見せ掛けの地獄
「やあ、良い朝だよ。今日でもう1年経つねぇ。結局勇者は君の事を忘れてしまったようだ。」
朝はクソガキの挨拶から始まる。
攫われてすぐに四肢を切り落とされてから、朝と寝る前に挨拶をしてくる。
俺が精神を病まないようにするためだと言っていた。
朝の挨拶が終わると、実験が始まる。
俺の身体から色んな物を採取して。
「うわあああああ!ぐええっおえっごえっ!」
今日は穴という穴に細めの棒が突っ込まれ、中身を掻き混ぜられる。
見えなくなると恐怖心が減るだろうと、左目だけは無事だ。
俺の身体は部位で効果が違うそうで、重要な器官であるほど効果が高いらしい。
2週間前には頭蓋骨を割られ、脳が一部分取り出された。
その脳を使って行われた実験は、大成功したそうだ。
クソガキが大喜びで報告してきた。
「今日は肺を片方取り出そうか。2個あるから死なないでしょ。」
ああ、明日からは少し息がし辛くなるな。
「君がこんなにボロボロになっているのに、勇者は結局きてくれなかったねぇ。今頃綺麗な女性と仲睦まじくベッドに入っているんだろうけどさ!君がもう少し早く僕に忠誠を誓ってくれれば、ある程度の自由を与えてあげることもできたのに。勇者なんかを信じるから自由が無くなっていくんだよ。」
ユーマは来てくれなかった。
死んだわけではないようで、3ヶ月前には勇者が魔王を倒したとパーティが催された。
その日の実験は特別だと、睾丸を1つ取られた。
着々と俺の身体はばらされているのに。
痛い思いをしているのに。
俺の親友は来てくれない。
「閣下、お話が。」
クソガキが研究員に呼ばれてどこかに行った。
一時の安らぎタイムであり、逃げるための作戦を練る時間だ。
研究室にある大きなテレビ。
外の様子がわかるようになっているらしいが、このテレビにユーマが映ったことはない。
5つも天井から吊るされているのに、映るのは実験体の様子だけ。
「やあ、待たせたかな。そろそろ取り出そうか。」
何も進展がないまま、クソガキが戻ってきた。
麻酔という概念がないのか、いきなりメスのような刃物で胸を切り開かれる。
「うぎゃあああ!痛い痛い痛いいいいい!」
俺の悲鳴はいつものことで、手を止める奴なんていない。
むしろ、クソガキが喜ぶ悲鳴を上げさせたらボーナスが出るそうで、死なない程度に別の所も切られたりする。
「今日の悲鳴はいまいちだね。前にも聞いた気がするし。」
研究員はボーナスがもらえないと、俺を痛めつけて鬱憤晴らしする奴までいる。
四肢を失って、色々な臓器も失っているのに、無理矢理魔法で生かされている俺に、死ねと捨て台詞を言ってくる。
殺してくれるなら、さっさと殺してほしい。
「なんだって?それは本当かい?はっはっは、彼に教えてあげよう!」
クソガキが喜ぶような報告が入ったらしい。
「君の身体を使って実験をした、魔堕ちの結果がでたよ!東の大陸を我が物顔で占拠しているドワーフの街を半壊させたそうだよ!素晴らしい結果だね!君の四肢でこれだけの結果が出たんだ。脳や内臓を使った個体は更に素晴らしい結果を出してくれるだろうね!」
とうとう被害がでたのか。
魔王を倒した勇者は世界の平和を守らないらしい。
勇者の血を残すことが一番の仕事になるから、無駄なことはしないし、させない。
東の大陸は他の大陸から嫌われているから、援助すらないだろう。
おかしい・・・。
何か違和感がある・・・。
東の大陸が嫌われている?
嫌われているというより、煙たがられているが正しいはずだ。
どうあっても手が出せない相手、それがドラフバルという国だ。
ドワーフしか金属を加工できないんだから・・・。
考え事をしていたら、不意に甘ったるい匂いに包まれる。
眠気に抗うことができず、眠りについた。
「やあ、良い朝だよ。今日でもう2年経つねぇ。結局勇者は君の事を忘れてしまったようだねぇ。」
もう2年か。
ユーマは魔王を倒したのだろうか。
魔王を倒したら、俺を助けてくれるだろうか。
「今日は吉報を持ってきたよ。君の身体を使って作った魔堕ちが、北の大陸を我が物顔でのさばっている耳長族を皆殺しにしたそうだ!素晴らしい戦果だよ。君も鼻が高いだろう?」
エルフか。
別にエルフがどうなっても俺には関係ない。
そんなことを大喜びで報告してくるこいつは、本当は馬鹿なんじゃないだろうか。
演技をしなかったら、エルフが俺を実験体にしようとしてたんだぞ。
エルフが俺を実験体にしようとしたんだ。
どうしてそうならなかった?
演技ってなんだ?
誰と演技をした?
何かに気付きかけた時、甘ったるい匂いが充満してきた。
そのまま俺は眠ってしまった。
「やあ、良い朝だよ。今日でもう半年経つね。勇者は君の事を忘れて旅を続けているみたいだね。」
またこの台詞だ。
何度目だろうか。
クソガキのこの台詞は。
俺が本当に意識を取り戻してから、9回目の挨拶だ。
5年だったり半年だったり、増えたり減ったり。
少しは統一させろよと思う。
余程、魔法や薬に自信があったんだろうが、色んなところで無理が生じ違和感が出てきた。
おかげで幻影か何かを見せられているんだと気付けたんだけどね。
「君の身体を使って生み出された魔堕ちが、西の大陸で大暴れしたそうだよ!汚らわしい獣人共の街を破壊しつくしたそうだ!君も嬉しいだろう?君の身体から産まれたようなものなんだから。」
毎回言ってくるこれは、なんなんだろう。
俺の何が試したいのかさっぱりわからない。
嫌がらせって線が一番濃厚だな。
俺が完全に騙されていると勘違いしてくれたみたいだし、そろそろ抜け出すために出来ることを探すか。




