焦り
強力な魔法を封じ込めたアイテムはそれなりに高価だ。
マジックボックス内には、大量のマジックアイテムが収納されているが、アダマンアントに効果がありそうなものは多くない。
「ボルタバルさんは無事に届けてきたぞ。あんた等も後で顔を出してくれってさ。」
冒険者達にボルタバルさんを送ってもらい、俺達は蟻退治の作戦を練っていた。
これといって案は出てないけど。
「アダマンアントが昔出現した時の資料借りてきたよ。」
斥候君には資料集めを頼んでいた。
少しでも良い情報があればなぁ。
「前回は450年前に出現したらしいんだけど、その時は魔法使いが倒したって書いてあるね。」
魔法使いの魔法で倒せるのはわかっている。
問題はどんな魔法を使ったかだ。
「資料によると、地面に穴を掘ってそこに蟻を落とす。その上から鉄を溶かしたものを流し込んだって書いてあるね。」
魔法には詳しくないけど、それって魔法と呼んでいいのか?
「ちなみに、地魔法と火魔法と鍛冶魔法を組み合わせた魔法らしいよ。名前は熱鉄流だって。」
話だけ聞くと溶岩流みたいなものか?
TVで流れてたのを見たことがあるだけだから、詳しいことは知らないが。
「オーアント系は地面を掘って移動できるんだけど、溶かした鉄なら開けた穴にも流れ込むから、追い打ちができると考えたらしい。」
蟻の巣はすり鉢状になっていた。
この魔法を再現できるなら、まとめて倒すこともできるんじゃないか?
「この魔法は今でも使えるのか?」
ユーマも同じ考えに至ったらしい。
「残念ながら、過去のとんでもない魔法の1つとして語り継がれてるだけだね。使い方が限定されるからってのが一番の原因みたいだね。」
駄目か。
別の方法思いついたから良いんだけどね。
マジックボックスの中に必要な物があるか、確かめないといけないな。
無かったら手に入れる方法も探さないといけなくなる。
「シュウ、何か良い案が浮かんだのか?」
マジックボックスをいじってるのがわかるのはユーマだけだ。
今のところ使えるのも俺とユーマだけだ。
「鉄を溶かして流し込むことはできなくても、水ならできると思ってな。流し込んだ後に毒なり、沸騰させるなりすればクイーン以外はなんとかなりそうじゃね?」
「なるほど、水攻めか。しかし、大量の水が必要になるぞ?」
「持ち運び転移装置ってあったの覚えてるか?最低2個ないと使えないし、人は転移できないからほとんど売れなかったマジックアイテムなんだけど。」
「ああ、あれか。なるほど、片方を海に沈めて水を送り込むのか。」
全部説明する前にわかってくれるのはユーマくらいだよ。
「扉の開け閉めは魔力でできるから、必要なくなれば閉じればいいしな。この作戦が終わったら両方海の底に沈めれば悪用もされないだろう。」
2個で1つのマジックアイテム持ち運び転移装置。
片方を固定して、片方を持ち運ぶのだが、人は通れないという欠点があった。
物なら送れるが、送る時は地面に置かないと使えないし、ゲームではマジックボックスがあるので必要なかった。
海の中で固定して、蟻の巣の近くで扉を開ければ海水が止め処なく流れ込むだろうって作戦。
もちろんそれだけで全滅は無理だろう。
海水が溜まるまで時間もかかるだろうし、溺れるやつなんて数えるくらいしかでないだろう。
もっと一気に沈めれるアイデアはないだろうか。
「シュウ、マジックボックスの容量ってどうなってたっけ?」
「レベルカンストした時に∞って表示されてなかったっけ?」
「マジックボックス内に水溜めて、空中から流し込んだらどうだ?」
その発想はなかった!
マジックボックスはどれだけ大きくても入るし、出せる。
量も∞ってなってるから、恐らく平気。
水をそのまま入れても、他の物が濡れたりもしない。
「試してみよう。ここから海もしくは川や湖までどれくらいかかる?」
冒険者達は、俺達の話してる内容をまったく理解できていないようだったが、聞かれたことには答えようとしていた。
結果として川が一番近く、幅も広いし深さもある。
多少水を拝借しても、農業に打撃がとかの心配もない。
斥候君に案内を頼み、早速出発する。
「首長が後で来て欲しいって言ってなかったっけ?」
斥候君がぶつぶつ言っているが、そんな悠長なことしてられないんだよ。
蟻が動き始めたら、どうにもできなくなる。
テストは上手くいった。
空中から水を落とすことはできなかったが、別の方法が上手くいった。
後は蟻の巣を海水で沈めて、クイーンに攻撃する手段を探せばいいのだが・・・。
俺は今焦っている。
ゲームと同じ世界に召喚されて、世界を救って欲しいと言われた。
ステータスも装備もエンドコンテンツクリア後のものだった。
アイテムも貴重品以外はあるし、金もある。
さっさと魔王を倒してハーレムを作る気だった。
大陸を渡るのは魔王を倒すのに必要なことだ。
転移に使うクリスタルは、加工することで魔王と戦うために必要なアクセサリーになる。
これがなければ戦うことなんてできない。
中央の大陸までは、この世界に慣れるまでのチュートリアルだと思っていた。
東の大陸に、俺達と同じレベルの魔物が出るなんて思ってもいなかった。
「どうした?顔面蒼白だぞ?」
ユーマは落ち着いてる。
一緒に召喚されてから、ユーマが慌てているのを見たのは、俺が倒れた時くらいか?
剣道やっているから肝が据わっているのか?
俺も何か習い事しておけばよかったな。
「大丈夫だ。クイーンに対抗する手段を模索していた。」
嘘ではない。
クイーンを倒さないと、またアダマンアントが増えるんだ。
何も思いつかないけど。
「いざとなったら、俺が刀の力使うよ。あれなら絶対に斬ることができるからな。」
あれか。
あれだけは使ってほしくない。
刀の力解放はどんな物質でも存在でも斬ることができる。
ゲームでは引退を決めたプレイヤーが最重要NPCを斬った。
その結果、1週間ほど運営が寝る間もなく働いたとか。
そんな能力を本当に使うプレイヤーもあれだが、そんな能力に設定した運営もどうかしてる。
「大丈夫さ、脇差でやるからな。無くなっても問題ないくらいには使ってないし。」
別の手をなるべく早く考えなければ・・・。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
実はDドライブが破損してしまい、下書きを全て失ってしまいました。
今回の話も下書き無しとなってしまい遅れてしまいました。
更新は大幅に遅れますが、1週間に1~2回は更新できるようにしたいと思っています。
これからもよろしくお願いします。




