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癒しの時間

花桜里と凜sideのお話です。

 暗く、肌寒い部屋の中でひたすら、カタカタとキーボードをタイピングする音が響く。

 そんな部屋の中で、一人の少女が髪の毛をくしゃくしゃにしながら叫んでいた。


「ここがこうで、こうなるから、だから何でエラーになるの!わけわかんない!」


 少女は一人、画面の中の文字と格闘する。

 すると、部屋の扉がノックされる。

 その音を聞き、急激に冷静になり小さく溜息を吐く少女。


「凜ちゃん?入るよ」


 部屋の外からその声がすると、凜の了承を言う前に扉が開けられた。


「お姉ちゃん……うるさかった?」


 入って来た花桜里を見て凜は申し訳なさそうに項垂れる。


「ううん」


 花桜里は首を横に振り、笑みを浮かべた。


「朝、言ってた衛生関連の仕事?」

「うん……なんかセキュリティーのコードをすべて書き直せとか言ってきたんだよ……はぁ……ふっざけんな!こっちとら学生なんじゃ。そんなの暇なフリーターにでもやらせればいいじゃん!」


 凜はそう言うと、キーボードの上に突っ伏した。


「ふふ、それは仕方ないんじゃない?10歳でアメリカCIAの最高セキュリティーPCのフォルダをクラックしちゃった、天才プログラマーだもん」

「それは……むしゃくしゃしてやった。反省も後悔もしていない」


 何処か、胸を張って答える凜に花桜里は優しい笑みを浮かべ、頭を優しく撫でる。


「ん……」

「私も凜ちゃんも最初はきーくんに構ってほしくて、きーくんのやっている事に首を突っ込んだのが始まりだもんね。私はハードウェア全般を専門に、凜ちゃんはソフトウェア全般を専門にしてるけど、実力が学生レベルを遥かに超えちゃってるらしいからね。そんな人間を政府はほっとかないって。それに……そのおかげであの家を維持できてるんだし……」


 そう言った花桜里は締め切られたカーテンを少し開け、向かいの家を眺める。

 その家は昔、凜が住んでいた家であり三人(・・)の思い出が詰まった場所だった。


「そうだね……。それでも、めんどくさい事はめんどくさい!」


 唇を尖らせ喚く凜だった。


「それにしても、なんで急に消えたんだろうね。みちびきの初号機……」


 花桜里は顎に手を当て思考する。


「まぁ、本来なら引退している機体なんだし、消えても不思議はないと私は思うけど……。バッテリーもエンジンもとっくに寿命が過ぎてるんだから。でも、どうも政府のお偉いさん方は、他国からの妨害が原因だとお考えの様だよ。完全に軌道上から消えてるらしいし」

「もしかして、アレ?」


 花桜里のアレと言う言葉に凜は首を縦に振る。

 花桜里の言うアレ、それは「みちびき」の退役が迫った2020年に決まった防衛大綱に記された『みちびき初号機を航空自衛隊宇宙部隊の緊急攻撃装置として登録』と言うものだった。

 これは、任意の場所に導き初号気を落とすと言うもので、導き初号機が大気圏突入時に燃え尽きない物と考え立案されたものだ。

 しかし、日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)がそんな設計をしている訳もなく、防衛大綱に記された作戦等は他国に対する抑止力の意味合いが強かった。


