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黒い魔弾と白い天使  作者: 白瀬多幸
第1章 魔弾
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04.緑髪の少女


暖かい眠りから、僕は目覚める。



「やっと起きた。おはよう。『 』」



耳を優しく撫でるその言葉を、僕に投げかけていたのはレミルだった。


その言葉に、今の感覚になんとなく既視感を感じながらも、僕は言葉を投げ返す。


「うん。あ、あんまりにも気持ちがいい陽気だからさ、寝ちゃってたみたい」


僕達がいるこの草原には暖かい日が差し、心地よい風が常に吹いていた。

そのせいか、うたた寝を彼女の前でしてしまったらしい。


そして何故かレミルは、僕に膝枕をしていた。


「えっと…な、なんでこ、こんな状況にな、なってるのかな…」


僕は恐る恐る頭をあげ、レミルに聞こうとするが、無理矢理に彼女の膝の上に戻されてしまう。


「せっかく私と背合わせで座って風を感じてたのに、勝手に寝ちゃった相手を膝枕をしてあげたんだから最後までしていって?」


と、彼女は僕の頭を抑えながら。いつのものように、太陽のような眩しい笑顔を見せた。


僕はそんな彼女に苦笑いしながら、目を閉じた。



—————————————




夢の中で目を閉じた僕は、現実で目を覚ます。

何時もだ。何時もあの頃の夢ばかり見る。

8年前の夢ばかり見る。

何に執着しているんだか。何を執着しているんだか。

僕にも正直理解出来なかった。

あいつはどうしようもない糞ったれで、どうしようもないクズの筈なのに。なんであいつの事ばかり。

夢の中で出会うあいつは何時も笑っていて、何時も楽しそうだった。


本当に、本当に幸せな時間。かけがいのない時間。


だがそれはもう戻ってこない時間。世界。


壊したのは。あいつ自身。



そういえばと、僕は今どこにいるんだろうか。

天使レミルを殺してからの前後の記憶がない。


僕の目には真っ白な世界が映り込んでいて、服装はいつも着込んでいる野戦服とロングコートではなく、白い質素な服にズボンだった。体勢的に僕は多分、横になっている。



そして頭部には、何か暖かくて柔らかい物を感じ取れる。


「おはようシャルフ。起きた?」



視線に緑髪で獣耳の少女、エーリカが入る。


ああ、思い出してきた。僕はアンノウンの群れに襲われていたエーリカを助けられて……って。


「あの、エーリカ。何やってるの」


「膝枕」


「なんで?」


「シャルフと一緒に助けに来てくれた、少尉がこうしたらシューターは喜ぶだろうって言ってたから」


そう、今の僕の状況は、何処かの部屋のベッドに寝かしつけられてエーリカに膝枕されている形になっている。


今僕に膝枕をしているのはエーリカ・エリスマン。

育成機関の同期で僕の友人。

エルフと猫人族のハーフだが、その夜のように黒い獣耳と尻尾から、猫人族の血を濃く受け継いでいるのがわかる。


格好は狩兵イェーガーの戦闘服に準じた黒いパーカーがついた服とかなり短い黒いホットパンツ。それにこれまた黒いストッキングをし、その上からまたまた黒いマントを羽織っている。


