拉致られて実験体
頭がガンガンする。
二日酔いみたいな。
「ほほう、血液と唾液だけでそこまでの結果が出ましたか。これは喜ばしい。」
子供の声?
しかも頭に響くタイプの声。
ちょっと喋るのやめてくれないか?
お兄さん頭痛いんだよ。
「まったく、いいご身分ですねぇ。ただの実験体の分際で。」
今度はねっとりとした嫌味満載な声。
身分ってなんだ?
とりあえず文句あるなら俺が起きてからにしろや。
俺の意識は目覚めることを拒否しているのか、また眠くなったので逆らわずに寝る。
「そろそろ起きてもらいましょうか。薬を。」
いってええええええええええ!
激痛が体中を走る。
なんだこれは!
何が起きたんだ!?
「ああ、良かった。目が覚めたようですね。おはようございます。」
目の前には子供が立っている。
「どうした坊ちゃん、迷子か?お兄さんがお母さんのところまで連れてってやろうか?」
迷子の子供を助けるより前に、ここがどこかわからないとだな。
でも首が動かねえんだよな。
なんでだ?
「自分の状況が理解できていないようだね。これからの君は、身体中切り刻まれて実験に使われるだけだ。こうして僕の声を聞いていられるのも、後何日のことだろうね。」
何言ってんだこの子供は。
「ああ、見えていないんだね。おーい、そこの君!彼の首を動かしてあげてくれるかい!もう無くなった手足が見えるように!」
無くなった手足が見えるように?
意味不明なんだけど。
いてえ!
誰かが無理矢理俺の首をまわそうとしてやがる!
ゆっくりと景色が変わっていく。
見たことない場所だ。
実験室のような。
なんでこんなところにいるんだ。
「もう少しで見えるよ。無くなった右腕がね。」
は?
だから無くなった右腕ってなんだよ。
意味がわからん。
そう思った。
意味はすぐにわかった。
あの子供は何も嘘をついてなかった。
俺の右腕は無くなっていた。
肩から切られて無くなっていた。
「う、うで!俺の腕がない!なんで!なんでなんでなんで!嘘だ嘘だ嘘だ!なんでこんなことに嘘だあああああああ!」
「あーっははっはははっははっはははっは!良い顔するじゃないか!最高だよ!その狼狽え方も素晴らしいよ!ははははははははっはっはっは!ついでに教えてあげるけどさあ!君の四肢は全部切り取った後なんだよ!あそこ見えるかい!?全部あるだろう?ちゃあんと有意義に使ってあげるからねぇ!はーっははははっははっは!」
俺の手足は白衣を着たやつらが細かく刻んでる。
「ふざけるなぁ!返せ!俺の手足を返せよお!」
「ははははは!笑わせてくれるなあ君は!君の物なんてここにはないんだよ?この世界にやってきたその日から、君は実験体になる運命だったんだからあ!」
なんだこれなんなんだこれ!どうしてこうなったんだ?何が起きた?ユーマはどこだ?俺は何をしていた?魔王だ魔王と話をしていたはずだ!魔王が裏切ったのか?いやそれはありえない魔王はユーマと同じ存在なんだ裏切るわけがないそれなら今の状況はなんなんだ!?
「ねえねえ、考え込んでいないでさあ、もっと泣き叫んだりしてよ!君達には色々と面倒をかけられたからねえ!泣き顔や絶望した顔が見たいんだよぅ。」
このクソガキ・・・。
「閣下、準備ができました。」
「あ、そう。それじゃあこの実験体にも見せてあげよう。自分の身体を使って行う実験を。」
何を言ってんだこいつは?
「僕は昔から、異世界人の身体を材料に使えば実験が進むと考えていたんだ。でも、魔王を倒す道具である勇者を実験にするのはダメだって言われてさぁ。そこに現れたのが君だよ!異世界人であり、好きに壊しても構わないおもちゃ!召喚で来たんだから、所有権は僕にあるわけだしね!」
誰がおもちゃだクソガキ!
「準備できたみたいだね。明日にはその右眼無くなるんだから、しっかり焼き付けておきなよぉ!それじゃ、実験スタート!」
クソガキの視線の先には大きな水槽がいくつもある。
中に人みたいなものが入ってるようにみえるが。
「人間・獣人・エルフ・ドワーフ、ついでに魔族もできるだけ捕まえた。ここに魔族はいないけど、この実験が上手くいけば次は魔族だ。」
何を言ってんだこいつは?
「これはねえ、条件を達成してない人間を魔堕ちにできるかの実験なんだ。何度か成功はしているんだけど、100%ってわけではない。そこで君の身体だ。君の身体を繋ぎ代わりにしてみたら良いんじゃないかと思ってね!勇者は絶対に魔堕ちして魔王になるんだから、異世界人にはそういう素質があると思うんだよ!すでに簡易実験では100%成功している。後はこの実験が成功すれば、僕は人類で初めて魔堕ちを操ることができた存在となるんだ!愉快だ!愉快だよお!」
この腐れマッドサイエンティストめ。
「この僕をこんな姿でこんな場所に閉じ込めた異世界人とその仲間共め!復讐の準備はもうすぐ終わる!全てを壊してやるぞ!悪いのは僕の邪魔をしたお前等だ!ふふふははははひゃっははっはははははは!」




