第六話 出発
週に二本更新は久しぶりだよ!やったね‼
フレイヤの演説から数日が経ち、無事に世界樹の剪定を終えた翌日――
アルクとフレイヤはアルフヘイムの門に居た。
「さて、これで一応見て居られる姿になったじゃろ」
スーシャはアルクの姿を見て満足した様に微笑みながら頷く。
アルクは、黒をベースに白のラインが入った騎士服を着ていた。
「名目上は私の騎士だから、ぴったりね」
フレイヤは、そう言うと不敵な笑みを浮かべる。
と言うのも、アルクは子の騎士服を着るのを嫌がったのだ。
なにせ、この服の値段は一着で帝都に屋敷が買えるほど価値が高いのだ。。
「はぁ……僕は安い服で良いと言ったんですが?」
「そう言うでない。その服はわしら精霊族からの恩返しの品だと思ってもらって構わん。その片手剣ものぉ。それに、その服は……何でもないわい」
ゴードは鋭い視線を感じ取ると適当に取り繕う。
「僕は別に誰も助けていません。実際にペストに感染した人々は誰一人回復していないじゃないですか」
アルクがそう告げると、ゲルマン以外はため息をついた。
「はぁ……アンタまだそんなこと言ってるの?確かに、ペストに感染した人は誰一人完治していないわ。でもね、感染を抑える事ができた。これは十分功績よ?」
「ですが……」
あまりにも、歯切れの悪いアルクにフレイヤが大きく溜息を吐く。
「じゃぁ、分かった。アストルフォ、彼方をアルフヘイム領の名誉騎士の称号をあげるわ」
「っちょ、姫様!」
「ホ~、それは良いのぉ~」
「ホッホ、確かに名案じゃのぉ」
ゲルマン以外はフレイヤの唐突な勲章授与に好印象を持っていた。
「フレイヤ様……どうしてこうなった?」
「ん?あんたが余りにも歯切れが悪いから、ムシャクシャしてやった。反省も後悔もしていないわ」
フレイヤは無い胸を張って『勘弁しなさい』と言う雰囲気を醸し出していた。
「はぁ……まぁ、もらえる物は貰っときますよ……」
と、アルクもようやく割り切り笑みを浮かべる。
「さて、それじゃぁ、そろそろ……」
フレイヤがそう言った瞬間、猛スピードでフレイヤに突進するキラキラと光る白い影が現れた。
アルクはフレイヤの前に出ようとする。しかし――
「待ってアルク!」
フレイヤの制止の言葉を聞きアルクは動きを止める。
白い影は、そのままフレイヤに突っ込む寸前に勢いを落とし、フレイヤの胸に優しく抱かれる。
白い影……その正体は、狼の耳と尻尾を持つ白髪の小さな女の子だった。
「ふぅ……どうしたの?アスィミ……」
そう言ったフレイヤは何処か暗い顔をしながら優しくアスィミの頭を撫でる
「姫様が……旅経つと聞きましたので……」
フレイヤの感情を感じ取ったのかアスィミは耳と尻尾をしょんぼりさせる。
「そう。ありがとう。私はこれから、そこのアルクと一緒に帝都まで行ってくるわ。留守の間この街をお願いね」
「はい……」
優しくアスィミの頭を撫でるフレイヤの言葉にアスィミは俯き小さく答える。
(お互いが、一定距離以上、近づこうとしていないのか……)
アルクには二人の間に壁が有る様に見えた。
お互いが、相手に歩み寄ろうとせず相手が近づいて来るのをひたすら待っている様な関係。
それが、アルクが二人の会話、仕草を見て思った事だった。
「さて、アスィミも来たことだし、そろそろ行こうかアルク」
「分かりました」
フレイヤはアスィミの頭から手をそっと放す。
それをアスィミは名残惜しそうに見つめ、一歩後ろに下がった。
「小僧、姫様に何かあったら許さんからな!」
「気を付けて行っておいで、姫様」
「気を付けるのじゃぞ。二人とも」
「えぇ、行ってくるわ」
「はい」
そうして二人は、門を通り抜け森の中へと消えて行った。
「姫様……ごめんね」
そんな二人の背中を見つめアスィミは胸の前で手が内出血する程強く握り込み一人そう呟く。
♰
アルフヘイムの森は順調に抜け二人は野営の準備をしていた。
「アルク、薪はこれくらいで良い?」
「はい。ありがとうございます」
アルクがそう言うと、フレイヤが大きく溜息をついた。
「はぁ……いい加減その堅苦しい喋り方、辞めてくれない?」
「と言われましても……」
アルクにとって、敬語で話す事は一種の癖の様なものだった。相手の機嫌を害さない為に続けているうちに染みついた癖。
「私が嫌なのよ。一緒に旅をするんだし敬語じゃなくても良いわよ。それに私を姫様と呼ばないで」
そう言った、フレイヤは暗い表所をしていた。
「では、何と呼べば?」
「そうね……ま、まぁ、普通にふ、フレイヤで良いんじゃない?」
