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エルフとエンディール


「つまり、エルフはこいつら諜報部隊に恨みがある。復讐できる時にしたい、ってことでいいですか?」


「それで間違いありません。私だけでなく、ほとんどのエルフが同じように答えます。」


諜報部隊は、北の大陸でかなり我侭な振る舞いをしていたそうだ。

一番の問題は諜報部隊なのに、それをほとんどの人に知られてるってことが問題だと思うけどね。


特殊なマジックアイテムを作って生活していた山奥の小さな村があった。

このマジックアイテムは全大陸で使われているもので、夜でも明るさを保つことができる。

魔灯という名前だが、まあ、ふつうに電灯だ。


とても少ない魔力で、子供でも簡単に安全に使うことができる魔灯は、その小さな村でしか作ることができなかった。

その村を諜報部隊は占拠し、最終的に壊滅させた。

マジックアイテムを作る工場を火事にして、最終的に大爆発させたらしい。

あいつらはどこでも迷惑をかけるんだなぁ。

占拠したのも、食料欲しさだったそうだ。


「こいつらは私たちの国とって、疫病神でしかないのだよ。」


小さいけど必要だった村とか、他国に輸出する程おいしい魚が獲れてた川とか、貴重な木が大量に植林されてた山など、こいつらが駄目にした物は国家的にも許容できるものではなかった。


「そんな理由があるなら、嫌とは言えないな。」


俺の言葉にエルフは笑顔になる。


『マジックアイテムの反応は?』


『嘘はない。完全に本当の事しか言ってない。』


質問にもエンディールに味方しないかとか、逃がすつもりかとか、色々混ぜて質問してみたが全部本当のことしか言ってない。

心からエンディールとこいつら諜報部隊を恨んでいる。


「人間であるあなた方を前に言うのも失礼ですが、私達エルフは人間を見下しています。もちろん、勇者であるあなたは別ですが、それ以外の人間は無用な存在としか思っていません。」


はっきりきっぱり言い切った。

とても清々しい。


「その私がエンディールに味方することはありえないし、折角憂さ晴らしできる道具が手に入るのに逃がすなんて、絶対にありません。」


憂さ晴らしの道具か。

エンディールのせいなのか、エルフがこうだからそういう扱いになったのか。


「私に譲っていただけるなら、御友人も女王と謁見できるように取り計らいます。」


「あなたの口添えがないと、俺は女王に会うことはできないのか?」


「無理でしょう。他の国で御友人がどういう扱いをされたか知りませんが、この国で御友人は人間として扱われます。それは最も低い身分ということになります。女王に会うどころか、女王を見ることすら許されていません。」


疑問に思ったので、エンディールのお偉いさんが来た時はどうするのか聞いたら、布で仕切って声だけ聞かせるらしい。

昔からそうなのか聞いたらそうだと言うから、これはエルフ側にも問題あるなぁ。


『ゲームでもこんな過激派だったか?』


『ユーマよ、ゲーム内で俺達はある意味勇者と同じ扱いだったんだぞ。』


『そうか、だから気付かなかったってことか。』


女王に会えないのは問題だな。

クリスタルが手に入らなかったら、魔王に会う事すらできなくなる可能性がでてくる。

あの魔王なら自分から会いに来てくれそうだが。


「わかった、女王との謁見よろしくお願いしたい。」


「ありがとうございます。女王には、御友人のおかげでこの男を捕まえることができたと、お伝えしておきます。」


なよ男もじじいも拘束された状態で転がされている。

エルフは空を見上げて口を動かしている。

何か詠唱でもしてるのか?


「では、参りましょう。」


「え?」


「こいつらは仲間が引き取りに来てくれるそうです。なので、私は勇者様御一行を女王の所まで案内するようにと。」


これは精霊魔法か。

たしか精霊魔法には、精霊を使って遠くにいる仲間に連絡を取ることができるとか。

それを使ったんだろう。


厄介だな。

敵に回られたらエンディールより面倒な相手になるぞ。


「そう警戒しないでください。精霊魔法は相手の感情をある程度読めてしまいます。今のところ我々は勇者様方に敵対する意志はありません。」


おっと、感情まで読み取れるとかどんだけチートなんですか。

ユーマが言うとお前が言うなって言われるやつだけど。

敵意がないってのは嘘じゃないから、なるべく仲良くしよう。


「女王から伝言です。諜報部隊の幹部2人を譲ってくれたので、勇者の御友人にもお会いすると。欲しいのはクリスタルだろうから、それも渡すと申しております。」


話が早い。


「ですが、念のためもう一仕事して頂きたいと。」


デスヨネー。


「魔物退治か?」


ユーマの問いにエルフは困った顔で答えをはぐらかす。

直接女王から話をすると言うので、とりあえず会ってからということになった。


エルフが先導し、俺達が後ろからついて行く。

こっちを気にする素振りはないけど、ユーマは内緒チャットを使ってきた。


『なんか怪しくないか?』


『色々知った後だと、全部怪しく見えるよな。』


ユーマは俺より知らないことが多いけどな。


『中央大陸に着いた後の、シュウの説明が今から怖くなってきた。』


その感覚はとても正しいぞ。

俺が説明するのは、ある意味この先どうするかをユーマに決めさせるものだからな。


『良い話だけではないぞ。まあ、今は北の大陸から無事に中央大陸に行けるように努力しようぜ。』


体感的に1時間くらい歩いたと思うが、前の方に小さな村が見えてきた。


「あの村から転移します。すでに話は通っているので、すぐにでも転移できると思います。一息入れたいなら近くの沢から水を汲んできますが?」


飲み物を持っていることを伝え、少し村を見てまわりたいと言うと、村に入ったら外に出ないなら構わないと言われた。

なんでもこの付近は迷いの森という場所らしく、専用のマジックアイテムを使うか、エルフじゃないと迷うらしい。


確かにあったな、迷いの森。

ゲームではエルフの女王から、迷いの森にいるヌシを倒してくれってクエストだった。


『シュウ、付近に俺達を囲むようにエルフが陣取ってる。』


『襲ってくると思うか?』


『今すぐってことはないだろうけど、何かあったら襲ってきそうだな。』


どうしても村から出したくないのか、俺達に見せたくない物があるからか。


『大人しくしていようか。ここで戦ってクリスタルがもらえなくなったら面倒だし。』


ユーマは軽く頷いて、置いてあるベンチに座る。

俺はユーマから少し離れて、村をぐるっと見て回る。


少しすると、俺達を案内したエルフがそろそろ出発したいと言い出した。

特に何も起きなかったな。

何かあるかもと思ったが、そんなことなかった。

仕方ない。


「行きましょう。」


女王に会いに。

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