龍
北の大陸と東の大陸を繋ぐトンネルにいた魔物は、私の配下では歯が立たなかった。
しかも魔王とは別の支配体系らしく、入るなり警告なしで攻撃してきた。
「コノドウクツニ、マオウニシタガウモノイナイ。シニタクナケレバカエレ。」
いい度胸だと言いたいが、目的は情報収集なのでなるべく戦闘は避けたい。
「どけ。俺がやる。」
私は出来るだけ戦闘を避けた方が良いと思うんだ。
私は。
勇者の攻撃は魔物や魔族に補正がつく。
武器やスキルによってかなり違いがあるが、今のユーマなら10倍くらいつくだろう。
「刀技、かまいたち。」
私が聞いていたかまいたちとはだいぶ違うなぁ。
1mくらいの空圧の刃が飛んでいくと報告を受けていたが、目の前を飛んで行った空圧の刃は5mはあった。
威力もやばい。
上位魔族が全力でありとあらゆる攻撃をしても、多少の傷しかつけることが出来なかった相手を、真っ二つにしやがった。
貫通して後ろに控えていた魔物もまとめて真っ二つ。
「ユウシャ!?ユウシャガナゼココニ!?ココニユウシャガクルノハケイヤクイハンダゾ!」
契約だと?
「誰と何の契約をした!このトンネルごと潰されたくなかったら、さっさと吐け!」
私よりもユーマが先に反応した。
脅しのつもりか、地面にかまいたちを撃つ。
さっきのかまいたちより、確実に威力が高い。
「このトンネルは人間にも我等魔族にも必要ないんだ。潰した方が早いぞ、勇者よ。」
勇者と魔王が完全に手を組んだと知れば、少しは態度がかわるだろうか。
ここにシュウがいないとわかれば、今すぐにでも完全に埋めてやるのに。
「マテ、ワレラガシハイシャニハンダンヲアオグ。」
「5分だけ待ってやる。それ以上は待たない。」
場所次第だと5分で着かないんじゃないのか?
「魔王様、ここの支配者は恐らく龍です。一筋縄ではいきませんぞ。」
私の配下も仕事をしていたようだ。
相手が分かれば対応もできる。
しかし、龍か。
強いのは知っているけど、ユーマがいる時点で敵ではないはずだ。
私が勇者の頃にも戦ったことがあるけど、苦戦した記憶はない。
「お待たせしました。私はここの支配者である光龍様の僕、銀蜂といいます。」
髪から肌から服まで真っ白な人間の女が歩いてやってきた。
人型になれる魔物なのか、それとも魔族だろう。
時間も3分くらいしか経っていないということは、近くまで来ていたのだろう。
最初から光龍とかいう支配者と色々決めていたのかもしれない。
「ここに俺と一緒に召喚されたシュウはいるか?いるなら早く出せ。」
こらこら、なんだその不器用な交渉は。
交渉はシュウじゃなくてあんたがやってたんじゃないのか。
「ここにいる人間は現在勇者様1人です。それ以外の人間はいません。我々は勇者様と魔王様を同時に相手になんてしたくありませんので、一切嘘は申しておりません。それでも我等と事を構えるというのであれば、こちらもそれ相応の対応を取らせていただきます。」
本音と受け取っても良さそうだ。
上位魔族に勝つような兵隊が沢山いるんだから、いきなり戦う選択を選んでもおかしくない。
それなのにいきなり情報を渡してきて、戦いたくないと言いながらもいざという時の覚悟もみせた。
ここがハズレだとすると、後は歩いて行ける場所じゃないんだよね・・・。
「光龍ってやつに会わせろ。話はそれからだ。」
ユーマは焦っているな。
気持ちはわかるが、今は冷静な判断力が必要なタイミングだぞ。
「わかりました。光龍様からもそう仰られたら通すようにと申し付かっておりますので。」
拍子抜けだ。
すぐに戦闘が始まってもおかしくない状況だったのに、向こうがそれを避けた。
しかも自分達の支配者に簡単に会わせるとは。
いくら龍がそう言ったとしても、ここまで有利に進むと別の何かがあると思ってしまう。
銀蜂と名乗った女は私達に背を向け、歩き出した。
するとすぐにユーマが私の横に来て、
「時間を止めてくれ。俺とお前とあの銀蜂ってやつを指定して。」
と言ってくる。
何か考えがあるんだろう。
やってやる。
「空間・人物指定、時間停止。」
時間が止まり、2人と1匹以外は動きが止まる。
