交渉のカード
傷は完全に消え、禍々しい雰囲気も見た目も元のエロいお姉さんになっていた。
服装が乱れているのがポイント高いね。
ドサクサに紛れて揉めないかな。
「シュウ様、ユーマ殿、このまま結界に入れて牢に入れておきます。よろしいですね?」
下心が読まれたのか冷たい目と口調で喋るサキュバスちゃん。
男ってやつはこれだから・・・。
「任せるよ。俺とシュウは残った船を沈めてくる。」
一気に過激になったユーマに連れられて目の保養タイムは終了した。
船からは小船が降ろされていた。
上陸するつもりだな。
「多少怪我させても構わんだろう。さっさと終わらせよう。」
なんだかんだユーマはリーリアさんに惹かれていたんだろう。
たとえリーリアさんがユーマを利用していたとしても。
「刀技、かまいたち連斬。」
おいおい、いきなりだな。
狙ったのは縄梯子や船のオールだから死人は出そうにないけど。
「あれは勇者様の姿をした魔族だ!遠慮せず撃ち殺せ!」
自分達を攻撃してくるような奴は勇者じゃないってか?
どうして攻撃されるかもわかっていないんだろうけど。
破裂音がしたのでユーマの方を見ると、目の前で弾丸が止まっていた。
これが勇者の加護ってやつか?
ユーマは攻撃されたので手加減をやめた。
小船は真っ二つになり、船は底を狙って沈めにかかった。
ついでと言わんばかりにマストも切断したので、たとえ沈まなくてももう航行できないだろう。
それでも攻撃の手を止めず、船はどんどん破壊されていく。
「ユーマ、もういいよ。それ以上は意味がない。」
肩で息をして汗をかいている。
この世界に来てからこんなユーマは初めて見るかも。
「はあ、はあ、・・・行こうシュウ。」
獣王軍の連中は海に落ちている。
海の魔物に襲われる前に陸に辿りついても、今度は捕虜になるだけ。
無駄なことをしたもんだ。
リーリアさんはまだ目覚めてなかった。
呼吸はしているし、ただ寝てるだけにも見える。
「シュウ様、少しよろしいですか?」
サキュバスちゃんに連れられ外に出ると、数人の魔族が待っていた。
全員研究者だそうで、魔堕ちも研究対象だったらしい。
「魔堕ちが治ったというのは本当ですかな?」
サキュバスちゃんは一部始終を見ていたので説明できるはずだが、俺がいないところで話していい事ではないと判断したらしい。
俺に話を聞かせることにして、俺が同席を許可すれば研究者も一緒に話を聞けるという処置らしい。
もちろん許可して話を聞かせてもらう。
サキュバスちゃんは人間の魔堕ちを何度も見ているそうで、リーリアさんは確実に魔堕ちだったそうだ。
「あの女性が勇者召喚を行ったというなら、得意魔法は時空間魔法と推測できます。なので船を消した魔法は空間魔法の類でしょう。しかし、あの大きな船を消すほどの空間魔法は人間の魔力量では使えません。魔人に堕ちたからこそ使えたという証明です。」
ちなみに勇者召喚は決まった場所でやるので魔力量は関係ないらしい。
「確かに、サキュバス殿が言う状況ならば魔堕ちに間違いないようですな。それがシュウ殿の完全回復薬で治ったのもサキュバス殿は見たのですな?」
サキュバスちゃんは頷きその時の状況を詳しく話し始める。
完全回復薬を使用した直後、身体が光り始めその光りが収まると普通の人間になっていた。
簡単に言うとこれだけなのだが、魔堕ち特有の禍々しさが消えていく様は目を疑ったそうだ。
「シュウ殿、もし完全回復薬が余ったら我等に1本分けて頂けませんか?」
コピーで増やせるので構わないとその場で渡した。
研究者達はすぐに研究を始めると言い去っていく。
「魔族の我侭を聞いて頂き感謝します。」
構わないと返しリーリアさんが寝ている部屋に戻ろうとすると、今度はドワーフに呼ばれる。
「シュウ殿、首長が来て欲しいと言っている。勇者も一緒に。」
わかったと伝え、ユーマと一緒にドラフバルへ。
すぐに首長の元に通され何があったか聞くと、獣王が俺達と話がしたいらしい。
しかも直接会って。
聞きたいことは沢山あるだろうな。
こっちもあるけど。
「どうするね?断っても構わないね?」
ユーマと話し合う必要もなかった。
会う日は首長に決めてもらい、この場は離れる。
「直接会って説得出来ればなんとかなるよな?」
ユーマにしては言葉に力がない。
少し疲れているんだろう。
あれだけのことをした後だし。
「わからん。だけど、少し話しただけだが馬鹿ではなかったよ。」
獣王は魔堕ちに関心があった。
リーリアさんが目覚めれば交渉のカードになる。
獣人は魔堕ちが多いという設定があったからな。
獣王からすれば治るとわかればこっちに味方したくなるだろう。
リーリアさんのところに向かうと部屋の前で研究者達が待っていた。
直接触診等をしたいらしい。
目覚めてからにしてもらいたいが、リーリアさんが魔族に身体を触らせるとは思えんな。
「良いんじゃないか?獣王との交渉にも使うなら、少しでも情報がいるだろう?」
一番反対すると思っていたユーマが賛成するとは・・・。




