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第二話 黒の病

遅れてすいませんm(__)m


※2018/11/15 追記

 アルクとフレイヤが歩き出して、1時間が経った頃――


「もうすぐ街に着くわ」


 フレイヤは前を向いたまま、悲壮感を漂わせた声で言った。


(この有様だ。仕方がないか……)


 アルクとフレイヤが歩いている畦道(あぜみち)の左右に広がる干からびた田んぼや死んだ畑が広がっていた。


(街に近づくにつれて気温が下がっているな。その所為で作物が育たないのかぁ……)


 アルクが辺りを見てそう思っているとフレイヤが口を開いた。


「二年前まではここは一面田畑だったのよ。でも、急に世界樹が成長し始めた。私たちの種族は世界樹の恩恵と守護で生きていけている様なものだから、剪定するわけにもいかない……でもね……流石に人が死ぬとなると……」


 フレイヤは震える声で言うと、自らを戒める様に手を強く握り込んだ。


(飢餓か……)


「おかしな話よね。自分達を守ってくれる存在が自分達を苦しめるなんて……」


 空……いや、世界樹を見上げ、フレイヤは自嘲する様な笑みを浮かべる。


「そうですね。信仰は確かに大事です」

「アルクは意外と信仰深いの?」

「そうでも無いですよ。僕は無宗教です。神の存在は信じていますが教えは信じていません」

「ん?それってどう言う事?」


 アルクの言葉にフレイヤが首を傾げる。

 神の存在を信じると言う事は宗教の教えである『聖典や教典』は信じるのと同義だ。それを否定したアルクの言葉にフレイヤは疑問に思ったのだ。


「簡単です。僕は、神は存在すると思います。しかし、誰が作ったかも分からず嘘か誠かも分からない教典や聖典を信じる事は無いと言いう事です。」

「そう言う事……私達は帝都で主流の宗教には属さず、独自の宗教観を持っているから聖典とか教典は無いし」

「その様ですね。所謂、精霊信仰であり自然崇拝と言ったところでしょうか。崇拝の対象は世界樹」

「よく分かったわね……って、さっき私が言ったか……」

「そうですね。世界樹を敬い、自分たちを精霊の民と謳う民族ですから」


 フレイヤはアルクの観察力、思考力、洞察力、知識力、己の考え、それらは明らかに普通に12歳児の経験を量がしていると今の会話で感じる取る事ができた。


「はぁ……まぁ良いわ」


 アルクの異常性に小さく溜息をつく。

するとフレイヤの足が急に止まった。


「?」


 フレイヤが足を止めた事をアルクは疑問に思う。


「やっば……」


 そう呟いたフレイヤの顔がみるみる青ざめていく。


「どうかしましたか?」

「ババが来る」

「ババ?」


 アルクの復唱に素早く首を縦に振ると、素早くアルクの背中に隠れた。

 確かにアルクは少し前から前方からゆっくりと一人の人物が歩いてきている事に気が付いては居た。

 しかし明らかに老人の様にゆっくりと近づいて来る気配にアルクは警戒対象から外していた。

 そして……


「姫様ぁ?」


 アルクとフレイヤの前に白髪で犬の耳と尻尾を生やした老婆が現れた。


「……」


 フレイヤはアルクの背中に隠れたまま顔を老婆から背けた。


「姫様、色々聞きたいことは有るが、まぁ今は良い。まずは……あれほど外には出るなと言ったのに外に出た事の言い訳を聞きこうかのぅ?」


 そう言った老婆は何処か凄味があった。


「えっと……屋敷の中に居るのに退屈して、外に出ました……」

「……」

「すいませんでした」


 老婆と目を合わせず答えたがフレイヤだが、何も答えない老婆を見てすぐに頭を下げ誤った。


「はぁ……まぁ。良いですよ。何時もの事じゃ。それで……その姫様の盾はどちら様かのぅ?」


 細い目を開け老婆はアルクを見つめる。


「僕は、アストルフォと申します。森で倒れていた所をフレイヤ様に助けられた者です」

「そうか、そうか……うむぅ……なるほどのぅ」


 老婆はアルクを観察する様に見る。


「ふむ。まぁよいか。それで、姫様いつまでその者の後ろに隠れているおつもりで?」

「いやぁ……出て行ったらババに叩かれそうだなぁと……」

「叩きゃせんよ」


 老婆のその言葉を聞き、フレイヤは恐る恐るアルクの後ろから出て来た。

 すると、突如フレイヤを突風が襲った。そして……、


(白か……)


