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貧乏貴族ノードの冒険譚  作者: 黒川彰一(zip少輔)
第一章 貧乏貴族ノード

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16/63

16 水晶花採取

少しずつですか、ブクマが増えていて嬉しいです!

目指せ10人、そして20人!


「へえ……いいじゃないか、誰にだ? やっぱりリセスか?」


 ジニアスの答えを聞いたノードは、からかうような声色でそう尋ねた。

 水晶花は、王都の一部の地域に咲く花であり、花弁と茎が透き通るような見た目をしており、それが水晶のようにも見えるので

そう呼ばれていた。

 水晶花自体は比較的簡単に手にはいるが、それがピンクとなると少し勝手が違う。そしてその意味も。


 通常の水晶花は青みがかった透き通る花弁をしているのだが、特定の時期になると沼地に生息している水晶花だけが、稀にピンク色の花弁となるのだ。


 理由は学者ではないノードには分からなかったが、それでもそのピンク色の水晶花にまつわる話は知っていた。


 昔、とある冒険者が貴族家の令嬢に恋をした。

 しかし、令嬢はその冒険者のことを憎からず想っていたが、貴族の結婚は家同士の結び付きである。

 身分違いの結婚は許されない、そのことを理解していた令嬢は、その冒険者にこう言った。


「貴方が私に捧げることができるのは、水晶花だけなのです」


 イルヴァ大陸では、各国に共通する風習として、花を贈って自分の気持ちを伝えるというものがある。花言葉である。

 そしてその花言葉の内、水晶花の持つ意味は「親愛」である。家族や友人に向ける気持ち以上の、恋は許されない。そう端的に告げ、恋心に蓋をした令嬢であったが、暫くしてその冒険者が現れた。


 「貴方へ水晶花を捧げます」


 その言葉を聞いた令嬢は、冒険者が自分のことを諦めたのだろうと、一抹の安堵と大きな寂しさを覚えながら花を受け取ろうとした。

 しかし、令嬢の目の前に差し出された花は水晶花には違いなかったが、その花弁は鮮やかなピンク色の花びらであった。


 当時、水晶花の花弁は青いものしか存在しないと思われていたが、その冒険者は冒険の果てに沼地でその水晶花を見つけたのだ。

 水晶花であるのに、花弁の色が違う。あり得ないことが目の前に起きた令嬢は、驚きとともに抑えていた感情が溢れだすのを感じた。このピンク色の水晶花のように、自身の“あり得ない“恋を叶えたい。 

 やがてその恋は叶い、冒険者と令嬢は結ばれた。という有名な話である。


 その冒険者が見つけた水晶花の群生地こそが、ハミル王国にある沼地なのである。

 遠くの国で起きたその恋愛物語ラブストーリーは、国を越えてイルヴァの大地に棲む民へと伝わり、そしてハミル王国も例外ではない。


 今でもイルヴァ大陸での水晶花の花言葉は「親愛」だが、ピンクの水晶花は意味が違う。

 その意味は「何時までも貴方が好きです」である。


 照れるジニアスの意図は明瞭だ。幼馴染みのリセスに告白しようというのである。

 むしろ、冒険者になってからそこそこ付き合いのあったノードには、彼等がそういう関係でないことに驚いた。

 冒険中も休憩中もピッタリとくっついて過ごしていたのを見ていたからだ。

 夜営のときこそ、同性のアルミナと寝ていたが、てっきり恋人だと思っていた。


 とはいえ、ノードはそちらの方面が得手とは言えないが、そのノードから見ても、リセスもジニアスを憎からず想っているのは明白だった。ジニアスが告白すれば二つ返事で了承が返ってくるだろう。


 故に


「そういうことなら手伝ってやらないとなあ」


 冒険者をはじめてから出来た、同世代の友人の恋を応援する気持ちも加わって、尚更沼地での依頼にやる気を増したのである。


§


 その後、沼地での依頼を受ける為に、ノードとジニアスは徒党仲間パーティーメンバーを探しに出かけた。

 エルザはノードが、シノとゲイゴスはジニアスが分担して依頼に誘った。


 エルザは休暇中であったので、彼女の宿を訪ねたが留守であった。『依頼の相談。ギルドにて待つ』と、冒険者ギルドに来て欲しい旨をしたためたメモを扉の隙間から投函すると、一度戻り、夜に冒険者ギルドに再び赴いた。当然その間には簡単な依頼で小銭を稼いだのは言うまでもない。


