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第八話 思わぬ寄り道 Ⅱ ~呪縛に捕らわれた老執事からの情報~

いやぁ~ブックマークが増えたからテンション上がって早く書けてしまった……

我ながら単純だなぁ~


 翌日――

 窓から差し込む朝日で目を覚ましたアルクは、動きが鈍い脳を動かそうと辺りを見渡した。


(はぁ……久しぶりにぐっすり寝た気がするな……)


 アルクはそう思うと、身体を起こそうとした。しかし――、


「ん……」


 と、喘ぎ声にも似たような声が部屋に響いた。


「えっと……なぜ、フレイヤが俺のベッドに居る?」


 アルクは寝起きと言う事もあり状況が理解できず、自分の腕にしがみつくフレイヤを眺め呆然としてしまう。


「こんな事、前にもあったよな……」


 アルクはそう思うと口元を綻ばせ、立ち上がる事を諦めフレイヤが起きるのを待つことにした。


 それから数十分後――


「フレイヤ、いい加減起きろ」


 アルクはフレイヤの肩をゆすり、声を掛ける。


「う……んぅ~」


 しかし、フレイヤはもぞもぞと動くだけで起きようとはしなかった。


「まぁ、フレイヤも久しぶりにぐっすり寝たんだろうけど……」

(フレイヤの心配を考慮すると、今ここで寝坊する訳にはいかないんだがな……)


 アルクはそう思と少し口元を綻ばせた。

 そして、起きないフレイヤに一度セレスにやられた起こし方を試す事にした。


「確か……脹脛(ふくらはぎ)のここを、こうすると……」


 アルクは腕にしがみついているフレイヤを優しく振りほどき、フレイヤの足元へと向かい、柔らかい手つきでフレイヤの脹脛をマッサージし始めた。


「っひゃぅ!」

「っあ、起きたか?」


 アルクのマッサージの甲斐あったのかフレイヤは奇声を上げながら飛び起きた。


「っえ?何?」


 飛び起きたフレイヤは、アルクがマッサージした脹脛を撫でながらキョロキョロと辺りを見渡す。

 しかし――、


「起きたなら準備をするぞ」


 そんなフレイヤをアルクは無視して話を進めた。


「え、えぇ……って、え!?えぇ~!」

(何で私、アルクのベッドに居るの!)