髪の色はエメラルドグリーンでそれをショートカットにし、瞳もエメラルドのように輝くそれをいつの半目にしている。

本人曰く、髪をショートカットにし、短いホットパンツをはいているのは戦闘の邪魔にならないからとのこと。半目なのはただの癖だそうだ。


服装についてだが狩兵イェーガーの服装が何故黒尽くめなのかには、ちゃんとした理由がある。


僕達の敵、アンノウンは夜、それも深夜に活動が活発になる。

その夜の闇に溶け込み、狩り尽くしていくにはこの漆黒の姿が一番だからだ。


それはそれとして少尉リグラさんは。

指揮能力も隊長としての能力も申し分ないというのにこういう変な冗談を当たり前のように吹聴するから困る。本気にするエーリカもどうかと思うが。


天使レミルを殺した後の記憶も徐々に蘇る。そうだ。あいつを殺した後に僕の体もボロボロになって倒れたんだった。

なのになんでだ。あれ程の痛みを感じた筈なのに、あれだけの激痛だったのに今は何も感じない。


痛みがない。


身体をみると今までの戦闘による傷跡こそ残れど、異能タレントにより自傷した傷は跡形も無かった。


服を開けて腹を見てみるが、裂けた筈の傷は消えていた。


寝たまま服を開けたので位置的に僕の身体を見れてしまうエーリカは顔が真っ赤になっていた。

うずうずと彼女の膝が動く、くすぐったい。


不意に思い出す夢の内容。暖かい膝。このまま寝たきりの状態では思い出したくもない思い出まで蘇ってきそうなので体を起こし、ベッドから離れる。


「シャルフ、もう大丈夫?」


「ああ、もう大丈夫だよ。痛みもないし、体も動かせる」


僕はなんともない事をアピールするように両腕を回す。


それにしても、何故ここまで痛みがないんだ。不思議には思うものの、回復異能ヒールタレント持ちの衛生兵により再生させられたのだろう、と。一応の答えを思いつく。


それにしては傷が綺麗に治り過ぎている気がしなくもないが。


だが、そんな僕の様子に不満なのか、エーリカは尻尾を立てて自分の膝を叩く。


「大丈夫なわけがない。貴方が発見された時、血溜まりの中、倒れていたと聞いてる。いいから、早く寝て」


ぽんぽんぽんと、こちらを真っ直ぐに見つめ、ひたすら自分の膝を叩く彼女に僕は根負けする。


「わかったよ。じゃあ、お言葉に甘えさせて貰うね」


僕は渋々ベッドに戻り、エーリカの膝の上に頭を載せる。

じっと見つめてくるエーリカの顔がずっと僕の視界に入り続ける。

居心地が悪い。かなり、恥ずかしい。

それからかなりの沈黙が続く。

彼女との、エーリカとの付き合いはかなり長い。そんな人物との沈黙を持って過ごすのは僕は嫌いではない。嫌いではないが。

膝枕をされ、ずっとこちらを眺められている状態だと流石に話は変わってくる。背中に変な汗がつたうのがわかる。


「エーリカ…」


僕がその沈黙を破ろうとした瞬間、部屋のドアが勢いよく開く。


「ようエーリカちゃんにシャルフ!楽しんでるか!?」



—————————————




「つまり、大きな衝撃に気づいた二人一組ツーマンセルが僕を助けてくれて、ここ、シュクルト狩兵イェーガー駐屯基地の医務室まで運んで来てくれた。という事ですね」


僕とエーリカの無言の批判を受けたリグラさんおとなしくなり、医務室と呼ばれた部屋の椅子に座って真面目に事の経緯を話し始めた。


僕とエーリカは医務室のベッドに腰かけている形になる。


「ああ。そうなるな。血溜まりの中、お前を見つけたアンソンとグスタフは死んじまってるんじゃないかと思ったらしいが、『何故か見た目は無傷のお前』の姿を見て、一安心して、集合場所までお前を担いで来たんだ。後は馬車に乗って嬢ちゃんと一緒に医務室送りよ」


生存者を嬢ちゃんしか見つけられなかったのは本当に残念だったがな、とリグラさんは付け足す。


「待ってください。僕の傷を直したのはここの衛生兵じゃないんですか」


「ああ。そのことは全員が全員不思議がっていた事だ。あれだけの出血の跡が見られるのに当の本人には傷一つないってな」


どういう事だ。衛生兵の異能タレントで治された訳ではない?

まだ僕自身の知らない狼砲ガンマスターの力で修復された、とかなのか。


いや、ありえない。かなり前に一度、一瞬だけ最大出力オーバードライブを使用したことはあるが、剥がれた皮膚はそのままで、治るまでにかなりの苦痛を味わったのを覚えている。


じゃあ、何故だ。限界まで使用すると修復が始まるとか、そういう原理でもあるのだろうか。


「そういえばエーリカちゃん、ここで会った時からフードしてるが、別にここでは気にしなくていいぞ。肌が白かろうが黒かろうが、男だろうが女だろうが関係ない、それが首狩隊バーサーカーだからよ」


と、リグラさんはフードを深々と被り、獣耳を隠しているエーリカに言う。


その言葉を聞いた瞬間彼女はぽかんとなり、リグラさんに聞く。


「私が猫人族だって知っていたんですか?」


「ああ、悪いがフードが外れた姿で発見しちまったからな」


「だからなんだって話だ。そんなん関係ないね。俺はシンリィ教徒じゃないし、傭兵崩れだ。首狩隊バーサーカーも同じようなもんだ。傭兵崩ればっかでエーリカちゃんみたいな猫人族もいれば竜人族も居る。人種も血統も知ったこっちゃねぇな」


リグラさんは何でもないように言うが、その言葉がどれだけエーリカを救うか。

エーリカもおずおずとフードを取り、獣耳を露わにする


「そっちの方がいい。俺はそう思う、シャルフ。お前はどう思う?」


「ええ。自分もフードがないほうがいいと思います」


僕がそう言うと心無しかエーリカの顔が赤くなった気がする。

そんな僕達を見てリグラさんも満面の笑みを見せる。


今の話で大体わかる事だが、僕達がいるこの国、ゲルトクルン聖国の代表的な宗教、シンリィ教の教徒には、亜人と呼ばれる人種。人間と呼ばれる種族以外は基本的に下に見られている。アンノウンが来る前は亜人の集落や部族、国に戦争を仕掛け、植民地としていた事すらあったらしい。


特に猫人族は酷い差別、迫害を受けている。


理由がこれまた馬鹿馬鹿しくなるものだった。聖典に『最初の神の子が猫に誑かされ、聖域に入った為、神の罰を受けた』と書かれているかららしい。そんなクソの役にも立ちそうにない物、焼いて捨ててしまえ。と何度思ったことか。


だからエーリカはこれまで酷い差別を受けてきた。謂れなき迫害を受けてきた。


そのせいで、常に猫人族の象徴である耳と尻尾をフードとマントで隠すようになり、育成機関時代は友人の僕ともう一人の友人とはまともに喋ろうともしなかった。


だがここでは差別の心配はないようだ。僕のエーリカも、一安心した顔を見せ合う。


「あー、話は戻るがシャルフ。お前、天使型と交戦したな?」


いきなりの言葉の言葉だった。完全に不意をついた言葉だった。


その言葉に僕の心臓は跳ね上がる。


戦いの記憶が一気に蘇る。奴が倒れ伏せる姿が蘇る。


天使型アンノウン。通称『レミル』。八年前に奴が現れてから呼称されるようになった名前。だが、もう使用することはないだろう。


あれはもう、死んだのだから。


僕は歓喜に震える唇でリグラさんの質問に答える。


「ええ、戦いました。戦いましたとも。そして殺しました、殺しましたとも。僕が、この手で殺したんです。殺せたんです」


心が歓喜に満ちる。それと同時に、何故か、虚しさを感じる僕がいた。


だが、そんな気持ちはリグラさんの言葉で粉々になる。



「残念だがシャルフ。お前は、天使型を殺せてない。別れた仲間が天使型が空に舞い上がる所を目撃してる。何があったか、どんな戦闘があったか、俺はわからない、が」



「お前は天使を殺せていない」


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