 依頼の達成報告に冒険者ギルドに出向くと、エルザが来ていた。

 残念ながら宿には戻らなかったらしくメモは無駄にはなったが、気にすることもなくノードはエルザに経緯を説明した。


 エルザは「そういうのって憧れるわ」と、うっとりしたようなため息をついた後、二つ返事で依頼への同行を了承した。


 そのままエルザに翌日にギルドで打ち合わせる旨を伝えた後、ノードはジニアスの宿へと向かった。

 ジニアスからは、残念ながらゲイゴスは捕まらなかったと伝えられたが、シノは無事に了承してくれたらしい。

 ノードはエルザと明日冒険者ギルドにいることを告げ、その日は家でぐっすりと眠った。


 翌朝、早朝のギルドに何時もより早く着くと、程なくして皆が集まった。

 どうやらゲイゴスは既に別の依頼へと出ていたらしく、今回の依頼はノード、エルザ、ジニアス、シノの四人で請けることになった。

 エルザとジニアスたちの面識は無かったが、お互いに簡単な自己紹介を済ませると、どの依頼をうけるかの協議に入った。


 といっても、今回の目標は第一目標がピンクの水晶花で、第二目標が大蛇サーペントの討伐なので、その二つが満たせそうな依頼を選ぶことにした。


 こう言った自分たちが独自に設定した特定の目標がある場合、現地で達成可能な依頼を複数同時に受注しておくと、効率良く稼げる。

 ジニアスたちは、ノードたちよりも遠方での長期の依頼を受けることが多いので(人数が多いため人手がいる報酬の高い依頼を狙っている)、その辺りの塩梅はノードたち以上に理解していた。


 依頼争奪戦の結果、沼地での簡単な採取依頼を幾つかと、大蛇サーペントと同じく沼地に生息する毒蛇ヴァイパーの毒腺採取の依頼を請ける。

 どうせなら大蛇サーペント討伐も請けたかったが、残念なことにその依頼が出ていることはなかった。

 沼地で必要な装備──特に毒対策と虫除けを確り確認した後、一行は沼地に向けて出発した。


§

   

 一面に広がる湿地帯は、葦やススキが生えていて、黄金色の絨毯が敷き詰められているようだった。

 豊富な栄養が土にあるのだろうか、その背は高く、ちょっとした木くらいの高さがあった。

 ノードの背よりも高いその草の帳は、その向こう側に潜む物を完全に覆い隠してしまっていた。

 沼地の土は柔らかく、足跡が残っている。しかしズブズブと沈むことはなく、十分ノードの体重を支えることができている。

 

 馬車の幌の間から、遠くに見える山から吹かれた風がノードの顔を撫でる。その風はひんやりと気持ちがよく、沼地であるのにジメジメしたものは感じさせない。


「意外と湿度が低いんだな」

「たしかに、もっとジトっとしてるかと思ってた」


 馬車を降りながら呟いたノードの感想に、エルザが相槌をうつ。


「今は秋だからな、多少はましさ。これが夏だと堪らんらしい」 


 軽装に身を包んだシノとジニアスが、続いて降りてきた。

「夏は西方まで出掛けてたけどね」とジニアスは続けて補足をする。

 西方は比較的、夏場でも過ごしやすいとされる地域だ。成る程、ジニアスたちはその辺りも勘定に入れて仕事をしていたのだろう。

「ノードたちはどうしてた?」

「森林と山岳にいたよ」


 夏場は昇格依頼ランクアップクエストのためにその二ヵ所で討伐をしていた。森林では木々が日差しを遮っていたし、山岳地域は標高が高かったから良かったが、もしもそのとき沼地で依頼を請けていたら地獄だったろう。