 フレイヤはようやく自分の状況を理解し、顔を真っ赤に染めた。


「……かした?」

「ん?何か言ったか?」

「何かした!って聞いたの!」


 恥ずかしさのあまりフレイヤは大きな声で言う。


「はぁ……まだ朝早い、大声は控えろ」

「うぅ……ごめん」


 アルクに咎められフレイヤは縮こまる。


「変なことはしてない。起きないから、脹脛をちょっとマッサージしたくらいだ」

「マッサージ?」

「あぁ、ファルミア殿下、直伝のな」

「っえ……」


 アルクの付け足した言葉にフレイヤは顔を引きつらせる。


「もしかして、受けたことあったか?」


 そう問われたフレイヤは静かに頷いた。


「7年前に一度だけ……」

「あぁ……」


 フレイヤのどうも言えない表情を見てアルクは『こんな所にも被害者が居たか……』と思うのだった。


「っさ……」

「来ないで!」


 身支度を促そうと近づいたアルクにフレイヤは身を震わせそう言った。


「どれだけ、トラウマなんだよ……マッサージはしないから安心しろ。アレは俺も嫌だし……」


 アルクも呆れたような表情でそう言った。


「本当に?」

「しない、しない」


 アルクは両手を上げアピールする。


「ふぅ~」


 フレイヤは安心した様に息を深く吐いた。


「それじゃぁ、早く身支度を済ませろよ。なるべく早く帝都に着きたいんだろ?」

「うん」


 アルクの言葉に従いフレイヤは身支度を始めた。その間アルクは部屋の外でドアの前で座り窓の外を眺めていた。


「もう良いわよ」


 フレイヤのその言葉を聞きアルクは部屋の中へ戻る。


「それじゃぁ、朝食をとって買い物を済ませるか」

「そうね」


 アルクとフレイヤは荷物を持ち部屋を後にした。


「あら、おはよう。よく寝られた?」


 階段を降りると昨日受付をしてくれた女性に声を掛けられた。


「「はい。」おかげさまで」


 二人はそう言い礼を言う。


「そう。それは良かったわ。それと、夜は何もなかったかしら?ウフフフ」


 女性は訝し気な笑みを浮かべ二人を交互に見やる。


「っな!?」

「はぁ……何もないですよ」


 赤面したフレイヤに変わりアルクが呆れ気味に答えた。


「本当に?さっき、そっちの子の悲鳴が聞こえたけどぉ?」

「あれは、ちょっとしたマッサージですよ」

「大人の?」

「……」


 女性の言葉にフレイヤはプシューと言う音が聞こえそうな程、赤くなっていた。


「はぁ……揶揄うのは、その辺にしてください。この子、そう言うのに免疫ないんで」

「ふふ、ごめんなさい。可愛くってついね」


 女性はテヘと言いながら二人に謝る。


「今日の朝食は、パンとサラダ、スープよ。スープは私の自信作!」


 女性はふふん~と鼻を鳴らし自慢げな表情をする。


「そうですか。それは楽しみですね」


 アルクはそう言うと、思考停止して呆然としているフレイヤの手を引っ張って食堂へと向かった。


「はぁ……ひどい目に遭った」

「それはこっちの台詞だ」


 食堂の席で二人並んで食事をとる二人には朝にも関わらず疲れ切った表情が見えていた。


「これ食べたら、私一人で買い物に行ってくるから、この宿で待っててくれる?」


 フレイヤは買うものが買う物だけに、アルクを連れて行く訳にはいかなかった。


「ん?そうか?」


 アルクはフレイヤが買うものを把握していないが、知られたくない物なのだろうと思いフレイヤの意志を尊重する事にした。


 それからフレイヤは外套を纏い一人、買い物を済ませた店を出る。


(ふぅ……下着を忘れるとわね……)


 フレイヤは小包を抱え、ロクに睡眠をとらなかった過去の自分を恨むのだった。


「それにしても、この街は賑やかね……」


 フレイヤは辺りを見渡し独り呟く。今のアルフヘイムとは大違いだと思いながら……。

 そんな暗い事を考えながら歩いていると、フレイヤは執事服を着た威厳が漂う老人とすれ違った。


(……今の)


 フレイヤはすれ違った執事服の老人の姿が、何処か引っかかった。

 フレイヤにとって親しい人物ではない。合った回数も片手で足りる程だ。しかし、アルフヘイムにとっては正しく英雄と呼べる存在だった人物を思わせる老人だった。


『お久しぶりです。フレイヤ様、ご立派になられた様で』


 誰かが声を出したわけではない。この声はフレイヤの頭に直接、響いていたのだ。

老人の声は人生経験が豊富な人間特有の低く落ち着くような声であり、説得力がある声色だった。


『やっぱり、あなたなのね……パース(・・・)……』


 フレイヤは小さく溜息を吐くと安堵した表情になる。


『そのままお聞きください』

『えぇ、分かったわ』


 パースのただならぬ雰囲気にフレイヤは緩んだ気を再び引き締める。


『ベルトルトがアルフヘイムを襲撃する算段を立てています。お気を付けください』

『……やっぱり、そうなのね……』


 フレイヤも薄々、暗黒大陸への調査が建前だと言う事は気が付いていた。

 なにせ、未だ未開の暗黒大陸を調査に行くにもかかわらず、食料を運ぶ馬車がこの街には殆ど居なかったのだ。それは、まだ日数が有るからとかではなく、商人の話だと、食料の発注は何処の承認にもかかっていないとの事だったのだ。


(これは、アルクと話し合った方が良いかも知れないわね……)


『襲撃の日時は分かっていませんが恐らく最低二カ月後に行われる可能性が高いです』

『分かったわ。一応、私は帝都へ向かう予定だけど何かファルミア殿下に伝える情報はある?』


 フレイヤの問いにパースは少し考えると口を開いた。


『……では、ベルトルトが神聖帝国から援助を受けている可能性が高いとお伝えください。私では、お伝えする事が叶わない可能性がありますので』


 声のトーンを一つ落とし言ったパースにフレイヤはため息が出る想いだった。


(とうとう、()るつもりなのね……)


 フレイヤはそう思ったがその先は何も言うつもりは無かった。


『それで、私はアルフヘイムの騎士(・・)であるはずの彼方が何故ここに居るのか、どうやってこの情報を手に入れたのか、どうやって私を見つけたのか聞きたいのだけど?』

『もう、そこまでご存知でしたか……』

『馬鹿にしてるの?仮にも私はアルフヘイムの姫よ。長老どもを尋問するくらいできるわ』

『これは、怖い。』


 笑みを零しそう言い残すと、フレイヤとの会話を絶った。


『っちょ……待ちなさい!』


 フレイヤがパースに話しかけても返事が有る事は無く、ただ無音の時間が広がる。


(パーシヴァル=ペレディル……失われた姫の騎士にして夫。そしてアルフヘイムに続いていた人間(・・)の男。まぁ、良いわ。好きに生きなさい。その方が彼方のお姫様も嬉しいでしょうしね……)