 フレイヤのスカートが舞い上がり、中にある純白の布が露わになる。

 それと同時に、フレイヤの顔はみるみる内に赤くなり今にも燃え上がりそうだ。


『み、見るなぁ!』


 その声と同時にフレイヤがアルクに向かって『ファイア』を放った。

 それを、アルクは首を横に動かし、何食わぬ顔でかわす。


(詠唱改変かぁ……流石、精霊族だな……)


 アルクはフレイヤが行使した魔法の高等技術を関心する様に見た。


「っ……」


 下着を観られたフレイヤは顔を真っ赤に染め、すぐにスカートの裾を抑えると、アルクを恨めしそうに睨んでいた。

 アルクは、何もしないとアピールの為に両手を頭の上にあげ、目を閉じる。


「ホホ」

「すいません。僕を巻き込まないでもらえたら嬉しいです」


 愉快に笑う老婆にアルクはそう告げる。


「ほぉ~お主のラッキースケベはわしの仕業だと?」

「……たまたまと言う事にしておきましょうか」


 ここで、怪しまれるのは得策ではないと判断し、アルクは適当に誤魔化した。


「ホホ、面白いのぉアルクとやらは」


 そう言うと、老婆はホホホと笑いながら去っていった。


「えっと……なんかごめん」


 老婆の後ろ姿を眺めながらフレイヤは誤りの言葉を呟いた。


「いえ、大丈夫ですよ」

「そう。まぁ、見たことは許さないけど」


 そう言いながらアルクを睨むフレイヤにアルクはアハハと乾いた笑みを浮かべ、上げていた手を下げた。


「それじゃぁ、行きましょ。もうすぐ着くわ」


 フレイヤはそう言い足を進めた。



「さぁ、着いたわ」


 そう言ったフレイヤが足を止めたのは立派な外門の前だった。

 外門の美しさ、立派さ、精巧さにアルクは呆気にとられる。

 それは、帝都にある外門や城に引けを取らない程だったからだ。


「流石、ドワーフ族ですね。細部の細工まで精巧に作られていてとても綺麗です」

「ドワーフ族は手先が器用で建築や鍛冶、細工などに向いているのよ」


 フレイヤの説明を聞きアルクは一つの疑問が浮かぶ。


「この街に衛兵は居ないのですか?」


 門の外には誰一人として人が居なかった。


「一応いるけど、門番をするような兵は居ないわ」


 その答えを聞き、アルクは先程のフレイヤの言葉を思い出した。


「世界樹の守護ですか?」

「正解よ。何でアンタはそう頭がキレるのかしら……。まぁ良いわ。この街に衛兵が居ない理由は二つ。まず一つ、精霊族もしくは精霊族の同伴が無いとアルフヘイムの森に入る事すら出来ないから。そして二つ目、精霊族もしくは精霊族の同伴が無いと森の中で確実に迷うからよ」


 その説明を聞きアルクは自分が目覚めた場所を思い出し、自分がどうしてここ(・・)に居るのか再び疑問に思う。


「そう、あなたが居た場所は既にアルフヘイムの森の中。それも随分と奥深くに倒れていた。それが私の中ではずっと不思議だったのよ。だから聞いたの。『あなたは何者』とね。でも、当の本人は分からないと答えた。そうなったら私にはもうお手上げよ。嘘を付いている様子もないしね……」


 そう言いながらフレイヤは笑みを浮かべ頭を左右に振る。


「さて、門の中に行きましょうか」

「はい」


 フレイヤの言葉にアルクが返事をすると、フレイヤは巨大な外門に手を添えた。


(魔力を流しているのか……)


 アルクが考察をしている間にフレイヤは扉から手を放す。

 すると、大きな扉が音を立てながら開き始め、人ひとりが通れる位の隙間ができると止まる。


「何をしてるの?早く行くわよ」


 思考しているアルクにフレイヤの催促の言葉がかけられアルクはフレイヤの下へと向かう。


「しばらくすると、勝手に閉まるから早く通るわよ」

「はい」


 フレイヤの説明を聞くとアルクは、無言で門を通った。

 門を抜けると、そこには綺麗な街並みが……広がっていなかった。


「これは……」

「……」


 フレイヤは街の様子を見ると顔を顰め、俯く。

 アルクが書庫で記憶したアルフヘイムの街並みは水が綺麗で綺麗に区画整備された綺麗な街並みと記されていたはずだった。しかし、今のアルフヘイムの街並みはとても綺麗とは言えない……いや、廃墟と言っても差支えがない程、荒んだ街並みだった。