「よーし、皆準備はいいな? 俺が先導するから後方の警戒は頼んだぜ」


 斥候レンジャーであるシノが徒党パーティーの先頭に立ちながら、そう呼び掛ける。

 沼地での探索が始まった。

 

§


「やっぱり斥候がいると楽ねー」


 何度目かの魔物との遭遇戦、それを奇襲しての一撃で終わらせた後に、付近に群生していた植物の採取を続けながら、エルザが言った。


「まあそれが俺の仕事だしな」


 シノはどの徒党仲間パーティーメンバーよりも手際よく、採取をテキパキと済ませると、他にも何か目につくものが無いか観察しながらそう言った。


「いやあ、俺たちもいつも楽させて貰ってるよ」

「お褒めに与り恐悦至極」


 ジニアスの感謝の言葉に、シノがおどけた調子で返す。

 巫山戯たようでありながら、周囲に注意深く気をやっているのがノードには分かった。


 実際に、斥候としてのシノは大したものだった。

 僅かな痕跡から魔物の存在を察知していたし、その痕跡がどれくらい前かなども大まかではあるが当ててのけた。

 そのお陰で見通しの悪い湿地帯であるにもかかわらず、一方的に奇襲することに成功していた。


 さらに採取する素材も一早く、そして目敏く見付けてくれるので、ノードたちが受注していた依頼は次々と消化されていた。

 その中で倒した魔物には毒蛇ヴァイパーも含まれており、鎧の素材の一つを必要分入手することに成功していた。


「ここは沼地な分痕跡が分かりやすくて楽なもんだ」


 気軽にシノがそう呟く。ノードはその言葉を受けて自分の足元に目を落とす。

 足元には黒々とした沼地の土と、そこを歩いたノードの足跡が残されている。

 ただ、それは一人の分ではなく、他の仲間が移動した足跡や、或いは自分たちが来る以前から残っていた魔物の移動した後らしき痕跡など、実に様々な物が残されている。


 ノードも初歩的な斥候技術は身に付けているが、だからこそ事も無げにさまざまな情報を一瞬で察知して読みとくシノの凄さが分かった。

 ノード程度の技術では、精々どちらに向かったか程度が分かるくらいなものである。


「うちにも斥候レンジャー欲しい……」


 エルザの声を耳に入れながら、真剣に考える。

 玉石級冒険者ストーンの依頼も結構な数を達成してきたノードたちは、早晩水晶級冒険者(クリスタル)への昇格依頼ランクアップクエストを受けることになるだろう。

 そのときは、今度はジニアスたちと歩調を合わせて一緒に昇格依頼ランクアップクエストを請けることもできる。


 しかし、既にジニアスたちの徒党パーティーは五人の仲間がおり、そこにノードとエルザが追加されれば七人である。

 ジニアスの徒党パーティーの構成は、槍兵のゲイゴスと剣士のジニアスが前衛となり、後列に回復役のリセスと弓手のアルミナが後列として戦闘を補助、中列に遊撃のシノがいて柔軟に前衛後衛をカバーするという、バランスの取れた配置だ。


 ノードとエルザは共に手練れの前衛なので、もしジニアスの徒党パーティーに参加しても足を引っ張ることはないが、そうなると今度は後衛の支援が追い付かなくなる。


 一時的な共闘ならともかく、恒常的な徒党パーティーへの参加となると、余りよい結果にはならないかもしれない。

 恐らくそれが分かっているだろうから、ジニアスたちもこれまでそう言った話を持ちかけて来なかったのだろう。


 水晶級冒険者クリスタルへの昇格という短期的な目的ならばいざ知らず、長期的な目標──赤銅級冒険者ブロンズ、そして黒鉄級冒険者アイアンへの昇格も考えると、新たな仲間が必要になってきたのかもしれない。


