勇者の残した本
この本を読んでいる者へ。
この本を読めるという事は、君は召喚された勇者なのだろう。
この世界に元から住んでいる彼等には、日本語を理解することができないからね。
もし日本人以外の人が勇者として召喚されたのなら、これが日本語ということくらいはわかってもらえることを祈るよ。
日本語と英語でこの本を書く時間はないんだ。
今までの傾向からすると、日本人しかいないようだからきっと大丈夫だろう。
私は君より先に召喚された勇者だ。
名前は東条悠馬。
召喚されてからはユウトって名乗ってる。
この世界は私が遊んでいたソーシャルゲームの内容とまったく同じなんだ。
ゲームで使ってた名前がユウトだったからそのまま使っている。
本題に入ろう。
私は魔王を討伐した。
しかし、君は魔王を倒してはいけない。
魔王は先代の勇者なんだ。
倒してしまうと、次は自分が魔王になる。
すぐではないが、早ければ数年後にはそうなってしまう。
魔王になると、いずれ対となる勇者が召喚される。
こうやって永遠にループする仕組みになっているんだ。
私も数年後から数十年後には魔王となっているだろう。
それまでに色々調べてわかったことを書き込むつもりだ。
この本は私しか追記できないようにしてあるので、なるべく間違った情報を書かない様に心掛けるが、もし間違った情報があった時は許してほしい。
私専用の船を手に入れたので、世界をぐるっと周ってみることにした。
東の大陸から西の大陸へ、中央大陸を通らずにまわろうとした。
結果は失敗だった。
地球と同じように球体だと思っていたら、見えない壁があったのだ。
今度は別の方法で確かめよう。
気球には乗っただろうか?
乗る機会があれば、世界の端に向かってみてほしい。
ネタバレをしてしまうが、見えない壁に阻まれるはずだ。
海の時と違って、気球が大破することはなかった。
色々試してみたが、魔法も矢も弾く。
船と気球の違いは、スピードかもしれない。
船は魔法で加速されていたので、大破したのかもしれない。
天井もあった。
途中からどれだけ出力を上げてもらっても、高度が変わらなかった。
信用できる者に魔法を使ってもらって確かめたが、空も見えない何かで覆われていた。
空と海を調べた結果わかったことは、この世界は恐らく正方形の形で閉じ込められているということだ。
魔法が存在する世界だから、外の脅威から世界を守るために結界を張っているのかもしれない。
逆に、封印魔法でもかけられているのかもしれない。
各大陸で聞き込みをしてみたが、この世界の住人達は世界は正方形だと思い込んでいる。
しかしそんなことはありえない。
1年が365日あることはもうわかっている。
世界一周が1日で終わるほど狭い世界なのだ。
そんな狭い世界で1年が365日なんてありえないだろう。
各大陸に裏の仕事をしている組織があった。
勇者には関係ないことだと言われたが、私の調査を邪魔したのはエンディールの組織、諜報部隊と呼ばれる組織だった。
警戒しなければいけない。
魔王を倒すまで見たこともない連中だった。
しかし、エンディールの貴族から聞いた話だと、大昔から存在する組織らしい。
これを読んでいる君も気をつけてほしい。
この本を書くのを止めるように忠告された。
忠告してきたのは諜報部隊。
何を書いているのか教えたことはない。
私が何か企んでいるように見えるから止めろということだった。
奴等は脅せば私が言うことを聞くと思い込んでいる。
不愉快な連中だ。
裏の組織が煩いので、表向きは本を処分したように見せた。
代わりに東の大陸で生活しているドワーフに仕事を頼むことに成功した。
絵本作りだ。
裏の奴等には、私がどれだけ活躍したかを後世の人に知ってもらいたいからと説明すると、笑顔で許可を出してきた。
表向きは勇者が魔王を倒す絵本。
内容の色んなところに日本語を忍び込ませる。
ドワーフ達は信用できるので、ある程度本当のことを伝えておく。
シリーズ物になるが、全てを読むとこの本を隠した場所に辿りつける様にするつもりだ。
絵本は完成した。
値段を安くした廉価版も作り、庶民の家にも置いてもらえるように仕向けた。
その廉価版に日本語が書き込まれている。
少しずつだが、私から人が離れている。
そろそろ目を逸らしていたことを直視する時がきたのだろう。
エンディールの首脳陣は全てを知っていた。