「そっか……アレが原因か……なら納得」

「はぁ……それが原因だったら2020年の防衛大綱考えた奴を殴りたい……。」


 凜の物騒な発言に花桜里は苦笑いを浮かべながら再び凜の頭を撫でる。


「ほふにゃん~~~~」


 頭を撫でられた凜は、顔をだるんだるんに緩ませ、脱力する。


「ふふ、こんな顔を凜ちゃんのファンが知ったらどう思うんだろ?」

「何……私のファンって……」

「ん?知らない?凜様ファンクラブ(非公認)」

「知らないし!てか、非公認って名前に入ってるのね……」

「まぁ、実際非公認だしね」


 苦笑いを浮かべる花桜里。


「と言うか、よくもまぁ、承認されたよね。憲法九条まだあるのに」

「どうも、中国の最新宇宙兵器への対抗みたいだよ?だから、野党もマスコミも言うに言えなかったみたい。今の総理大臣は優秀だからね」


 花桜里は過去に見たニュース記事を思い出しながら言う。


「あぁ、アレか……あのクソセキュリティーの兵器ね……っあ、何でもないです」

「……」


 口を滑らした凜に花桜里はジト目を向ける。


「ほら、何か面白そうなものが目の前に浮かんでたら攻撃してみたく……」

「……それで、言い訳はそれでいいの?」

「はい。すいませんでした」


 花桜里から放たれる覇気に負け、凜は素直に頭を下げる。


「はぁ……別に凜ちゃんが何をやろうと良いけど、危ないことはしないでよ?良い?」

「はい……でも、一応、セキュリティー突破した報告を防衛相にしておいたから、そこそこのお金がも……」

「私がそんな事を気にしてると思いですか?」

「いえ、大変申し訳ないと思っております……」

「もう……本当に危ない事はしないでね?」

「はい。前向きに検討したうえで善処したい所存でございます」

「凜ちゃん?ここに、静電気パッチとやったら………」


 と、花桜里が空きっぱなしのPCケースの中に手を入れる。


「やめてください。本当に申し訳ございませんでした。申しません」


 花桜里のとんでもない脅しに凜は速攻で頭を深く下げるのだった。


「はぁ……誰に似たのか……」

「お姉ちゃん。それを私に聞く?一人しか居ないでしょ」


 ため息をはく花桜里に凜が顔を上げ言う。


「そうだよね……一人しか居ないよね……」

「「はぁ……」」


 二人は顔を見合わせため息を吐く。


「そう言えば、お姉ちゃんの方は研究どうなの?」

「う~ん、ちょっと行き詰ってる……どうやっても脳のニューロンにアクセスする事ができなくてね……多分ここを如何にかできれば完全なAR端末もアニメみたいなVR端末もできると思うんだけどな……」


 花桜里は、凜にそう説明すると大きく溜息を吐く。


「網膜投影自体は完成してるんだよね?」

「うん。網膜投影型のAR端末は完成してる。でも、あれだと、触覚の再現がほぼ不可能なんだよね……」

「それで、だったら脳を直接、騙せば良いじゃないと」

「うん。そう言う発想で良いよ。結局、全身から(もたら)された情報は脳によって処理される。だったらその脳を騙してしまえば、触覚も再現できるんじゃないかって言う発想……なんだけど、何処をどう言う信号を送ったらどうなるのかが全く分からないし、このあたりになるともう私の専門外だから分からないんだよね……。それこそ、脳科学とかの分野だしね」


 と、何処か残念そうに花桜里は俯く。


「そうか……なら、先に網膜投影の方だけでも完成させちゃう?」

「ん?あぁ、凜ちゃんがOSとか作ってくれるの?」

「うん。と言うか、OSはもうベースは有るから、後は詳細を詰めるだけだよ。その辺はセンサーの感度が分からないとできないしね」


 凜はパソコンを操作し、データファイルを開き、花桜里に見せる。


「うん……これなら全然使えると思う。それにしても、どうやて作ったの?しかも、レーザーの制御までOSでプログラムできるようになってるし……」

「ん?ほら、去年短期間アメリカに行ったじゃん?」

「うん……なんか、日米共同の開発関連だったかな?」


 その頃の事を思い出しながら花桜里は言う。


「うん。その時にね、某有名検索エンジンを運営している会社の網膜投影関連のプログラマーやっているおじいちゃんと仲良くなってね、お話ししながら情報盗み取った。ニッシシ」


