違う世界の自分
本の内容を必要なところだけ抜粋して伝えた。
聞かせるべきではない内容もあったから。
「ちょ・・・っと、待ってね。混乱してるわ。」
「わかるよ。急かさないから、ゆっくりと理解してくれ。」
いきなり聞かされて理解しろなんて無理な話だ。
本を読む限り、魔王として目覚めると色々忘れるみたいだしな。
「私と君の友人である勇者は、違う次元の同じ人間ってこと?」
流石だな。
理解が早い。
「パラレルワールド?多元宇宙論ってやつだっけ?いや、そんなのどうでもいいか。君の話を聞いてから頭にかかってた霧が晴れた感じよ。忘れてたことを、色々と思い出してきたわ。あー、何から伝えるべきかしら。黒幕を教えたいけど、名前とかいる場所とかは全くわからないのよね。」
「わかることからで良いよ。」
「そう・・・ね。魔落ちに関して1つ。魔落ちには勇者を憎むような設定がしてあるのよ。私はそれを解除しようとしたんだけど、無理だったわ。」
「勇者を憎む設定か・・・。ゆうなちゃんもユーマも誰に何したの?」
「ちょっ!なんでちゃんづけなの!?一応君の親友と同じ存在なんだから、他にも呼び方あるでしょ!」
「いやいや、俺からすればユーマの双子の妹みたいな感じだからさ。それならちゃんづけだろうと思って。」
「なんで私が妹なのよ!姉でしょ!」
ユーマが女だったらこんな感じなのかな。
面白い。
「まあ、その辺は置いといて、勇者を憎むってところなんだけど。」
「置いておくな!」
ギャアギャア騒ぐゆうなちゃんを宥めて、話を戻すのにかかった時間は体感で1時間。
「私は恨まれることはないとは言わないけど、それは元の世界の話よ。こっちにはいきなり召喚されて、そのまま魔王討伐に赴いたんだもの。恨まれる筋合いはないわ。」
それはユーマも同じだ。
俺に関してはオマケなので関係ない。
「だとすると、別の方向からアプローチしないと駄目か。」
「別の方向って言うけど、何か良い案でもあるの?」
ないわけではない。
「破壊神だよ。この本を書いた悠馬が鍵とまで言っているんだ。」
「破壊神ってエンドコンテンツ第2弾になる予定だったやつでしょ?強くしすぎたから仕方なく大型レイドに変更したやつ。」
「え?FWやってたの?てか、そっちの世界では破壊神実装されてたの?」
「やってたわよ。こっちの君に誘われて。そういえば、破壊神倒した後にこの世界に召喚されたのよね。」
「破壊神について考えるよりも、まずはそっちの世界のFWについて聞かせてもらおうか。」
ゲームの形態が違った。
本を書いた悠馬はソーシャルゲーム。
俺達はVRMMO。
ゆうなちゃんはVRじゃない普通のMMO。
ストーリーもシステムもほぼ同じ。
大きな違いと言えば、俺達の世界にあったゲーム内マネーをリアルマネーに変換できない。
こっちは月々課金しないといけないけど、ゆうなちゃんの方は基本無料。
「ゲームの内容やシステムは同じなのね。ゲームの進行具合は私の所だけが早くて、他2つの世界はほぼ同じと言えるかな。」
確かに破壊神と戦っているのはゆうなちゃんだけだ。
「破壊神と戦うための条件とかあった?隠されたクエストやら沢山あるゲームだったから、先回りできるならしたい。」
ゲームを始めた頃は大陸クエストなんてする必要はないと言われていた。
蓋を開けてみれば魔王と戦うなら、終わらせなければいけないクエストだったのだ。
「条件は中央大陸にある謎の神殿に供物を捧げること。供物は魔落ちした者の心臓よ。」
先回りできそうにないな。
「ふむ、できればユーマと合流して3人で話し合いたいところなんだけど。」
「良いわよ。本当の事を思い出してから、勇者に対する憎しみが軽くなった気がするし。」
思い出して、か。
本に書いてあったように、勇者と魔王の記憶を強制的に見せられたのだろう。
どう動くのが正解なのか全然わからん。
「勇者も今、情報提供者と会ってるのよね?こっちは時間を止めてるから、長い時間取れたけど、あっちは全然話が進んでないと思うよ?情報提供者とか言いながら、襲われてる可能性もあるし。」
「それは大丈夫だろう。相手は吸血鬼一族だから。体の関係になることを条件に、ユーマと同盟組んだんだから、簡単には裏切らないよ。子供もできたらしいし。」
「ここここっここっこっこ」
なんだ?
いきなり鶏の物真似始めたぞ。
「子供ってどういうことよ!!しかも吸血鬼一族って、私の配下だったやつらじゃないの!!!」
説明して宥めるまでに、体感で3時間は要した。
落ち着いたとは思うけど、こんな状態でユーマと会って大丈夫なんだろうか。
会わせていきなりラストバトル始まったら、確実に俺達が負けるんだけど。
「出会い頭に鉄拳制裁してやるわ!」
うん、頑張れよユーマ。
俺は知らん。
「行こうか。魔法を解除してくれ。」
ゆうなちゃんが指を弾くと、音が聞こえた。
風を切り裂くような音。
時間停止が解かれた証拠なんだろう。
環境音が聞こえるんだから。
そんな暢気なことを考えていた。
俺の意識はそこで途切れた。




