新しい力
全ての準備が終わる前に始まった。
しかも先制攻撃で航空戦力をごっそり減らされてしまった。
もちろんやられっぱなしでいるつもりはない。
「俺とゆうなちゃんは中央大陸に向かう。ユーマはこっちの仕切りを頼む。何かあったらすぐ連絡してくれよ。」
転移門で中央大陸に渡り、幹部連中を収集。
現状を把握して、次にどう動くかを決めていると、獣王軍の野営地が判明した。
「獣王軍は半数だけが上陸した模様!残りは船に乗ったまま東を目指しています!」
銃でワイバーンを倒せたから、半数で充分だと思ったんだろう。
獣王軍がどれだけ銃を用意しているのかわからないけど、半数しか上陸していないなら全兵士が持っていると考えても良いかもしれない。
むしろそう考えた方が安全か。
「どういたしますか?奴等は既に攻撃をしてきました。反撃しても問題はないかと。」
脳筋魔族はすぐにでも攻撃したがっている。
銃の脅威を知らないからな。
ゆうなちゃんが必死に止めているが、暴走するやつも出てくるかもしれない。
「シュウ様、少しよろしいですか?」
サキュバスちゃんが周りに聞こえないように話かけてきた。
応じて、少し距離を取って話を聞く。
「獣王軍の野営地が遠距離攻撃しやすい場所でしたので、何かあると思い試させました。結果、放った攻撃がそのまま返ってきたそうです。反射障壁を張っていると思われます。」
反射障壁か。
攻撃をそのまま跳ね返す障壁だけど、術者の能力次第で強度が決まる代物だ。
そこまで脅威だとは思えないが、サキュバスちゃんは警戒しているようだな。
「いざとなったら俺が斬るよ。どんな障壁でも斬れるらしいからさ、この剣。」
安心したようで、わかりましたと一礼してサキュバスちゃんは戻っていった。
さて、脳筋魔族はどうかな?
「魔王様、我等は同胞を殺されたのですぞ。ワイバーンは龍人族にとって遠い親戚!それを殺されて黙っていれるわけないだろうが!」
ワイバーンのこと、ただの乗り物だって言ってたらしいんだよねあの龍人族。
つまりあいつはさっさと暴れたいだけの可能性が高い。
力で抑え込んでもいいけど、それはそれで面倒だな。
「もう夜になるのに獣王軍がなぜ火を灯して宴会してるかわかるか?あいつらは確信があるんだよ。どう攻撃しても無事だという核心が。魔族は頭を使うより特攻したがる馬鹿が多いのもばれている。このままだと、全滅するために攻撃を仕掛けることになるんだぞ?それがわかっていて攻撃したいと言っているんだろうな?」
魔王として威厳たっぷりのゆうなちゃんが龍人族に最後通牒する。
恐らくこれでも我侭言うなら殺す気だろう。
それがわかっているからか、龍人族は何も喋らなくなった。
「わかったなら指示を待っていろ。貴様等の力が必要な場面もある。」
一度頭を冷やすという名目で会議は中断された。
やることは決まっているのに、それに従いたくない奴等もいる。
戦争はなるべくしたくないって思うのは、俺達が平和な世界にいたからなのかね。
「報告します。敵の斥候がこちらに向かっているようです。どういたしますか?」
捕まえて情報を貰いたいけど、銃持ってたとしたら対応できるのは俺かゆうなちゃんだけだろう。
仕方ない。
総大将を斥候捕まえるために出陣させるわけにはいかんしな。
「俺が行く。ワイバーンを落とした武器を持っているかもしれないから、護衛はいらん。」
反対されたけど戦力を減らすわけにはいかないので、強引に押し切った。
さっさと装備を整えてさっさと斥候が向かっている場所に先回り。
獣人は五感がするどい。
当然の様に斥候3人は俺に気付いたが、関係ないとばかりに進んでくる。
「これはこれは、勇者様を悪の道に引きずり込んだ張本人ではありませんか。」
なるほど。
ガルガンズにはそういう風に伝わっているのね。
まったく、どうしてやろうか・・・。
「おい、クソ野郎。何か喋れよ!手前のせいで世界がおかしい方向に向かい始めたんだぞ!」
イラッ☆
他人から聞かされた情報を鵜呑みにしやがって。
「よりによって魔族と手を組みやがって!新しい力で魔族共々ぶっ殺してやる!」
そうだ。
それについて聞きたかったんだよ。
「そうか。ワイバーンを倒したって武器か。じゃあ、俺はもう死ぬしかないんだな。」
「そうだ!苦しみながら死ね!」
チョロそうだな。
試してみるか。
「もう死んでしまう俺に、その力を誰からもらったのか教えてくれないか?ここで死ぬんだから問題ないだろう?」
引っかかるかな?
「ふんっ!俺達は貴様と違って優しいからな!それくらいなら教えてやろう!俺達に魔族を殺す力を授けてくれたのは、北の大陸の女王様だ!」
北の女王はユーマに助けて欲しいって連絡をしてきていたはずだ。
それすら罠の可能性があるけど、エルフが銃の量産に成功したとは思えない。
だって鉄嫌いじゃん。
「それじゃあ、そろそろ死ねよ。裏切り者!」
そう言いながら銃口を俺に向ける。
形からみて長距離用のライフルっぽいな。
斥候が全員持っていることを考えると、全兵士が持っているのは確定と考えよう。
3人が俺に向かって銃を撃つ。
確実に俺の身体を捉えたので、ニヤリと笑う斥候達。
「ふむ、やっぱり銃も効かないな。これで安心して前線に立てるわ。」
絶句。
斥候3人は何が起きたのか理解できずに立ち尽くしている。
「殺そうとしたんだ。足がなくなる程度なら我慢できるよな?」
サクッと全員の片足を切断して、銃も没収。
合図を出して迎えを呼べば俺の仕事は終わり。
銃を持ち帰ってこっちでも作れるか試さないとね。




