第一話 妖精の姫
今後の物語の構成上、不都合が生じたため、三章をすべて書き直す事にしました。
今後ともよろしくお願いいたします
※2018/11/24 加筆&修正
※2018/11/26 加筆
木々が生い茂る深い森の中――
そこには少女が一人、愚痴をこぼしながら歩いていた。
「はぁ~やっと。解放された。ババ達はどれだけ心配性なのよ……。でも、まぁ今の状況を考えれば当たり前か……」
少女は天を仰ぎ見る。
そんな少女の姿は深い森と相まって幻想的に見える。
長いウェーブのかかった髪から少し見える長く尖った耳。そして、スレンダーな体系から伸びる白魚の様に綺麗な手足は、さながら森に住まう妖精の様だった。
しかし、ここまで幻想的に見えているのは、少女の心境が大きく影響していた。
「確かに、如何にかしなくちゃね。すでに100人が亡くなっているんだし……」
そう呟くと少女は、目線を落とし暗い表情をする。
すると、視界の端に落ち葉を被った物体を見つける。
「何かしら、あれ」
少女は、そう呟くと謎の物体に近づく。
近づくと物体が布に包まれている事が分かる。
少女は、恐る恐る手を伸ばし、布を捲る。
「……!」
中から出て来た者に少女は絶句した。
なにせ、現れたのは黒髪の少年だったのだから。
「大丈夫!」
少女は慌てて、声をかけ安否を確認するも返事は無く、少女は耳を少年の口元に近づけ呼吸音を確認する。
「っは……ふぅ、っは」
少年の呼吸は酷く乱れ、明らかに身体的異常が起きている事が分かった。
「酷く消耗してる……」
少女は少年の様態を冷静に分析していく。
すると、少女は眼に紋章を浮かばせる。
「それに、魔力の流れが変ね。まるで、遅い水路を大量の水が通ろうとしてるみたい……」
少年は魔力の通り道『魔力回路』が極端に狭くなり流れるハズの魔力が溢れ出る為、魔力欠乏症に陥っていた。
「多分、魔力の流れる勢いが足りてないのね。なら……」
少女は少年の様態を回復させる為の方法を見つけた。
「初めてだけど……そんな事を気にしてる場合じゃないわね」
と、少女は自分を諭す。
そして、少女は決意を胸に少女は少年の不規則な呼吸と共に小さく動く唇と少女の震える唇が交わると、少女は舌を少年の口の中へと侵入させる。
「ん……んぁ……ぁ……」
(魔力の流れが弱いなら……私が一気に魔力を流せば塞がっていた弁が開くはず……)
少女は内心でそう考えながらも、心の奥底では凄く羞恥に晒されていた。
真面目な事を考えていないと、今にも顔から火が出そうだったのだ。
「っん……あぅ……ん」
しばらく少女が魔力を流し続けると少年の魔力回路が開き魔力が急速に流れ始めた。
その所為で少女に少年の魔力が流れ込んで来た。
「ん!……(何、この魔力……暴れ)ゲッホ……ゲッホ……」
少女に流れ込んできた少年の魔力は少女の体内に入ると、酷く暴れまわり体内から蜂に刺されている様な感覚に陥る。
少女はすぐに口を離すと咽てしまう。
その原因は他人の魔力と自身の魔力を調和させる工程を行わず体内に魔力が入って来たからだ。
魔力は人によって違う。その為、他人に自身の魔力を与える場合、魔力回路が集中している舌で自身の魔力とゆっくり調和させる必要があるのだ。
その工程を怠ると、酷い頭痛、身体的苦痛、嘔吐、疲労など様々な症状が身体に現れる。
「はぁ……ふぅ……」
少女は体内に入った少年の魔力を如何にか抑え込むと、深呼吸を行い息を整え、口から垂れたよだれを拭きとる。
「それにしても、この魔力量……この人、本当に人間?」
(それに、この服何処かで……)
少女は少年の服が見覚えのある服装だと思い記憶を遡っている最中に急激に脳の活動が劣っていくのが感じ取れた。
「っやば……。こんな所で眠ったら……」
少女はそう言い残しその場に倒れた。
♰
黄や橙、紅などの色とりどりの葉が舞い落ちる森の中に静かにゆっくりと目を開ける少年が居た。
「ここは……」
少年は辺りを見渡し、自分の置かれた状況を確認する。
(何処だ……森の中?)
