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貧乏貴族ノードの冒険譚  作者: 黒川彰一(zip少輔)
第一章 貧乏貴族ノード

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12/63

12 仲間


「ねえ、貴方。さっきから何を唸ってるの?」

 冒険者ギルドの酒場。その備え付けの木机テーブルに陣取り、依頼書を眺めているノードに対して声を掛けてきた者がいた。

 声に反応してノードが振り返ると、そこには一人の少女がいた。美しい少女だった。胸元まで伸びた朱色の髪は波うっており、勝ち気な印象を与える形をした目が特徴的だった。

 彼女は穂先に布を巻いた槍を担いでおり、要所にのみ装甲がある作りの革の軽鎧を身に付けており、追加で曲線を帯びた金属製の胸当てを上から重ねていた。


 今の時刻は朝と昼の丁度中間くらいで、既に冒険者の多くは依頼へと出掛けている。この時間帯のギルドは静かなもので、酒場にはノードの他には、自主休養して昼間から酒を飲んでいる髭面の冒険者が一人いるくらいだった。

 その冒険者は、騒ぐでもなくツマミを手にちびちびと一人酒をして寡黙に酔っているだけなので、ノードが無意識かつ終わりなく繰り返していた声が周囲の音に埋もれることなく少女の耳にも届き、気になったらしい。


「ん? ああ、済まないな。ちょっと悩んでいてね」

 小一時間、ノードは机に向かって悩み続けていた。

 昨日、アレクからお願いされた家のための金策として、玉石級冒険者ストーンへの昇格はもはや必須路線マストだった。念のため本日もギルドで新規の昇格依頼ランクアップクエストが認定されてないか聞いてみたが、残念なことに新規追加はなかった。


 故にノードは岩狼ロックウルフ討伐を請けざるを得ないのだが、どうやって依頼を達成すればよいか、知恵を振り絞っていたのだ。

 しかし、どうしても単独ソロでは岩狼ロックウルフの群れを撃破できるビジョンが見えずにいた。上手くいきそうな方法を考えては、自分でその案の欠点にダメ出しをして、その度に「うーん」と唸っていたのである。


「悩みって?」

 槍使いの少女はノードに問いかけながら、空いているノードの隣の席へ腰を降ろした。視界の邪魔にならない程度に伸ばした朱色の前髪の奥からは、好奇心に満ちた瞳を覗かせていた。

 冒険者には色々な性格タイプの者がいるが、彼女は好奇心旺盛で首を突っ込みたがる性格タイプのようだった。

 遠慮なしにノードの席の隣へ座り込み、勝手に聞く気満々と言った態度だ。


──まあ、気分転換くらいにはなるだろう。

 ノードはフェリス家の“事情“は伏せた上で来月辺りまでに金を用意しなければならないこと。その為には玉石級冒険者ストーンに昇格したいが、現在は昇格依頼ランクアップクエストには岩狼ロックウルフの討伐依頼しかなく、しかも昇格依頼ランクアップクエストを受注する資格を満たしているのが自分しかいないこと。そのために単独ソロ岩狼ロックウルフ討伐の方法を考えていたが、どれも上手く行きそうにないことなど、悩んでいた内容を正直に話した。

 フェリス家の“醜聞“を除けば、隠すことでもないからだ。


 また、彼女が悪い人間に見えなかったのも関係しているだろう。勿論見た目で人を判断するのは危険だが、それを念頭に置いてもノードは彼女に対して警戒を抱く気が起きなかった。


「ふーん。成る程大変なのね……。で、その岩狼ロックウルフってどんな魔物なの? それにその考えた案ってどんなの?」


 面白くもないだろうノードの語る内容に、彼女は話に興味を深めたのか、話の続きを催促した。


 岩狼ロックウルフの情報はノードが酒場で対価()を支払って手に入れたものであり、それを無償で教えるのは如何したものか──一瞬だけノードはそう考えたが、特に誤魔化すでもなく彼女に気前よく教えた。


 もしかしたら、彼女からノードには無い発想の答えが出てくるかもしれないと考えたからだ。

 とはいえそれはもしそうなら物怪もっけの幸いというやつであり、余り期待はしていなかったが。


 ノードの話を聞いた朱色の髪をした槍使いの少女からは、残念ながら岩狼ロックウルフを倒す画期的な戦法の着想アイデアなどは出てこなかった。


「……ねえ。貴方、名前は?」

 彼女は軽く握った拳を唇と顎の辺りにくっつけると、柳眉を軽くしかめた。どうやらそれが彼女が考え込むときの仕草らしい。

(ああ、考え込んでいると思ったら、そうか。まだ名乗って無かったな)

