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ワイバーンでわかる勇者の力


「こりゃあ面倒な風だぁ!火事になったせいか!?」


「旦那方ぁ!ちぃっと揺れますぜ!」


『シュウ、気球は任せてくれ!おっちゃん達を頼むぞ!』


無事気球までたどり着いたと思ったら、護衛君にお礼言う暇もないまま飛び立つし、飛び立ったら飛び立ったで遠くから攻撃されるし!


「逃がすなぁ!勇者はいらん!オマケをなんとしても捕まえるんだ!」


誰がオマケだこの爺!

俺だよ!

勇者でもなければなんでもないただのオマケだよ文句あんのかこらぁ!!


「剣技、真空刃!」


「刀技、かまいたち乱舞!」


また新技か。

今度の技は威力は低いけど連射できるみたいだな。


「流石ですなぁ!こっちに向かってた魔法も弓も全部打ち落とした!」


「安全圏までは速さを優先しますぜ!揺れるんで落っこちないでくださいよぉ!」


高度を上げてる最中にばんばん攻撃されてるからな。

しかし、捕まえるって言ってるのに、打ち落とそうとしてるのはなんでだ?

この高さから落ちたら、普通死ぬぞ。


「勇者様もシュウ殿も座ってください。精霊魔法の準備ができました。」


やっとか。

護衛としてついてきた、精霊魔法剣士が精霊魔法で気球を保護する。

風の精霊魔法で気球丸ごと保護したので、乗っている俺達にも効果があるらしい。

俺の呪いは平気なのか聞いたら、直接俺にかけたわけじゃないから大丈夫だと苦笑いされた。


「もう大丈夫みたいですなぁ!精霊魔法があるなら、普段の5倍は早く着きますぜ!」


護衛がついてきてる時点で、マジックボックスから飯は出せないからね、それなら早い方がいい。

おっちゃん達もそれをわかってるみたいで、少ししょんぼりしてる。

着いたら美味い飯だすから待っててくれな!


順調な旅路は今まであっただろうか。

いや、無い。


今回は空の敵と言えばこれ、ワイバーン。

中央大陸に近づくと強い魔物が増える。

ワイバーンはレベル50以上ないと勝てない相手だから、それなりに上位の敵と言えよう。

レベル100に達していると、美味しい雑魚敵だけどね。


「くそ、まさかワイバーンとは。このままでは全滅もありえるぞ。」


「「え」」


おっと、ユーマとハモってしまった。


「え?」


「2人は精霊魔法で気球を守ってくれ。倒すのは俺とシュウでやるから。」


ワイバーンは火を吐いたり、噛み付いてきたり、尻尾をなぎ払って攻撃してくる。

一番やばいのは気球だな。

その気球も精霊魔法で守ってもらえれば、安心してこの場を切り抜けることが出来る。


「ほ、本当によろしいのですか?我々の精霊魔法なら倒せないまでも、近づけないことはできますが。」


「うん、それでいいよ。近づけないなら気球は無事でしょ?俺達なら遠距離からワイバーンを倒すことができるから問題ないよ。」


精霊魔法剣士の2人は、本当に大丈夫なのかという顔をしてる。


「俺、一応魔王追い払ったんだよ?安心して気球守ってて。それは俺達だとできないからさ。」


茶番だったけどね。

けど、ワイバーン相手なら俺1人でも勝てる。

もちろん、真空刃だけで。


「わかりました。御武運を。」


3分で終わった。

約20匹のワイバーンは、3分で全滅したのだ。


精霊魔法剣士達は呆然としているが、魔王と比べると本当に雑魚だぞ。


「聞いてた話とはかなり違うんですね。中央大陸に初めて向かう時の勇者は、ワイバーンと戦える程ではないと書物に残ってました。なので、精霊魔法で追い払うことができる我々が、護衛に選ばれたのだと思っていたのですが。」


「そうなの?面白そうだね、その書物。内容教えてよ。」


「ええ、もちろんです。中継地点の島までもう少しかかりますので、暇つぶしにお話しましょう。」


まさか話してくれるとは思わなかった。

彼らの読んだ書物の内容は、簡単に言うと歴代勇者の軌跡だ。

北の大陸ではかなりメジャーな書物で、読んでない方が珍しいそうだ。


勇者が活躍する内容ではあるが、無双するだけの内容ではなく、苦戦することも多々ある。

その代表例がワイバーン。

中央大陸に向かう勇者の約半分は、ワイバーンに襲われる。

ほとんどの勇者はワイバーンに負けて、強さを求める。

そこで手を差し伸べるのがエルフ。

精霊魔法を勇者に教え、一緒に中央大陸に向かいワイバーンを撃退するのが一番よくあるパターンらしい。


「なるほど、だからあんなにワイバーンを恐れてたのか。」


書物に出てくる勇者は600年前くらい前の勇者のことで、その頃の勇者は徐々に強くなっていくのが普通だった。

ユーマのように最初から強い勇者はここ300年くらいの話だそうだ。


エルフは長命種なので、千年くらいは普通に生きる。

その彼等が言うのだから、嘘をついてない限り本当なのだろう。


「先代の勇者様は女性で、かなり美しい方でした。我々は北の大陸にある迷いの森というダンジョンをご案内したんですが、我々よりも全然強くて着いて行くだけで精一杯でした。」


先代の勇者に会ったことある彼等に、今の魔王を見たことがあるか聞いてみた。

あると答えた彼等は、彼女が先代の勇者とは気付いていないようだった。


『認識阻害かな?あんなにはっきり顔出してるのに、気付かないなんておかしいだろ。』


『わからん。認識阻害なら魔王が着てる服とかアクセだろうけど、俺達には効かないから検証のしようがない。特にユーマは魔眼すら効かないんだ。効かないだけで、解除できるわけでもないしな。』


「まあ、そんな感じです。今では強い勇者様でないと大変だろうって話にもなってますよ。昔の勇者様の中には、心が折れてしまった方もおられるようですし。」


「なるほど、ありがとうございます。なかなか面白い話でした。」


『どうだった?』


『嘘はなかった。彼等は本当の事しか言ってないぞ。』


勇者のスキルがそう判断したなら問題ないだろう。


「お、見えてきましたね。あの島から精霊魔法がかかった船に乗り換えてもらいます。」


中央大陸に直接気球で乗り込むことはできないらしい。

ワイバーンより上位の魔物が群れをなして飛び回っているそうだ。

なので、近くの小さな島に中継地点となる町を作り、そこから船で中央大陸に向かうのが普通のルート。


これもゲームとは違うところだ。

ゲームならどの大陸からでも定期船が出てるから、ある程度レベルを上げれば中央大陸に渡ることができた。


「いやぁ、いつみても綺麗な島ですなぁ。魚料理が美味いそうですぜ。時間があるなら食べていきましょうや。」


「いいですね。我々もご一緒しますよ。」


いつの間にかおっちゃん達と護衛2人組みが仲良くなってた。

ドワーフとエルフが笑顔で談笑してるなんて、冒険者同士でもなかなか見られない光景だぞ。


『すげえ、犬猿の仲って思ってたけど、仲良くなれるんだな。』


『ユーマと魔王も仲良くなれるかな?』


『俺は別に嫌ってないぞ?向こうが一方的にケンカ腰なだけで。』


あれ?

勇者と魔王は敵対するようになってるんじゃなかったっけ?


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