 アルクが街並みを呆然と眺めていると200メートルくらい先で、人が倒れるのが見える。


「フレイヤ様、少し走りますよ」

「え?」


 アルクは、フレイヤの手首を掴むと地面を蹴った。


「えぇぇぇぇぇぇぇ!?」


 フレイヤの絶叫が数秒間響いた直後フレイヤもアルクの行動を理解した。


(あの子があそこから見えたのね……)


 フレイヤはそう思うと、自分のやるせなさが嫌になる。


(私は領民の事を考えているようで、自分の事しか考えていないのね……)


 フレイヤはアルクに引っ張られながら内心自虐していた。


 アルクが走った先に居たのは小さな女の子だった。

 ただし女の子は息を荒げ酷く汗をかいた状態で倒れていた。


「風邪……いや、その割には熱が高すぎる……」


 アルクが女の子の症状を分析している横でフレイヤは、小さく「また……」と呟いた。


「フレイヤ様、『また……』とはどういう意味ですか?」

「……」


 何も答えないフレイヤにアルクは無言で真っすぐとフレイヤの目を見つめる。


(言いたくない事情が有るなら言わなくても良いが……彼方はそれで良いのですか?)


 フレイヤは目でそうフレイヤに訴えかける。


「はぁ……半年くらい前から、この子と同じ様な症状で倒れる人が増えたのよ……そして今じゃ、127人が同じような症状に掛かっていて、すでに死者も100人出てる」


 俯きながら答えたフレイヤの言葉にアルクは、少し疑問を持つ。


「200人で済んだのですか?」

「えぇ、すぐに伝染病だと思ったから、すぐに同じような症状の患者を隔離したのよ。それで一応は、患者の数は減ったわ……患者の死と言う事でね……」


 フレイヤは手を強く握り締め悔しそうに言った。


(治療方法がないのか……)


 アルクがそう思考する。この世界の水準は現世での14世紀位だった。その頃の医療技術は異世界も現世も大差はない。ケガにはヒールが使える位で神職最高位の神官が辛うじて軽度の病を治せる程度だった。


「他の方々の症状を聞いても良いですか?」

「下痢と酷い咳をする人、意識混濁と脈が弱くなる人、全身に黒い斑点ができる人が居たわ。全員書状は微妙に違ったわ。ただ、高熱と言うのはすべてに共通している」


 フレイヤの情報を聞くとアルクはため息が漏れる。

それは、アルクが考えている条件、症状に当てはまる伝染病が存在したからだ。


「フレイヤ様」

「……何?」

「先ほどフレイヤ様が言った症状と同様の症状を持っている人は……」


 アルクは、少女に分からない様に動作で続きを伝えた。首を横に振るという簡素な方法で一番残酷な現実を突きつけた。


(この病は治す事ができません)


 アルクの動作はそれを意味していた。


「嘘……」


 フレイヤはショックだったのあまり口元を抑えよとした。

しかし、アルクはフレイヤの手首を掴み辞めさせる。


「手を口元に持って行くのは手を洗ってからにした方が良いです」


 アルクはそう言うとフレイヤは静かに頷く。その様子はとても暗く気落ちしていた。

 しかしアルクも全く希望を無くすわけでは無かった。


「ただ、全くと言う訳でもありません」

「そう……でも、確率は低いのよね?」


 アルクはフレイヤの問いに首を縦に振る。


(彼女の中では全員が助けられなければ自分は力が無い人間だとでも思っているのだろうな)


 アルクはフレイヤの表情から施行を読み取る。


「アルクは、この伝染病の事知っているのよね……」


 フレイヤはすがる様な目でアルクを見る。


「はい。この伝染病は『ペスト』又は黒死病と呼ばれる伝染病です」

「ペスト……」

「取りあえず、この子を隔離施設に運びましょう」

「そうね……」


 アルクの切り出した言葉でフレイヤも頭を切り替え、二人は少女を隔離施設へと運んだ。


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