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鏡界の幻想 ~異世界と現世が関係ないと思った?~(仮)  作者: 伊奈葉雪華
第二章 フェルス帝国 自分の存在
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第九話 我思う故に我あり

翌日――


「はぁ……やっぱりか……」


 アルクは、セレスの部屋の前で大きくため息をついていた。

 それは、アルクが思っていた通りセレスがこの城から消えていたからだ。


「あら、アルク君どうかした?」


 そう声をかけてきたのは、ファルミアだった。


「いえ、セレス様が……」


 アルクは、今の状況を話そうとした。しかし、セレスの名前を出した途端アルクは違和感を感じた。

 何時もと違う……何時もはこうじゃない……そう言った違和感。

 そして、その違和感は最悪なものだった。


「セレス?誰それ?」

「……」


 ボケやドッキリなどではない。アルクはすぐにそう思った。

 それは、悪戯好きなファルミアだとしても今の状況では笑えないからだ。


「どうかした?」

「いえ……大丈夫です」


 アルクは、笑みを作りファルミアにそう言う。


「そうだ、こんな手紙が有ったのだけど何か分かる?」


 そう言いファルミアは手紙をアルクに手渡す。


「失礼します」


 アルクはそう言い、手紙を読み始めた。


『これを読んでいると言う事は、そう言う事なのね……まず、この手紙は過去の彼方(ファルミア)自身が書いたものよ。それを前提として読んで。

 あなたには、大事な娘が一人いた。名前は*******。紫がかった白髪で私に似てキレイな女の子。魔術が得意で、負けず嫌い。そんな娘が彼方には居るの。それを思い出しなさい!

 ***の事を……大事な娘の事を……


㎰.アルク君、もし私が***の事を思い出さなかった時は引っ叩いてでも思い出させて……お願い。***の事を見つけてあげてね』


 と、手紙には書かれていた。


「何か分かる?所々インクが滲んでいるのか読めない所が有るんだけど……」


 ファルミアは、手紙に目を落としアルクに問う。

 そんな言葉を聞き、アルクの心にはやり場のない怒り、悲しみが溢れていた。


(はぁ……俺にこんな感情がまだ有ったんだな……)


 アルクは、そう思うと手を強く握り込む。


「ファルミア様、彼方には娘が居たんですよ……」

「娘?私とイクスの間に子供は居ないわよ?」

「居たんです……それを頑張って思い出してくださいね」


 アルクは、笑顔でそう言い、手紙を返すとファルミアの前から立ち去る。


(ファルミア様、俺は彼方を殴りませんよ……そんな事で思いだす訳ないですし、苦しみから逃げないで下さい。これはファルミア様自身が解決するべき問題。せいぜい苦しんでください)


 そう思いながら、アルクは足を進めた。


「何かしら……何か足りない……そんな感覚」


 ファルミアはアルクの背中を見つめそう呟いた。


 しかし、等のアルクは内心、焦っていた。


(セレス様は何処へ行った……どうして、消えた……その原因が分からなければセレス様は又、消える)


 アルクは、それらの回答を求めて、書庫へと向かった。

 しかし、書庫にアルクの求める答えはない。それは、書庫のすべての本を読んでいるアルクが一番分かっている。しかし、今は乱れた気持ちを落ち着かせる必要が有る。だから、一番セレスと親しんだ書庫に来たのだ。


「ふぅ……さて、如何してセレス様が消えるのか……まずはコレだな……」


 アルクは、何時も座っている場所に座り、そう呟くと自身の記憶を遡り、その原因を探す。


『私が生きている意味って何ですか?』

『アルク君はやっぱりすごいですね!』

『何でこの世界には争いが起きるんでしょう……』

『……いっその事、消えてしまいたい』


(違う……これは要因に過ぎない……探しているのは原因だ)


 さらに、アルクは自身の記憶を深く潜る。


『何が起きた……ですか?私には、普通に歩いて行って手刀を決めた様にしか見えませんが?』

『いっつ』


「っは……これだ」


 アルクは一つの記憶の前で『ハッ』とする。この記憶なら全てに説明が出来る。そう思ったのだ。


「蛇の呪い……いや、蛇神がセレス様の願いを叶えたのかも知れないな……」


 そして、アルクはセレスを探すため一度、セレスの部屋によってから城を飛び出した。


(恐らく、セレス様は人目が有る所に必ず居る。セレス様は国民の事を心底愛しているから……そして、自身の存在を確認するために……)


