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貧乏貴族ノードの冒険譚  作者: 黒川彰一(zip少輔)
第一章 貧乏貴族ノード
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プロローグ 彼が冒険者になった理由

小説の練習がてら連載を試みます。

当面の目標は4万字(累計)です。

 貧乏子沢山とはよく言ったもので、その法則からは身体に青い血が流れていようとも逃れられないらしい。

 そんなことをノードは考えた。

 ノードは貴族の末枝に名を連ねている。家はイルヴァ大陸東部に位置するハミル王国の貴族、フェリス家だ。

 フェリス家は、ハミル王国が建国される前から、時の建国王アルバ一世に仕えていた由緒正しきお家柄だ。その後も王家に代々出仕しており、王家の覚えも目出度いとかなんとか。

 しかしだ。結局のところ、名誉だ何だといっても、それで腹は膨れない。


 フェリス家は歴史と伝統こそあれど、その階級は勳六等に叙される騎士家に過ぎない。俸禄も銀貨16枚──四人扶持(大人一人が一年にかかる生活費が銀貨四枚だと言われている)に過ぎず、加えて役職手当である衛兵長の手当ても、同じく銀貨16枚で四人扶持である。

 合計で八人も養えるのであれば、十分金持ちではないか。

 そう考える人も居るかもしれないが、そうは問屋が卸さない。


 天下に憚ることない、王家の直臣である我がフェリス騎士家は、当然ながらその貴族としての体面を保つために使用人を雇う必要がある。最低でも家を取り仕切る家宰が一人に、メイドを取りまとめるメイド長である。実際にはその下にメイドを何人か雇うことになる。

 更に我がフェリス騎士家は、そのお役目である衛兵長としての役割を果たす必要がある。衛兵長は衛兵を取り纏める役割であるから、単身で出仕すれば事足りる平衛兵と違い、最低でも二人の戦力を連れてくる必要がある、と法律で定められている。


 また、貴族には、兵とは別に貴族個人に仕える従者がいるのが普通である。

 従者がいない貴族など、下位の法衣貴族位なものであり、武家であれば、必ず従者が存在すると言い切れる。


 ここで計算。家宰として執事を一人に、メイド長を一人、兵を二人に従者を一人。計五人扶持が必要である。

 これに合わせてフェリス騎士爵夫妻で七人扶持。子供は一人で半人扶持(銀貨二枚)と言われているので、二人いれば予算ギリギリである。

 ではそれ以外、我がフェリス家には何人の子女がいるのか。


 それは──十二人である。


 一体全体何を考えているのか、それは当然の疑問ではあるが、残念なことにノードはその疑問への答えを持ち合わせていなかった。

 強いていうのであれば、フェリス家当主とその夫人は大層仲が良く、さらにメイド長以下メイドたちも、当主の愛人として愛を育んでいるのが原因ではある。


 兄弟の構成としては、今年22歳になる長兄のアルビレオがおり、その下に長女である20歳ハンナ、次兄のヨハンが18歳で、続く三男──四番目の位置に16歳のノードが居た。

 次女のリリアが13歳で、その次が四男エレンが6歳で三女アイリス5歳なのを考えると、年齢が開いている辺り、多少は子供を作りすぎて不味いと考えたのだろう。

 しかし再び出産ラッシュが相次ぎ、四女ヘレナが4歳に五女フランカが3歳、六女ミリアが2歳で、止めが今年生まれた双子の男女──五男クリストファーに七女クラリッサの合計十二人兄弟である。


 当然、生活費が足りない。


 ノードを含めた上の兄弟姉妹の時ですら、金銭が足りず親戚に支援して貰いようやく飯が行き渡るという有り様だったのに、現状はさらに倍である。


 幸いにも、長男と次男が成人(ハミル王国では18歳が成人である)しているため、二人の生活費はかからない。

 長男のアルビレオは既に国に出仕して、その分の手当てを貰うことが出来ており、次男のヨハンは親戚に支援して貰う条件であった、婿入りをしたためだ。


 一方、長女のハンナは悲惨な状況で

 ハンナは他家にメイドとして出稼ぎに行く傍ら(下級貴族の娘が高位貴族の家で花嫁修業がてらメイドになるのは珍しくない)、手先も器用であるため内職として縫い物をしている。ハンナの縫う刺繍はそれなりの値が付くため、我がフェリス家の重要な収入の一つになっているほどだ。

 しかし、ハンナは今年で20歳になった。

 気立ても良く、身内の贔屓目を除いても美しい容貌をしたハンナはそれなりに適齢期の男から人気があるのだが、残念なことに我がフェリス家には彼女を嫁に行かせるだけの持参金が存在しなかった。

 それ故、20歳を過ぎると行き遅れと言われても致し方のないハミル王国において、未だに彼女はフェリス家のために働き、嫁に行くことが出来ないでいた。


 そして四番目の子供、三男のノードは決意した。


 自分がなんとか金を稼ぎ、ここ数年で逼迫したフェリス家の家計をなんとかすると。

 そして幼い頃から可愛がってくれた姉のハンナを嫁に行かせ、そして数年後には結婚適齢期になる妹のリリアにはハンナと同じ気苦労を味わわせないと誓った。

 

 その為に、ノードは貴族の騎士家であれば必ず行く軍学校への進学を諦めたのだ。

 軍学校では、王に仕える軍人としての心構えなどを叩き込まれる場所であり、軍学校を卒業すれば一代貴族に任命される。


 そして、戦などで活躍することで、一代貴族から世襲貴族への道が開けるのだ。

 この出世を夢見るのが、一般的な貴族家の次男以降に許された立身出世である。

 

 また、他家への婿入りを目指す場合も、この軍学校の卒業が必ず必要となる。何故ならば、一代貴族の騎士ですら無いものを自家の跡取りとしたい貴族など存在しないからだ。(現に、次男のヨハンは一代貴族に叙されてから、女子しかいない親戚の家に婿入りした)


 法衣貴族ならいざ知らず、武家出身であるノードには、特殊技術など存在しない。精々が当主や兄たちに手解きを受けた剣術程度であり、そんなものは他家の貴族にとってはなんのアピールには成らないのだ。よって、ノードの決断は、自分のルーツである青い血を捨て去る決断に他ならない。


 しかし、とノードは思うのだ。


 赤貧にまみれようとしている我がフェリス騎士爵家は、やはり自分の愛すべき実家なのだと。

 両親も、兄姉と、弟妹も、執事もメイド長もメイドたちも、従者と兵の出入りするあの家が好きなのだ。


 だからこそ、ノードは自分の全てを捨てて、冒険者になることを決めた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] メイド長の下に数人メイドを雇って、当主の愛人もやってるなら養ってるんだろうし、俸禄はもうちょっとないと当主夫婦も食えなくなりそうな気がする。それともメイド長の扶持の範囲内で雇ってるんだ…
[良い点] 丁寧な返信ありがとうございます! 質問が雑ですみませんでした。第一話を読んで次のことが気になりました。それは俸禄だけが家計を支えていることです。封建制なら所領の保証のために兵力を供出したり…
[気になる点] 領土から税を集めないのだろうか
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