 フレイヤは一人そう思うと、再び歩き出したのだった。



 フレイヤは宿へ戻り、食堂で待つアルクと合流した。


「ごめん、待たせたわね」

「いえ、そうでも無いよ。じゃぁ、行くか」

「ごめん、その前に少し相談いい?」


 フレイヤの真剣な表情を見たアルクは、まだ清掃の入っていなかった部屋を銀貨一枚を女性に渡して借りた。


「それで、相談とは?」

「どうやら、ベルトルトはアルフヘイムを襲撃するみたい……」


 俯きそう言ったフレイヤにアルクは、問う。


「その情報は、何処から?」


 っと――


「アルフヘイムの騎士をやっていた人間に聞いたわ。買い物の帰りにね」

「そうか……過去形なのが気になるが、フレイヤが信じる人間なら確かだな」

「私の言う事をアルクが信じてくれるとなんか嬉しいわね」


 フレイヤは若干顔を赤くしつつうそう言った。


「はぁ……その言い方だと俺が他人を一切信じていないみたいだな」

「え?違うの?」


 真顔でそう言ったフレイヤにアルクはため息しか出なかった。


「ふふ、冗談よ」

「それで、どうする?今からでもアルフヘイムに戻るか?」


 アルクの提案にフレイヤは首を左右に振る。


「いえ、このまま帝都に向かうわ」

「分かった」


 アルクが簡素にそう答えると二人は宿を後にし、入って来た方と反対の門へと足を向けた。



 門を出て一時間が経った頃――。


「少し、スピードを上げた方が良さそうだな……」


 森の中を進むアルクとフレイヤだが、フレイヤがいくら森の移動に慣れているとは言え、体力は普通の十二歳の女の子なみだ。その為、おのずと歩くスピードは落ちていた。


「ごめん……」

「これは、しょうがない」


 アルクにそう言われるフレイヤだが、内心は自分の力不足さが憎くて仕方がなかった。


(どうして、私はアルクみたいに万能じゃ無いのかしら……)


 前を歩くアルクの背中を見てフレイヤは如何しよも無い怒りを自分にぶつける。


「アルフヘイムの事もあるし、このままの速度で行くと、軽く一か月半はかかる……」

「一か月……」


 アルクの言葉にフレイヤは絶望の表所をした。


「が、このままアルフヘイムに戻ってベルトルトの襲撃を待つのも愚策だ、もしもの時対処できないからな……」


 アルクは手を顎に当て思考する。


(襲撃を未然に防ぐ前提で動けば一か月半かかっても問題は無いが……問題は未然に防げなかった場合だな……)


 未然に防げなかった場合でも帝都からアルフヘイムまで馬車を使って最短二週間はかかる。アルクは時間との戦いになると考え、帝都まで向かう時間を短くすることへと思考対象を変える。


「フレイヤ、俺が考え付いた中で今一番の最善策はコレだ」


 アルクはそう言と、フレイヤを抱きかかえた。

 抱きかかえたと言うのはそのままの意味で、要はフレイヤをお姫様抱っこしたのだ。


「え?っちょ……えぇぇ~~~~~~~」


 森の中フレイヤが大きな声で叫ぶ。


「フレイヤここは一応、森の中だ。あまり大きな声を出すな」

「い、いや、そんな事……」


 フレイヤは顔を赤くし注意された事に反論しよとアルクの顔を見上げると、思った以上にアルクの顔が近くに有る事に気が付き自分の顔が熱くなるのをフレイヤは感じ、俯くのだった。


「これから、走るから舌を噛むなよ『ブースト』」


 アルクは身体強化のブーストを使い走り出した。現世で言う自動車並み(時速40km)の速さで……。


「っちょ……」


 あまりの速さにフレイヤは、目を瞑り息を止めた。しかし、普通なら息苦しさと強烈な目の乾燥が襲う所、恐る恐る目を開けたフレイヤにその症状は現れなかった。


「ちゃんと、息は出来てるか?」


 アルクは、前を見据えたままフレイヤに問う。


「え、えぇ……」


 フレイヤは今の状況に驚きつつも、これがアルク行使した奇跡だと言う事はすぐに分かった。


「へぇ……圧縮した空気でシールドを張っているのね」


 フレイヤはアルクの行使した奇跡を冷静に分析していた。


「あぁ、そうだ」

「それにしても……」

「ん?どうかしたか?」


 フレイヤの言葉に疑問を持ったアルクがフレイヤに問う。


「これ、とっても気持ち――――」


 フレイヤはそう言い、満面の笑顔を見せた。アルクはそれを見て、思わず笑みがこぼれた。


(まるで、女神様だな。フレイヤの笑顔は……)


 こうして、帝都へ向かうアルクとフレイヤの移動速度は尋常ではない程、早くなったのだった。


アルクもっとフレイヤを照れさせろ!

と言う事で、最後までお読みいただきありがとうございます。

面白い、続きが気になると思ってくださった方、そうでない方も、ぜひブックマーク評価、感想等よろしくお願いします。


では、またブックマークや評価が多ければテンション上がって早く投稿するかも?


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