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第七話 思わぬ寄り道 Ⅰ

久しぶりの投稿となって申し訳ありません。

※出てくる貨幣価値ですが変動する可能性があります。ご了承ください。



 ここ、ベルトルト領は隣接国の神聖帝国と国交がある領地だ。その為、街に入る為には審査を通過しなければならない。

そして今、アルクとフレイヤはその入門審査に並んでいた。


「それにしても、やけに人が多いわね……」


 フレイヤは周りを見渡すと訝しげに呟く。


「傭兵か冒険者よね……」


 フレイヤの言葉通り二人の周りに居る人々は厳つい鎧を纏った人ばかりだった。


「普段この街は商人で溢れているはずだが……おかしいな。まるでこれから戦争でも始めるみたいだ……」


 アルクは思考しながら小さくそう呟いく。


「戦争……」


 そんなアルクの言葉にフレイヤは何処か暗い顔をする。

 アルクはそんなフレイヤを横目に『何かあったのだろう』と思いつつも深入りはすべきではないと判断し、追及はしなかった。


 それから、しばらく経ち二人が審査を受ける順番が来た。


「街に入るのはお前ら二人か?」

「あぁ、そうだ」


 軽装な門兵に質問されたアルクは敬語ではなく崩した口調で言った。

 これは、無駄に怪しまれない様にアルク達の前に並んでいた人達を参考にアルクが真似した為だった。


「ふむ……そっちのお前、一応フードを取れ」


 アルクとフレイヤを訝しげに見ると門兵はフレイヤにフードを取るよう指示した。


「分かったわ」


 フレイヤは好き通った綺麗な声でそう言うと静かにフードを取った。

 その瞬間、順番待ちで騒がしかった人々が静まり返りフレイヤへと視線が集まる。それは、門兵も同様で目を見開き絶句していた。

 それ程フレイヤの容姿が美しく輝いていたのだ。


「これでいいですか?」


 フレイヤはアルクとは対照的に丁寧な口調で言う。


「あ……あぁ……大丈夫だ」


 気を取り戻した門兵は頷く。


「最後に、この街に来た理由を聞かせてくれ」


 そう言った門兵の目つきは何処か厳しかった。


「前の者たちと同様に募集を見て来た」


 募集とは、この街の領主が傭兵を大量に募集していると言うものだった。この情報はアルクとフレイヤが待っている間に周りの会話を聞き、まとめた結果出て来たものだ。

 なんの為に傭兵を大量に募集しているか二人には分からないが、それに便乗しておけば怪しまれずに済むとアルクは判断したのだ。


「その年齢でか?」

「そうだが?何か問題でも有るのか?」


 門兵の質問にアルクは睨みながら返答する。


「別に文句はないが……まぁ良い。傭兵と冒険者の過去を探るのはご法度だしな」


 門兵は少し不安そうな顔をしながらもアルク達への深入りを避け書類を記していく。


「よし、通って良いぞ」


 門兵はそう言って二人を門を通した。


「何とかなったわね……」


 フレイヤはそう言とフードを被る。


「そうだな」


 そう言い二人は街の中へと足を進める。


「取りあえず今日はこの街で宿を探そうと思うがどうだ?」


 アルクはフレイヤに確認を取る。


「えぇ、良いわよ。野宿よりはぐっすり眠れるし、ゆっくり買い物もできそうだしね」


 フレイヤがそう言ったと同時に『ぐぅ~』と言う音がアルクの耳に微かに届く。


「……」


 アルクは無言でフレイヤを横目で見る。


「……」


 フードの所為であまり見えないが僅かに見える顔からフレイヤの顔が真っ赤に染まっている事をアルクは理解する。


「宿屋の前に腹ごしらえだな」


 アルクは笑みを浮かべそう言った。


「うぅ……ごめん」


 フレイヤは体を縮こまらせ小さく謝る。


「別にいいよ」


 アルクはそう言うと香ばしい匂いが漂う屋台に足を向けフレイヤもその後を追う。


「すいません」


 屋台のおじさんにアルクは声を掛ける。


「おう!兄ちゃん……て言う年齢でもねぇな。坊ちゃんか?」

「どっちでもいいですよ。それより、それは何ですか?」


 アルクは屋台のおじさんが焼いている物を指さし問う。


「ん?兄ちゃん旅人かい?」

「はい。そうです」


 アルクは愛想笑いを浮かべそう言う。


「そうか。これはな、この街の名物のワイルドボアの串焼きだ。しかも、これは俺、特製のタレに付けて食べると超うまいぞ!ちなみにタレのレシピは秘密だ。ガッハハハハ」


 屋台のおじさんはそう高笑いを上げる。