 そういうことか、と一人得心したノードは、遅ればせながら改めて自己紹介をした。


「そう言えばまだ名乗ってなかったな。これは失敬。ノードだ、ノード=フェリス。よろしく」

 ノードが名前を名乗ると、槍使いの少女はコクリ、と大きく一つ頷いて、彼女の名前を名乗り返した。


「私はエルザ。エルザ=クロニクルよ」


 どちらからともなく差し出した手を軽く握り、握手を交わす。


「それでね、ノード」


 エルザは手を握りながら、言葉を続けた。


「貴方、私と徒党パーティーを組まない?」


 エルザの燃えるよな朱色の瞳が、真っ直ぐにノードを見詰めていた。

 ノードとエルザの手は、まだしっかりと握り合ったままだった。


§


 エルザの口からは、画期的な戦法の着想アイデアは出て来なかったが、代わりに別の解決策をエルザは提示してきた。


 エルザはノードと同じ石板級冒険者プレートだったが、後少し貢献度を貯めれば、昇格依頼ランクアップクエストを受注できるようになるのだという。

 エルザが先程ノードの話に興味を持ったのは、自分も間もなく挑むであろう昇格依頼ランクアップクエストの情報に食い付いていたからのようだった。


 そしてノードの話──現在は岩狼ロックウルフの依頼しか昇格依頼ランクアップクエストに認定された依頼がなく、追加も何時になるかは未定。そして昇格依頼ランクアップクエストに挑める冒険者も現状ノードしかいない──ということで、こう提案してきたのだ。


「私もあと一つか二つ依頼を達成すれば、昇格依頼ランクアップクエストを受けられるようになるわ。貴方と私が徒党パーティーを組めば、その依頼も早く達成できるでしょう。そうしたら、岩狼ロックウルフ徒党パーティーで挑戦できるわよ」


 ノードはエルザの提案に『利』があると感じた。

 

 単独ソロで戦うということの最大の難点デメリットは、背中から攻撃されてしまうということだ。

 人間は前方に目が付いているため、どうしても視界は前方と左右──意識しても180度が限界だ。視界の外にいる敵でも、例えば聴覚を利用して気配を察知することで、敵の位置や攻撃の兆候を感知するということは可能だが、それはあくまでも補助的なものに過ぎない。一瞬の察知の遅れや判断のミス。それが命取りに成りかねない戦闘で、頼りになるのはやはり視界からの情報だ。

 戦闘経験を積み、強度上昇レベルアップした冒険者であるノードには、動きの“起こり“を僅かな筋肉の動きから察知することが出来る。

 だがそれも『いつ後ろから襲われるか分からない』と不安のある状況で集中力を欠いていては、精度が落ちる。

 故にノードは単独ソロで戦うときは、常に背後から奇襲を受けないように背後を障害物──例えば太い木の幹や大きな岩──で守るようにして、攻撃される可能性のある方向を限定するような立ち回りを意識して戦っていた。


 しかし、それでも所詮は一人であり、徒党パーティー利点メリットには遠く及ばない。

 連携の取れた徒党パーティーでの戦闘は背中を守って貰えるだけでなく、避けられない攻撃を割込防御インターセプトして防いだり、同じ対象を攻撃することで殲滅速度を高めたりできる。二人でも、単独ソロに比べれば手数は倍なのだ。戦い易いに決まっている。

 それに何よりも大事なのは、戦えない状況──麻痺、毒、昏睡、そして瀕死──に陥っても徒党パーティーの仲間が無事ならば助けて貰える(可能性が残る)ということだ。


 岩狼ロックウルフ単独ソロでは撃破することは難しくとも、徒党パーティーでなら可能性は十分にあった。


 ノードはエルザの提案を受け入れることに決めた。


§


 その後、ノードとエルザは徒党パーティーを組みエルザの貢献度を貯めるべく石板級冒険者プレート向けの依頼をこなしていった。

 エルザの戦闘の方式スタイルは、軽装鎧ライトアーマーによって阻害されることのない機動性を主軸にしたものだった。

 革を加工した物とはいえ、全身をガッチリと装甲で固めたノードの全身鎧フルアーマーはかなり重い。そこに鎖帷子チェーンメイルを着込み追加で盾も装備したノードは、堅牢な守りを見せるがやはり動きは遅くなる。

 それに比べて動きやすい軽装鎧ライトアーマーを纏うエルザの動きは軽やかであり、素早い立ち回りで敵の攻撃を回避し、動き回って相手を翻弄。隙を逃さず繰り出す槍の鋭い一撃は、次々と敵を屠っていった。


 ノードとエルザは二つの依頼を徒党パーティーとして受け、達成した。最初の依頼では大蛙ジャイアントトードが相手だったが、二つ目に受けた依頼は森林狼フォレストウルフの討伐だった。


 良い予行練習になる。そう考えて受注したその依頼で、ノードとエルザは長年コンビを組んでいるかのような息のあった連携を見せ、森林狼フォレストウルフの群れをいともあっさりと殲滅した。

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