魔王を倒すと、私が魔王になることも知っていた。
最初から騙されていたのだ。
許されない裏切りだが、今は冷静に動く必要がある。
まだ完全に敵として認定はされていないので、今のうちに他の大陸も調べようと思う。
北の大陸は長老派という集団が、西の大陸は獣神国の神王が全てを知っていた。
両者とも国のトップだ。
ドワーフはそれぞれが好きに生活しているから、代表がたくさんいる。
初めて会った時はぶっきらぼうな種族だと思ってたけど、今ではその性格に助けられた。
逃げ出す準備を始めた。
東の大陸で仲良くなったドワーフの元に世話になる。
逃げてもすぐにばれないように、演技も始めた。
癇癪を起こし、部屋に人が来ないように仕向けた。
上手くいったので、ゆっくりと逃げる準備もできる。
東の大陸に渡ったら、君が少しでも楽をできるように取り計らうつもりだ。
半分は演技ではなかったかもしれない。
引越しは終わった。
魔法で作った人形が私の身代わりとして置いてある。
ばれたら爆発するオマケ付きだ。
もう少しだ。
もう少しで1つ大きな謎がとける。
私はそろそろ魔王になるのだろう。
おかげで色々とわかったことがある。
魔王継承の弊害だろう。
過去の魔王と勇者の出来事を映画のように夢で見る。
この世界に元凶がいる。
場所がわからない。
完全に魔王として目覚めてしまうと、この記憶は消えるのだろう。
継承が中途半端の状態でも、元凶を殺したいと思うのに。
夢で見る魔王達も同じ感情になっているのがわかるのに。
まだやつは生きている。
俺が遊んでいたゲームにはなかったシステム、魔落ち。
初めて聞いたのは西の大陸だったはずだ。
獣人を魔物にしてしまう呪いのようなものだと思っていたが、それだけではなかった。
この魔落ちが、勇者を魔王に変えてしまうのだ。
魔落ちについて調べることにする。
魔落ちに必要なのは負の感情だ。
魔物や魔族の血液も必要だ。
勇者が魔落ちするのは当然と言える。
魔王を倒すまでにとてつもないストレスが溜まり、魔物や魔族の血を浴び続けるのだから。
やつは世界を覆う封印を解こうとしている?
やつは勇者召喚について何か知っている?
やつはこの隔離された世界を支配している?
やつは世界が隔離される前から生きている?
やつは勇者と魔王で実験をしている?
やつは魔落ちを人工的に起こそうとしている?
やつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつはやつは
数日吐き続けた。
わかったことは、勇者も魔王も挑み続けたということ。
しゅうたがいれば的確なアドバイスがもらえただろう。
親友をこんなクソみたいな世界に連れてきたくはないが。
それでも、あいつがいればと考えてしまう。
破壊神を復活させることが目的か?
本当の目的がわからない。
召喚される前遊んでいたゲームでは、破壊神が実装される直前だった。
破壊神が実装された後に召喚されたのなら、やつの目的もわかったかもしれない。
鍵は破壊神だ。
今日見た夢は最悪だった。
これが事実だとすると、私は正気を保てなくなる。
いや、誰だってそうなるはずだ。
こんなありえないことを、信じられるはずがない。
しかし、魔堕ちが始まってから見た夢は、全て過去の勇者と魔王の身に起きたことばかり。
それは真実だと理解できてしまう。
いや、もうわかっている。
今までの勇者と魔王の記憶が全て流れ込んでくる意味。
これはただの嫌がらせだ。
なにせ勇者も魔王も私なのだ。
別の次元に存在す私が召喚されているだけなんだ。
御丁寧に、召喚される前の生活まで夢で見せてくる。
私ではない勇者東条悠馬が召喚され、私ではない魔王東条悠馬が殺される。
稀に女性の私がいる。
でも結末は変わらない。
別の次元に存在する私が別の次元に存在する私を殺す。
それ以上でも以下でもない。
頭がすっきりしている。
私は明日魔王になるのだ。
人としての最後の日は清々しい気分で終わるのだ。
継承で苦しんだ部分は消そうか迷ったが、これも必要だと理解した。
今までの勇者は、この日を無意味に過ごすしかなかった。
俺はこの本を書くことで情報を残すことができる。
これは結果の1つだ。
この本は特殊な魔法をかけておいた。
読むべき者の手に渡るように。
これを読んでいる異世界人よ。
全てを君に託す。