「そうですか。確かに甘辛そうなタレが食欲をそそりますね。それを四本下さい」


 アルクはそう言うと、出発前にスーシャ達から貰った路銀から半銅貨を取り出す。


「はいよ、半銅貨四枚と言いたいところだが……兄ちゃんは面白そうだから半額にしてやる!ガハハ」


 アルクは屋台のおじさんの行為に甘え半銅貨を二枚取り出し男に手渡した。


「ありがとうございます」


 アルクがそう言うと後ろにいたフレイヤも小さく会釈する。


「そうだ、ついでに一つ聞いても良いですか?」

「うん?なんだ?」


 屋台のおじさんは不思議そうな表情をする。


「今、この街には傭兵が多くいるようですが何故ですか?」

「あぁ、その事か。何やら領主様が暗黒大陸の調査に行くとかでその為に雇ったらしいぞ」

「っえ……」


 屋台のおじさんの言葉にフードを深くかぶったフレイヤが小さく動揺の声を上げる。

 それを横目にアルクは捉え「ありがとうございました」と言いその場を離れる事にした。


「おう!また寄ってくれ!」


 屋台のおじさんはアルク達に満面の笑みを浮かべ、ガハハと高笑いをしながら見送ってくれた。


「はい、フレイヤ」

「うん。ありがと……」


 フレイヤはアルクから串焼きを二本受け取るが少し元気がなかった。


「考えるのも良いが、今は食べた方が良いぞ」


 フレイヤの事などお構いなしに串焼きを食べるアルクを見てフレイヤも「そうね」と言い、小さな口を目一杯口を広げ串焼きを口に入れる。


「ん~おいしぃ~」


 先程までの表情が嘘かの様にフレイヤは満足そうにそう言った。


(それにしても、暗黒大陸の調査か……これは確かにフレイヤも心配になるよな……)


 アルクはそんな事を想いながらフレイヤの幸せそうな姿を眺めていた。


「ん?アルクはもう食べないの?」


 そんなアルクをフレイヤは疑問に思ったのかアルクにそう言って来た。


「いえ、食べますよ。ただフレイヤが綺麗だなっと思ってな」


 アルクはそう言うと悪戯な笑みを浮かべる。

 それに対してフレイヤは、アルクにそう思われたことが恥ずかしく思えフードを深くかぶりなおし……、


「う、うるさい!」


 顔を赤くし猫の様に警戒しながらそう言った。


「悪かったよ」


 アルクは笑みを浮かべそう言った。

 そんなアルクの笑みを見てフレイヤも『まぁ良いっか』と言う気分になり、怒るのを辞めた。



 串焼きを食べ終わった二人は、近くに有った宿屋に居た。


「いらっしゃいませ」


 そう言って出迎えてくれたのは、30代の女性だった。


「二人でふたへ「一部屋で良いわ」」


 アルクの声に被せてフレイヤがそう言った。


「フレイヤ良いのか?」

「別にいいわよ。それとも、アルクは私に何か変な事するの?」


 フレイヤは自分の体を抱き訝し気な表所を浮かべる。


「しないよ」

「即答で言われると、女心としては複雑なんだけど?」


 フレイヤはそう言いながらアルクにジト目を送る。


「じゃぁ、何と言えば正解なんだよ……」


 アルクも呆れ気味に答える。

 すると……、


「フフ、仲がいいのね」


 宿屋の女性が小さく微笑みながらそう言った。。


「仲が良いかは微妙だと思いますよ?」

「あら?そうなの?」

「えぇ、だってアルクは私に対して何時も作り笑いしか向けてくれませんから」


 フレイヤは先程、恥ずかしい思いをさせられたやり返しと言わんばかりに悪戯な笑みを浮かべた。


「あら、それはいけませんよ?女の子に作り笑いを浮かべるのはダメです。特に恋している女の子にはね!」

「っちょ……」


 フレイヤの言葉は見事にブーメランとなりフレイヤに帰って来たのだった。アルクに対しての羞恥として。


「そ、そんな事、私思ってないわよ!」

「分かっているから、落ち着け」


 恥ずかしさのあまり声が大きくなったフレイヤにアルクは静まる様に宥める。


「ふふ、ごめんなさいね。あんまりにも可愛い子だからつい揶揄いたくなっちゃた」


 女性はテヘと言いながらアルクに謝る。


「良いですけど、フレイヤの場合怒るとなぜか俺が被害を被るのでほどほどにしてください……」


 と、言いアルクは宿の受付をする。


「これで良いですか?」

「えっと……うん。いいよ。それにしても綺麗な字を書くね。もしかして貴族様だったり?」


 と、女性は冗談半分に言う。

 しかし、フレイヤがビックンと体を跳ねさせてしまう。


(オイオイ、分かりやす過ぎじゃないですか?フレイヤさん)


