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黒い魔弾と白い天使  作者: 白瀬多幸
第1章 魔弾
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01.ウィシュリス陥落


僕が最初に彼女に出会えたのは父から仕事を終え、外に遊びに出た時の事だった。

彼女は草原で歌を楽しそうに口ずさみ、兎が跳ねるように踊っていた。

歌う彼女は美しかった。全身を純白に染めた彼女は女神か、天使のように思えた。

踊る彼女は美しかった。髪は他の色に全く染まっていない白色で、その肌は血管一つ浮き出ていない、白磁のようであった。

その身には白いワンピースを来ており、彼女が踊るたびに春風に揺れるカーテンのようにたなびく。

まるでこの世の物とは思えない彼女に僕は魅了されてしまい。その魅力に惹きつけられるように少女に近づいて、こう言ってしまった。


と、友達になってくださ、くれませんか、と。


そのしどろもどろな僕の一言に少女は一瞬戸惑いを見せたが、すぐに笑顔を作り、こう言った。


うん、いいよ、と。







「おい、シャルフ。起きろ。もうそろそろ時間だぞ」


その言葉に僕は目を覚ます。


どうやら馬車に揺られ、いつの間にか寝てしまい、昔の夢を見ていた様だ。


もはや何の価値もない夢だ。


まだ半分寝ぼけている脳を無理矢理叩き起こし、自身の顔を軽く叩き、感情を切り替える。


「馬車に揺られてもう三時間、確かに眠くなるのも分かるが、もうすぐウィシュリス前線。偵察任務の準備しとけよ」


「ええ、もう大丈夫です。リグラ少尉」


「アンノウン共に対抗出来るのは俺達狩兵イェーガーしかいないんだから、気張らないとな」


「ええ」


僕は目を擦り、体躯を馬車の奥に寄せる。


馬車に乗っているのは僕を含めて男十六人。かなり広い馬車だ。


乗っているのは皆、一年前にロスゲン前線で共に戦った顔見知りである。


僕達が今馬車に乗り向かっている先は、第五の地獄。ウィシュリス前線。この世の果てから湧き出し、今や世界のどこにでも蠢く異形の化物、アンノウンと人類が五番目に交戦を開始した地獄である。


ちなみに、僕達が一年前に戦った戦場であるロスゲン前線は三番目に交戦を開始した場所だ。一時期はアンノウン達に制圧されかけたが、今はなんとか均衡を保っている。


そして狩兵イェーガーとは。そんなどうしようもない、無限に湧き出してくるのではないかという量のアンノウンに対抗する為に、各国、各商会、各組織が資金を出し合い、軍隊を纏め上げ、兵隊を纏め上げ、『とある部隊』を雛形に誕生した『国境無き軍隊』である。


各国の思惑で結成された狩兵イェーガー達は今も各国の為、人類の為に世界の各前線で戦いを続いている。いつ終わるかもわからない戦いを。闘争あくむを。


今も異形アンノウンを殺し、異形アンノウンに殺されている。


僕は一時的に首狩隊付きとなり、二月程彼らとロスゲン前線を支えた後に、元の特務隊たいへと戻り。任務をこなした後、私情で除隊し、狩兵イェーガーの中でも遊撃手フリーとなり各前線を歩き回ってきた。


僕には仇がいる。


親を殺し、村を滅ぼし、この世界を、国を異形共の巣へと変貌させた親玉。とっておきの糞ったれな翼を持つ異形が。


前線に殺すべき仇がいないか、殺さねばならない仇がいないかと、半年ほどアンノウンを殺しながら歩き回ったが、ついぞその仇を見つける事は出来なかった。


そんな遊撃手でアンノウンを殺し続けている僕に遂に待ち望んだ情報が届いた。


第五の前線、ウィシュリス前線が堕ちたと、ウィシュリスで戦い続けていた狩兵がアンノウンに食い尽くされたと。


最初はとても信じられなかった。世界に二十四ある前線、アンノウンと二十四ヶ所で交戦している戦場の中でも、最も人類が、狩兵が優位に立っていた戦場だったからだ。


だがタチの悪い冗談ではない事がすぐに証明された。別部隊と交代し、ウィシュリスに投入される筈だった首狩隊バーサーカーの中の精鋭達が即座に編成され、フリーだった僕も合流し、今現在ウィシュリスに向かっているのが何よりの証拠だった。


ウィシュリス前線が堕ちたのは三日前、だというのに迅速に部隊編成をし、偵察任務を命令した僕の教官であった、とある将官の敏腕には驚かされる。


そして、何より、僕にとって一番重要な情報を手に入れる事も出来た。


ウィシュリスから命からがら逃げてきた者の証言によると『天使のような物が遠くに舞い降りた瞬間、そこらじゅうで戦っていた狩兵イェーガーがまるで真夏の日差しに放置された氷菓子の様にどろりどろりと溶け落ちた』、と。


天使のような者がウィシュリスに舞い降りたと。


僕が探し求め、殺したくて殺してくて仕方のない翼持つ異形がそこウィシュリスにいるかもしれないと。


腕が震える。

恐怖と歓喜。


天使に殺されるかもしれないという恐怖。

天使を殺せるかもしれないという歓喜。


それらがないまぜとなり。僕の腕は震えを伴う。

と、その時、馬車が大きな音を立てて止まる。どうやら着いたようだ。


男達と、なんとか震えを止めた僕は馬車を降り、地獄の地獄と化したウィシュリスへと向かう。


そんな中。僕はポツリと呟いた。


「殺してやる。絶対に殺してやる」


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