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鏡界の幻想 ~異世界と現世が関係ないと思った?~(仮)  作者: 伊奈葉雪華
第二章 フェルス帝国 自分の存在
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第五話 危うい存在

 翌日、セレスとアルクが登校すると、ある出来事が起きた。


「昨日はすいませんでした」


 それは、カルムが謝罪をして来た事だ。


「えっと……はい」

「ふふふ」


 教室に入った途端の出来事にアルクは少し戸惑い、それが面白かったのかセレスが口元を隠しクスクスと笑う。


「いえ、こちらこそ……昨日はありがとうございました?」

「はい。本当に申し訳ありません」


 アルクは、どう声を掛けて良いのか分からず、何故かお礼を言うのに対して再び頭を下げるカルム。


「セレス様、これはどう言う事ですか?」

「カルム様は、力を認めた人に対しては敬います。昨日の決闘でアルク君を尊敬しているのではないのですか?元々、権力に全く興味が無く、私の魔法を学ぶために騎士になりたかったのだと思いますよ?」

「はぁ……」


 カルムの予想外の性格に若干戸惑うアルク。


「はい。その通りです」


 二人の会話に聞き耳を立てていたカルムは肯定する。

 カルムは基本的に、ふんわりとした男でイケメンなのだが、八騎士の一族からなのか、戦い、力に関しては厳しい様だ。


「そろそろ、席に着かないといけませんね。お二人とも、時間を取らせて申し訳ありませんでした」


 カルムは再度、頭を下げ自分の席へと戻って行った。

 そんなカルムの姿を唖然と見守り、二人も自分の席に着く。


「ふふ、アルク君の普段見られない表所が見られて面白かったです」

「そうですか?」

「はい。なので、もう一つ面白い事実を聞かせて、もう一度見せて貰いましょう」

「はぁ……」


 セレスの言葉に若干呆れ気味のアレクだった。


「実は、カルム君はゲイです」

「………………………っは!?」


 予想外過ぎるカルムの性癖に、しばらくの沈黙の後に驚愕の声を上げるアルクだった。


(こんな顔もするんですね。やっぱりアルク君は面白いです)


 今後もからかうネタを探し続けようと決心するセレスだった。


2


 こうして、セレスとアルクの学園生活が始まり、四年の年月が流れた。


「アルク君、この後はどうするの?」


 授業が終わり、青く澄んだ空を一人、ぼぉーっと眺めていたアルクに、そう問いかけて来たのは、さらさらの金髪をなびかせ背丈も伸びたカルムだった。


「ん?あぁ、これから禁書庫に行くよ」

「また、禁書庫に行くのかい?と言うか、普通は図書館に行くと思うのだけど?」

「図書館の本はすべて読んだ」

「すべて……どれだけの速さで読んでいるんだい?」

「一日、数十冊のペースだな」

「相変わらず、飛んでも無いスピードで読んでるよ、この人……」


 教室でアルクと、カルムがそう話していると、周りの女子達の声が二人の耳に入る。


「ねぇ、あれって……」

「えぇ、そうでしょうね」

「やっぱり?」

「やっぱり、そうでしょ……」

「「あの二人、できてる!?」」


 ――と、頭が腐りかけている女子生徒の声が聞こえてくる。


「はぁ……お前の所為で、俺までゲイになっているんだが?」

「別に良いじゃないか」

「お前の一緒にするな。俺は、お前と違って、ノーマルだ」


 アルクは、そう言うと溜息を吐き立ち上がる。


「えぇ~僕はアルク君の事、好きだけどなぁ~。ちなみにそのお相手は、セレス様?」

「黙れ。それと違う。そんな相手は居ない」


 アルクは、そう言い残すと、カルムの『つれないなぁ~』と言う言葉を無視して、教室を出る。すると、扉の前に、白に近い紫色の髪を長く伸ばし、女性らしさが増したセレスが待っていた。


「お待たせしてすいません」

「いえ、私も今来た所ですから、大丈夫ですよ」


 セレスの外見がようやく、中身に追いついた所為か、セレスの仕草一つ一つがアルクにはとても美しく見えていた。まるで……最後に見た彼女(・・)の様だと。


「それでは、行きましょうか」

「はい!」


 セレスは、笑みを浮かべ返事をし、禁書庫へと足を運んだ。


 アルクとセレスが、禁書庫の重い扉をゆっくり開けると、埃とインクの匂いが鼻をつく。


「あら。今日も来たの?」


 禁書庫の中にある、机に座って本を読んでいたのは、四年たっても全く背丈が変わっていない、マーリンだった。


「マーリン先生、今日も調べものですか?」

「えぇ、そうなのよ。ファルミアからのお達しでね」


 アルクの言葉にマーリンはそう言うと、再び本に目線を戻す。


「マーリン先生は何だかんだ言って、お母さんと仲いいですよね」

「そうね……一緒に戦った仲だしね。そりゃぁ仲良くなるわよ」

「そうですね」


 一緒に戦った――それは、12年前の出来事だった。

 ファルミアは、当時ファルミアの専属騎士だったイクスと共に、極秘に反政府軍の旗を上げ、旧皇帝を暗殺し日の出までに、反抗する貴族や重鎮との戦闘を治めた。一夜の奇跡と言う革命の事だ。その鎮圧戦闘に一役買ったのが、ファルミアと同級生であり、親友だったマーリンだったのだ。


