本音
異世界に召喚されたからって、倫理観が無くなるわけじゃない。
相手が俺達を殺す気だったとしても、俺達は違う。
「刀技、抜刀術、神速峰打ち。」
「剣技、骨砕き。」
なるべく死なないところに当てるのって、面倒なんだね。
知らなかったよ。
「ば、化け物だ・・・」
化け物呼ばわりされてもなぁ。
レベル差と装備差ってだけなんだが。
リーダーらしき存在がどいつかわからない。
なるべく多く情報が欲しいから、リーダーを捕らえたいんだけどな。
俺は気配を読んだりできない。
アイテムを使えばマップを表示して、付近の様子を探ることができるが、所詮は使い捨てだ。
ここで使うなんて勿体無い。
今回の襲撃がわかったのは、この襲撃者達が俺達を舐めきっていたからだ。
姿を隠すこともなく、堂々と敵意満載の目を向けていた。
気球が飛び立ってからは、武器を構えて歩いてきたからな。
「話と違うぞ!あいつら、俺達を騙しやがったな!」
襲撃者達は動揺している。
たった2人に、ほぼほぼ壊滅させられたら仕方ないか。
ほとんどの襲撃者は、驚きのあまり、動けなくなっているやつまでいる。
ユーマには、なるべくゆっくり戦うようにしてもらった。
作戦がまとまるまでの時間稼ぎだ。
いくつか案が浮かんだので、ユーマに作戦を伝えてから全員気絶させる。
「どれだっけ?捕らえるの。」
「右にいるやつ。大声で叫んだのそいつだけだし。」
「他はどうする?」
「縛って向こうの木に吊るしておくか。」
さて、楽しくない拷問タイムだ。
実際にしたことはないけど、方法だけは知っている。
興味本位でネットで検索したことがある。
ユーマの家のPCで。
ユーマが無理やり起こして話を始める。
自分からやると言い出すとは思わなかった。
「さっさと吐け。次はどこか切り落とすぞ。」
「俺は何も知らねえよ!ここであんたらを捕らえたら金もらえるって言うからやっただけだ!見た目だけの雑魚だから簡単な仕事だって言われたのに、この有様だ!俺だって被害者なんだよ!」
さてさて、俺は俺ですることしないとね。
ユーマがお話している間にしかできないこともあるし。
「お前エンディールの刺客なんだろ?俺達は召喚された勇者だ。それなのになんで命を狙う?」
「だぁかぁらぁ!俺は何も知らねえって言ってんだろ!」
「じゃあ、質問を変えるか。お前はどこの人間だ?一緒に襲ってきた奴らは元々の仲間か?」
「俺はこの先にある、農村の者だ。一緒に襲った奴らは何人かは同じ村の奴だ。知らない奴もいる。」
「お前達に依頼してきた奴はどんな奴だ?わかることを全部喋れ。」
「頭までフードを被ってたからわからねえよ。その辺で売ってるようなコートだったしな。」
ふむふむ、ユーマが質問するだけで色々喋ってくれるね。
ありがたいことだ。
俺が準備をしている間にも、ユーマは色んな質問を続けている。
いつどこで、相手の人数、襲撃実行犯のリーダー、その他色々。
準備は終わった。
思った以上に楽だったな。
後はユーマのお話が終わるまで待機だ。
「よし、次で最後だ。正直に答えれば解放してやる。」
「おう、何でも聞いてくれ。あいつらに騙されたんだ。黙っている義理もねえ。」
「後どれだけ時間稼ぎすればお前の使命は終わる?」
「え・・・」
おいおい、そこでそんな反応したら今までの嘘が無駄になるぞ。
エンディール王国諜報部はそんなに人手不足なのか?
「な、なんで・・・」
叫んだのはこいつだけだ。
しかも、誰かに知らせるように叫んでいた。
ユーマが質問している間に、俺は他の襲撃者に質問していた。
こっちは全員、本当に近くの農村の人間だった。
しかし、金で雇われたのではなく、村の人間を人質に取られて、仕方なく俺達を襲った。
俺には人の嘘を見破ることなんてできない。
なのでマジックアイテムを使わせてもらった。
身につけるだけで、質問した相手が嘘をついているか判断するアイテム。
ゲームでも、このアイテムを持っていないだけで、詐欺に巻き込まれるほどの必須アイテム。
ユーマも起こす前に身につけていた。
発動条件が、戦闘中でないこと、同時に使用できる相手は1人、動いてはいけない、というもの。
「時間稼ぎはなんのためだ?援軍を呼んだか?」
「なにを・・・・言ってるのか・・・」
「そうか、援軍を呼んだか。好都合だ、その援軍もまとめてここで縛り上げてやるよ。」
「な・・・貴様勇者だろう!我がエンディール王国のために命をかけて戦うというならまだしも、我々の部隊を縛り上げるだと!?貴様は、我々エンディール王国のために、命を捧げて働くために召喚してやったのだぞ!その恩義を忘れるとは、貴様は勇者として失格だ!」
すごい上から目線だな。
召喚してやったって。
「ちなみに聞くけどさ、今から来る援軍はお前より強いのか?」
「当たり前だ!この大陸にいる諜報部は精鋭中の精鋭だ!貴様はこの場で殺されるだろうが、勇者はエンディールに連れて帰って洗脳措置が決定している!お前らの自由はここまぐへぁ」
俺もユーマも気付けなかった。
このぺらぺら喋る諜報員(笑)の頭に、ナイフが刺さるまで気付けなかった。




