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貧乏貴族ノードの冒険譚  作者: 黒川彰一(zip少輔)
第一章 貧乏貴族ノード

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14 玉石級冒険者《ストーン》

なんかキャラも文章もブレブレぶれまくる。

小説とは難しいのだなあ。

 轟々と勢いよく燃える炎が範囲内にいた岩狼ロックウルフたちを包み込んだ。

 火に巻かれた岩狼ロックウルフたちは悲鳴を上げながら逃げ惑い、次々と炎の中で倒れ伏していった。何とか炎の中から脱出する岩狼ロックウルフもいたが、それらは身体に火を付けたまま、ノードとエルザによって次々と討ち取られていった。


 岩狼ロックウルフの装甲は、それまでの戦闘での感触と異なり、柔らかかった。

 火のついた岩にも似た装甲は、あっさりと鋼鉄の刃の侵入を許した。


「ああ、勿体ない……」

「命あっての物種でしょうに……」


 岩狼ロックウルフの装甲は、分厚く生半可な刃を通さない。反面火に弱く、燃やせばあっという間にその硬度を喪う。

 それが岩狼ロックウルフが所詮は玉石級冒険者ストーンへの昇格依頼ランクアップクエストに指定されている程度の、つまり下から二番目の冒険者でも倒せる理由だった。


 冒険者としての実力は、直接剣や槍の腕前だけで測れるものではない。目的の達成の為に、必要な行動を取れるかが重要なのである。

 例えば、魔物の中には物理的な攻撃──打撃や斬撃が一切通用しない種類のモノがいる。反面、そういった手合いは魔法などの攻撃に著しく弱いことが多い。

 そんな敵と戦わなければならないとき、ただ闇雲に戦闘を挑むだけの冒険者は、その依頼に相応しい人材とは言えない。

 戦闘自体の回避や相性の良い戦術の選定。そしてそれらの情報を事前に集めておけるか。

 玉石級冒険者ストーン以降の冒険者に必要なのは、そういった資質なのである。


 それ故に、玉石級冒険者ストーンへの昇格依頼ランクアップクエストは、石板級冒険者プレートの依頼と同じようにゴリ押しで戦えば苦戦は避けられない。一方で調べておけばいとも簡単に倒せる、という魔物の討伐任務が指定されている。


 ただ、


「ああー……岩狼ロックウルフの毛皮はそこそこの値段で売れるのに……」


 岩狼ロックウルフの場合、弱点である火を用いると回収素材ドロップアイテムである装甲の着いた毛皮が燃えてしまう。燃えた狼の毛皮など誰も欲しがる訳がなく、討伐依頼の旨味である素材の売却利益が望めなくなるのだ。