 アルクは、人通りが多く、多くの人が行き来する帝都の中心、中央広場に向かって走った。

 そして、案の定お目当てのお姫様の姿は有った。

 中央広場は、ヴェルダンディ城、学園都市、商業都市の三方向、正門、東門、西門の三方向の計6つの大きな道が集まり、ラウンドアバウト形式の交差点の中心に、様々な花や生垣の植えられた中央広場は有る。

 そんな、綺麗な公園に一人、寂しげに佇み、キラキラと夕日に反射させる涙を流している、セレスの姿が中央広場の中に有ったのだ。


「セレス様」


 アルクがそう呼ぶがセレスは反応しない。


「セレス様!」


 今度は、セレスの肩に手を置きセレスの名を呼ぶと、強風が二人を襲い赤い彼岸花の花びらが宙を舞う舞う。

すると、セレスはゆっくりと振り向きアルクを確かめるように見た


「ア……ルク君?」

「はい。アルクです。ようやく見つけましたよ」


 アルクはそう言い笑顔を見せる。


「……見えるんですか?」

「はい。鬼ごっこは楽しかったですか?」

「……そうですね……少し……怖かったです」


 セレスは、瞳に涙を浮かべたまま笑顔を見せた。

 その笑顔は、見つけてくれた事になのか、消えずに済んだ事になのかアルクには分からない。しかし、アルクにとってそんな事はどうでも良く、ただほっとしていた。


「一人になって……どうしようも無く怖くなりました」


 セレスは、再び吸い込まれそうなくらい澄み切った空を眺めそう言った。


「セレス様は、まだ消えたいですか?」

「はい」


 アルクの唐突な質問にセレスは即答だった。

 一切の迷いもなく、一切の恐怖も無い。ただ、決意の意思を感じる声で言った。


「そうですか……しかし、それは逃げでしか無い。セレス様は自分の責任から逃げるんですか?」

「……」


 アルクの問いにセレスは俯く。


「セレス様は、逃げて、逃げて、その後、如何するんですか?」

「でも、私は誰かを守る処か、犠牲にしてしまっている……そんなの……そんなの!皇女として!そんな事が許されるわけがない!」


 アルクの問いにセレスは激情する。

 しかし、その声は周りには聞こえない。傍から見れば、アルクが一人で公園の真ん中で独り言を言っている様にしか見えず、公園に居る人の視線を集めていた。


「そもそも、それが間違いです。生きている人間で誰かの犠牲の上に成り立っていない人間なんて居ません。僕だってそうです。第一に母。第二に、この国を守り死んでいった騎士達。第三に、この国を創設した際に生じた犠牲……少なくとも、この国に住んでいる国民は、確実に第二と第三の犠牲の上に成り立っています。今、この国で平和に暮らして居られる訳ですから。」

「では、何故私は!私は、こんなにも辛いのに……皆さんは、怖くないのですか?私は怖くて、たまりません。私を守って死んだ騎士たちの家族は私を恨んでいるんじゃないか……私を守って死んでいった騎士の恋人は……」


 セレスは恐怖からか、自分の体を抱くようにし、両腕を強く握ると、段々と声が小さくなる。しかし――


「私を守って死んだ、ミクさんとミコトは!」


 セレスは、二人の最後を思い出したのか、アルクに大きな声で訴えた。


「まず、セレス様の質問に答えるならば、普通の人はそんな事を考えていない。ただ、それだけです」

「か……考えていない?どうしてそんな事が出来るのですか……」


 拍子抜けした様な表所で質問して来るセレスにアルクは、優しい笑みを見せ答える。


「それは、気が付いていないからです。普通の人間がセレス様の抱えている悩みを理解するには、誰か大切な人が自分を守って死ぬ必要があります。しかし、普通の人間にそんな危険な状況は商人か、冒険者以外は基本的に起きません」

「では、その商人や冒険者の方々は如何して平常心でいられるのですか?」

「内心は平常心では無いでしょう。『守れなかった……』『自分の所為で……』『自分がもっとしっかりしていれば……』などと思っているはずです。ですが、今のセレス様の様に消えようとする人は殆ど居ないでしょうね」