「さて、今日もやりましょうか」

「了解です!」


 セレスは、背筋を伸ばし右手を額に当て、敬礼の様な仕草をすると、書庫の階段を上がり、本を取りに行った。


「相変わらずね、セレスちゃんは……」


 マーリンは本から目線を上げ、セレスを眺めた。その視線は何処か、儚げだった。


「そうでも無いですよ……前よりも作り笑顔の回数が増えましたから」

「……」


 アルクの、不安げな表所を見たマーリンは何も言えなかった。


(あなたも、苦しみを背負っているのね……セレスちゃんを救えないもどかしさを……

でも、セレスちゃんの苦しみはセレスちゃん自身で如何にかするしか解決方法は無いのよね……第一皇女と言う立場上、絶対に背負う事になる苦しみには……)


 マーリンはそう思ったが、アルクに伝える事はしなかった。それは、アルク自身がその事を一番分かっていると知っているからだ。

 セレスと出会って、5年間ずっと傍で、セレスの悩み、苦しみ、を感じながらも、その解決方法がセレス自身で解決するしか無い事はアルクが一番しっている。だからこそアルクも苦しんでいるのだ。自分の無力さ……弱さに――


「アルク君、今日はこの分野を教えてください!」


 セレスが、書庫の二階の手すりに乗り出し本をアルクに見せる。すると、手すりに掴まっていた手が、手すりから滑り落ちセレスの体制が崩れ手すりの外へと投げ出された。


「っあ……」


 セレスは、何処か名残惜しそうでいて、安心したかの様な声を出した。まるで、『これで死ねる』と言っているかの様な……


「危ない!」


 マーリンがそう叫ぶと、アルクはすぐさま身体強化を全身に施し、セレスの落下地点へと走る。

その風圧により、マーリンが居る机の上に乗っていた本はすべて空中に舞い上がる。


「大丈夫ですか?」


 アルクは、セレスを優しくキャッチする。


「は……はい」


 そう答えた、セレスは何処か残念そうだった。


「ありがとうございます。アルク君」

「いえ、お怪我が無くて何よりです」


 アルクはそう言い、笑みを作ると机に向かって行った。


(はぁ……また、アルク君に助けられてしまいました……私って……どれだけ惨めなんでしょう)


 アルクの背中を見ると、無性にセレスは自分が無力だと実感させられるのだった。


☆☆☆☆


「そう言えば、もうすぐ対抗戦ですね。誰が代表に選ばれるんでしょうか」

「僕は、選ばれないのでどうでも良いですけど」


 セレスの言葉にそう返すと、セレスは頬を膨らませ、不満そうな表情をする。


「セレス様。僕の成績は普通だから、どう頑張っても選ばれませんよ?」


 アルクは、そう言うと人差し指でセレスの膨らんだ頬をつぶした。


「相変わらず、二人は仲がいいね。もしかしなくても恋仲なの?」


 そんな二人のやり取りを見ていたマーリンがそう言った。


「「え?違いますよ??」」


 二人は同時にそう言った。


「そ、そう……」


(アルク君は違うと思っていたけど……セレスちゃんも違うのか……。

それとも、ただ自分が気付いていないだけなのか……この二人の関係は歪すぎて見ている方が心配になるのよね……)


 マーリンは戸惑った様子を見せながらも、内心そう思う。


「で、対抗戦、誰になるんですか?マーリン先生」

「私も気になります。誰が選ばれるんですか?もちろんアルク君ですよね?」

「もちろん、あなた達二人は選ばれるわよ?」

「私もですか?」

「当り前じゃない。と言うかあなた達二人とも、なぜ未だにこの学園に居るのか不思議なのだけど?」


 マーリンがそう言うと、アルクとセレスは首を傾げた。


「はぁ……あなた達二人ともとっくに卒業に必要な単位が揃っているのよ?」

「そうだったんですか?」

「そうよ。なにせ二人とも、上級学年の先生に誘われて、初等科最上級生の授業に出ていたでしょ?あれ、ちゃんと出席扱いになるから、単位が取れるのよ。だから二人とも試験さえ受けてくれれば初等科を卒業出来るわよ?」