紅や黄、橙などに色づいた木々に囲まれていた。
(取りあえず、辺りを確認しないと……)
少年は、いま置かれている状況を確認するために立ち上がろうと足に力を入れると……腕を強く引っ張られた。
「っん……んぅ~ん……」
少年は引っ張られた手を目視すると、少年の左手に抱き着くように寝ているウェーブのかかった金髪で耳の尖った少女が居た。
「えっと……誰だ?」
流石の少年も今の意味不明な状況に何時もの少年なら出さない素っ頓狂な声を出してしまう。
しかし、その声でも少女は目を覚まさなかった。
少年は少女を起こすのも悪い気がして、そのままの状態でいる事にした。
それから数時間が経ち辺りが薄暗くなり始めた頃――
「いや……あぁ……」
少女が急にうなされ始めたのだ。
「悪夢でも見ているのか?」
少年は汗を流しうなされる少女の頭を優しく撫でる。すると――
「ん?……」
少女の目がゆっくりと開いたのだ。
「起きましたか?」
「……」
少年の問いかけにまだ反応できないのか、少女はよだれを垂らし、まだ半開きの目を覚まそうと目をパチパチさせる。
「……っ!」
それから数秒後、目を覚まし今の状況を理解したのか少女は声にならない声を上げ慌てて少年から離れる。
「あ、あなた誰?」
「僕は、アストルフォと申します。アルクとお呼びください」
(それを聞きたいのはこっちだが……)と思いながらもアルクは自己紹介をする。
「……っえ?」
「?」
しかし、少女はアルクが冷静に自己紹介をした為、驚きの表所を浮かべる。
「えっと……ハイエルフのフレイヤ=アルフヘイムよ。よろしく……」
フレイヤもアルクの態度で一気頭が冷め、戸惑いつつも自己紹介をした。
自分の立場を忘れ……。
「よろしくお願いします。それと……」
アルクはそう言いうと手で口元を指す。
すると、フレイヤは不思議そうな顔をしながら自分の口元を触れると、顔を真っ赤にして自分の口元から垂れるものを拭う。
「もっと、早く言いなさいよ……」
「すいません」
顔を赤くしながら恥ずかしそうに言うフレイヤに、微笑む様に返すアルク。
「ふぅ……それで、あなたは誰?」
気を取り直してフレイヤはアルクに説明を求める。
「僕は……」
「ここで、もう一度自己紹介をしたら怒るわよ?」
フレイヤの意図を察しているにも関わらず、もう一度自己紹介をしようとしたアルクをフレイヤは睨む。
「えっと……他に説明する事と言うと?」
「まず、あなたの身元、次に何処から来たか、最後にここで倒れていたのはなぜか」
「まず一つ目はアストルフォただの平民の12歳です。次に何処から来たかですが帝都です。最後に何故ここで倒れていたかは……僕にも分かりません」
アルクは淡々と説明する。
「分からない。それはどう言う事?」
「そのままの意味です。目が覚めたらここに居て、隣でフレイヤさんがねて……」
アルクはフレイヤから鋭い視線を向けられている事に気が付き言葉を言い換える。
「隣にフレイヤさんが居ました……」
「元々、私が寝てたのは、あなたの所為なんだから!」
「ん?それはどういう意味ですか?」
「それは!……言える分けないでしょ!」
フレイヤは出かかった言葉に羞恥し顔をお茶が沸かせそうなほど赤く染めアルクを怒鳴る。
「そ、それは良いのよ!」
「まぁ、そうですね。それより、これからここを動くのは危なそうですね……」
『ワオォォォォォォォォン』
いつの間にか日は完全に沈み夜行性の動物たちが動き出していた。
「そうね……」
フレイヤはそう言うと、身を震わせた。
季節は秋だ。昼間は暖かくとも日が落ちれば気温は一気に下がる。それに、ここは森の中。街とは一度から二度気温が低いだろう。
「これを着ていてください。まぁ、臭いかも知れませんが、我慢してください」
「ありがとう」
アルクはフレイヤのお礼の言葉を聞くと、優しく微笑み辺りを見渡す。
