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貧乏貴族ノードの冒険譚  作者: 黒川彰一(zip少輔)
第一章 貧乏貴族ノード
2/63

2 ギルドへ登録

二話目投稿。

 王都の外れにある冒険者ギルドは、その用途に相応しい佇まいをしていた。木造の建物ではあるが、堅牢な造りであり、成る程、これなら荒くれ者である冒険者が出入りする建物に相応しいだろう。

 冒険者ギルドの紋章が象られた看板が据え付けられた扉を押せば、軋んだ音と共にギルド内の喧騒がわっと耳に入ってきた。

 冒険者たちが集まる酒場は、大体が都市外周に存在しているが、それは巷で言われている理由──モンスターが出たときの対応がしやすいだとか、汚れた格好で中心部まで出入りされると困るから──というよりも、案外単純に騒音が激しいからかな、とノードは考えた。

 多分、外にいたときにそれほど騒々しく無かったのは、【静寂サイレント】の魔法か何かが建物にかけられているのだろう。しかしそれも扉を開けば外に漏れてしまう。人の出入りが激しい冒険者ギルドでは、自然と秩序が好まれる中心街に近いところには不向きなのだ。


 ノードはそんなことを考えつつ、冒険者ギルド内部の様子を眺めた。

 入り口から真正面。真っ直ぐに進んだところには、大きな帳場カウンターが据え付けられている。そこには何人もの冒険者ギルドの職員が揃いの制服に身を包んで働いていた。

 王都だけあって、ここの冒険者ギルドは規模が大きいのだろう。帳場カウンターに並んだ十人近くの冒険者ギルドの職員たちは、先ほどからひっきりなしに手を動かして書類の整理や来客の対応に追われていた。


 帳場カウンターは入り口から見て右手側。そちらに向かって伸びるように設置されており、一番壁に近い『十番』と書かれた帳場カウンターの向こうには、帳場カウンター内部への出入口なのだろう。『組合職員以外立入禁止スタッフオンリー』と書かれた扉があった。

 反対に入り口から見て左手側。帳場を素通りして進むと奥の空間へと続いており、そこには酒場があった。

 冒険者ギルドは別名が『冒険者の酒場』と呼ばれているくらいで、どの街の冒険者ギルドに行っても、その規模に関わらず、必ず酒場が併設されていると聞いたことがある。

 その理由としては二つの説があった。

 ギルドが出した依頼を受け(正確には仲介)、その報酬を受け取った冒険者たちは小金持ちになっているので、そこでギルドの経営する酒場で飲み食いさせて、再び金銭をギルドへと還元させる狙いがある、という金銭再回収説。

 そして行儀がよくない(荒くれ者の)冒険者が、冒険者ギルドの外で飲み食いして酔って暴れると、彼ら冒険者を管轄する冒険者ギルドに苦情が入るから、せめて目の届く場所にいさせているのだ。という意見の隔離管理説。

 この二大有力説が、その理由と考えられているが、ノード自身はその二つともが正解だと思っている。


 そこまで思考を巡らしていたところで、並んでいた客の列が捌け、他に誰も並んでいない帳場カウンターが出来た。

 ノードはその帳場カウンターへと近付いた。


「冒険者ギルドへようこそ! 本日のご用件は何でしょうか?」


 ノードの生家であるフェリス家に仕える、メイド長ですら文句を付けない完璧な発音と笑顔だった。

 先ほどまで大量の仕事を捌いていて疲労もあるだろうに、それを感じさせない接客に内心感心しながら、ノードは端的に用件を告げた。


「冒険者としての登録をしに来た」


 用件を告げると、冒険者ギルドの職員──受付嬢は笑顔のまま一枚の書類を取り出し、それをノードに差し出した。


「氏名とご自身の技能、またこれ迄の経歴等がございましたら、ご記入下さい。有償での代筆も可能ですが、如何なさいますか?」

「いや、結構だ」


 腐っても貴族家の子弟である。

 最低限の読み書きと、四則演算程度は叩き込まれている。


 ノードは帳場カウンターに備え付けの羽筆ペンをインク壺につけ、サラサラと馴れた手付きで筆を操り、氏名と技能を書類に書き込んだ。

 そして羽筆を元あった場所に戻し、記入し終えた書類を受付嬢へと差し出した。経歴欄には従軍経験などがないため、書くことがなく空白のままだった。技能欄には『剣術』とだけ書いた。


 提出した書類はとくに問題もなく受理された。

 登録料として幾ばくかの金銭──僅かな額だったが、それでも今のフェリス家にはそれを惜しむほどに金がない。なので、ノード自身のなけなしのヘソクリから捻出した──を支払うと、職員が帳場カウンターで何やら作業を始めた。暫くすると作業が終わり、次いでギルドの規約についての説明が始まった。


 受付嬢の説明を要約すると、


 ①冒険者ギルドは依頼者からの依頼を仲介し、冒険者がその依頼を請け負う。達成後、手数料を差し引いた報酬が冒険者へと支払われる。

 ②冒険者は依頼に失敗したとき、原則として違約金を支払う。違約金は報酬に上乗せされ、より高位の冒険者が受注しやすくするために使用される。違約金が発生しないのは、常時貼り出されてある歩合制の依頼のみ。(薬草の採取など)

 ③冒険者ギルドはギルド員の所属を示す身分証としてギルドカードを発行する。これは小さな板状のもので当人しか使用できず、再発行には手数料がかかる。高ランクのギルドカードの紛失には多額の手数料とペナルティが発生する。

 ④ギルドでは冒険者同士のパーティーへの斡旋を行うが、パーティー内での揉め事には関わらない。ただし、窃盗やギルド員同士の殺傷等、刑法に触れる行為が認められた場合、原則としてそのギルド員の身分を剥奪する。

 ⑤身分を剥奪されたギルド員は、基本的にその街のギルドでは一切仕事を請け負えない。ギルドが重大な違反者であると認めた場合、他の街や他国のギルドにも回状をまわすことがある。

 ⑥冒険者ギルドを介さない依頼に関しては、冒険者ギルドは一切関与しない。完全に自己責任である。


 という6つの内容についての説明だった。

 何れも当たり前のことだったが、荒くれ者の多い(ついでに言えば無学者かつ常識のない人間である可能性も高い)冒険者志望の人間には、必要な説明なのだろう。ノードはそう思った。


 冒険者ギルドの規約について説明を受けた後、ノードはギルドカードを受け取った。

 登録したばかりの最底辺の冒険者ギルド員は新人ニュービーと呼ばれる扱いを受けるが、この新人ニュービーは厳密には冒険者ではないらしい。


 冒険者未満の、小銭を払って書類を提出しただけのド素人。

 新人ニュービーはこの後、最低限の研修を兼ねたド新人用の依頼を請け負い、達成して。そこで初めて、正式な冒険者としてのギルドカードが渡されるそうだ。


 ちなみに新人ニュービー用のギルドカードは、木片に名前を刻印しただけの物だった。

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