 そんなことをノードは考えた。


§


「……っはあ!!」

 気合いの声と共にノードは盾を構えた腕に力を込めた。

 自分の身体を半分ほど隠す程度しか面積を持たないその盾の向こう側から、ノードとは比べ物にならない質量を持った巨体が、高速で飛んできた。

 緑の鱗に覆われた巨体が盾にぶつかる瞬間に、殴り付けるようにして横向きへの力を加えた。

 僅かではあるが、ノードの身体に向かっていた衝撃が、外側へと流した盾の方向に逸れる。


──攻勢防御パリィと呼ばれる防御術の一種だ。

 達人ならばそっと手に力を加えるだけで、相手の攻撃を無力化できると言われている高等技術であり、未だノードが使いこなせるとは言い難い業であったが、効果はあった。


 鎌首をもたげた後に、強靭な筋肉によって射出される大蛇サーペントの頭突き。単純な攻撃だが、その質量差を活かした攻撃は実に効果的だ。

 しかし、その一撃は盾の奧にあったノードの身体を粉々に砕くことはなかった。

 横合いに加えられた力の向きが、突撃の方向を変えたのだ。


 ノードの斜め後ろに飛び出した大蛇サーペントの頭が、獲物を捉えることなく宙に浮いた。

 ノードの盾は代償として形を歪ませ、さらに盾を持つ腕に強烈な痺れをもたらしたが、籠手に固定されている盾は手から落とされることはなかった。

 

 伸びきった大蛇サーペントの身体は、縮まった状態よりも皮膚と鱗が薄くなる。

 攻撃時の一瞬の隙を逃さず、ノードは痛烈な逆撃の一撃(カウンター)を繰り出した。


 受け流した時に、腕に引っ張られるように半回転した身体を、たたらを踏まないよう、逆に一歩軸足で踏み込んだ。足の力が腰へと伝わり、そしてその腰の回転が遠心力として利き手で握った剣の尖端へと凝縮される。

