。

 ノードの纏う外套ローブには、正規品との違いがいくつかあった。

 先ず、背中が無地であった。正規品だと背中に鉄竜騎士団の紋章が大きく入っているのだが、ノードはまだ見習いであるため、その紋章が入っていなかった。

 そして、顔をすっぽりと覆うほどの大きな帽子フードが追加されていることであり、さらに帽子フードの中にはちょっとした工夫がされていた。

 帽子フードの中には、外套ローブの内側に縫い付けられた袋のような空間が設けられていた。それが一体何の役目かというと……


 ゴソゴソ


 丁度、石畳の上を歩くノードの耳に、外套ローブの内側から衣擦れの音が聞こえた。

 構わずに歩を進めるノードの耳元に、音の正体が近づいてくる。


「きゅい」


 衣擦れの音と共に現れた正体、それは緑の幼竜、ニュートであった。

 この幼竜は、何時なんどきもノードと離れたくないのか、寝食のときも、ノードが風呂に入るときも一緒である。ノードとしては離れて欲しいのだが、ゴルドウィン副団長から「サンプルとして一緒に暮らしてみろ」と命令されているため、幼竜の行動を容認していた。

 当然、そのべったり具合は移動のときも同様であり、流石に抱えて動くのも困るので相談したところ、帽子フードの奥、外套ローブの内側に縫い付けられた小袋ポケットが用意された。

 ノードが移動中は、ニュートはこの小袋ポケットの中に入り込む、という仕組みである。

 しかし、寝ているときはともかく、起きているときは基本的に暇なのか、好奇心が強いのか、こうして帽子フードへと這い出て来てしまう。

 ノードは、出来るだけ飛竜の姿を隠そうと、閑静な道を登団の道として使っているのだが、今もこうして、遠くから聞こえる早朝の活気──大通りの方角から聞こえる──が気になるのか、帽子フードの外に顔を出そうとしている。

 幼竜であるニュートからすれば、帽子フードの中から見える外の景色は不思議で一杯なのだろう、ノードの顔の横から小さな顔を覗かせて首を動かし、右に左に顔を動かしている。


 すると、ノードの進行方向に人影が見えた。


 世間には、お伽噺にも出てくる飛竜の存在はよく知られている。しかし、一歩踏み込んで生態に関してとなると冒険者や騎士などの一部、或いは研究者などが知る程度であり、さらに幼少期の性格や懐き辛さなど知る人ぞ知る稀な知識でしかない。

 それゆえノードの帽子フードの中から幼竜が首を出し、向かいを歩く通行人に「きゃい!」と挨拶をして鳴いても眼を真ん丸に開く程度で済むかもしれない。

 だが、出来るだけ情報の拡散は避けた方が良い筈だ。ノードはそう考えて努めてニュートの存在は秘匿するようにしていた。

 まあ、もっとも既に親戚や鉄竜騎士団の関係者などで噂されてしまっていることも、ノードは知っていたが。

 

 帽子フードの端を、手で押さえつけるようにしてニュートが外から見えないように隠す。

 スレ違う通行人は、帽子フードの下で蠢く某かの存在に気付き疑問符を頭に浮かべつつも、猫か何かを肩に乗せているのだろうと勝手に納得していった。


 人影が見えなくなると、ノードは帽子フードを抑えていた手を離した。

 するとその中からはニュートが現れるのだが、その幼竜は機嫌を損なうどころか、寧ろ機嫌が良さそうだった。

「きゅい! きゅい!」と喜んでいるときの鳴き声を上げるあたり、遊んで貰ったとでも勘違いしているのかも知れない。


 ノードはひとの気苦労もよく知らない無邪気な幼竜の鳴き声を音楽(BGM)として耳にしながら、鉄竜騎士団しょくばへ向かう道程を歩き続けた。


§


 鉄竜騎士団の駐屯地は、幾つかあるが、最も大きな物は王都近郊にある。

 広い敷地には鍛練場、団員が詰める兵舎、そして飛竜を繋養けいようする竜舎等が置かれており、竜騎士がそこで日々厳しい鍛練を繰り広げていた。

 機密区画としても指定されており警備の騎士が近付くものには誰何し、場合によっては隠密スパイとして厳しい取り調べも待っている。

 ノードも、入団後はしばらく、研究観察兼鍛練のためにそこへ住み込んでいた。

 しかしある程度の資料データが揃い、そしてノードの基礎体力も最低限に達したとして、最近では専ら家からの通いになっていた。

 勿論、これには「匂いが似ている家族にはどんな反応を示すのか」という実験の要素もあったのだが、実は「ニューちゃんに会いたい!」というノードの妹、アイリスの嘆願を受けた父親のアルバートが、旧知の仲であるゴルドウィン副団長に交渉した結果であるとノードは知っていた。

