見つからない手がかり
シュウが攫われて3日経った。
俺とシュウだけの秘密、内緒チャットも使えない。
呼びかけてもなんの反応もないし、向こうからも呼びかけてこない。
焦りが募るが、今は打開策を見つけるしかない。
ゆうなが言うには、1週間が限度らしい。
この3日で色々と話し合ったからか、お互い蟠りはなくなった。
と思う。
ゆうなが魔族に出した突撃命令は解除させた。
準備が足りないから。
ニンブルの話では、長老派のせいで北の大陸はいつでも戦争できる状態になっている。
ガルガンズは魔物の脅威が去ってから、戦争の準備を始めていたとリンドが教えてくれた。
エンディールは言わずもがな。
本当に敵しかいないんだと痛感する。
「魔族や魔物の準備はまだ終わらんのか!」
魔王は荒れている。
魔王が荒れているからこそ、俺は冷静でいられる。
きっとわざとやっているんだろう。
俺のために。
シュウのために。
「エンディールの主要人物を拉致して眷属にしますか?」
「それをするなら確実に情報を持ってる奴にしないと危険だ。目星はついているのか?」
黙って俯く吸血鬼達。
魔族に足りないのは策略だな。
俺もそんなにかわらないか。
チャットがあるからどちらかが攫われても平気と高を括っていたんだから。
「ゆうな、ちょっと来てくれ。」
ゆうなを呼び出し、時間停止の魔法をかけてもらい話をする。
最近大事な話はこれでするようにした。
魔族も信用できないからだ。
裏切ったわけではない。
利用されているのだ。
考えが単純だから。
まさか、魔王を毒殺しようとするとは思わなかった。
その毒は勇者を見つけることができる薬だと言われて500万Fで買ったそうだ。
頭の良い魔族と悪い魔族の差が酷すぎる。
「それで、なに?なにか良い案でも浮かんだの?」
相当いらついてるな。
俺も一緒だが。
「勇者の隠しスキル、全部教えてくれ。もしかすると使える物があるかもしれない。」
「ないわ。例えこうなる前に教えていても、意味なかったし。」
何か有用なスキルはあるらしいな。
この状況では意味無いみたいだが。
「念のために聞かせてくれないか?何が役に立つかわからんのだ。」
やれやれといった感じで俺を見る。
「マッピングというスキルはある。自分の半径50m以内なら状況がわかるというやつだ。だが、個人を判別することもできないし、生物がいるってことしかわからない。魔物も人も動物も同じように記されるから、例え使えてもシュウをピンポイントで探せるわけじゃない。」
微妙に思えるが、1人で旅をするには破格の性能だ。
俺達が特別なだけで、本当なら俺1人が召喚されるはずだったことを考えると、俺が欲しているスキルが都合よくあるわけない。
「確かに今使えるスキルではない・・・か。」
「魔族が僕や眷属を使って、遺跡やダンジョン、城の中から民家まで探しつくしたのに、手がかりすら見つからない。有用なスキルがあればとっくに教えている。」
それもそうか。
俺より責任を感じていたんだった。
冷静だと思っていたが、かなり動揺してるな。
「シュウとゲームしていた時に訪れた場所は全部覚えているか?」
どういうことだ?
自分もゲームしていたはずなのに。
「大体は覚えているが、それがどうした?」
「1つずつ書いてくれないか。私が知っている世界とお前達の世界は少し違う。お互い、実装されていなかったダンジョンや遺跡があるかもしれない。」
なるほど。
俺達の方では存在していてもゆうなの方では存在してなかった可能性はある。
このゲームは寄り道がいくらでもできるからな。
準備を終えてもう一度時間停止を使ってもらう。
ゲームを始めてから、巡った場所を地図に書いていく。
ゆうなの方も同じことをしているが、召喚されて魔王になって今までかなり時間が経っている。
俺よりは記憶が残っていないだろう。
「お前達、南の大陸だけでも色々やってるんだな。始まりの街から出発して、ダンジョンから遺跡まで隅々残さず周ってるじゃないか。」
「レア素材のためにな。シュウが1人で素材集めをしていたこともあるから、俺は聞いただけって場所もある。」
俺の装備はほとんどシュウが素材を集めてくれた。
自分じゃないと手に入れられない素材は、シュウに連れられて取りに行った。
攫われたのが俺だったら、シュウがとっくに見つけてくれたんじゃと思う。
西の大陸も同じように色々周った。
シュウが。
俺はレベリングが主で、シュウは大陸中走り回って素材を集めていた。
狩場としても素材集めとしても不人気だった場所もわざわざ行った。
そういう場所には、誰でも1回開けることができる宝箱が隠されている。
入っているアイテムは貴重な物ばかりなので、知らないとかなり損をするようになっていた。
懐かしいな。
あの頃は召喚されるとか考えたこともなかったぞ。
「ゆうなの親友の名前はなんていうんだ?名字は高藤なんだろうが。」
「翔子だよ。そっちのシュウと同じで、かなりのゲーマーだった。」
俺が女だとシュウも女になるのか。
性反転世界だと全員反転しているんだろうか。
「おい、ちょっと待て。そのトンネルはなんだ?」
東の大陸で訪れた場所を書いているとゆうなが聞いてきた。
「これは東の大陸と北の大陸を繋いだトンネルだ。ドワーフが鉱石を取る為に掘っていたら、いつの間にか北の大陸と繋がってしまったって説明があったな。」
「それ知らない・・・。海底トンネルなんて完全攻略本にもなかった。」
やはり知らない場所がある。
希望がみえてきた。