 岩狼ロックウルフの装甲は、対人では火に弱いという弱点を持つものの、特殊な処理を施せば多少燃え難くなるために防具の素材として一定の需要があった。

 ノードも知り合いの貴族──父の同僚──の兵が岩狼ロックウルフの鎧を身に着けているのを見たことがあった。


 あくまでも安く買える鎧扱いであり、素材の毛皮にそれほどの売値は付かないが、それでも数が集まればなんとやらだ。

 目の前で燃えている岩狼ロックウルフの数は、これ迄にノードたちが剥ぎ取ってきた岩狼ロックウルフと同数くらいはいるのである。

 その毛皮を全部集めれば、石板級冒険者プレートの依頼報酬一回分は超える額になっただろう。


「じゃ、ノードはあの数に囲まれて勝てる自信があったの? 私にはなかったけど」

「…………」


 それを言われると、ノードにはどうしようもなかった。

 命あって初めてお金が稼げるし、大怪我を負うことも許されないノードには、必勝を期す必要があった。


 その為に、最悪赤字になったとしても依頼を達成して生きて帰るために用意したのが、魔狼の群れを火に巻いた罠である。


 錬金術油を樽に幾つも購入し、それに発火用の魔法道具を繋げたものを地中に埋めたのである。

 岩狼ロックウルフの装甲は、体毛が皮脂で固められたもので、その引火性はかなり高い。

 広範囲に火が広がる程の量の錬金術油はかなりの値段であるので、普通の油も利用しつつ、なんとかノードの所持金を叩いて用意したのだ。


 エルザとの連携により、罠を使用するまでもなく倒せるかと期待したが、残念ながら現実はそこまで甘くなかったようだ。

 エルザという優秀な冒険者と縁ができて、無事に玉石級冒険者ストーンに昇格できる、その事だけでも良しとするか。そうノードは考えた。


「……ノード?」

「ああ、わかってる」


 大丈夫でしょうね? そう言わんばかりの声色でエルザがノードに語りかける。何を言いたいかは、ノードにも具体的に教えられるでもなく理解できていた。


 錬金術油の火は勢いが弱まり、消えかかっている。

 殆どの岩狼ロックウルフはその身を業火に焼かれたが全てを仕留め終えた訳ではない。


 目の前には、何体かの火に巻かれなかった幸運な岩狼ロックウルフと、装甲が未だに燃えながらも戦う意思を見せている鎧狼アーマーウルフの姿があった。


「やるぞ」

「ええ、合わせるわ」


 戦いは終末フィナーレへ向かっていた。


§


 岩狼ロックウルフの群れは、既に全滅しかけだった。

 無事に生き残った岩狼ロックウルフは残り四体。それに手負いの鎧狼アーマーウルフだ。

 鎧狼アーマーウルフは、その身体の装甲の多くが焼け残っていた。炎への耐性も、岩狼ロックウルフに比べれば高いのだろう。

 しかし、その体はあちこちが焼け焦げており、息も荒い。

 既にその生命力(HP)の大半を失っているのが見てとれた。


 しかしそれでもノードたちに立ち向かおうとしているのは、流石は岩狼ロックウルフたちの首領(BOSS)といったところか。


 ノードは気を引き締めて、最後の戦闘を開始した。


 先ず初めに、ノードが斬りかかった。

 盾を隙なく構え、その後ろから最小限の動きで攻撃の素振りを見せる。

 するとその隙を狙い、鎧狼アーマーウルフ岩狼ロックウルフの一体がノードに攻撃を定める。

 ズンッ、と猛牛と衝突したような衝撃がノードに襲いかかる。あれほどの火炎に燃やされて尚、この威力──鎧狼アーマーウルフ未だに侮りがたし。

 しかし、その一撃はノードに誘発されたものだった。

 ノードの斬撃はフェイントであり、重心は盾を用いた防御のものだ。目論見通り、鎧狼アーマーウルフの突進は盾に阻まれた。もう一体の岩狼ロックウルフも、剣を使って牽制をしている。


