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第二話 闇と病み

この物語はプロットであり、完成形ではありません。

その為、完成形に沿って物語が変更されていきます。ご了承ください。



『争い|《戦争》とは何故起きるのか』


 そんな本の一文を読み少年は思考する。


「戦争は思惑と警戒が対した場合と、両者の略奪心のどちらかが必ず発生の原因となっている。そして、そのどちらも勝者が法となり敗者を貪る。だから人は死に悲しみが生まれる。ならば……いっそ人など存在しなければ良い」


 そう言うのは城内の書庫で知識を貪り続けるアルクだった。


「アルク君?」


 そんなアルクの声が聞こえたのか、本棚の陰からセレスが現れた。


「セレス様……いたのですね」


 アルクは一瞬驚きつつも、慌てて笑みを取り繕う。


「アルク君。さっきのは……」

「……」


 問いかけて来たセレスにアルクは一瞬悩みながらも、口を開いた。


「今のは僕の個人的な戦争に対する意見ですよ」

「まるで……」


 セレスはそこまで言うと、口を噤んだ。


「まるで、戦争を経験している様……ですか?」

「っ⁉」


 アルクの言葉に驚愕しつつも頷く。


「まぁ、この国の誰よりも人を殺した自信はあります」


 そう言い笑みを浮かべる。

 その笑みはセレスには恐怖を抱かせると同時に憐だとも思ってしまった。

 そんなセレスは当然、俯き暗い表情になる。


「っふふ、冗談ですよ」


 と、アルクは笑みを浮かべ場を和ませる。

 しかし、アルクの声のトーンや表情はセレスがよく知っているものだった。


「嘘です……」

「……」

「私は無駄にアルク君との時を過ごした分けではありません。アルク君が嘘を浮いていることくらい分かります!」


 セレスは眼尻に涙を浮かべ、アルクの心に問いかける様に言う。しかし、その問いかけが通じるのは心がある者のみだ。心の無いアルクにそんな問いかけが通じるわけもなく……


「嘘かどうかは、僕だけが知っています」


 アルクはそう言い残し笑みを浮かべると、本を抱え書庫を出て行く。

 そして、虚しく鳴り響いた思い扉の音と共に埃とインクのにおいがセレスの鼻につく。


「っぐ……私じゃ、やっぱりアルク君の力にはなれないのですね……」


 スカートの裾を強く握り締め、あふれ出す涙が一つまた一つと頬をつたり、スカートへと染み込んでいく。


 そんな中、何もできず座り込む少女がもう一人いた。


「……ごめんね。セレスちゃん」


 天井高くから差し込む光を見つめながら呟くフレイヤ。


「分かっていても私には力が無いからどうしようも出来ない……私はアルフヘイムを守るだけで……」


 フレイヤは震える手を忌々しそうに見つめ、足を強く殴る。


「私はセレスちゃんみたいに強くないのよ……」


 そう言い、亡くなった両親の最後を思い浮かべる。


「あぁ……恨む対象が居れば楽なのになぁ」


 乾いた笑みを浮かべ静かに涙を流した。



 そして、アルクとフレイヤが帝都に到着してから四日が経った。


「それじゃぁ、三日後にアルクとセレス、フレイヤちゃんは第一騎士団と共にアルフヘイムへと出発。私とイクスはもうしばらく情報を集めた後に状況次第でアルフヘイムへと向かう。こんな感じで良いかしら?」

「はい。問題ありません」


 会議の結果出た作戦をまとめたファルミアがアルクの同意を得られた事に笑みを浮かべた後に深く息を吐いた。


「それにしても、良くイクスが許したわね。セレスを同行させることを……」

「まぁ、うん……色々あったんだよ」


 イクスは何かを思い出したのか顔を色が青ざめて行く。


「何やったのよ……セレス」

「っふふ、何もしていませんよ?ただ……ふふふ」


 不敵な笑みを浮かべるセレスにファルミアはため息が出る想いだった。


「……私より質が悪いわね」

「誰に似たんだか……」

「なんか言った?」


 笑顔でそう言われたイクスは震えあがる子犬の様な勢いで首を振る。


「何も言っていません」

「そう」


 ファルミアは満足そうに笑みを浮かべる。


「それじゃあ、今回の会議は解散と言う事で」


 そう言われるとすぐにアルクは立ち上がり、部屋を出た。


「……」

「……」

「……」

「……」


 その姿を見た四人はどうとも言えない表情でゆっくりと閉まる扉を見つめる。


「最近のアルクがおかしいと感じるのは俺だけか?」


 イクスのその言葉に全員が首を振る。


「おかしい……いえ、おかしくは無いのでしょう。あの姿が本来のアルク君だと思います……」

「本来のアルク?」


 セレスの言葉にイクスが疑問を抱く。


「はい。恐らく、あの態度が本来のアルク君がとるべき態度だと思います。そう感じるのは私だけかもしれませんが……」

「いや、私もそうよ。アルクは多分アレが素なのよ。と言うか、私の印象としてはアイツが人と話しているとなんか、気持ち悪いのよねぇ……言い方が悪いかも知れないけど……。でも、私がいえる事は、本来アルクは人を避けて生きて来た人間だと言う事よ。あの姿のアルクは違和感どころか逆にしっくりくるもの。目の前から消えてしまいそうな存在なんか特に……」