 まあ、鉄竜騎士団の団員もその多くは王都に居を構え、そこから通いなので、ノードが特別扱いというよりは、特別な措置を解除されたという方が近かった。


 ノードはその駐屯地の門番を務める警備の騎士(彼らは鉄竜騎士団所属ではあるが、竜騎士ではない)に挨拶を告げると、その門を潜った。


 鉄竜騎士団の駐屯地──本部は、外部から覗けないように高い城壁で囲まれている。

 その城壁は分厚く、そして堅固であり、その飛竜の翼のように広げられていた。

 その城壁は、王都を囲む城壁と何ら変わらない。

 それもその筈で、鉄竜騎士団の駐屯地は、王都近郊に位置しているが、厳密には王都を囲む城壁の一部だからだ。


 鉄竜騎士団の駐屯地は王都の一角、王城のある北側の、更に北東方面の城壁を拡張して作られた『出丸』とでも表現すべき場所だった。

 山中に築かれたそれは、鉄竜騎士団の黎明期、先々代の国王が政策の一部として行ったものである。後に竜騎士を用いて戦争に勝利し、武竜王と称されたその王は、あるとき王都の拡張工事を行った。王都の人口が増え、新たな区画を造るために城壁を拡げる必要があったからだ。


 ハミル王国の王都は、その北側に王城がある構造になっている。

 これは王都が築かれた当初、城を防衛しやすいように山が存在する北東側を天然の防壁とするためであったが、拡張するとなると、その場所は、人々の棲み家としては不適であった。

 そのため時代が降る毎に、王都は度々拡張されていったのだが、その方向は常に北東以外であり、街並みが広がった他の方角に対して、北東側は建国当初から殆ど変化していなかった。

 防衛時には、王都に立ち並ぶ建物などは防壁としても作用する。また、拡張の度に外側に拡がることで、王都の内部には内門が幾つも出来ていったことを考えると、敷地が拡がらない山側は、相対的に弱い箇所になってしまったと言えた。

 歴代の国王も、出来るだけ城壁を厚くしたり防衛のための塔を建設したりと工夫を凝らしたが、北東側の山だけは殆ど改造がなされていなかった。

 当然であるが、山を切り拓く労力というものは莫大なものだ。

 防衛の為とはいえ、大規模な土地の造成にかかる費用は目が眩むほどのものであり、問題は先送りになったのである。

 その山は、傾斜がきつく容易には登れないため要害であり、重い鎧を着た重装騎士は登ることが出来ない。登れるのは山地になれた軽装の兵だけである。

 当初はそうして、北東側に配置できる兵数を減らし、そちらから攻められる可能性を減らす目的であったのだが、むしろある時点からは、強固な他の方面から攻めるよりも、兵種が限定されても、北東から奇襲したほうが容易く攻められる箇所となりかねなかったのである。

 その弱点を解決したのが山中に築かれた出丸であった。

 竜騎士はその絶対数が少ないため、通常の騎士団と比べて必要とする用地面積が狭くて済む。それでいてその戦力は絶大で、そして空も翔べるために、山の上を遊弋ゆうよくすれば、敵の偵察と山中の警戒が出来る拠点としても活躍する。

 山を切り拓く費用も、大規模な区画拡張をするような工事に比べれば驚くほど安かった。

 結果、山中に築かれたその出丸は、王都の防衛力を何重にも高め、再び北東方面を堅固な要害と化させる結果となったのだ。


 問題は、その険しい山中の出丸まで、徒歩で移動する必要がある、ということだったが。

 本来ならば、問題はない。

 山中といっても、詰めるのは殆ど竜騎士だけであるし、彼ら竜騎士は空を移動出来る(とべる)