 その間に、素早い動きでエルザが岩狼ロックウルフの一体を仕留めた。取り巻きは残り三体。


 鎧狼アーマーウルフも、自分の悪手が分かったのか、残りの岩狼ロックウルフへと合流しようと試みる。が、そうはさせじとノードが再び斬撃。

 鎧狼アーマーウルフはその動きを制限され、ノードと対峙することを強いられていた。

 先ずはこの人間を倒してからか──そう考えたかは分からないが、鎧狼アーマーウルフは再びの攻撃をノードに仕掛ける。


 今度は鎧狼アーマーウルフからの仕掛けであり、配下の岩狼ロックウルフとの連携攻撃は、確かにノードへとダメージを与えた。


「…………グぁッ!?」


 ノードへの再びの攻撃は、同じく突進──と同時に行われた岩狼ロックウルフの噛みつきだった。

 ノードへと一呼吸早く行われた巨体からの突進による衝撃は、一瞬ではあるがノードの行動を遅らせた。

 その隙に配下の岩狼ロックウルフはノードの首元へその凶悪な牙を突き立てんとする。

 ノードは急所を庇うため、仕方なく腕を盾にした。

 剣を持った利き腕に、岩狼ロックウルフの牙が突き立てられる。

 それなりの経験を重ねた個体なのだろう、岩狼ロックウルフの強靭な顎はその力を遺憾なく発揮し、鋭い牙にノードの纏う硬革の装甲を貫かせた。

 痛みに、思わず手に持った剣を落としそうになるが、耐える。

 腕に万力を込めて逆に牙を押し返すように筋肉を膨らませ、ノードはその腕をブンと振り回した。


 盾の向こう、鎧狼アーマーウルフにぶつけるその軌道は、直前に岩狼ロックウルフがその口を開くことで軌道を変え、衝突を避けた。

 そして代わりに──


「ギャンっ!?」


 放物線を描きながら、器用に空中で身体を捻り着地しようとする岩狼ロックウルフを、鋼鉄の刺が貫いた。


「ノード、怪我は大丈夫?」

「グッ……大丈夫だ折れてない。鎖帷子チェーンメイルで止まってる」


 分断した岩狼ロックウルフを仕留めたエルザの援護だった。これで取り巻きはいない。

 割れた硬革の籠手の下から、覗く金属の煌めきに感謝しながら、ノードは腕の調子を確かめるように動かしてそう言った。

 大丈夫だ。剣は握れる。


「さあ……覚悟はいいか?」


 鎧狼アーマーウルフを、二つの視線が厳しく貫いた。


§


 戦闘終了後、ノードたちは再び岩山を移動し、あちこちに残る岩狼ロックウルフの躯から剥ぎ取りを開始した。

 剥ぎ取った後の躯は腐乱しないようにまとめて埋めたので、岩山からは岩狼ロックウルフの痕跡が消え去った。

 岩狼ロックウルフの群れは殲滅され、戦場にはノードとエルザの二人だけが残ったのだ。


 埋める前に数えてみると、岩狼ロックウルフの総数は今日までに討伐したのと合わせて八十二にも上った。


「こんなに居たなんて」


 エルザの言葉である。

 ノードも同意だった。依頼書には何体ぐらいと書かれていただろうか? 帰ってからギルド職員に是非尋ねてみるべきであろう。追加報酬が期待できる筈だ。


 事前に依頼していた冒険者ギルドの迎えの馬車が来るまで、一日と少しの時間があった。

 既に討伐を証明する部位と、剥ぎ取れる素材は集め終えている。

 ノードは空いた時間に少しでも赤字の補填──使用した錬金油はかなりの額だった──をすべく採取に励むことにした。

 山岳地帯であるので、薬草の類いを得ることは出来なかったが、代わりに幾つかの鉱物を採取できた。量は大したことが無かったが、多少の金になる筈だ。


 そんな調子で、ノードはエルザと共に王都への帰路に就いた。

 道中でも、ノードは少しでも金を作ろうと金策に励んだ。小銅貨の一枚でも逃さないとばかりに、薬草など金銭価値のあるものを探し求めたのである。


 往路では、馬車には錬金術油の入った樽などが積まれて狭かったが、復路では、ノードの採取品と岩狼ロックウルフの毛皮などで再び狭い思いをしたが、ノードもエルザも往路より狭くなったにもかかわらず悪い心地はしなかった。


 そして、往路と同じく都合五日をかけて王都へと帰還した。


§


 冒険者ギルドでは、依頼達成の報告を完了した。

 その際、エルザが職員に対して、事前情報よりも遥かに多い岩狼ロックウルフと、何より鎧狼アーマーウルフと戦わされたことで余程腹を立てていたのか。

 その朱の髪色の如く燃えるように怒り文句を付けていた。

 その様子は鎧狼アーマーウルフを燃やした火炎の勢いに負けず劣らずで、ノードはその様子に出る幕がなかった。


「ふふーん やったわよ」


 依頼に提示されていた報酬に、冒険者ギルドから追加での報酬をせしめたエルザはホクホク顔だった。

 また、剥ぎ取った岩狼ロックウルフの毛皮も合わせると、今回の報酬はかなりの金額になった。


 罠に使用した金額を差し引いても、結構な黒字である。


 そして……


 ノードとエルザの首元には、新たなギルドカードが顔を覗かせていた。


 玉石級冒険者ストーンのギルドカードである。

 石板級冒険者プレートの石を削り出した少しざらざらとした質感とは違い、乳白色の石を綺麗に磨き上げた表面はツルツルと陽の光を反射して輝いている。


 質感以外は以前と変わらないが、また一つノードは冒険者の階位ランクを上げたのだ。

 ノードはその実感を味わった。


「ねえノード、提案があるんだけど……」

 朱色の髪の下、乳白色のギルドカードを胸元に下げたエルザが問いかける。

「何だ?」

 ノードはその問いかけに続きを促した。


鎧狼アーマーウルフの素材なんだけど、貴方私に売る気はない?」


 鎧狼アーマーウルフはノードたちの火計にその身を焼かれながらも、その一部分の装甲を毛皮として遺していた。

 とはいえ、鎧狼アーマーウルフはその巨体である。その一部の装甲でも、鎧の素材として用いるに十分な量があったのである。


 今回のエルザとの徒党パーティーでの配分は、事前に50:50(半々)にすると決めていた。そして現に、依頼報酬と岩狼ロックウルフの素材は山分けをしていた。

 残りは鎧狼アーマーウルフの素材だけである。


 鎧狼アーマーウルフの素材は、火炎への耐性以外は、今ノードとエルザが身に着けている硬革の鎧よりも格段に優れた防御性能を持つ物である。その装備を作れるなら、玉石級冒険者ストーンの依頼でも楽が出来るだろう。

 ただ、残念なことに火炎の罠を用いたことで、鎧狼アーマーウルフの装甲はかなりが燃え落ちた。一人分の鎧を作れるかどうか、という量しか残って無かったのである。

 

 二人で分ければ、精々一部の装備を整えることができるくらいにしかならないが、どちらかが独占すれば、上位の装備を一式整えることができる。


 そして、ノードには今は装備よりも金の方が必要だった。


 装備を優先したいエルザ。金を確保したいノード。

 二人の欲するところは異なる。


 ノードは喜んでエルザの提案を受けた。


§


「アレク」

 その後、冒険者ギルドを後にしたノードは、その足で家路を急いだ。

 約二週間振りの帰宅となるフェリス邸は、何時もと変わらない様子でノードを迎えてくれた。

 ノードは鎧を脱いだあと、メイドに聞いた家令のアレクの所在に出向いた。


「おお、お帰りなさいませノード様」

 恭しく挨拶をしてくるアレクに、ノードは革袋を差し出した。

 ズシリ、と重いその袋の中には銀貨が入っている。


「言われた額入ってる筈だけど、念のため確認しといて」

 じゃあ、僕は疲れたからちょっと休むよ。そう言いながら、ノードは足早にアレクの部屋を去った。


 アレクは、両手で受け取ったその革袋を大事に持ちながら、深く頭を下げた。その頭はノードが部屋を去ってからも暫く動かなかった。


 アレクの目には、ノードの右腕の袖の下に見えた包帯の様子が確りと焼き付いていた。

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