少しずつ動きだす世界
椅子から立ち上がり、ヨロヨロと後ろに下がる獣王。
リーリアさんの見せた映像は、はっきり言って気持ちの良いものではなかった。
これが真実だとすると心が折れても仕方ないだろう。
「これは本当のことなのだな?嘘偽りないと誓えるのだな!?」
「誓えます。」
自信たっぷりに答えるリーリアさん。
獣王はその顔を見て、諦めたように項垂れた。
「そうか…過去を決して調べてはならぬというのはこのためだったのだな…。」
リーリアさんが見せたのは本当の歴史。
嘘偽りない、真実。
「我らの敵はこの世界で好き勝手してきた暴君です。自分の好きなように理を作り変え、非人道的な人体実験を繰り返した悪魔です。我々真実を知る者が手を組み、力を合わせて倒すべき相手です。負けたとしても、後の世代に少しでも情報を残さなければなりません。」
リーリアさんの言葉は獣王に届いたらしい。
「獣人の未来のために力を貸そう。やるべき事を教えるがいい。」
上から目線は変わらないみたいだけど。
獣王との会談から数日経ち、獣人が東の大陸に増えてきた頃、周囲の動きが慌ただしくなった。
魔族とドワーフの連合に獣人が加わったことで、北と南も動き始めたのだ。
北は長老派以外はユーマと俺に敵対したくないようで、人数がかなり少ない。
そのせいか、長老派は南の大陸に移動し、居を構えたそうだ。
「北の女王から密書が届きました。長老派が南に移ったので我々の連合に加わりたいと。」
そう来ると思ったよ。
あの女王はユーマに惚れているからな。
枷が無くなればそう動くと思っていた。
「後、エンディールから抗議が届きました。リーリア様を返せとのことです。」
南の大陸は相変わらずだな。
自ら墓穴を掘っていく。
魔堕ちから回復して以降リーリアさんは教師兼相談役をしている。
全てを記録しているエンディールの目を自在に使いこなしているからなんだけど、魔堕ちした時の事も鮮明に覚えていた。
彼女を魔堕ちさせたのはクソガキの組織。
攫ったのは諜報部隊。
つまり彼女は自分の国に裏切られたのだ。
エンディールの目を使えるようになってしまったのが原因ではあるが。
エンディールからの正式な抗議なので使者がわざわざ書状を持ってきたらしいが、こちらにケンカを売るような口調で挑発してきたらしい。
「我らが巫女を返して頂こう!更に我らに迷惑をかけた貴様らに、謝罪の機会をくれてやる!すぐに勇者と無能な異世界人も引き渡せ!残りは金や鉱石で勘弁してやろう。」
だそうだ。
もう何言ってんのかわかんねえなこれ。
勝手にやって来て、勝手に戯言を言う馬鹿をどう扱えばいいのか…。
そんなことを考えていたら、この使者死んじゃったって報告が入った。
帰りに魔物に襲われたそうです。
ゆうなちゃんと俺に誓って何もしてないとサキュバスちゃんは苦笑いしていた。
タイミング的に襲わせたって思うもんね。
まあ、そんなどうでもいい使者よりも大事なことは沢山ある。
魔族とドワーフが協力して色んなマジックアイテムを作っているんだけど、新たにとんでもない物が完成した。
名付けて絶対結界破壊装置。
とてもシンプルなマジックアイテムだけど、効果がやばい。
装備に付属している結界には意味がなかったが、魔法を使って展開された結界はゆうなちゃんが作った物ですら破壊された。
しかも結構な遠距離から。
「すぐに魔王様専用装備の作製を!」
魔族達が慌てるのも仕方ない。
魔王であるゆうなちゃんの結界を破壊出来たということは、ゆうなちゃんの防御力はほぼ0にされたことと同義なのだ。
流石にその辺の雑魚に傷を付けられることはないが、問題はクソガキの組織。
理不尽な輩がいてもおかしくない。
完成まではドワーフが作った最上級の装備で対処することになった。
さて、少し前にゆうなちゃんと結ばれたらしい俺だが、2回目はまだやってこない。
お互いが忙しすぎるのが問題なのだが、2人きりになると意識してしまい、会話すらないのも問題なのだろう。
そして必ず邪魔が入るのだ。
なんかそんな空気になっていると必ず問題が起きる。
俺じゃないと駄目だったり、ゆうなちゃんが行かないと収まらなかったり。
誰かの陰謀なのかとも思ったが、一番邪魔しそうなユーマが応援しているのでそれはないと思われる。
「シュウ様はそういう星の下に産まれたのでしょうね・・・。魔王様もお可哀相に。」
俺にじゃなく、ゆうなちゃんに同情するのは流石サキュバスちゃんだ。
しかし俺には前回の記憶がなく、ゆうなちゃんには記憶がある。
可哀相なのは俺だと思うんだけど?
「魔王様の身体をあんなに蹂躙しておいて、よくそんなことが言えますねこの鬼畜。初めてだったのに全て受け入れた魔王様に感謝しながら土下座した方が良いんじゃないですか?」
覚えてないんだよ!
主にサキュバスちゃんのせいで!
できれば次は記憶を残したまま、同じ展開になるようにしてくれたらとてもありがたいんだけど!
あ、ついでにバイ○グラみたいなやつがあったら嬉しいなあ。
もちろんゆうなちゃんの分もね!
サキュバスちゃんの冷たい視線に耐え切れなかった俺は、ゆうなちゃんには言わないと約束してくれるまで頭を地面に擦り付けた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
年が明けてからとんでもなく忙しくなってしまったので、投稿間隔が長くなります。




