協力関係
「つまり、本来魔王は倒すべき相手ではないと言いたいのだね?」
義父は少し怪訝な顔をしながら俺達に質問する。
「はい。それは間違いありません。別に黒幕がいて、そいつらが何かをしているようです。いきなりこんな話をして信じてもらえるとは思っていません。ですが、捕まえてきた奴等の口から聞いたでしょう?勇者と魔王が争う意味はないということを。」
捕まえた奴等は魔法と麻薬で洗脳したら、ペラペラと喋り始めた。
こいつらに同情するところがあるとすれば、ありとあらゆる欲求から遠ざけられたことだろう。
美味い食い物や酒、性的行為、そして睡眠。
人間の三大欲求を数百年単位で行っていなかったのだ。
それでも生きていけるのがおかしいんだけど、こいつらはそういう存在ということだ。
「確かに、見た目は普通の人が数百年生きていて、しかも何も食わず飲まずそして寝ずに何かをしていたと聞かされた時は、こっちの頭がおかしくなるかと思ったね。君達の事は信用も信頼もしている。だからこそ、これが本当のことだと理解しようとしている。でもね、本当だとしたら、南と北の動きが腑に落ちないね。」
確かに、南と北はなぜか俺を攫った奴等と同じ事をしている。
でも少し考えればわかることだ。
あいつらも利用されているんだ。
あのクソガキに。
「首長、我々は勇者様方を支持します。本当だとしたら、我々の中に裏切り者がいることになりますが、今までのことを考えると勇者様方を信じる事こそ正しい事だと思うのです。」
若者代表は感情論で動いたか。
年齢は俺達とそんなにかわらないだろうけど。
「南と北から潜り込んでいる奴等を捕まえてみませんか?同じように魔法と麻薬を使えば簡単に吐くかもしれませんし。」
新しい自白のさせ方を教えたからか、どんどん使おうとする年寄り連中。
新しいものって使いたくなるよね。
「あの方法はそんなに多様できないね。やり方を間違えれば廃人にするだけだしね。」
「しかし、勇者様方は今でも狙われているのですぞ!」
膠着状態になると思っていたが、義父の判断は早かった。
「戦力と情報を集めるね。シュウとユーマを信用しないってことじゃなく、更に詳しい情報を集めるという意味で。なるべく協力者は多いほうが良いから、もしあてがあるなら連絡を取ってほしいね。」
全員すぐに動き始める。
ドワーフの結束はかなり固いんだな。
「俺達はゆうなと情報の共有をしよう。魔族は味方って知ってるのは俺達だけだから、それを踏まえて作戦を練らないだし。」
確かに。
ユーマとゆうなちゃんのおかげで光龍まで仲間になってる。
クソガキ相手には切り札にならないけど、他の組織相手なら充分切り札になる。
全部計算して作戦立てるのすげえめんどいぞこれ。
「そういえば、中央大陸からエルフが来たね。君達に会いに来たって言ってたけど。」
忘れてた。
ユーマの方を見てみると俺も同じ顔してるんだろうなって顔してる。
「完全に忘れてた・・・。いや、でもあいつらの組織にも敵が潜んでるだろうし・・・。」
ユーマが忘れていたのも俺が攫われてから、大慌てしたせいだろう。
素直に謝るとしようか。
そのまま外に出ると、2人は嬉しいような怒っているような悲しいような複雑な顔を繰り返していた。
「ニンブル、リンド、早かったな。」
勇者であるユーマの上から目線。
2人は逆らえないはずだ!
「事情は精霊から聞きました。どうして我々にも手伝わせてくれなかったんですか!」
精霊マジ有能。
もしかしたら2人よりゲフン。
「色々事情があってな。信じてもらえるかわからないこともあったし、時間もなかった。だから勝手に動いた。2人が本当に俺のことを守ろうとしてくれているのはわかっているつもりだよ。すまん。」
上から目線の次は信じてる攻撃。
これは効く。
特に2人には。
「我々は組織が無くとも勇者様を守る為に行動します。今ではシュウ殿もその対象です。信じてほしいとは言いません。我々を盾にしてくれればそれで良いんです。」
狂信者になっちまったな。
俺達のせいだけど。
「わかった。事情を話す。決めるのはそれからで良い。」
真実を話して、それでも俺達に着いて来るというなら、全力で肉壁になってもらおう。
俺だったら逃げるけどね。
この世界を裏から操ってるような奴等が相手なんだし。
「聞かせてください!たとえ神が相手でも我々は引くつもりはありませんから!」
ユーマが話し始める。
2人は真剣に聞いていたが、途中から顔色が悪くなっていく。
勇者と魔王の関係について話が及ぶと、真っ青になっていた。
敵認定していた相手は自分達の仲間が命を懸けて守った相手でした。
全然面白くない喜劇をみせられた気持ちになるよね。
「そんな・・・。我々は何の為に戦っていたんだ・・・。」
2人は落ち込んでいるが、構わず話を続けるユーマ。
各大陸が裏でやっている事について話始めると、多少は知っていることもあったようで少しは顔色が戻ってきた。
しかし、魔王と光龍を仲間にしたと聞くと卒倒しかけた。
「先程の話で魔王が敵とは言えないことはわかりましたが、伝説の光龍まで仲間に・・・。」
「これから先はどうなるかわからない。だが、シュウを狙っているのは変わらないだろうから、戦争のような状態になる可能性も高い。君達は勇守隊という組織に所属しているんだから、一度考える時間を取った方が良いと思うぞ。」
2人は力なく頷くと、トボトボと歩いていった。
「さて、俺達も準備をしないとな。」
そうだな。
俺の装備を一新しないとだし。