フレイヤはそっぽを向いて若干照れながらそう言った。
「分かりました……いえ、分かったよ。フレイヤ」
アルクは、そう言うと優しく微笑んだ。
「うん。それでいいのよ。と言うか、アンタ笑っていればカッコいいんだから普段から笑顔で居たら?」
「そうか?でもこれくらいなら」
アルクはそう言うと、笑顔を見せた。
「こんな風にいつでもできるぞ?」
「アンタ……その笑顔作り笑顔だったの?」
「世間ではそう言うみたいだな。俺的にはこれが笑顔だけど」
アルクはそう言ったが、フレイヤは何故か固まっていた。
「ん?どうかしましたかフレイヤ様」
「いや……アルクの一人称は俺なんだなぁ~と思っただけ」
「変か?」
「いや、そっちの方が良いと思うわよ。アンタの戦闘能力的にも」
フレイヤはそう言うとその場に座り込む。
「後は俺がやるから、座っていていいよ」
アルクはそう言うと手に持っている木の実や生肉を調理し始める。
「っそ、ありがとう。流石に疲れたわ……」
「そりゃぁ、徹夜をすればな」
フレイヤは出発前にも関わらず、書斎にこもって帝都に持って行く証拠や資料、書類を徹夜でまとめていた。
「そう言うアンタは何でそんなに元気なのよ……アンタも私に付き合って徹夜だったのに」
「俺は徹夜には慣れているからな……もっと言えば、俺には欲と呼べるほどの欲は無い」
「アンタ……それ、人としてどうかと思わよ……」
フレイヤはそう言うとアルクにジト目を向ける。
「人ね……」
「なに、その「俺は人かどうか怪しい」とか言いたげな表情」
フレイヤはムスっとした表所でさらに、アルクにジト目を向ける。
「仰る通りで……俺は普通の人生と言うものを歩んだ事が無いものでね。自分が本当に人なのか分からない。分類学上は人になるのだろうがな……」
アルクは最後小さく呟く。
「それは私も同じよ。セレスちゃんも含めてね」
「それは、どういう意味だ?」
「私は精霊族の姫として生まれた。セレスちゃんはフェルス帝国の皇太女として生まれた。この時点で普通の人生が送れる思う?」
フレイヤは苦笑いを浮かべながら言う。
「確かに、その時点で普通じゃないな」
「えぇ、そうよ。私達は普通じゃない。ただ、アンタはもっと普通じゃない。どんな経験をしたのか私は知らないけど、恐らく相当おかしな人生を送ったのでしょうね」
フレイヤは、木々の隙間らから覗き見える空を見つめる。
「どうしてそう思った?」
「だって、アンタのその世界全てを恨んでいる様な目を見れば私やセレスちゃんなら分かるわよ。普通じゃない人間同士ね」
そう言いうとフレイヤはアルクに笑顔を向ける。
その笑顔はアルクに向けてのメッセージでもあった。
(普通じゃ無いのは、彼方だけじゃない)と……
それから、数分でアルクの料理は出来上がる。
「アンタ、料理もできるのね……」
「できたらダメなのか?」
「いや、何か、女として負けた気分……」
「俺は、男だ。女じゃない」
「確かにそうなんだけど……」
フレイヤは、そう言いながらアルクを観察する。
「アルクって……髪を伸ばして女の物の服を着たら可愛いと思うのよね……」
「いや、それは辞めてくれ……」
フレイヤの呟きにアルクが本気で嫌そうな顔をする。
「へぇ~アンタでもそんな顔するんだ。よし!」
フレイヤは何かを決めたかのように意気込む。
「帝都に着いたら、アルクに服を作ろう」
「フレイヤ服が作れるのか?」
「え!えぇ……一応……」
アルクに問われるとフレイヤは、何処か都合の悪そうに目線を逸らす。
それにアルクはジーと目線を送り続ける。
「暇つぶしに作っていたら楽しくなったのよ。屋敷の中だとそれ位しかやる事ないんだもの」
フレイヤは何故か顔を赤くする。
「別に照れなくても良いだろ」
「て、照れてない!」
そこで、アルクはあることを思い出した。
それは、世界樹の剪定をする前日にフレイヤは自分の書斎にこもって出てこない事。そして、別れ際のゴードの不自然な言葉。
「と言う事は……もしかして、これはフレイヤの手作りか?」
アルクはそう言うと、自分の来ている服を見る。
「……そうよ!悪い⁉」
「いや。ありがとう」
アルクはフレイヤに笑顔でお礼を言う。
「あんたね……お礼を言うなら作り笑顔を辞めなさい」
「……」
アルクは、目線を逸らす。
「はぁ……まぁ、良いわ」
フレイヤはそう言うと笑みをこぼした。
「そう言えば、出発する時にいた女の子。確か……」
「アスィミ?」
「あぁ。あの子は何者なんだ?尋常じゃない素早さだったが……」
アルクはアスィミの年齢に似つかわしくない素早さに疑問を抱いていた。