 凜は悪魔の様な笑みを見せる。


「ハハハ、どっかで聞いたことある手法だね……」

「ん?別に色仕掛けとかしてないよ?と言うか私みたいな十二歳のお子様の色仕掛けとか……犯罪臭しかしないし……」

「そう言う事じゃなくてね、きーくんも昔よくそうやって、色々な技術や情報を得ていたなと思ってね」


 それを聞き、不思議そうにしていた凜は納得し「あぁ……」と声を漏らす。


「確かに。お兄ちゃんも似た様な事やってたね。確か、元アメリカ軍グリンベレーでスナイパーやってた人に弾道の予測とか、偏差とか色々教えて貰ってたっけ……」

「そうそう、それで、3000メートル先の的に当てられる様になったんだよね」


 二人は、光希の話を楽し気に話す。


「それで、お兄ちゃんその後にグリンベレーに入らないかって本気で誘われたんだよ。笑っちゃうよね」

「本当にね」


 二人は懐かしそうに、しかし何処か寂しそうな笑みを浮かべる。


 そんな少し空気が重くなった所に、一階で夜ご飯を作る花桜里の母親の声が響く。


「かおり~~~凜ちゃん~~ちょっと、お使い頼んでも良い~~~~~?」


 そんな、空気をぶち壊した母親の言葉に二人は、


「っふ」

「アハハハハ、流石、おばさん。空気を読んでいるかの様に空気をぶち壊してくれたね」

「ほんと、でもこれは逆に空気が読めてないんじゃない?」


 と、二人でそんな事を言い、再び笑い合う。


 まだ、完全に光希の死を乗り越えていない二人だが、それでも真っすぐ自分の決めた道をしっかりと進んでいる二人だった。


「はーい。今行きまーす」

「分かったよ~お母さん」


 一階に向かってそう叫ぶと、二人は階段を楽し気に降りて行った。



 スーパーの調味料の棚の前――。


「まさか、カレーのルーを買い忘れたと言われるとは思わなかったよ」

「本当にね。お母さん何を作るつもりで材料を買ったんだか」


 二人はそんな事を良い、笑みを浮かべながらカレーのルーを選んでいた。


「凜ちゃんは辛口?それとも甘口?はたまた中辛?」

「デス辛……」


 凜が悪い笑みを浮かべながら花桜里に真っ黒の箱にデス辛と赤で書かれたパッケージを見せる。


「っえ……」


 すると、花桜里の表情が引きつった。


「ふふ、冗談だよ」


 凜はそう言うと、デス辛のパッケージを元あった場所に戻す。


「はぁ……」

「っふ、花桜里お姉ちゃんは辛いの苦手で甘い物大好きだもんね」

「ぶぅ―――」


 凜に、子ども扱いされ、頬を膨らまし抗議の意を示す花桜里に凜は、


「やっぱり子供だぁ」


 と、笑みを見せるのだった。


「それじゃぁ、中辛ね」

「大丈夫?食べれる?」


 と、馬鹿にして来る凜に、花桜里は手に持っていた買い物カゴを置き、凜の脇腹目掛けて手を伸ばした。


「アハハハハ、っちょ……やめて……っく、くすぐったい……っあん……」

「この、このこの!?」


 へにゃへにゃになった凜に追い打ちをかける様に花桜里がくすぐる速度を上げる。

 そんな、美少女二人が戯れる光景に、周りに居た男性達が若干顔を隠しながら息を呑むのは仕方のない事だった。


「はぁ……死ぬかと思った」

「自業自得!」


 息を切らし、ハァハァ言っている凜を横に花桜里は大変ご立腹の様子だった。


「中辛()食べれるもん」


 そんなこんなで二人は会計を済ませ、スーパーを出た。


「っん―――――っあ、はぁ……カレーのルー買うだけなのに凄く疲れた……」

「あれは、凜ちゃんが悪いです!」


 フン、とそっぽを向き不機嫌な素振りを見せる花桜里。


「アハハ、申し開き用もございません……帰ったらプリンを献上いたしますので、如何かお許しを……」

「……」


 その言葉に若干、凜の方を向いた花桜里だが、その先の言葉は出てこない。


「では、ホイップクリームもお付けします」

「許そう」


 即答だった。


「アハハ、やっぱり子……」

「ん?」

「いえ、何でもありません」


 帰り道そんな会話をしていると、二人の隣に黒いワゴン車が止まった。


「これって……」

「うん……」


 二人は互いを守り合う様な体制を取る。

 そして、黒のワゴン車から全身黒ずくめの集団が二人を襲う――。



さて、次回は四章開始です!

暗躍する神聖帝国と対するフェルス帝国さらに色々な国々関わり、世界大戦に!? 目的は大陸から海を挟み東にある古代文明の栄えた大陸!?

様々な目的の中心として存在する二人の姫の今後は!?

次回、第四章開幕! 世界動乱編


(やばい、構想だと相当長くなるぞ……)


面白い、続きが気になると思ってくださった方、そうでない方もぜひブックマーク、評価、感想等よろしくお願いします。

また、感想は駄目だしでも大丈夫ですよ!(むしろwelcome!)


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