「それは……何故ですか?」

「簡単ですよ、自分が死んでしまったら、守ってくれた人が死んだ『意味が無くなる』これだけです。たった、これだけでも人間には生きる為の勇気となる。セレス様は、今まで死んでいった騎士や護衛の命を無駄にするつもりですか?」


 アルクにそう問われ、セレスは今まで目の前で死んでいった騎士達の最後の言葉を思い出していた。


『この国をお願いします』

『セレス様は、この国の希望です』

『フェルス帝国万歳!』


 そして、セレスを守り優しい笑みを浮かべ死んでいった親子……


「……それでは、再度質問します。セレス様はまだ、消えたいですか?」


 アルクがそう言っている間も、セレスの頭の中では騎士たちの言葉がミコトとミクの表情が浮かび続けていた。


「…………分からない……」


 セレスは俯いていた顔を上げ、空を見上げそう言う。そのセレスの目には今にも溢れそうな涙が溜まっていた。


「っ……分からない‼‼」


 セレスは、自分が涙を流している事に気が付くと慌てて拭う。

 その涙は、何故流れているのか誰も分からない。


「少なくとも、今消えようとは思わなくなりましたか?」


 アルクにそう言われ、セレスは小さく首を縦に振る。


「そう思えれば、もう大丈夫でしょう。では、そろそろセレス様に掛かった呪いを解きましょうか」

「呪い、ですか?」


 目を赤く腫らしたセレスは、アルクの言葉に疑問を浮かべる。


「はい。四年前に蛇に噛まれた事を覚えていますか?」

「はい。覚えています」

「その時の蛇には毒があったんです。その毒が呪いです。この呪いは基本的に発動せずに時が経つにつれて自然消滅するはずでした。しかし……セレス様は願った(・・・)


 最後の言葉を聞くとセレスの体が『ピクン』と跳ねた。


「心当たりがありますか?」


 アルクの言葉にセレスは小さく首を縦に振る。


「恐らく、今考えている事で正解です。『消えたい』セレス様はそう願い、蛇の呪いがそれを叶えた。ですが、この言い方は、少し正しくありませんね。

蛇神がセレス様の願いを叶えた。しかし、この願いは願うだけで、叶うものではありません。神様も暇ではありませんからね。誰かを思う気持ち、他者を思う気持ち。それが、神様が願いを叶える条件だった。それが、セレス様の他人を思う気持ち、『優しさ』です」

「優しさ?私は、別に優しくありませんよ?」


 セレスは少し不服そうに反論した。


「セレス様は十分優しいですよ。他人の為に自分を消そうとする辺りは特に」


 と、若干嫌味を交えてアルクが言う。


「そうですか?」


 セレスはまだ、納得いっていない様だが、いつも通りの表情に戻り笑みを浮かべていた。


(ようやく何時もの自然で優しい笑みを見せましたね)


 アルクは内心そう思うと、小さく息を吐く。


「『我思う、故に我あり』」

「何ですか?それ」


 アルクが唐突に放った言葉に、セレスは不思議そうな顔をする。


「これは、今のセレス様を表すのにぴったりの言葉ですよ」


 そう言われるが、セレスは理解できない。


「今のセレス様は、自分の存在している意味が分からず、消えたいと思っている。しかし、その考えこそ自分の存在を証明していると言う言葉です。だから、セレス様は完全には消えず、寝ていなかった人間には記憶が残っていた。と言う事です」