 自分で言っていて、何処かやり切れない思いになり俯くフレイヤの手をセレスがそっと握る。


「私達、精霊の民が生きていられるのはアルクのおかげなのに……アルクはあんな簡単に私達を救って見せたのに……私はアルクを救ってあげられる手段がない……」


 そう言いながら、セレスの手を握り返すフレイヤ。


「その言い方だとあのアルクも本来のアルクでは無いと?」


 イクスはそう言うと、ファルミアが頷く。


「アルク君が少し前に私に言った言葉で『性善説』と『性悪説』と言うのがあったわ。人は生まれながらにして『善』であると言う言葉。はたまた、人は生まれながらにして『悪』であり努力を通して善を手に入れると言う言葉。その話を聞いて私は前者だと思ったのよ。生まれながらにして悪を悪だと認識して行う人間は居ないからね。結局は周りの環境で人は悪になるのよ。だったらアルク君の本来の姿があれだと思う?」


 ファルミアの説明を聞いたイクスが目を閉じ首を振る。


「そう。人が悪に染まる理由は結局は大人たちの所為なのよ……育て方や育った環境などね……。フレイヤちゃんはどうやって育てられた?」


 そう唐突に聞かれたフレイヤは少し思い出すような仕草をしながら思考する。


「私は5歳の時に両親を失っているから……両親に育てられた頃の事は殆ど覚えていなわ。でも、二人とも悪いことをしたら物凄く怒られたし、良い事をしたら物凄く褒めてくれたわ。両親が居なくなってからは、長老の三人が同じように育ててくれたわ。当然アルフヘイムの街の人たちも同じで……姫だからって甘やかされる事は無かったわね」


 と、何処か懐かしそうに、嬉しそうに語るフレイヤ。


「そう。そう言う事よ。私やイクスはセレスを厳しく育てたつもりよ。でもセレスの精神は急成長し過ぎてしまった……。私はもっと理解しておくべきだったのよ。皇族の早熟さをね。私は遅い方だったから分からなかった……では済まないわね。だから私はセレスを助けてあげる事が出来なかった。助ける手段が分からなかった。あまりにも脆くて触れただけで壊れてしまいそうなセレスに私はどう接して良いのか分からなかった。ごめんねセレス」


 そう言いながら、ファルミアはセレスの下へ歩みより頭を優しく撫でる。


「いえ……私が……弱いから駄目だったんです」


 そう言い、涙を浮かべ笑みを見せるセレス。


「それで、アルクの話に戻ると、こういった家族とのふれあいと言うのをアルクは知らないのよ。私はそれを教えてあげようと何度も試してみたわ……でもね駄目だったわ。アルクは暖かさと言うものを極度に嫌った。家族で取る食事だったり、私やセレスの隠密ショッピングも笑みを見せ付き合ってくれたわ」

「だから……時々城に居なかったのか……」


 こめかみを抑えため息を吐くイクスを放置しファルミアは話を進める。


「でもね。私達と居る時のアルクに本来の笑みは一切なかったわ。あったのは真っ黒な心だけ」

「「……」」

「だから思ったのよ。結局アルクの過去を知らない限りアルクを救ってあげる事は出来ないんじゃないかって。それで一つ二人にお願いしたいの。アルクを助けてあげて」


 そう言い、向かいに座るフレイヤとセレスに頭を下げるファルミア。


「一つ聞いても良いかしら?」

「良いわよ」

「何故、私達だったの?それだけアルクの事が分かっているならファルミア様でも出来るわよね?」

「……私は多分無理ね。私はアルクの心を完全に分かってあげる事は出来ない。でも二人なら出来ると思うのよ。特に今のセレスなら」


 そう言われセレスの心臓が強く脈打つ。


「……」

「その感情が何かは言わないわ。自分で気が付く事ね。でもその感情に気が付くのが遅くなればなるほどあなたは辛い目に遭うから気おつけなさい。それとフレイヤちゃんはアルクの事をよく分かってるみたいだからお願いしたのよ」

「分かりました」

「分かったわ」


 二人の返事を聞き満足そうな笑みを浮かべたファルミアとイクスは、仕事があるからと部屋を出て行った。


「この感情の正体……なんだろう?」

「はぁ……セレスって意外と鈍感よね……」

「⁉この感情の正体を知っているのですか?」


 セレスはフレイヤに詰め寄り問いただす。


「知って……じ、自分で考えなさいと言われたでしょ⁉ずるしない!」


 答えそうになったフレイヤだったがその答えが無性に恥ずかしさを覚え、顔を赤くしながら顔をそむけた。


「ぶぅ……残念です」


 頬を膨らませ落ち込むセレス。


「っぶ、何その顔」

「ん?何か変でした?」

「ハハ、もう一回その顔をやってみなさい」

「え?はい……」


 フレイヤに言われもう一度、頬を膨らませるセレス。


「っふ、やっぱり面白いわねその顔。えい」


 フレイヤはセレスの頬を突っついた。すると――、


『ぷしゅ~~~~』


 と、空気の抜ける音が響く。

 その音が響いてから数秒後――、


「っふ、ハハハ」

「フフフフ」


 二人は大きな声を上げ、笑いあったのだった。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

次話新キャラが登場か⁉

面白い、続きが気になると思ってくれた方は、ぜひブックマーク、評価をよろしくお願いします。

ではまた次回お会いできることを願って……( `ー´)ノ


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