「これは・・・。なんの真似でしょうか?光龍様のところに案内すると申したではありませんか。」
「この空間は時間が止まっているってのは知ってるみたいだな。それなら話は早い。お前が知っていることを話せ。何を隠している?」
「何を仰っているのか・・・。それに聞きたいことなら、光龍様に直にお聞きになられた方が良いと思いますよ。私などとは違い、目の前に立つだけでその偉大さがわかる御方です。なので」
「俺はあんたが光龍だと思ってるんだけどね。さっき魔物が支配者に判断を仰ぐと言った。そして来たのがあんただ。ついでに言うと、いくら支配系統が違っても、ただの側近程度の魔物が時間停止魔法を知っているとも思えないんだよ。」
確かに、時間停止は私の配下でも全員が知っているわけではない。
しかし食い気味に相手の言葉を遮るのはどうかと思うぞ。
「俺が納得するまでこの時間停止は解かない。俺と魔王はとある事情で裏切ることがないから、戦闘になってもあんたが不利だよ。」
完全に脅しじゃないか。
ユーマが魔王になったら私より優秀な魔王になりそうだな。
しかし、これで手掛かりが掴めるなら良いけど、何も得る物がなかったら大損になる可能性も高い。
止めるつもりは全くないけど。
銀蜂は私を見る。
確認したいんだろう。
本当に勇者と手を組んだのか、時間停止を解かないのか、等々。
「勇者の言っていることは本当だ。私は勇者を裏切らないし、勇者も私を裏切らない。勇者が納得しない限り時間停止は解除しない。出来れば避けたいが、戦うことになったら全力で攻撃させてもらう。その為の準備もしている。」
はあっと諦めた様な溜息をつく銀蜂。
「そうですよ、私が光龍ですよ!嘘吐いてすいませんでした!でも全部が嘘ってわけじゃないから!勇者の友人はここにいないし、銀蜂って側近も本当にいるんだから!」
え、何いきなり。
性格違いすぎて吃驚なんだけど。
「久しぶりに外の住人と喋れると思って、色々準備してサプライズまで用意したのに!台無しだよ!」
やばい。
展開についていけない。
ユーマの方をそっと見てみると、同じ心境みたいで、安心した。
「勇者と魔王なんて情報の宝庫だから、ちゃんと歓迎するつもりだったのに!」
怒るところそこなのね。
「悪いけど時間がないんだ。シュウを助け終わったらまた来るから、知っていることがあったら話してくれ。」
こちらは遊んでいる時間はない。
それに気付いたのか、急に真面目な顔になる光龍。
「コホン。シュウという召喚された人はこの洞窟内には来ていません。それは私が保証します。他に知りたいことがあるならお答えしましょう。」
一歩前進・・・かな。
時間停止しているので、1から説明をした。
「後はそれぞれの記憶を照らし合わせた結果、ここと西の大陸にある火山はお互いが知らない場所だった。他にもそういう場所を知らないか?」
「なるほど。召喚や異次元同位体のことについては、シュウなる御仁が助けられてからじっくり聞くとしましょう。ここや火山に似た場所というなら、南の大陸にある地下迷宮、後は中央大陸の海中洞窟でしょうか。偵察用の魔物や精霊だと気付くこともできないでしょう。そういう魔法がかかっていますので。入り口も巧妙に隠されているので、場所を知っている者でないと入り口を探すだけでもかなりの時間を要しますよ。」
よりによって南の大陸と中央大陸か。
「頼みがあります。勇者の力で私の封印を解いてくれませんか?解いてくれたら、私が協力しましょう。あなた方が探している相手は、恐らく私の敵でもあるので。」
龍は龍で色々あるのか。
住んでいるだけだと思っていたのに、封印されていたとは。
「どうすれば封印が解ける?」
「私の精神体に封印の魔法陣が刻まれています。これを斬ってください。精神体の下には私が魔法で送ります。私と戦える実力者でないと、精神体の私に殺されてしまうので、どうにもできなかったのです。」
ユーマは真剣に話を聞いているけど、私は途中から聞く必要がなくなった。
このイベント私の世界では体験済みなんだよね。
相手は獣王だった気がするけど。