 そう、アルクはこの三日間一睡もしていない。寝てしまえば、忘れてしまうと何処かで思っていたのだ。事実、寝てしまったファルミアはセレスを忘れてしまった。


「自分の存在を考える事こそ、自分の存在を証明している……『我思う、故に我あり』面白い言葉ですね」


 そう言い、セレスは新しい知識に出会った時のわくわくした様な表情になる。


「ようやく、何時ものセレス様に戻りましたね。では、セレス様、呪いを解きましょうか」

「……はい。お願いします」


 セレスは、一瞬間を置いたが、すぐに決意した目に変わる。


「決意できましたか?」

「はい。これは、私が背負う重みであり、責任です。それから逃げる事は出来ませんから」


 青空の様に、澄み切った笑みを見せセレスは微笑む。


「そうですか、では一つのきっかけ(・・・・)を覚えておいてください」

「はい。何ですか?」


 アルクは、セレスの言葉を聞くと、花壇から一輪の赤い花を持ってきた。


「これは何ですか?」

「彼岸花。別名、蛇花です。この花は、使い方次第で毒にも薬にもなる花です。そして、この花には、諦め、悲しい思いで、と言う意味が有ります」

「今の私みたいですね」


 セレスは、自嘲する様な笑みを浮かべそう言った。


「そうですね。しかし反対に再開、思うはあなた一人、また会う日を楽しみにと言う意味もあります。恐らく、セレス様はこれからも困難に出会い心が折れそうになると思います。しかし、そんな時はこの花を思い出してください。そうすれば、今までセレス様を守った人達がきっと助けになってくれますよ」


 そう言い終わると、アルクは彼岸花をセレスに手渡した。

 すると、強風共に舞う彼岸花の花びらに、セレスは温かみを感じた。


「え……ミクさん……ミコト……」


 今、セレスの目の前には死んでいったミコトやミク、騎士達の笑顔が見えていた。


『セレスちゃん。これからも頑張って、良い国にしてね!』

『セレス様、ファルミアと一緒にこの国をお願いします』

『『『セレス様!ばんざーい』』』


 その光景を見たセレスは、膝から崩れ落ち、その場で泣き叫んだ。

 その泣き声には、今までの不安、恐怖、怒りなどの思いを吹き飛ばすかのようにアルクは聞こえた。

 彼岸花は死者と関りが深い花であり、死者を導く花とされる事もある。


「お別れは言えましたか?」


 アルクの言葉に溢れんばかりの涙を溜め、セレスは強く頷く。


「そうですか。では、一つお願いです。僕と母の繋がりを感じられる、この国をよろしくお願いします」

「何ですか?今生の別れでも無いのに」


 セレスは、アルクの言葉に疑問を抱きそう言うと、アルクは笑みを見せ、セレスの両肩を掴んだ。


「さよならです」

「っえ!?」


 アルクは、そう言うと、セレスの柔らかく、暖かい、唇に自分の唇を押し付け、セレスの体を抱き寄せる。


「ん―――」


 続いて、そのまま、セレスの口の中に舌を入れ、自分の魔力をセレスの体内に送り込み、セレスの体内を循環させ、流した魔力を吸い取る。そうする事で、セレスの体内にある呪いをアルクに移す事が出来る。

 すると、セレスの頭の中にアルクの今、頭の中で考えている事が伝わって来る。


『これで、また(・・)俺は消える。今度こそ確実に』


(アルク君!私の呪いを肩代わりするつもりですか!そんな事になる位なら……私は自分で……)


 アルクの考えを知ったセレスは目を見開き、アルクから離れようとする。しかし――


(だめですよ。セレス様には責任がありますから。それに、僕に幸せな世界は似合いません……だから、さようなら)


 アルクは、内心そう思いセレスに最後の別れを告げる。するとセレスは涙を流していた。

それは、アルクのすべてを見てしまったから。しかし、もう目の前にアルクの姿は無い。それどころか、今まで何をしていたか、如何して此処に居るのかセレスは分からなかった。ただ残ったのは、強く抱き締められた暖かさと、唇に残った感覚だけ。


「セレス様!どうしたのですか?こんな所で護衛も付けずに」


 そう声を掛けてきたのは、腰に剣を下げたカルムだった。


「カルム君……」

「っえ!?どうしたんですか?涙なんか流して……」

「分からない……ただ、何かを失くしたような気がして……大切な()でずっと傍にあった者……」

()?でしたら、一緒に探しましょうか?」


 カルムにそう言われたが、セレスは首を横に振る。


「多分もう見るからないものだろう思います……」


 セレスはそう言うと、朱色に焼ける空を見上げた。



ここまでは改稿したものになります。

次回からは、もう一話二章を描いた後、三章を投稿していきます。

最後に告知です。

カクヨムにて、『青春ブタ野郎シリーズ』のオリジナル二次創作を投稿しています。よろしかったらご覧ください(完結済み;5000文字程度です。)

https://kakuyomu.jp/works/1177354054886876248


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