 アルクは内心呆れた様子でフレイヤを見やる。


「っえ……」


 フレイヤの反応を見て女性の顔色が急速に悪くなる。


「えっと……本当に?」

「いえ、冗談ですよ?」


 真青な顔をした女性にアルクが全く表情を変える事無く答える。


「本当に?」

「本当ですから安心してください」


 そう言われ女性は胸をなでおろす。


「はぁ……びっくりしたぁ。それじゃぁ部屋は二階の角で二人部屋ね。夜と朝はご飯が付いているから、要るなら一階の食堂に来てね。銀か二枚です。」


 そう言いアルクの持つ銀貨二枚を受け取り鍵を手渡した。


「分かりました」


 そう言い、アルクとフレイヤは受付横の階段を上った。


「フレイヤ、分かりやす過ぎ」

「うぅ……私、嘘つくのは苦手なのよぉ……」


 アルクはフレイヤの言葉に『確かに』と内心思う。


「っむ、今、失礼なこと考えたでしょ?」

「気のせいでは?」


 アルクは笑み浮かべる。


「だから、その作り笑い浮かべる位なら笑わないで良いわよ……私はね、嘘を付くのが苦手だけど嘘を見抜くのは得意なのよ?」


 フレイヤは呆れ気味にそう言った。


「まぁ、そうでも無いと領主たんて出来ないわな」


 アルクはフレイヤを揶揄う様な笑みを浮かべる。

 それに対しフレイヤはきょとんとした表情を浮かべる。


「ん?どうかしたか?」


 呆然とするフレイヤにアルクは疑問を抱く。


「いや……初めてアルクの作り笑い以外の笑顔を見たと思って……」

「そうか?」

「そうよ。アンタ殆ど表情変えないんだもの……」

「いや、俺だって表情は結構変わると思うぞ?」


 アルクのその言葉にフレイヤは『無自覚……』と思うのだった。


「っと、部屋はここですね」


 アルクは階段を上った廊下の突き当りで足を止めた。


「そうね」


 アルクは鍵穴にカギを差し込むと、鍵を開け扉を開けた。

 内装は簡素なベッドが二つと机が有るだけの部屋だった。


「まぁ、値段相当ね」


 フレイヤは部屋を見渡しそう言いながら、ベッドに腰掛ける。


「そうだな」

「……」


 部屋に入った途端フレイヤは再び暗い表情になる。

 それは、先ほど屋台で聞いた傭兵を雇っている理由に原因は有った。

 暗黒大陸の調査と言う名目だが、このベルトルト領から暗黒大陸へ行く為にはアルフヘイム領を通らなければならない。そうなれば、アルフヘイムの街にも何らかの影響が出る可能性があった。


「フレイヤ、明日買い物を済ませたらすぐにこの街を出るぞ」

「っえ?」


 フレイヤはアルクの言葉に疑問の声を漏らす。


「アルフヘイムが心配なんだろ?顔に書いてあるぞ」

「う、うん……」


 フレイヤは動揺しながらも首を縦に振る。


「なら、早く帝都に行った方が良い。いくら街に世界樹の加護が有ると言っても何が起こるかは分からない。それに、ここの領主ベルトルトはあまりいい噂を俺は聞いたことが無い。ファルミア殿下の第一警戒対象になる位にはな」


 その言葉を聞き、フレイヤは更に不安そうな表情をした。

「分かったわ。ありがとう」


 フレイヤは儚く切ない笑みを浮かべそう言った。


「あぁ」


 その日、フレイヤに笑顔が戻る事は無く二人は眠りについた。



 ベルトルト領のとある館――


「ゲノム様」


 白髪の年老いた執事がソファーでワインを飲む男、ゲノム=ベルトルトに呼びかける。


「何だ?」

「今日の昼頃に予定していた人数に達した様です」


 それを聞いたゲノムは、っふと鼻で笑うと口角を吊り上げ不敵な笑みを浮かべた。


「そうか……後は、神聖帝国からの使者を待つだけだな。使者から俺は特別(・・)な力を得る。そうすれば、この国は俺の物だ……っふ、ふ、ふはははははは」


 ゲノムはワンを片手に高笑いする。


「……」

(やはり、このお方は……)


 執事は内心そう思いながらもゲノムに悟られない様決して表情を崩す事は無かった。


「それに、神聖帝国からの情報でアルフヘイムの世界樹の加護は如何にかできる事が分かっている。まぁ、すでに満身創痍だろうがな、ハハハハハ」


 執事は静かに拳を握りしめるのだった。


フレイヤは書いてて可愛いから楽しいですねぇ~(アルクもっと揶揄って赤面させろ!)

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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