「薪は、有りそうですね……となると、魔物だけか……(明らかにヤバいのが居るな……)魔法陣を張りましょうか」
アルクは、一人そう呟く。
「?あなた、魔術が使えるの?」
「一応は」
「へぇ……その年で……人間なのにやるわね」
「ありがとうございます」
アルクは微笑みそう言うと自分の手首を噛みちぎった。
「っちょ、何してるのアンタ!」
「?魔法陣を描こうかと……」
「それだったら、地面に書けば良いでしょ!?何でわざわざ自分の血で書くのよ!」
「地面に描くより魔力効率が良く、範囲が広いからです」
慌てて声をかけたフレイヤにアルクは表情一つ変えずそう説明しながら、魔法陣を描き終え、魔法陣に手を翳し魔力を流す。
「よし、これで大丈夫です」
「あなた、本当に12歳?」
「本当に12歳ですよ。ヒール」
大量の血がしたたり落ちていた、手首がみるみる治っていった。
「異常よ……彼方は」
「はは、よく言われます」
アルクは乾いた笑みを浮かべ自嘲するように言う。
「痛みを感じないの?」
フレイヤは先程手首を噛みちぎった時に表情一つ変えなかったアルクに少し恐怖を抱いていた。
「痛みですか……当の昔に何処かに置いてきましたね」
笑顔でそう答えるアルクにフレイヤは戦慄した。
(異常だ……アルクは普通の人生を送っていない……確実に異常な程、歪んだ人生を送っている……)
アルクの表情、言葉、心情それぞれが噛み合っていないとフレイヤは感じた。
それ程、アルクは人間としておかしな存在となっていた。
「何処かに置いて来た……ねぇ」
「どうかしました?」
(捨てて来たの間違いじゃないの?)
「何でも無いわ。それより、早く火を起こしましょう」
「そうですね」
こうして、この日アルクとフレイヤは森の中で一夜を過ごす事になり、眠る事となった。
フレイヤは、先程まで眠っていたにも関わらず、不思議とすぐに眠る事ができた。
♰
燃える炎の中――
「っ……ふ……っう……」
泣き叫ぶ少女。そんな少女の目線の先には、目を赤く光らせ、血濡れた獣人の女性……が涙を流していた。
「っは!?………はぁ……」
フレイヤは、額から汗を垂らし飛び起きた。
「はぁ……ふぅ……夢か……」
フレイヤが頭を覚醒させ辺りを確認する。
日が昇り始め朝日が朝霧に反射されぼんやりと辺りが明るくなっていた。
するとフレイヤはアルクが居ない事に気が付く。
「!……確か寝るときはそこで寝ていたはずだけど……」
アルクが寝ていたはずの場所に目線を移すと、フレイヤはある事に気が付く。
「落ち葉が沈んでない……」
アルクが寝ているはずの場所は一切、落ち葉が沈んでおらず、アルクが寝た痕跡が一切無かった。
「まさか……逃げた?」
そんな事がフレイヤの頭によぎった瞬間フレイヤの後方から気配を感じ取る。
「誰!」
慌てて手のひらを向け警戒態勢をとるフレイヤ。
「……」
朝霧の向こうから薄っすらと現れたのは……アルクだった。
「はぁ……アルクかぁ」
「ん?どうかしましたか?」
「どうかしましたか?じゃないわよ。起きたらいないんだもの、逃げたかと思ったじゃない。貴方にはまだ聞きたい事は有るんだから、逃げられたら困るのよ。私は……」
アルクの素っ頓狂な言葉を聞き、胸をなでおろす。
「お礼も言えてないし……」
フレイヤは小さい声でそう言う。
「今、何と言いましたか?」
「何でも無いわよ」
「そうですか。それより、食べられそうなものを見つけてきましたので、適当に食べましょうか」
アルクがそう言って、出したのはウサギだった。
「……あんた、今獲ってきたの?」
「いえ、血抜きをしたので2時間ほど前ですね」
「二時間前って……ちゃんと寝たの?」
「そうですね……一応寝ましたよ?」
「一応って……それ、寝てない人間の言葉だから……」
アルクの言葉にため息交じりに応えるフレイヤ。
「取りあえず食べましょう」
アルクはそう言うと、エアの魔法でウサギをさばいていく。
