交渉
「つまり余は騙されていると言いたいのだな?」
獣王との話し合いで、俺達は出来る限りわかりやすく説明した。
信用してくれるとは思ってないけどね。
「だからといって、人類共通の敵である魔族と手を組むのは違うのではないか?」
西の大陸は吸血鬼に悩まされていたから、魔族に対して恨みが強いらしい。
「獣王様は知らないでしょうが、魔族も勇者の子種を欲しているんですよ。俺が協力を申し出た時、子種を提供するならなんでも言うことを聞くとまで言いました。その後は本当によく動いてくれましたよ。」
それを聞いた獣王は驚き戸惑い、その後怒りに震えていた。
理由はすぐわかったけど。
「つまり貴様は魔族と関係を持った後に娘を抱いたのか・・・!殺してやる!汚らわしい魔族に入れたモノを娘に入れるなどと!許されることではないぞ!」
ユーマはケモ耳王女にはそのことを伝えたと言っていた。
しかし王女はそんなの関係ないと、吸血鬼姉妹とやった後も何度もユーマとやったらしい。
怒りに震えている獣王に、このことを話しても信じないだろうけど、吸血鬼姉妹とやった後の方が王女は燃えていたらしい。
背徳感でさらに興奮したって自分で言ったとか。
「魔族と我々人間は何一つ変わりませんよ。獣人はむしろ魔族とは親戚のようなものです。」
突然部屋に入ってきてこう言い張った彼女に、獣王は怒りをあらわにするどころか、驚いて言葉を失っていた。
少し待つとなんとか言葉を搾り出した。
「なぜ・・・生きている?魔堕ちしたのではなかったのか!?」
リーリアさんは獣王が来る少し前に意識を取り戻した。
魔堕ちしていた時の記憶も全て残っていて、誰に何をされたのかも覚えていた。
「私が魔堕ちしたと誰に聞いたのですか?まあ、していたんですけどね。シュウ様とユーマ様が助けてくれました。」
魔堕ちが治った。
この言葉は獣王にとって何よりも欲していた言葉。
首長が教えてくれたんだけど、獣王は母親と兄を魔堕ちで失っていた。
親戚まで数えると、もっと増えるそうだ。
獣人の魔堕ちはワーウルフやワータイガーなどの魔物になることが多いけど、獣王の血筋は流石にただの魔物にはならず、最弱でも上位種クラスで最もやばかったのは、ベヒーモスというボスモンスターになってしまったらしい。
血族に魔堕ちする者が多いため、自分や愛する娘達が魔堕ちした時対処出来るように、もしくは魔堕ちしないような手段を探していた。
「本当・・・なのか?嘘じゃない・・・な?」
すぐに信じることはできないだろう。
目の前に魔堕ちして元に戻ったリーリアさんがいたとしても、獣王は恐らく魔堕ちしたリーリアさんを見てはいないのだから。
「本当ですよ。私がここにいることがその証明です。獣王様は、私が魔堕ちしたと誰に聞いたのでしょうか?」
素直に喋ってくれるならそれでいい。
喋ってくれないなら交渉のスタートだ。
「それを教える前に約束してくれんか?教えたら魔堕ちした獣人を助けると。」
想定内の反応だな。
ここでこの程度頭が回らなかったら、王は名乗れないだろう。
「残念ですが、獣王様には聞きたいことが沢山あります。大砲とか言う武器のことや、東の大陸に進軍した理由などですね。なので、こちらが聞きたいこと全てに嘘偽り無く答えて頂けるなら、魔堕ちに関してもある程度譲歩できますよ。」
予想よりグイグイ行くね。
「余が何も答えなければ、困るのはそっちだろう。そんな態度だと、こちらも色々考えないといけなくなるぞ?」
可哀相に・・・。
一国の王だからなるべく穏便にと思っていた。
だからこそ、この世界の住人であるリーリアさんに交渉を任せたのだ。
だけどこんな獣王の姿を見ると、それも失敗だったのかと思ってしまう。
「獣王、1つだけ言わせてもらう。魔堕ちは俺かシュウ、更に特別な魔法が使える魔族の協力がないと、治すことはできないぞ。」
ユーマは獣王にとって聞きたくなかったであろう真実を伝えた。
魔族の協力っていうのも完全回復薬を枯渇させないためには必須だ。
「それから、リーリアさんに驚いて聞き逃しているのかもしれないけど、獣人と魔族は親戚のようなものって言っていただろう。獣人は、魔族を中央大陸に追い詰めるために利用されたにすぎない。都合の良い事ばかり信じて、本当の歴史を知らないで王と言えるのか!」
この5つの大陸に関する全ての歴史は、エンディールに残っているとリーリアさんが教えてくれた。
しかも魔法という形で。
リーリアさんはこれに気付いてしまったために、クソガキの実験体にされた。
「き、貴様のような異世界人が何を知ったような口を!世界の歴史なんぞ知らなくとも、余が王であることは変わらぬわ!」
どうしてこうなった。
説得して仲間に引き入れるつもりだったのに、このままだと今すぐこの場で殺し合いになりそうな雰囲気なんだけど。
「獣王様にも真実をお見せしましょう。エンディールに封じられていた、全てを見通す目に蓄積された真実を。」
リーリアさんは強制で見せるつもりになったようだ。
最初からこうしておいた方が早かったな。




