終わってしまった準備
ユーマの刀は火之迦具土神という刀になった。
武器や防具の名前はよく知っているものが多い。
エクスカリバーとか、ミョルニルとか、グングニルとか、イージスの盾とか、黄金の鎧とか。
刀も長船だとか正宗だとか。
そんな中、なぜか神様の名を冠した刀になった。
ユーマは新しい刀の試し斬りに出掛けた。
斥候君のチームは俺達がこの大陸にいる間、護衛を引き受けてくれた。
ユーマに斥候君含め4人が着いていき、俺の方は街で準備等を主に任されている、非戦闘員の1人が着いてくれている。
ランクAにもなると、街で色々動ける人間を雇うのは当たり前だそうだ。
ゲームにもマーケットやら任せることができるNPCがいたな。
「ユーマさんは夕方には戻ると言っていました。今日の夜はボルタバルさんが来るそうですよ。」
もう護衛っていうより秘書だな。
髭生やしたおっさんだから執事か。
「集めて欲しいと言われた本ですが、半分あるかどうかですね。図書館の職員も探してくれたようですが、やはり本は北か南に集中しています。図書館の規模も違いますからね。」
北は行ってないからわからないけど、南だと俺が望んでいる本は読めないだろう。
ただの勘ではない。
たぶん、事実だ。
予想以上に長くドラフバルに滞在することになったが、居心地も良いし知りたい情報も手に入る。
なにより、女神ラズちゃんがいる。
北の大陸も居心地が良いとありがたいんだけどなぁ。
「そういえば、首長が欲しい本があれば持って行って良いと仰ってましたよ。あなた方のおかげで国はかなり潤うことになりそうなので、本の100冊や200冊なら問題ないと笑っていました。」
貰っていいのか。
ありがたいな。
さて、本を貰っていいなら、この大陸でやるべきことは終わったかな。
試し斬りが終わったら出発することになっていたから、調度良いタイミングと言える。
義父とボルタバルに、明日には出発したいと伝えてもらおう。
日が沈み始めた頃にユーマ達は帰ってきた。
切れ味はもちろん、手に馴染むようで上機嫌だ。
「悪かったな、俺の武器のせいで出発遅れて。」
「何言ってるんだよ。お前の武器が強くなるってことは、俺が楽できるってことだぜ?」
実際、ユーマがヴァルヌのおっさんと鍛冶場に篭っていた間、俺は本読んだり街の人と話をしたりしていた。
肉体的に疲れることもなく、屋台で酒を買い、飲みながら街の人と喋るだけ。
「ははは、任せてくれよ。北の大陸では俺が大活躍してやるから。」
ユーマと北の大陸について話し合っていると、義父とボルタバルが、晩飯を食いに行こうと誘ってきた。
秘書君が明日出発したいことを伝えてくれたようだ。
「そろそろと思っていたからね。豪勢な夕食にしようじゃないか。」
義父とボルタバルは、街で一番高いと言われているレストランを貸切にしていた。
「君達のおかげで国が救われたんだ。これくらいはさせてもらうさ。ついでに言うと、50年分の儲けが一晩で出たからね。各大陸からすでに問い合わせが殺到しているよ。」
俺達がやったのは、水攻めと毒を投げただけだ。
心から喜んでくれてるのがわかるから、無粋なことは言わないけどね。
目の前に女神ラズちゃんがいるから尚更だ。
ああ、いつ見ても女神だわぁ。今まで見てきた女性が全部霞むよ。彼女の存在は俺のためだよね絶対。なぜかユーマも狙ってるみたいだけど、あいつの好きなタイプではないんだよ。むしろ真反対。ラズちゃんはショートカットにちょっと肌が焼けてるんだ。ユーマが好きなタイプは髪はロングで色白でお嬢様って感じの人だった。それがなんで今回に限ってラズちゃんに惚れてんの?おかしいよね?お前はエンディールのリーリアみたいなのがタイプだろ。あいつは譲るからここは俺に譲れ!
「・・・い、おい!聞いてるか!?」
ん?
義父が何か言ってる。
あれ?ユーマがいない。
女神ラズちゃんはいるからいいけど。
「まったく。ユーマがいない今しか伝えられんのだから、しっかり聞け。エンディールから、シュウだけでも引き渡すように最後通達がきた。これを無視するなら、エンディールにそれなりの補償をしろと言ってきた。勇者はエンディールのもので、ドラフバルは借りてるだけなのだから、と。」
ふむ、意味がわからん。
俺達は俺達だ。
どこにも属してないし、属すなら今ならドラフバルだと思っている。
これはユーマもだ。
「君にだけ伝えるのは、本を読んだからだ。今だから言うが、エンディールから勇者に関する本は君達に見せないようにと言われていた。もちろん、曖昧な返事しかしていないよ。東の大陸は昔から、勇者がしたいようにすればいいってスタンスだからね。」
やはり意図的に情報を渡さないようにしていたのか。
あの本の内容が全て本当のことだとすれば、今の状況は初めてのことになる。
「ユーマには本の内容は伝えないのかい?」
「もう少し、自分で情報集めてからにしたいんです。ユーマは俺の親友です。何かあった時は、ユーマを優先します。だからこそ、曖昧な状態でユーマに知らせたくない。」
「我が全てを教えてやれれば、良かったんだがね。勇者については北と南ほど詳しくないのだよ。申し訳ないね。」
本を読んで知ったことだが、東の大陸は、中央大陸以外では一番良い武器が手に入る。
だから勇者が必ず来るのだ。
中央大陸で戦うために、東の大陸には来なければならない。
試し斬りもするから、ついでに用事も済ませてってことが多かった。
その結果他の大陸ほど、勇者に仕事をしてもらうために画策しない。
義父もその関係で勇者のことを積極的に知ろうとはしなかったのだろう。
「明日の朝早くに、出発できるようにしておくよ。我にできることはこれくらいしかないからね。」
「我輩も微力ながら力を貸すね。」
ボルタバルは、近くに控えている自分の部下に指示を出していたようだ。
「我輩に仕える暗部を動かすね。情報操作から暗殺まで一通りできる良い子達ね。」
お前そんな部下いたのかよ!
なんで誘拐されたんだ!
「念のために行っておくけどね、我輩の暗部は我輩の命がないと動けないね。街の中で、しかも自分の執務室で誘拐されるなんて思ってもなかったから、対応できなかったね。」
今度からは自分を守るように命令しておいてくれ。
ちなみに、ユーマはトイレでリバースしていた。
帰りが遅いので心配した部下の人が見に行くと、リバースしてる最中だったと。
明日の朝早く出発することを伝えると、もう寝ると言うので部下の人に送ってもらった。
その後、少し飲んで食って解散となった。
ユーマがいなかったので、かなり食い込んだことまで教えてくれた。
ラズちゃんにはつまらない話だったろうな。
もっと結婚に向けての話し合いをしたかった。
明日は空の旅か。
何も起きないと良いなぁ。