「その異常な素早さを誇る人間を余裕で払いのけようとしたのはどこの誰よ」
「俺だな」
「はぁ……アンタと居ると常にため息が出る気がする……まぁ、いいわ。アスィミの事ね」
フレイヤは、そう言うと少し考え混む様な仕草をする。
「言いたくなければ良いぞ。ただの暇つぶしだ」
「いや、別にそれは良いの……あの子は簡単に言えばスーシャの孫よ」
「スーシャさんの孫……確かに同じ髪色だな」
アルクはスーシャの顔を思い浮かべる。
「えぇ、そして私の本当の騎士でもあるわ」
「あぁ、俺が今(仮)で付いている役職か」
「えぇ、そうよ。その騎士なんだけどね。アスィミは。でもあの子は私と極端にかかわりたがらないのよ……」
そ言われ、アルクは二人の会話や仕草を思い出した。
「確かにな……」
「気が付いてたんだ……」
フレイヤは小さく呟く。
「まぁな」
「アスィミはね、私に罪悪感が有るのよ……」
「罪悪感?」
「えぇ……」
フレイヤは、そこまで言うと黙ってしまった。
「まぁ、言えないなら言わなくていい」
「うん」
フレイヤは気落ちした返事をする。
「ただ、一つ俺が気になった事を言っておくと近づこうとしていないのは、フレイヤもだ」
アルクにそう言われフレイヤは自嘲の笑みをこぼす。
「確かにそうね……」
「俺がふっておいて何だが料理が冷める。話はこの辺にして食事を済ませよう」
アルクのその言葉を皮切りに二人は静かに食事を進め、この日はそのまま眠った。
♰
次の日、アルクとフレイヤは街道に出て来ていた。
「はぁ……私としたことが***を忘れるなんて……」
「まぁ、忘れ物は誰にでもある。それで、何を忘れたんだ?」
アルクが問うとフレイヤは顔を真っ赤に染める。
何故なら、フレイヤが忘れたものそれは下着だ。異性であるアルクにフレイヤが平然と言える訳が無かった。
「い、いえる訳ないでしょ!変態!」
フレイヤはアルクを強く睨む。
「はぁ……ならいいが、どうやって街に入るつもりだ?」
「あぁ、それなら簡単よ」
そう言うとフレイヤの眼に紋章が浮かび上がる。
「魔眼……」
アルクは思わず呟いてしまった。
「えぇ、そうよ。人間でも知っている人は居るのね。これで……」
フレイヤは辺りを一瞬、見渡し誰も居ない事を確認するとフレイヤの体が一瞬白く光る。
「これで、一応分からなくなったでしょ?」
そう言ったフレイヤは、フードを取る。
そこには長く尖った耳は無く、普通の人間の耳が付いていた。
「フレイヤの魔眼は姿……もしくは光を操る魔眼か?」
アルクは顎に手を当て思考する。
「筋は悪くないわ。でも違う。私の魔眼は過去を見る魔眼よ」
「過去?」
「えぇ、演説をした日に世界樹の根元にある社へ行ったのを覚えてる?」
「あぁ。立派な社だったからな。確か、世界樹に宿る精霊が居るんだったか?」
「えぇ、でも世界樹が急成長し始めてから姿を現さなくなけどね。それで、その社に住まう世界樹の精霊が私に魔眼をくれた精霊。『ウルズ』様よ。」
アルクはその名を聞き、前世での神話を思い出した。
(ウルズ……北欧神話に登場するノルン姉妹の長女。確か、ウルズの意味は過去……もとは死を意味だ。そして、編む者。別名『織姫』とも呼ばれていた……そう言う事か)
アルクは情報を整理した結果、結論を出す事ができた。
「ウルズ様には、もう一つ名前がある。それが織姫。編むものと言う意味。本来は、運命の糸をつむぐ者と言う意味だが、今フレイヤが行ったのは自分の姿と言う糸を編みなおしたのか……」
「そう。私は過去に干渉する事ができる。でもそれは大きな未来改変が行われない事に限るわ。私の耳が人間の耳になる位あまり関係ないわ。私は、スーシャたちの目の前で生まれた正真正銘のハイエルフの娘だからね。姿よりハイエルフから生まれたという事実の方が優先される。まぁ、街を出たらもとに戻すけど。と言うかアンタはよくウルズ様の事知ってたわね……」
そう言ったフレイヤは、アルクにジト目を向ける。
「まぁ、ヴェルダンディ城の書庫には大量の書物が有るからな。その中に精霊に関する記述も当然ある」
アルクは適当に真実っぽい嘘を言い誤魔化す。
「そうね。それじゃぁ、行きましょう。敵の街に」
フレイヤのその言葉で再び二人は歩き始めた。
この後、アルフヘイムで起きる戦乱が計画されているとも知らずに……
やっと、アルクのクールな口調が書ける……
フレイヤの前では基本この口調です。
と言うか、アルクの口調はこれが素です。
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