 疾風の速さで振り下ろされた一撃は、ノード自身の力と大蛇サーペントの力の一部とを合算させた破壊力を生み出した。


 ズルッ、と堅固な鱗と分厚い皮膚を鋼の刃が切り裂き、その内側の筋繊維をズタズタに引き裂く。微かな抵抗は、恐らく蛇の骨だろう。感触からいって、内臓まで届いた。


 大蛇サーペントの悲鳴が沼地に木霊する。

 大蛇サーペントは痛みに身体をくねらせた後に、苦しみを何倍にしてでもお返ししてやらんと憤怒に満ちた形相でノードを睨み付ける。


「シャーッ!!」


 二股に分かれた舌先が特徴的な、蛇の顎を大口に開けて再び大蛇サーペントがノードに襲いかかる。

 ノードは大蛇サーペントの身体から剣を引き抜いた後に、剣の血を振り払うように後方へ振り払い、盾をしかと構えた。

 しかしその腕はまだビリビリと痺れており、力が入らない。

 もう一度受け流そうとしても難しいだろう。


 だが、果たして大蛇サーペントは、その大口でノードを飲み込むことはなかった。

 代わりに横合いから小袋が、大蛇サーペントの顎へと投げつけられる。

 痛みと怒りに我を忘れた大蛇サーペントは、視界が狭くなっており、普段ならば気が付けたその投擲に気が付けなかった。

 次いで、小袋の後ろから飛来した光るもの──日の光を反射して煌めいた短刀の刃が、小袋を切り裂いた。

 小袋はその中身を盛大にぶちまけ、そしてそれは至近の距離にあった大蛇サーペントへと降りかかる。


「──ギシャアアアア!!?」


 突然訪れた異常な感覚。

 鋭敏な嗅覚器官から伝わる暴力的な刺激に、大蛇サーペントは恐慌状態に陥る。

 グネグネと、苦しみから逃れようとその身をくねらせる大蛇サーペントの先端を上空から飛来した槍が貫いた。

 ノードの身体を踏み台に、上空へと躍り出たエルザの跳躍からの一撃である。

 落下速度を加算したその威力は、見事な狙いで大蛇サーペントの顔を貫き、そして地面に縫い付けた。

 だが、蛇の生命力は頭を落とすまで油断できない。


「「「──ジニアスッ!!」」」

「任せろッ!」


 タイミング良く、ノード、エルザ、シノの三人の声が重なった。それに応えるよう、勢いよくジニアスが声を上げる。


「────はああッ!!」


 気合一閃。

 ジニアスの一撃は大蛇サーペントの剄部をすり抜けるが如く切り裂き、鮮やかにその頭部と胴部を切り離した。


 残心を取りながら、ジニアスは剣を構えたまま大蛇サーペントの様子を窺った。

 ピクピクと、痙攣するように暴れていた身体は暫くすると動きを弱め、やがて完全に動きを停止させた。


 それを見て、ようやくジニアスは剣の血を拭ってから納刀した。


「よーやっく終わったか!」


 シノが喜びの声を上げる。よっし剥ぎ取りだ! と続ける。

 ぞろぞろと、戦闘終結を迎えたノードたち一行が、大蛇サーペントを中心に取り囲むように集結した。


「いやー不意を突かれたときはどうなるかと思ったよ」

 とどめの一撃(ラストアタック)を放ったジニアスが、大蛇サーペントの死体を前にして戦闘開始時のことを振り返る。


 そう、沼地での依頼を手早く済ませたノードたちは、その第一の目標であった水晶花を入手するべく沼地奥へと歩を進めた。

 その先で、水晶花の繁花する姿が見えた。辺り一面に広がるピンク色の水晶花に、一瞬目が奪われたノード一行。

 これまでが順調に進みすぎていたのが油断に繋がったのか、或いはとてつもない不幸(ファンブル)に見舞われたか、その一瞬に、周囲の葦林に潜んでいた大蛇サーペントが襲いかかった。


 それに最初に気がついたのも、シノだった。

「何かいるぞ!」

 そう叫んだ彼の警告で、ギリギリ対処できたノードたちだったが、よりにもよってその敵が、大蛇サーペント──しかも普通の倍近い大きさの個体だったものであるから、奇襲を受けてからも苦戦が続いた。


 なんとか体勢を立て直し、連携を取れるよう陣形を組んだ後は、冒頭の流れである。


「ふう……しかし、誰か一人欠けていても危なかったな」

「いや、本当にね」「不意打ちに気付けず悪い」「いや、むしろあれは早かったわよ」

「ナイスな連携だった」「腕上げたな」「互いにな」

 

 わいわいと、戦闘を振り返り会話をしながら、手を動かす。

 あっという間に、大蛇サーペントは解体され、無事な箇所の素材が集められた。


 ジニアスたちとは暫く冒険を共にしていなかったが、その間に彼らは大きく腕を上げていたらしい、ジニアスの剣の冴えには一段と磨きがかかり、シノは斥候レンジャーの技能だけでなく解体術の技能を身につけていたらしい。

 次々と解体され、大蛇サーペントから得られていく素材は、ノードとエルザだけでは手に入らなかっただろう物も多数あった。


「よぉおし~これで、解体は終わりだ」

「ということはとうとう本命ですわね」


 大蛇サーペント剥ぎ取り素材(ドロップアイテム)を背嚢に入れ、パンパンになったそれを皆で運べるようにした後、とうとう沼地に来た最大の目的を達成するときがきた。


 目の前には、秋の季節にその色を変える、水晶花がピンク色の花弁を美しく咲かせていた。


「ジニアス」

「……うん、ありがとう」


 ノードがジニアスを促すと、ジニアスはそっと膝を折ると、足許に咲き誇る水晶花を、大事そうに摘み取った。



§


 帰路では、馬車にたんまりと積まれた依頼品や剥ぎ取り素材に笑みを浮かべた一同の姿があった。

 野営地では、シノの熟練の業によって調理された大蛇サーペント料理が振る舞われ、精神的にも肉体的にも満足感を得ながら王都へと戻った一行であった。


 王都では、ノードをはじめ、シノとジニアスも必要な素材を得た後、精算した報酬を各自受け取り解散となった。


 ジニアスにはその後にもう一つ冒険クエストが待ち受けていたが、そこに首を突っ込む愚か者はいなかった。


 後日、ギルドでジニアスの徒党パーティーを見かけたとき、リーダーと癒し手の間の距離は、以前見かけたときよりも近かった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] こういうのもいいですね。
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