「はぁ……本当に非常識ね」
「何がですか?」
「普通は、魔法で動物をさばかないし、さばけないのよ。そんな繊細な魔法が使える人なんて、創世記に出てくるソロモン位よ」
フレイヤは呆れた表情を浮かべる。
「まぁ、そこは気にせずに食べましょう」
アルクは、笑みを浮かべそう言うと火を起こし、枝にウサギの肉を指し焼き始めた。
「素焼きですが、まぁ大丈夫でしょう」
「そうね……食べられるだけ有難いわ…………ありがとう」
フレイヤは、そっぽを向くと小さく礼を言った。朝ごはんを用意してくれた事……一晩見張りをしてくれた事に……
「そろそろ良さそうですね。どうぞ」
アルクは、そう言うと枝と言う名の串をフレイヤに一本渡す。
「ありがとう」
フレイヤは串を受け取ると、ふぅーふぅーと肉を冷ます様に息を吹きかけてから一切れ口に頬張る。
「……ん!おいしぃ……これ、素焼きなのよね?」
「はいそうですよ?」
「どことなく、塩と香辛料の味がするのだけど……」
「あぁ~それは恐らくホーンラビットだからですね。頭は血抜きする時に落としてしまったので証明の使用はありませんけど」
アルクの口にした言葉にフレイヤは呆然とした。
「ほ、ほ、ホーンラビットぉぉぉ!」
「はい。ホーンラビットです。ぼーっと立っていたら、200メートルくらい先にホーンラビットが見えたので近くに有った木の枝で仕留めました」
ホーンラビットは超高級食材として有名だ。その価値は一匹でも狩る事ができれば一年は遊んで暮らせるほどだ。
しかし、当然の如くホーンラビットが高級食材たる所以がある。まず、個体数が限りなく少ないと言う事。そして、警戒心が高く逃げ足が異常なほど早いと言う事だった。
「あ、あのホーンラビットを仕留めたの?」
「そうですね。そこに居たので」
フレイヤは、開いた口が塞がらなかった。
(目の前に居る人間は本当に人間なの……殺気を抑える事に長けているエルフでも、5年に一匹獲れるかどうかと言う超高級食材なのよ……私も初めて食べたし……)
「満足していただけましたか?アルフヘイムの姫君」
アルクはそう言うと、軽くフレイヤに頭を下げる。
すると、フレイヤの目が吊り上がる。
「気が付いていたの?」
「それは、そうですよ。フレイヤ=アルフヘイムと名乗られた気が付かない訳が無いじゃないですか。それに、その衣服は精霊族の正装ですよね?」
アルクはそう言うと、笑みを浮かべた。
「そう……それで、あなたは私をもてなしたと?」
「ん?何がですか?これは只の朝ごはんです。たまたま、そこにいたウサギを狩っただけですよ?」
「……」
アルクが余りに真剣にそう答えた為フレイヤの思考は停止してしまう。
そして、しばらく考えた後にフレイヤは、アルクの思考か面白くなった。
「ふふ。いや、これは私が悪かったわね。そもそも12歳の人間が私をもてなす事は無いわね」
「まぁ、そうですね。僕が普通かどうかは分かりかねますが」
アルクは自嘲するように笑みを浮かべる。
(アルクは時々、異常なまでの自虐を挟むわね……)
そんな事を考えているうちに朝食は済み、火の始末をする。
「ふぅ……美味しかったわ。ありがとう」
「どういたしまして」
「それにしてもアルクって年齢の割に敬語が使い慣れているわよね。普段から使ってるの?」
「そうですね。生まれた時から基本は敬語で喋っていたので僕は基本的に誰にでも敬語ですよ?」
「そうなのね……」
フレイヤは、自分のした質問ながらアルクの存在がますます分からなくなった。
「さて、そろそろ行きましょうか。案内お願いしてもよろしいですか?」
「えぇ、良いわよ。連れて行ってあげるわ。精霊の街。アルフヘイムへ」
こうして、アルクとフレイヤは亜人の暮らす街、アルフヘイムへと向かった。
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