 物資の搬入も、山中でも簡単に運べる装置が開発されているし、そもそも飛竜の食事などは、麓側の駐屯地で済まさせる。

 出丸へ徒歩で移動するのは、籠城用の保存食料などの補給だが、これは緊急時や装置が故障しても、飛竜で運ばせれば良い。

 強いていうなら出丸の施設の整備などに駆り出される人員だったが、それも頻度は高くない。

 そう、つまりノードのように、竜騎士(見習い)として毎日登団しなければならないのに、麓から空を飛んで移動することが出来ない哀れな存在だけが、毎日毎日地獄の往復登山をするのである。


「……はぁ……はぁ……」


 山道を登り終えたノードの全身は、汗だくになっていた。

 肩で荒く息をしているが、この程度の疲労で済んでいるのは、入団当初の毎日の地獄の走り込み(この時だけは泊まり込みで良かったとノードは感謝した)による心肺機能の強化と、休暇のとき以外は毎日登団のために山登りをさせられるため、必然的に起きた山歩きの技能向上である。


「きゅ、きゅーい♪」


 疲労しているノードと対照的なのが、幼竜のニュートだ。

 深緑の鱗をもつこの飛竜の子供は、鱗の色が関係するのかしないのか、王都の後背を守る緑深き山の中が楽しいらしい。

 ひょっとしたらノードに帽子フードの中へと押し込まれず、比較的自由に飛び回れるからかもしれない。

 道中、流石のノードも、成長して産まれたときよりも一回りも二回りも大きくなったニュートの体重が加算されたまま山登りをしたくはなかった。

 それゆえ、時折休憩に止まり木として肩に乗る以外には、ニュートは幼竜ながらも立派な翼をはためかせ、朝露の残る山の木々の間を、器用に飛び回っていたのである。

 そして登り終えた今は、荒れた呼吸を整えようとしているノードの頭に乗っかろうとして、ノードから叱られているところだった。

 何度か深呼吸をすることで、呼吸を整えたノードは、水分補給を済ませてから兵舎へと向かった。

 出丸には、籠城に備えて地下水を引き込む仕組みがある。そのお陰で重い水を毎日持参しなくて良いことに、心からノードは感謝した。



§


 兵舎では、決まった時間になると点呼がとられる。

 軍学校は勿論、各騎士団でもしっかり行われ、欠員がいないか確認が取られる。これに万が一でも遅刻してしまえば大目玉で、ノードが遅刻した日には訓練担当および先輩の竜騎士から、死んだ方が楽になれると思うくらいの扱きを受けることになる。(回復魔法があるので、簡単に死ぬこともできない)

 ノードは一度、雨の降る日に濡れた山道で時間を大幅に食い、それは言葉に出来ない程酷い目にあったため、時間には余裕をもって登団するようにしていた。


「──ノード!」

「はい!」

「きゅい!」


 点呼に合わせて、返事をしたノードの声に合わせるようにニュートが鳴き声を上げる。

 この幼竜は、どうもこの点呼を遊びか何かと勘違いしてるようで、いつしかノードの声に合わせて鳴くようになってしまった。

 外套ローブを脱いだノードの鎧の肩部分に乗っかるようにして、元気良く鳴き声を上げる幼竜に、はじめは他の団員も驚いているような素振りを見せたものだが、最近では全く意に介されなくなってきた。


 点呼が終わると、その日の連絡事項などが通達される。

 それらは正規の騎士に向けた内容であり、入団してしばらく経つも未だに見習いの期間が終わらないノードには、余り関係の無いことだった。とはいえ話に集中していないと、どんな目にあうかは想像に難くないのでノードは毎日集中して話を聞いていた。


「──以上、では解散!」


 訓示などが終われば、朝の点呼は終了である。

 その後は各々の任務などを担当するが、ノードは見習いのために訓練担当の教官に指示を仰ぐ。

 その教官の指示は、何時も通りの内容だった。

 即ち──死ぬほど走った後に死ぬほど乱取り(ボコられ)、そして座学である。

うーん、説明多すぎかよ?

ちなみに城云々に関してはモデルみたいなのはあります。作者が昔、夢中になって読み耽った小説ですが、流石に分からないとは思います(原型を留めているかも不明)


書き溜めはここまでしかないので、次は書いたら投稿します。

タイトルでも分かるとは思いますが、次は日常(下)になると思います。文字数次第ではこれに結合するかもしれません。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] > ちなみに城云々に関してはモデルみたいなのはあります。 →デルフィニア戦記?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