 そう言われた、二人はきょとんとしていた。


「確かに出ていましたけど……」

「はい。でも……私達、ほとんど聞いていませんよ?その授業…」

「知ってるわよ……出ているだけで、その授業に関する事のさらに高度な事をやっている事は……」


 そこまで、言うとマーリンは完全に呆れ顔だった。


「まぁ、良いわ。それと、対抗戦は決定事項だから、アルク君も絶対に参加だから」


 マーリンはそうアルクにそう言い釘をさすと、禁書庫を出て行った。


3


「これで良し……そろそろ寝ましょうか……」


 セレスは、自分の部屋で日記を書き終えると、ライトの魔法道具を消し、ベッドに腰掛けた。


「……」


 机の上に置かれた花の刺繍があしらわれた日記帳をセレスは見つめていた。


(私は……どれだけの人の犠牲の上に生きているんでしょうか……)


 セレスは、そう思うと自分の手が、体が、心が全てが血に染まっている様な感覚に陥る。


「いや……いや……」


 幻覚だ。セレスは最近、精神の不安定により、よく幻覚を見ている。


「セレスさ……」

「いや……来ないで……いやいや」


 メイドが、セレスの様子がおかしい事に気付き中に入って来た。しかし、セレスは、それにも気がつがつ、手をさすって、実際には存在しない血を落とそうとしていた。

 その光景を見たメイドは、その異常さに気付き、すぐに部屋を出るとファルミアに報告しに行く。



☆☆☆☆



「ファルミア殿下!はぁ……はぁ……」


 ノックもせずに執務室に入って来たメイドにファルミアは、仕事の手を止めた。


「どうしたの?そんなに慌てて……」

「セ……セレス様が……セレス様の様子がおかしいんです」


 ファルミアは、それを聞くと、すぐに立ち上がり執務室を出て行った。


(やっぱり……セレスちゃんの精神は急速に成長し過ぎたのね……

だから精神が不安定なる……自分の成り立ち……どうやって生きてこられたかを考えてしまう。それは皇族……特にセレスちゃんには辛い事よね……)


 ファルミアは内心、葛藤しているとセレスの部屋の前にたどり着く。


「ふぅ……」


 ファルミアは小さく息を吐くと、中から、『いや、来ないで』や『ごめんなさい』などの声が聞こえて来る。

『コンコン』とファルミアは、扉をノックすると、扉を開いた。

 扉を開くと、そこに居たのは部屋の隅で恐怖、自責の感情で酷く濁った目をしたセレスだった。


「いや……来ないで……来ないで……」


 セレスは、ファルミアにそう叫びながら、後ずさりする。

 今、セレスにはファルミアが今まで自分の為に、自分の所為で死んでいった兵士や、市民に見えているのだ。


「セレスちゃん……」


 ファルミアは、怯えるセレスの姿を見て、自分がどうしたら良いのか分からなくなり、ただ立ち尽くした。


「ファルミア様、どうかしたのですか?」


 そこに現れたのは、アルクだった。部屋の外を勢いよく走っていくファルミアが偶然目に入り、追いかけてきたのだ。


「アルク君……セレスが……」


 アルクは、ファルミアに哀情の眼差しを向けられると、状況を察した。

そして、怯え縮こまっているセレスの姿を見ると、セレスに近づいて行く。


「セレス様。僕ですよ」


 アルクはそう言い、セレスの頭に手を置き優しくゆっくりと撫でる。


「あ……アルク君?」

「はい。アストルフォです」


 アルクは笑みを浮かべそう答えた。まるで、夜泣きをする子供をあやす様に……


「私……」

「お疲れなのでしょう。ゆっくりお休みください」


 アルクはそう言うと、床にペタリと座り込んでいるセレスをお姫様抱っこして、ベッドに寝かせた。


「何かありましたら、お呼びください。すぐに参りますので」


 そう言うと、アルクはセレスが眠るまで傍に座って本を読んでいるのだった。


4


「ありがとうね、アルク君」


 ファルミアが少し落ち込んだ様子でそう言った。セレスに対して何もできかった自分が悔しいのだろう。


「いえ、僕は何もしていませんから」


 アルクがそう言うと、セレスは静かに首を横に振った。


「アルク君が居るおかげで、セレスの心は壊れずに済んでいるのよ……でも」

「はい。あの様子では、もう壊れかけています……」


 二人はセレスの部屋の前で廊下の壁にもたれ、静かにそう語る。


「ファルミア殿下、少し昔話をしませんか?」

「良いけど……何を話すの?」

「セレス様の昔話です。僕は出会う前のセレス様を何も知りませんから。教えて貰えると有難いです」

「そうね……いい機会だし話そうか。セレスが大人になった理由を……」


 二人はそう言い、執務室へと向かった。



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